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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
帝国散華
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放て閃光/紫光のブライトフォーム

 どうにか何かが起こる前に辿り着くことが出来た。あのクソ狼野郎は、恐らく《エクスグラスパー》だろう。俺と似たようなタイプで、大幅な形態変化を伴う。


「彼方くん、アリカ。下がってろ。こいつをぶっ倒してさっさと出て行くぞ」


 二人が寄り添ってこの場を逃れようとしている。察しをつけるのはそれほど難しいことではない。皇帝陛下を守ることが出来なかったのなら、せめて二人だけは守る。


「さっさと倒す……? って、ことは、なんだ。手前も、俺を、見下すのかァーッ!」


 狼が吠え、突進を仕掛けて来る。予想より速い、だが準備をする時間くらいはある!

 レイバーフォームの連続使用も、そろそろ限界だ。だいたい三分間がリミットだ。少しばかりインターバルを置かなければならない。出来るかは分からないが、やるしかない。俺は背負ったフォトンシューターを手に取り、グリップ横にあったボタンを押した。

 フォトンシューターに内蔵された魔法石からエネルギーが抽出され、俺の体に染みわたるようにして伝播していく。それに伴い、全身の装甲に変化が生じていく。レイバーフォームのようにしなやかなものではない。より厚く、より重く。それを操れるほどに力強く、俺の装甲が変わっていく。

 胴体にはフルプレートのような一枚の重厚な装甲が展開され、腕も足も露出していた部分、すなわち二の腕と太もも、肩に装甲が展開される。俺の装甲は騎士甲冑のように変化し、装甲部分が黄金色に、繋ぎ目部分が黒色に塗り替えられた。


「こけおどしの変身かよ! バラバラにしてやるぜェーッ!」


 狼は大振りな詰めの一撃を俺に向かって繰り出してくる。俺は左腕でそれを受け止めた。凄まじい威力、だが俺は後退しない。狼の方がそれに驚いているように見えた。


「どうしたァ、力自慢! お前のやりたいことってのはこの程度なのかよ!」


 狼男の腹に、フォトンシューターの銃口を押し当てた。ショットガンのようなポンプアクション機構は排除され、トリガーを引くだけで銃弾が簡単に撃てるようになっている。俺は躊躇わずトリガーを引く。光が狼男と銃口との間で閃き、弾けた。狼男が悲鳴を上げて吹っ飛んで行く。その腹筋はズタズタに引き裂かれ、鮮血が滴っていた。


「ガァッ、て、手前……な、何しやがる!? そいつはいったいなんだぁ……!?」

「こいつが銃に見えないってんなら、眼科行って来いよ。撃つのは良くて撃たれるのはダメってか? ま、手前の好き嫌いなんぞ、こっちは知ったこっちゃねえんだけどな!」


 狼男が再度咆哮を上げ突撃してくる。単細胞が。どうにも強い力を持っている分、動きが大雑把になっているようだ。弱い力にも感謝しなければならないかもしれない。

 手元のレバーで発射スピードと威力を調整する。スピードの方を『MAX』、威力の方を『MIN』に合わせる。先ほどはどちらも中間点にあったので、威力は相当削がれることになるだろうが、連射スピードが確保できればそれを補える!

 トリガーを引きっぱなしにする。すると、凄まじい発射音とともに光弾が何発も連続して発射された。マシンガンを撃っているような気になる。とんでもない反動が襲ってくるが、不思議なほど俺にかかる負担は大きくない。これも強化変身の効果なのだろう。光り輝く鎧を纏った銃士、名を冠するのならばブライトフォームと言ったところか。


「あがががががががぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」


 何発もの弾丸が狼男に吸い込まれて行く。先ほどのような派手な破壊が起こることはない。肉体強化はかなり高いレベルで働いているようで、銃弾を受けても狼男の体は原形を維持していた。この調子なら、もっと強く撃っても問題はないだろう。


「うわぁっ……ズル……」


 後ろでアリカがつぶやいた。ずるいのではない、強いのだ。反論しようとしたが、やめた。こっちもズルいと思ったからだ。騎士さんの気持ちが少しは分かる気がした。


「これ以上時間を取っちゃいられない、ここらで止めと行かせてもらうぜ!」


 威力を『MAX』、スピードを『MIN』に合わせ、もう一度グリップ横のボタンを押す。『FULL BLAST』、フォトンレイバーを参考にしたのであろう非人間的なボイスが流れて来る。向こうよりもテンションは低かったが。

 銃口に圧倒的なエネルギーが収束していく。狼男もそれを見て泡を食った。逃げるんならいまのうちだぜ、と俺は背後を指した。残念ながら、俺の忠告は聞き入れられなかったようだが。狼男は知を蹴った。跳び上がり、天井を蹴り、そして壁を蹴り、俺たちに三角跳びの要領で近付いてくる。直線的な移動では見切られると踏んだようだが、甘い。

 俺はもうすでにその動きを一度見ている。クロードさんがやったあれは、オオカミ男のそれよりも鋭く、そして速かった。生身の人間であれだけの速度が出せるのはなぜだろうか。ともかく、俺にとっては見慣れた行動だ。ならば、動きを予測するのも容易だ!


 跳んだなら、必ず着地する。着地点を予測、俺はトリガーを引いた。銃口に収束していた球形のエネルギーが、膨張しながら飛んで行く。着地した狼男は、自分に向かって飛んでくる死の影を見ただろう。もう一度跳ぼうとしたが、それは遅かった。

 球形のエネルギー体に、狼男は磔になった。圧倒的な破壊のエネルギーが、狼男に流れ込んでいく。男の意識は瞬時に失われ、白目を剥いた。そうなれば、もう後は成すがままだった。エネルギー弾と一緒に吹き飛んで行った男は、対岸の壁に激突してようやく止まった。狼化を解除しながら倒れ込む。そこにはただの男がいるだけだった。


 狼男が完全に沈黙したのを見計らって、俺は変身を解除した。生身の腕で持ってみると、フォトンシューターは滅茶苦茶重い。近接戦闘時に振り回すことも想定しているので、それなりのウェイトを確保しているのだ。俺はアリカたちに向き直った。


「よう、アリカ。無事で何より……」


 腹に衝撃。アリカが突っ込んできたのだ。

 彼女の肩は小刻みに震えている。


「シドウ……! お父様が、お父様がッ……!」


 そこから先を、彼女は言わない。分かっていないからではない、分かっているからこそ、その先を言いたくないのだ。俺は彼女の体を抱きとめ、頭を優しく撫でた。


「キミだけは必ず守る。俺だけじゃない、彼方くんもクロードさんも、キミを助けるためにここに来てくれたんだ。必ず……キミを生きてここから連れ出して見せる」


 皇帝陛下に思いを馳せる。最後の瞬間、彼はアリカに本当のことを伝えられたのだろうか? 愛していたと、愛しているからこそ、彼女を守るために戦っているからこそ、彼女のそばにいられないという、どうしようもない矛盾を抱えていたことを。

 あの人は、最後にどんなことを話したのだろう。もう二度と言葉を交わせない。その事実が重くのしかかってくる。俺もアリカと同じように、声を出さずに涙を流した。


「あの、シドウさん。クロードさんたちはいったいどこにいるんですか?」

「っと……西門前の庭だ。何人か《エクスグラスパー》もいたが、大丈夫だろ。クロードさんがいれば。あんまり時間もかけてられねえから、さっさと行かねえといけねえけど」


 彼方に促され、俺はアリカを放した。こんなことをしている場合ではない。再会を喜び合うなら、もっとシチュエーションを考えなければ。

 そして俺は、見た。


 その男は、あまりにもその場の雰囲気に不釣り合いだった。扉を開き現れた彼は、俺の方を見ると久しぶりに友人に会ったかのように笑みを浮かべ、手を上げた。足下で転がっていた狼男を無造作に踏み殺すと、俺たちの方に歩みを進めて来た。


「彼方くん。アリカを頼んだ。俺はあいつを止める……!」


 議論の暇なんてない。俺は即座に装甲を展開、フォトンシューターのボタンを押し、ブライトフォームに変身。全身を押し潰すような重圧感がかかってくるが、それを無視してフォトンシューターを連射した。威力『HALF』、スピード『MAX』。先ほどまでとは比べ物にならないほど高出力の弾丸が、通路を埋め尽くすほどの密度で発射された。


「新しい力を手に入れたんだね、シドウくん。嬉しいよ、いつも違うキミを見れる」


 端から端まで、埋め尽くすほどの銃撃を放ったはずだ。

 いや、分かっている。書く弾丸の発射と到達までには若干のタイムラグがある。通路を実際に埋め尽くしているわけではないので、当たり前だ。奴はそのタイムラグを利用し、銃弾を回避している。人間の能力としては有り得ないことだが、これは三石明良の所業だ。何も不思議はない。

 ゆったりとした仕草で、三石は俺に迫る。いや、遅く見えるだけだ。恐ろしいほどのスピードで俺との距離を詰め、一秒後には俺に肉薄していた。そして、一秒間の斉射でフォトンシューターはほとんど使い物にならなくなっている。『FREEZING……』、アンニュイな感じの機械音が鳴り、フォトンシューターの射撃が途切れた。


 俺は舌打ちし、冷却状態に入ったフォトンシューターを剣のように振り下ろす。どんな武器でも連続使用を行えば、内部に熱が籠もってしまう。獣内部の構造を歪めてしまう。それを避けるために、連続使用の際にはちゃんと銃を休ませなければならない。


(この出力じゃ一秒撃っただけで使い物にならなくなるのか……これじゃあ!)


 まあいい、銃のアドバンテージは既にない。ゼロ距離まで詰められた状態では、こうして鈍器として使う以外に使用方法は存在しない。

 振り下ろしたフォトンシューターを、三石は軽いステップであっさりと避ける。逆の手で三石を打つが、奴はそれを捌く。

 返す刀でフォトンシューターを振り上げようとしたところで、胸に衝撃があった。


 三石の繰り出した掌打だ。装甲強度が違うため、あの時のように胸部装甲が一撃で粉砕されることはなかった。だが、その威力は変わらない。俺は思わずたたらを踏む。


「女の子を守るために身を挺して戦う、か。やっぱりキミはヒーローだよ、シドウくん」

「手前、何の目的があってここを襲った!? こんなことをしてお前に何の得がある!」


 フォトンシューターを背中に戻し、徒手格闘の体勢を取った。牽制のジャブを繰り出す。三石はそれを避け、俺に数発の打撃を打ち込んで来る。逆の手で三石を打とうとするが、それはあっさりと捌かれ再び俺に数発の打撃が打ち込まれた。


「見た目よりは俊敏だけど、この前の剣の姿よりは遅いんだね。シドウくん」

「質問に答えやがれ、三石ィィッ!」


 三石の挙動を観察する。右肩が動いた。俺は攻撃を先読みし、三石の腕を掴んだ。奴の驚き顔が俺の目に飛び込んで来る。三石の腹に膝蹴りを叩き込む。さすがに奴も咳き込み、体勢を崩した。その隙を突いて俺は三石を引き倒し、馬乗りになった。


「言え! 何のためにこんなことをする! お前たちの目的はいったいなんだ!」

「何だって言われてもなあ……これ(・・)が気に入らないってだけじゃない?」


 三石は拘束されながらも器用に指を動かし、天井を指した。

 これ? まさか、城か?


「……何を言ってやがる、お前」

「『傷つくのならば自分よりも他人の方がいい。他者は自分よりも貧しい方がいい。自分よりも幸せそうな人間は我慢できない』。

 ねえ、それが人間なんだろう(・・・・・・・・・・)、シドウくん。人間の欲とか嫉妬にはビックリだね」


 何を言っている、そんなことがあるわけがねえだろうが。

 そう言いたかったが、唇が動かなかった。いま、この場で起こっていることは、もしかしたら、そんな簡単な理由で起こっているかもしれないしれないと思うと、俺はその言葉を吐くことが出来なかった。


「名前も知らない他人のために命をかけるなんて愚かなことだよ、シドウくん。だって彼らは名前を知っている他人のためにも命を懸けられないんだから」


 市街地で見た光景が蘇る。死にかけた家族を押し退けて、彼らは危機から逃れて行った。それを非難することは出来ない。そう分かっていても胸の痛くなる光景だ。


「欲しいものを奪い取るのは人間の本能さ。自分は欲しいものが手に入って、他人の苦しむ顔が見れる。彼らにとってこれ以上の喜びは存在しないのさ」


 ここに来るまでの間に見た、彼らの浅ましく醜悪な笑みが呼び起こされる。何の躊躇いもなく、殺し、奪う。自らが富むためならば手段を選ばない。それが人間。


「人気の出る物語は、ハッピーエンドよりもバッドエンドさ。他人の悲劇は僕の喜劇。他人事ならば、どんな物語だって楽しくなるんだよ」

「黙れッ、手前が人間を騙るなァーッ!」


 俺は拳を振り上げる。

 本気の拳を叩き込めば、三石だって死ぬだろうか?


「何が言いたいか、そろそろ分かるんじゃないかなぁ。シドウくん」


 俺の下にいた三石の姿が揺らぎ、消える。奴の能力、『不吉に踊る影(メニィメニィ・ブラックキャット)』によって作り出された幻影。ならば、本物はいったいどこにいる?


 振り返る。走り、逃れようとする彼方くんたちの前に、一つの影がふっと現れた。にこやかに嘲笑(わら)う影は、振り上げた拳を彼方くんに叩きつけた。まるで障壁など存在しないかのように、あっさりと拳は彼方くんの頬に叩き込まれた。あの細腕からどんな力が繰り出されているのか、決して重いとは言えない彼方くんの体が吹き飛んだ。


「幸せな人が不幸せに死ぬって言うのは、人間にとって最高の娯楽なんだよ」


 アリカの眼前に、銃口が付きつけられた。

 彼女の戦慄が、恐れが、痛いほど伝わってくるような気がした。

 トリガーが引かれる。一切容赦のない現実が襲い掛かってくる。


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