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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
奔る怒りの炎
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エピローグ:彼の終わり

 心地よい揺れの中で、俺は目を覚ました。

 風がそよぐ声が聞こえて来た。立ち上がろうとして、また不安になる。

 もう二度と、俺は立ち上がることが出来ないのではないかと。


 だが意外にも、俺はあっさりと立ち上がった。体に痛みもない、健康そのもの。ここ最近、眠りから覚めては痛む体を引きずっていた気がする。あの感覚がクセになっているんじゃないのか? そんなことを考えながら、俺は右手で目ヤニを拭った。


 ……右手? 俺は慌てて自分の右腕を見た。くっついている、というか、生えている。アルクルス島の戦いで吹き飛ばされたはずの腕が、まるでトカゲのしっぽのように生えてきている。これはいったいどういうことだ? 眠っている間に何があった?


 何があったのか思い出したい。だが、思い出したくない。相反する感情が生まれる。


「何なんだ、こりゃ? いったい、俺に何があったって言うんだ……?」


 頭を抱える俺の脳裏に、一人の女の顔がフラッシュバックした。

 リチュエ、グランベルク城前で会った女。

 あの女の、血まみれの、苦しげな、顔が……


「……そうだ、思い出した。俺は、グラフェンであの女に会って、それで、それで……」


 俺の心が封印してきた苦い記憶が、一気に蘇ってくる。

 潰されたこと、立ち上がったこと、俺が変身した妙な姿。

 あいつの頭の柔らかい感触。そして、そして。


「俺は……俺はいったい、何をしてしまったんだ……!?」


 両手を見る。掌にはべったりと赤黒い血が付着していた。いや、していない。瞬きをするとまっさらな俺の手がそこにある。だが、そこにあるとしか思えなかった。


「よう、あんた。大活躍だったみたいやな。調子はどうや、自分?」


 話しかけられて、俺ははっとしたように顔を上げた。そこには傷だらけになった女性がいた。男物の着物を着た女性、なんて珍妙な人物をこの世界で二人と知らない。


「えっと、確かハヤテさんでしたっけ? あの時、宿でお会いした」

「おう、そのハヤテや。戦いが終わって意識失ったって聞いとったけど元気そうやな」


 俺が思っていたようなことは、他の人も思っていたようだ。曖昧に頷き答えた。ハヤテさんは揺れる馬車の中を器用に歩き、俺の近くまで来た。ここはどこなんだ?


「さっきまで寝とったから、状況がよう分かってへんやろ?

 ウチらはグラフェンから撤退し、ウルフェンシュタインまで向かっとる。

 要望聞いてやれんで悪かったな」

「みんなウルフェンシュタインまで後退していくんでしょう?

 だったら俺も行きますよ。でも撤退っていうことは、グラフェンの街はいったいどうなっているんですか?」


 説明したる、と言ってハヤテさんは懐から地図を取り出した。


「グラフェン内に侵入して来た『真天十字会』の兵力は、多くが駆逐された。

 一時は騎士団拠点が制圧されたけど、《エクスグラスパー》の死に伴ってあいつらは全員撤退した。主軸となっていた力が喪失したんや、無理からぬことかもしれへんけどな」

「撤退ってことは、グラフェンの街を守れた……っていうことでいいんですか?」

「一時的にはな。城塞もぶっ壊されたし、都市機能にも支障が出とる。何より、人が死に過ぎたからな。次に襲撃に遭ったら、この間のよりも小さな規模でも防ぎきれん。『真天十字会』の連中が浮足立っているうちに後退しよう、っていうのがウチらの判断や」


 その判断が正しいのか、間違っているのかは分からないので特にコメントすることはなかった。籠城しても援軍は望めないのであれば、恐らくは正しい選択なのだろう。


「今頃『真天十字会』の連中はグラフェン制圧で大忙しや。自分でぶっ壊したものを自分で修理せなあかんのやから、占領側ってのも難儀なもんや。逃げる時間もそれで稼げる」

「避難民はどうなったんですか? まさか、全員やられてしまったんじゃ……」


 おぼろげながら覚えている、北門の凄惨な状態を。リチュエのもたらした災厄の結果を。けれどもハヤテさんは首をゆっくりと横に振った。


「最終便の連中以外は、何とかグラフェンから逃げ遂せることが出来とる。もちろん、アリカ皇女たちもな。あそこで死んでもうた連中は……運がなかったんや」


 寂しげな表情で、ハヤテさんは言った。運がない、そんな理由でたくさんの命が失われた。どうしようもない戦場の現実に目眩が思想になった。


「みんなは、俺の仲間は大丈夫なんですか? あれから姿を見てない」

「クロードに関しては言うまでもないな。あの化け物が死ぬトコなんて、ウチには想像できへん。ゆうちゃんもエリンちゃんもリンドちゃんも、心配することはあらへんで。ゆうちゃんはちょっと怪我しとるけど、命に別状はあらへん。ちょっと休んどるだけや」


 ゆうちゃん、と言われて最初は誰か分からなかったが、尾上さんのことだとすぐに気付いた。そう言えば、彼のフルネームは尾上雄大だったと思い出した。

 それにしても、ゆうちゃんとは。ハヤテさんと尾上さんはどういう関係なのだろう?


「ゆうちゃんは『共和国』が召喚した《エクスグラスパー》やからな。その召喚にウチが立ち会ったんや。それでなし崩し的に世話係になって、それからの腐れ縁てやつや」

「ああ、なるほど。ほとんどの《エクスグラスパー》は召喚されるんですもんね」

「あんたらみたいに召喚されていない《エクスグラスパー》が主流になっとるけどな」


 なるほど、これでハヤテさんが尾上さんに全幅の信頼を置いている理由というものも分かった気がする。この世界に来てからの知り合いならば、信頼出来るのだろう。だいたいの話は終わった、とでも言わんばかりにハヤテさんはさっさと立ち上がった。


「腕が治ったって言っても、無理したらあかんで。治りたてってのが一番危ないんやからね。調子に乗ってると、くっついた腕が外れてまうわ」

「んな安物の人形じゃないんだから大丈夫ですよ。お疲れ様です、ハヤテさん」

「なぁに、本当に疲れるのはこれからや。ウチらにはもう後がないんやからな……」


 ハヤテさんの横顔は、悲壮感漂うものだった。後がない、確かにその通りだろう。

 暴力の防波堤だったはずのグラフェンが陥落し、首都ウルフェンシュタインを守るものは何もなくなった。押し止めなければ『共和国』が、多くの人が死ぬことになるだろう。止めなければならない。けれども、こうも思う。俺にそんなことをする資格があるのか?


「俺がやっちまったことは……リチュエと同じだッ……!」


 誰かの未来が、力づくで奪われて行くのが嫌だった。だから、俺はこの力を使い、戦ってきた。だが、あの時俺は怒りに任せてリチュエを手に掛けてしまった。誰かの未来を守るために、俺はリチュエの未来を奪った。どうしようもなかった。あの時はああするしかなかった。俺の中で言い訳めいた言葉がいくつも浮かんでは、消えて行く。


「何が命は尊いものだ、だ。何が、それを奪う奴は許せないだ……!

 自分自身が、そんな許せないことをしちまったって言うならば、俺は、どうすればいいんだ……!」


 奪い、奪われることのジレンマが俺の全身を苛んだ。いままでは気付かなかった。いや、見て見ぬふりをしてきた。戦い、失われるものがあるなんて当たり前のことだった。子供にだって分かる理屈、それから目を背けてヒーロー気分で俺は戦ってきた! 俺のしていることが、しようとしていることが、どれだけ重い

罪であるかにも気付かずに!


「こんな、こんな血塗れの手で、何かを守ることなんて出来るのかよ……!」


 両手を見た。べっとりと鮮血が付着した手が俺の目に映る。だが、その姿が段々と霞んでく。目が疲れているのかと思った。だが、そうではない、感覚として分かる。まるで自分という存在が薄れて、消えて行くような感覚を俺は覚えた。


 喪失の恐怖に、俺は震えた。人の未来を奪った人間が見せる表情にしては、あまりに滑稽なものだったのだろう。次に目を閉じ、開くときには、俺の手は元通りに戻っていた。あれはいったい何だったんだ? どうしてこんなことになっている?


 ――ここから先に進むためには、代償が必要だ――


 いつか聞いた女の声が、俺の脳裏にフラッシュバックしてくる。これが俺の払うべき、代償というものだったのだろうか? いずれ俺は、この世界から、どこからも消え去るのだろうか? 恐怖におののき、震える。結局俺は馬車から出ることが出来なかった。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 そよ風が吹き込んでくる。

 揺れる場所の中、尾上雄大は久方ぶりに旅の感触を楽しんでいた。

 左腕を握ってみる。何の感触もなかった。


「かなり前から毒に犯されていたみたいですね……どうして言わなかったんですか?」

「言ったとしても、治る確証はありませんでした。この段階で左腕が使えなくなってしまったことが分かれば、僕は後方に移されるでしょう」

「その方がよかったのではありませんか? 何も前線でそんなものを抱えているよりは」

「僕にとっては嫌だったんですよ、先生。この傷のために戦場を去ることだけは、したくなかったんです。まだ仲間が戦っている。それなのに自分だけ引っ込めませんよ」


 尾上は自分の思いのたけを、偶然馬車に乗り合わせた医師に伝えてみた。

 彼が自分の言葉を理解してくれるだろうか? 多分してくれないだろうな、と尾上は思って苦笑した。もし下がれるなら下がりたい、それが偽らざる思いだったはずだ。この世界に来る前も、この世界に来てからも。それが変わったというのならば、きっといいことなのだろう。


「僕からもお願いしますよ、尾上さん。あなたは後方に下がった方がいい」


 同じ馬車に乗り合わせたクロードからも、こう言われるであろうことは想像していた。彼は敵に対してはとことん苛烈だが、身内だと判断した人間に対しては甘い。軍隊向きの性格だと尾上は分析していた。こう言われると分かっていたから打ち明けられなかった。


「キミたちが戦っている場所から、離れたくなかったんだよ」

「あなたほどの人ならば、後方に行ったってやれることはいくらでもあるでしょう。

 いや、あなたの未来知識、軍隊知識は後方でこそ役に立つものではないのですか?

 あなたが前線にいることの損失は、あなた自体が理解しているはずだ」


 クロードは厳しい口調で、責めるようにして言った。

 尾上は笑い、頭を振った。


「正直なところね、クロードくん。僕にとっては『共和国』はどうだっていいんだ」

「意外ですね、尾上さん。あなたは自分の属する国への愛着を持っていると思っていた」

「愛着がないってわけじゃないけどね。でも、執着はないよ。きっと『共和国』がなくなったって僕は生きていける。どこに行ったっていい。世界の命運なんてものを背負いたくはないし、この世界の明日がどうなろうと知ったこっちゃない。けどね……」


 医師にギプスを巻かれながら、尾上は言った。晴れやかな表情で。


「見てみたいんだよ。キミたちの行く末ってやつを。この世界に召喚されて、訳も分からず戦わされて、それでも前を向いて戦っている、キミたちと一緒に戦っていたい。それが僕が、ここにいる意味だ。この世界に来た意味だと、僕は思っているよ」

「そんなことを考えているのは……シドウくんと一緒にいたせいですかね?」


 クロードは苦笑しながら、あの少年の名を告げて来た。お前だってそうだろう、と言い返しそうになったが、やめた。確かなことを否定する意味も、意志もなかったからだ。


「僕のいた世界に、ああいうタイプの人間はいなかったからね。

 彼がもたらすものがどういうものか、僕は生きてこの目で見てみたいんだ……」


 まかれたギプスの感触を確かめ、コートを羽織る。そして不安定な馬車の中で立ち上がり、転倒しないように気を付けながらクロードの近くまで歩み寄って来た。


「彼がもし行く先に不安を持ったのならば、道標になってやってくれ。キミなら出来る」

「そんなことを言わないで下さいよ、尾上さん。あなただって、本当は……」


 その役目を担いたいんでしょう、そう言おうとするクロードを、尾上は手で制した。

 こうして話している間にも、全身を貫くような痛みと熱さが尾上を駆け巡っている。暗殺者が、あの《エクスグラスパー》がもたらしてくれた遅効性の毒に、しかし尾上はどこか感謝していた。自分の心を見直す機会が、おかげで出来たからだ。


「恐らく、僕はその時まで生きてはいられないだろう。だから、キミが代わりにやってくれ。クロードくん。キミのことを信じている。僕に出来ないことが出来る人間だって」


 クロードは、その言葉に頷きかねていた。尾上雄大は自分のことを過大評価している。他人の道しるべになれるような人間ではない、そう言いたかった。


「……分かりました、尾上さん。でも、あなたも出来る限り生きてくださいよ?」

「分かっているとも、クロードくん。死を恐れるのは、誰だって同じだからね」


 けれども、悲壮な表情を浮かべて放たれた言葉を、拒むことが出来なかった。


 夕日が空の彼方に沈んでいく。この先、いったいどうなるのだろうか?

 少なくとも、血濡れた道になることは変わりない。

 沈んでいく太陽が、地平線に滲むように。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 靴音だけが、その空間に響いた。

 漆黒の闇に包まれたそこで活動しているのは蜘蛛やネズミ、昆虫と言った暗闇と湿気を好む生き物だけだ。少なくとも人間がここにいたいとは思わないだろう。頼りないカンテラの明かりに照らされ、一人の男がそこに舞い降りる。


 特徴の少ない学生服を着込んだ、銀髪の青年。三石明良。彼は石で組まれた不安定な階段を一歩一歩、かなりの早さで降りていっている。足を踏み外せば滑落死しかねない、しみ出した地下水で滑りやすくなった、つるつるとした石階段を、だ。


 ここはいったい如何なる空間なのか? 性格に堪えられる人間は少ないだろう。

 そもそも、この場所の存在を知っている人間はそう多くない。ここはガイウスが採掘を命じ、そして闇に葬られた坑道の一つだ。

 彼が『真天十字会』として大々的に行動を始める前に行ったのは、活動の隠れ蓑としやすい場所を探すことからだった。国費で採掘工事を行い、適当なところで『事故』を発生させ工事を中止。開発に携わった工夫と、埋もれた書類の中以外には存在さえ記されない地がここに一つ誕生する、ということだ。


 彼の涙ぐましい努力は『発明王』と呼ばれる一人の男、現在は『僧正』位階に位置する男が訪れたことによって終焉を迎えることになる。彼は元の世界から、違法兵器工場ごと転移して来た。それもご丁寧に地下に埋まった工場だ。隠れ場所を探す努力をする必要がなくなった彼は採掘工事計画をすべて中止させ、来たるべき時に備えた。


 もちろん、それまでに作られた偽装坑道が潰されたわけではない。ガイウスは無駄を嫌う男であり、掘られた竪穴にはまだ利用価値があったからだ。三石がここまで使い走りにされているのにも、相応の理由というものが存在するのだ。


 坑道の終着点に、彼はすぐ到達した。地の底どこまでも続いているように見えて、実のところ坑道自体はそれほど深くはなく、長くはない。彼はカンテラを掲げた。

 それは、奇妙な空間だった。四方八方、見渡す限り岩に覆われていた坑道に、突然鉄の箱が現れたのだから。そう、鉄の箱としか表現できないものだ。狭い通路の中に突然プレハブ小屋が現れるのを想像していただきたい。あまりに不釣り合いなものだった。


 彼は扉らしきところに掛けられた南京錠に手をかけた。かと思うと、すぐにそれを引っ張って破壊した。『王』から鍵を受け取ってくるのを忘れていたのをいま思い出したのだ。どうせここが二度と使われることはないし、確認にも来ないだろうと思った三石は躊躇うことなく鍵を破壊し、重厚な鉄扉をゆっくりと開いた。


「どうも、お久しぶり! 元気にしてたかな、キミも?」


 薄汚い、すえた臭いのする空間だった。その中に三石は顔をしかめることさえなく、躊躇なく歩みを進めた。臭いの原因は、彼の眼前にある白い物体であった。


 否、白い物体ではない。人間だ。人間が天井と壁、そして床に鋲で打ち付けた白い布にくるまれ、拘束されているのだ。口元には猿轡が嵌められている。見るものによっては繭を連想するだろう。繭の中にいた人間が、ゆっくりと顔を上げた。


 酷い顔だった。

 自慢であっただろう長い髪は長い監禁生活でボサボサに伸び、艶を失っていた。

 目元には深くクマが刻まれており、その人物の疲労をくっきりと映し出している。

 頬もこけ、長い間栄養を与えられてこなかったであろうことが容易に想像出来る。


 ほとんど死体めいた出で立ちの女性だったが、眼前に三石が現れた瞬間雰囲気が変わった。猿轡を噛み千切らんとするほど強く歯を噛み締め、三石を充血した瞳で睨み付けた。言葉にならない言葉を口から吐き出す。その形相から考えるに、罵倒しているのだろう。


 直後、三石の足元の鉄板が弾けた。そして、その下から岩がせり出して来た。もちろん、この世界では自然に鉱物が動くようなことはない。彼女の身に与えられた《エクスグラスパー》としての力が、このような非現実的な現象を起こしているのだ!


 そう、彼女は《エクスグラスパー》だ。シドウよりも、三石よりも、そしてリチュエたち『真天十字会』のメンバーよりも早く、この世界に召喚されていた存在。それでいて、あまりの危険性ゆえに『王』ですらも危険視し、地下深く幽閉されていた存在!

 鉱物操作の能力を授かった超攻撃的な《エクスグラスパー》だ!


 だが、その破壊的な一撃を受けてもなお、三石は動じない。


「キミはいつもこうだね。まあ、飽きないからいいんだけどさ」


 三石はすれすれのところで放たれた攻撃をすべて回避していた。殺気に満ちた目が彼を睨む。にこりと微笑み、三石は腕を閃かせた。重い金属の破砕音がしたかと思うと、打ち付けられていた杭が一瞬にして破壊された。繭の人物は受け身さえ取れず転がる。三石は鼻歌を歌いながら、彼女に施された拘束を解除した。


「……何が、目的なの? あたしを、解放するなんて……」


 掠れた声が小さな鉄の部屋に響いた。女性の声だった。


「『王』からキミを解放するように言われたんですよ。

 鳴り物入りで投入した《エクスグラスパー》がみんなグランベルクでダメになっちゃって。人手が必要なんです」

「解放されたからと言って、あたしがあんたたちに従うとでも思っているの……!?」


 ギリッ、と歯を噛み鳴らし、好戦的な視線を彼女は三石に向けた。気の弱い人間なら失禁してしまいそうな激しい視線を受けてなお、三石は揺らがなかった。


「キミの友達もこの世界に来てるよ。僕の友達でもある。一緒に会いに行こう」

「あたしの、友達? まさか、いったい誰が……」


 三石は倒れ伏した彼女の手を取り、楽しそうに言った。まるで遠足の日を心待ちにしている小学生か何かのようだった。一片の悪意も彼から感じることは出来ない。


「シドウくんだよ、シドウくん! 二度と会えるなんて、思ってなかったでしょ?」

「シドウ……シドウ、そんな。あいつが、こっちにいるなんて……」

「一緒に会いに行こうよ、美咲さん! きっと彼も喜んでくれるから!」


 彼女――園崎美咲は困惑した。目の前で死んだ彼が、この世界で生きている。 


 喜んでいいのか、それとも悲しめばいいのか。彼女には分からなかった。


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