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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
奔る怒りの炎
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炎の竜

 螺旋を描きながら、二匹の竜が迫る。炎の竜が。

 クロードは舌打ちし、尾上を抱えた。


「総員、退避! 城門はもうダメです、第二防衛ラインまでの後退を!」


 クロードは尾上の体を抱え、跳んだ。

 大村や騎士たちが泡を食って駆け出していくのを横目に見たが、それ以上は無理だった。クロード自身もこれを避けるので精いっぱいだ。彼らが城門近くに建てられた集合住宅の屋根に降り立った瞬間、城門が吹き飛んだ。


 瓦礫が、城門の破片が飛んで行く。そして、燃え尽きていく。

 炎の竜が纏う圧倒的な熱量によって、直接影響を受けていない場所でさえもダメージを受けているのだ。クロードは尾上とともに被害を受けていない街路に降り立ち、様子を伺った。


「クロードくん、あれは。あれはいったい、何なんだ……?」

「ちょっとよく分かりませんね。炎の方はヴェスパルだとしても、風の方は……」


 あの場から逃げ出した女、リチュエの顔が彼の脳裏に浮かび上がってくるが、しかしそれをすぐに打ち消す。あれほど大規模な破壊をもたらすほどの出力を、少なくともあの時点で彼女は持っていなかったからだ。類推する材料も彼にはない。


「尾上さん、第二防衛ラインの指揮をお願いします。ここで軍が瓦解すれば終わりだ。

 あなたの助力を待っている人々があそこにいるんです」

「クロードくん、キミはいったいどうするつもりなんだい!?」


 尾上は叫んだ。クロードは笑い、剣の柄に手をかけた。


「申し訳ありませんが、僕はこうして斬り合いをすることしか能のない人間なのでね」


 尾上が制止する暇もなく、クロードは大通りに躍り出た。

 未だに熱が残り、シュウシュウと何かが蒸発するような音が聞こえてくる。熱された

大気中の水分は蒸気となり人々の視界を塞いだ。

 好都合だ、クロードは考える。敵にも味方にも、自分の姿は見られない。


 身を低くして、迫り来る《ナイトメアの軍勢》を迎撃する。闇夜と白煙とを切り裂いて、銀線が閃いた。刀の軌道上にいたゴブリンたちがまとめて切り裂かれた。


「な、何だ手前! いったいどこから来やがった……!?」


 クロードの姿を認めた兵士の一人が、驚嘆の声を上げる。そして、ライフルを振り上げる。一歩踏み込み射線を逸らし、返す刀で手首ごとアサルトライフルを切断。白い靄を切り裂いて、鮮血が溢れ出した。兵士の悲鳴が辺りに木霊する。


 叫べ、もっと叫べ。恐怖を、怒りを、戸惑いを辺りに撒き散らせ。それは伝播し、伝染する。見えぬところで味方が死んでいるという事実が、ただ辺りに知らされる。踏み込みながら体を反転、背中から兵士に向かってクロードは当たる。鉄山靠めいた一撃を受けて、兵士の体が吹き飛んで行く。その先で悲鳴。その先は?


 更なる絶叫。計画通り。霞の中でアサルトライフルが連射される。もちろん、それはクロードがいた方向とは全く別のところに放たれたものだ。クロードは霞の中を迷うことなく進んでく。

 彼には見えている、一寸先を見も通せぬ霞の中が。彼らが放つ呼気が、彼らの心音が、彼らの動揺が! 自らの位置を知らせるビーコンとなるのだ!


 刀を振るう。脇に入った刃を振り抜き、胴を切断。

 止まらずクロードは更に一歩進む。刃を止めずに振り抜き、目の前にいた兵士の両足を切断! 崩れ折れる兵士を飛び越え、唐竹割めいて刀を振り下ろす。霞の中から現れた殺人者を前にして、兵士は反応することさえ出来なかった。脳天から股間にかけてまでを切断され、一瞬にして絶命!


 着地し、周囲の状況を探る。アサルトライフルによる同士討ちですでに何人かの死人、ないしは戦闘不能者が出てきてはいるが、しかしそれでは足りない。

 数に任せて展開される《ナイトメアの軍勢》が、ほんの一瞬前も自分の脇を通り過ぎて行った。現実的な問題として、クロードの力を持ってしても完全な対応をすることは不可能だ。


(せめて、こいつらを指揮している人間だけでも全員この場で始末する!)


 刀を鞘に納め、一瞬のためを作る。

 そして、クロードは刀を振り抜いた。その瞬間を知覚出来たものは、恐らくこの世界にはいないだろう。神速の抜刀は衝撃波を生み出し、衝撃波は晒されたものを破壊する! 綾花剣術一の太刀、天破断空!


 続けざまにクロードはそのスピードを殺さぬまま、何度も刀を振るう。振るわれるたびに衝撃波が辺りの物体を破壊する! 物体の中にはもちろん人体も含まれる!

 一度彼が刀を振るうたびに大気が乱れ、辺りを覆っていた水蒸気が拡散していく! 数秒後、霞が完全に晴れた。その時、そこで生きている人間は一人としていなかった。


(今回の指揮官はヴェスパルではないのか? まったく、運のいい奴……)


 城門付近を覆い尽くす死者の葬列の中に、ヴェスパルの姿はなかった。


「……それで、いつまで隠れているつもりなのでしょうか?

 まだやることがあるので、手短に用件を終わらせていただけると助かるのですが」


 クロードは路地を見た。半分焼け溶けた家の影から、白髪の老人が現れた。


「驚いた。まさか私の気配を察されるとは。気付かれたことがないのが自慢だったんだ」

「よく隠れていると思いました。ですが、突き刺すような殺気はそうそう隠せない」


 こうやって、無防備に姿を晒してくるとは思っていなかったので、少しクロードは驚いた。尾上の方を追いかけていくのかとも思ったが、それも違ったようだ。目の前の男の意図は測りかねていたが、クロードは油断することなく問いかけを続けた。


「あなたがアルクルス島で現れたという、《エクスグラスパー》ですか? その節は、仲間がお世話になったようで……僕もお礼をしたいと思っていたんですよ」

「赤毛の騎士の仲間かね? 彼女にはその、悪いことをしたと思っているよ。まさか、あんな簡単に背中を見せてくれるとは思わなかったんだ。まったく予想外だったんだよ、あんなに無防備に……フフ。戦場で油断を……命取り……」


 白髪の老人はところどころ笑うようにしてつっかえながら、クロードとの悠長な対話を続けた。この老人の意図が、何となく読めて来たような気がした。


「あなたには借りもあるし、危険な人物だということは何となく分かる。ここで殺す」

「っふっふっふ、キミに出来るかね? キミはあの騎士の仲間……ということは、同じような轍を踏んでしまうんじゃあないのかね? キミもああやって……」


 クロードは気付かなかった。彼の後ろに誰かが立っているのを。それが鋭いナイフを持ち、クロードの急所を背中から一突きにしようとしていることを。


「後ろからばっさりやられてしまうんじゃあないかね?」


 クロードは最後の瞬間まで気付かなかった。


 ただ、直観があった。背後に何かがあることを。身を半歩かわし、背中から付き込まれた短刀を回避。伸びた腕を掴み、投げた。暗殺者は冷静に対処、投げに合わせて飛んだ。腕を捻りクロードの掴みを外し、着地。バックジャンプで追撃の膝蹴りを回避し、白髪の老人に並んだ。


「バカな……音もせず、気配も発さぬ暗殺を、こうもあっさりと避けるとは……」

「マジで気付きませんでしたが、虫の知らせというのもバカにしたものではありませんね。お隣の鎧さんは、あなたのお仲間という理解でよろしいのでしょうか?」


 クロードは冷や汗を流しながら、老人と並んだ鎧の男を観察した。

 スリット状の穴の開いたヘルメット、耳当てめいて膨らんだ耳元、複雑に光を反射し、光り輝く頭頂部のクリスタル。両目の下からは青いラインが引かれ、時折発光している。


 鎧の方は、それほど特徴のないものだ。全身を覆い尽くすシンプルなフルプレート。全身にエネルギーラインめいて引かれる青の線が特徴的だ。両肩にはアンテナめいた突起がある。あの島で戦ったイダテンを思い起こさせるデザインだ。


 だがそれよりもクロードを驚かせたのは装着者の方だ。彼が接近する音も、気配も、クロードには感じられなかった。目に見えぬ霞の中さえ見通すクロードにとって、それは異常なことだった。いま目の前にいる男からも、何の気配さえ感じない。


「ご自慢の暗殺作戦が失敗に終わって、どういう気持ちでしょうか?

 そういうことをやったことがないので、僕はあまりよく分からないんですよ。ねえ?」


 先ほどの老人に倣って、クロードは相手を挑発するように言葉を紡いだ。老人の方はまるで効いていませんよ、とでも言うように余裕たっぷりにクロードの挑発に応じた。


「まさしく驚嘆すべきことだ。私はともかく、張氏の暗殺が通用しなかった相手というのはこれまでいなかったからね。彼の力についてはご存知かね、キミ?」

「いえ、分かりませんね。よろしければ教えていただけるでしょうか?」


 会話を引き延ばそうとしている。理解しているが、相手は手練だ。ヴェスパルのような派手な殺傷能力こそないものの、人を殺し慣れている。実力を肌で感じていた。加えて、老人にはこの前の戦いで見せた正体不明の《エクスグラスパー》能力がある。


「彼は様々な痕跡を消すことが出来る力を持っているんだ。音、臭い。気配と呼ばれるもの一切合切を消せる力を持っている。さすがに、彼以外のものが出したものは消せない。先の戦いではマズルフラッシュを探知され、酷いことになったそうだね」


 なるほど、この男が対物ライフルでの狙撃を敢行し、シドウの腕を奪ったのか。クロードの中で有形無形の殺意がはっきりと形作られるのを感じていた。


「彼はそれ以外にも優れた暗殺能力を持っている。徒手格闘戦に限らず狙撃、爆破、毒殺に至るまで。この世のありとあらゆる暗殺能力を彼は兼ね備えている。極められた暗殺能力は、この世界で新たな力を得ることによって完成した。さて、キミは察しが悪くはなさそうだから、私がここで言わんとしているところが何なのかは分かっているよね?」


 よく分かっている。ここでこの男を見逃したら、二度と会うことは出来ないだろう。その暗殺能力をフルに活用されたなら、『共和国』は瞬時に瓦解するだろう。この男をここで始末しなければならない。それはここに釘付けにされることを意味している。


「ところで、さっき上がった火柱についてはどこまで理解しているかね。キミは!」

「あっちの方は仲間に任せることにしました。僕はあなたたちを殺すことに集中する」

「面白い、《エクスグラスパー》二人を相手にして、そしてなおかつ勝つと言っているのかね? それは勇気というよりも、蛮勇であり無知と無謀の産物ではないのかね?」

「いいからさっさとかかって来なさい、根暗の殺し屋ども。人の前に立つ勇気さえ持てないような連中に、これ以上手間取ってはいられませんからね」


 老人の眉がピクリと動いたような気がクロードにはした。もちろん、気だけだったのだろう。老人は肩をすくめ、張と呼んだ鎧の男に向かって語り掛けた。


「どうやら彼はまだ若いようだ。若さゆえに、このようなことを言ってしまうのだろう。教えてあげなければならないな、自分がどのようなことを言っているのかということを。もちろん、その意味を理解するのはあの世でになるがね!」


 老人が飛びかかって来た。彼の影が鎧の男と重なる。その瞬間、鎧の男は動いた。クロードは静かに刀を構え、二人の暗殺者を待ち構えた!


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 呼吸を止めて一秒、とまではならなかった。

 壁にもたれかかり、脂汗を流しながら尾上は呼吸を必死に整えようとした。

 遅効性の毒とはいえ、これだけの長期間毒に耐えられるとは驚きだった。

 《エクスグラスパー》となって身体構造にも変化がもたらされているのかもしれない。だとしたら、皮肉というほかないだろう。


「まったく、苦しみを長引かせてくれるだけの力とは……ありがたくないね……!」


 何とか体勢を立て直した尾上の耳に、ギーギーという耳障りな音が飛び込んできた。ゴブリンの声だ。聞き慣れている。いかにクロードといえど、波のように浸透してくるゴブリンをすべて食い止めることは出来ない。とはいえ、彼が死んでいるとは思わないが。


 アサルトライフルを構え、市街地を行進する。あの時やられたのが利き腕でなくて本当によかった、と尾上は思う。もし利き腕をやられていたら誤魔化すことさえ出来なかった。なるべく大通りを避け、人目につかないようにして尾上は走る。


(さっき火柱が上がったのは第二防衛ラインの辺りから……いったい何があった?)


 何があってもおかしくない状況だったとはいえ、まさか内側から食い破られることになるとは思っていなかった。アリの子一匹通さない防衛網が聞いて呆れる。


(敵はこうなることを想定して、事前に手を打っておいたのだろうか?)


 あるいは、グラフェン侵攻はもともと計画されていたことだったのかもしれない。だとすると、敵の攻撃の魔の手が市街地にまで及んでいるのにも合点が行く。ともかく、思考よりも進行を優先させるべきだ、と尾上は自分に言い聞かせ、市街地を進んでいった。


 封鎖されていない街路を抜け、大通りまで出て来た尾上が見たのは、ある意味で予想通りの光景だった。そこには、死が広がっていた。あるものは切り裂かれ、あるものは殴り殺され、そしてあるものは撃ち殺されている。

 だが、不思議なことに騎士以外の姿はない。彼らには銃を支給していなかったはずなのに、なぜ?


「いっ……生き残りッ……!?」


 死の支配する空間の中で、尾上は生き人の声を聞いた。

 振り返ると、そこには拳銃を握り、必死の形相になってそれを尾上に向けている騎士の姿があった。彼の顔を、尾上は知っていた。結婚のために資金を貯めようとしていた若い騎士だと思い出した。


「どうして、キミが……いや、まさか……」


 尾上は辺りの状況と目の前の状況とを重ね合わせ、そして納得した。


「キミが……キミたちが、やったのか? これを?」

「だ、だって、仕方がないじゃないっすか。

 あ、あんな奴らに勝てるわけなんてない。

 あのおかしな武器を、いくつも作れるって言ってました。

 兵隊なんていくらでもいる、足りないなら《ナイトメアの軍勢》を使ったっていい、お前たちに勝ち目なんてない、って」


 震える声で、騎士は言った。『真天十字会』の内部工作がここまで及んでいたとは。尾上は歯噛みした。気付くことが出来なかった自分の無能を恥じた。


「おッ、俺には、養わなきゃ、い、一緒にいなきゃいけない人がいるんです。そんな、まっ、負け戦なんかに付き合って、付き合っちゃいられないんですよォッ!」

「落ち着きたまえ。銃を下ろせ。これ以上、人を殺す意味はないはずだ。そうだろう?」

「あ、あんたが普通の人だったなら、それでも良かったのかもしれませんよ。あんたはいい人だ、俺たちみたいな下っ端にも、そうやって、丁寧に接してくれて……おっ、俺は、初めて上の人が好きだって思えました。あ、あんたみたいな人ばっかりなら……」


 それでも騎士は銃を下ろさなかった。毒とは違う熱が尾上の体を焦がした。


「で、でも、あんた《エクスグラスパー》なんだろ? 言ってたんだ、あいつらが、《エクスグラスパー》を仕留めればほっ、報奨をくれる、って。だから、だから……」


 トリガーにかかる力が強まるのを尾上は感じた。この状況、早撃ち勝負ではあからさまに分が悪い。こちらが妙な動きをした瞬間に撃ち殺されるだろう。この距離なら素人だって外しはしない。せめて何らかのきっかけがあるといいのだが。


 騎士が絶叫しながらトリガーを引いた。

 だがその刹那、空から光がもたらされた。光の帯は騎士が握る銃に向かって一直線に伸びていき、銃口を溶断した。トリガーを引いても弾丸が発射されない、その事実に騎士は狼狽えた。その隙を見逃さず、尾上は踏み出した。

 銃に気を取られている騎士は、それに反応出来ない。顔面に拳が吸い込まれて行く。鍛え上げられた体から放たれた拳が、騎士の顔面を破壊し、彼を吹き飛ばした。


「……悪いけど、まだ死んであげるわけにはいかないんだよね」


 痛む左腕をさすりながら、尾上は騎士に語り掛けた。さすがに一撃で昏倒、というわけにはいかず、痛みに呻きながら騎士はよろよろと立ち上がろうとして来る。


「尾上さん! 無事でしたのね!」


 建物の中から二つの小さな影が飛び出してくる。

 エリンとリンド、双子の姉弟だ。


「よかった、二人とも無事だったんだね? でも、これはいったいどういう……」

「突然、騎士たちの仲間割れが始まったんですわ。それで、こんなことに」


 それは尾上にも分かっていた。彼の態度から、何らかの工作があったことを察した。

 だが、そこから先が分からない。あの時上がった火柱は、一体何だったのか?


「それよりも、尾上さん! ここから離れないと危ないです!

 彼らが持ち込んできたのは、銃だけじゃなかったんです!

 あの黒い結晶もここに――」


 エリンが言い終わる前に、ズシンという重い足音が聞こえて来た。三人はビクリ、賭してそちらを振り返り、そこにいたものを見た。圧倒的な力の塊を。


 それは、人型のトカゲだった。内側と外側とで質感が異なっており、外側はスクウェア状の鱗めいた硬質の皮膚、内側はしなやかで柔軟性に富んだ革のような皮膚であった。太い腕には刀のように鋭い四本の爪が輝いている。

 爛々と輝く瞳は得物を求めて虚空を彷徨い、そして一点で止まった。よろよろと立ち上がる騎士は、背後から迫る死の気配に未だ気付いていない。


「ダメだ、逃げろッ!」


 反射的に叫んだが、しかし遅かった。振り返った騎士の頭部を、怪物の丸太のように太い腕が刈り取った。ねじ切られた頭がどこかに飛んで行った。それを追う余裕はない。


「ランド、ドラゴン……」


 エリンがそんなことをポツリとつぶやいた。なるほど、小さな体に大きな力、あの圧倒的なパワーと威圧感はまさにドラゴンと呼ぶにふさわしい。ドラゴンの口が耳元まで裂け、威圧的な咆哮を放った。尾上たちは身構えた。


「この化け物も、『真天十字会』が用意したものだっていうのか!?」

「ここだの化け物は、黒い結晶から生まれましたの! みんな、みんなあいつに!」


 騎士の大隊を殺し尽くすほどの圧倒的戦力、それを自分で対処することが出来るのか? それに背後からは《ナイトメアの軍勢》や『真天十字会』の兵士たちが迫っている。時間をかけてもいられない。いったいどうしたらいい? 尾上には策が浮かばない。


 開かれた口がにわかに輝きだす。唇の端から炎がチロリと舌のように漏れ出て来た。


「あれが、僕たちが城門から見た火柱の正体ってわけか……!」


 散れ、そう言った尾上の言葉が二人に通じたのかは分からなかった。

 その瞬間、ランドドラゴンの口元から火炎弾が放たれた。

 他人を気にする余裕はなかった。


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