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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
必然のボーイ・ミーツ・ガール
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そしてあれから二週間

 それからしばらく、俺は射撃訓練を続けた。最後の方になってくると、的に当てるコツも掴んできたので、的中率はかなり高くなっていた。やはり人間、反復練習が大切だ。


「日も落ちる。そろそろ帰った方がいいんじゃねえのか、お前。奴らは帰ったぞ」


 後ろから大村さんに声を掛けられた。いつも通り、生真面目な風体をした彼がいた。俺は頷き、ライフルをケースに戻した。百発近く貰っていたはずだが、すべて撃ち尽くしてしまった。尾上さんがまた作れるとはいえ、かなり疲労してしまうのではないだろうか。


「ついて来い、部外者一人で城を歩かせるのは体面が悪いからな。送ってく」

「すみません、大村さん。あなたにも仕事があるだろうに、こんな……」

「ふん、気にすんなよ。これも仕事の一部だ。それに……もう慣れちまったからな」


 呆れたようにつぶやく大村さんに、俺は少し驚いた。あれだけ刺々しい態度を取っていたというのに、この変わりようは一体何なんだろう。そんな風に彼を見ていると、大村さんは怪訝な表情で俺のことを見て来た。慌てて俺は後に続いた。


「お前らが来てからもう一週間になるのか……最初はどれだけ長いことここにいることになるのかと思ってたが、まさかこんなに長く城に居座るとは思ってなかったぞ」

「いやぁ、すいません。これだけ広々としたところはあんまりなくって」


 ただ広いというだけなら森か何かでやればいいのだろうが、外に出ようとすると渡し賃が一々必要になる。尾上さんがどんな方法で資金を調達しているのかは知らないが、何らかの手段を使って外部から手に入れているようで、無限ではない。なので、射撃訓練やフォトンシューターの調整を断られたらどこでやればいいか考えていたのだ。


「まさか、城塞を破られるとは思ってもみなかったがな。何なんだよ、あれは?」

「えーっと、俺の仲間が作り出した新兵器だ、ってことだけで、俺も詳しくは……」

「実用段階になったら騎士団にもってこい。高く買ってやるかもしれねえぞ?」


 大村さんは珍しく歯を剥いて笑った。やはり、彼がこうして笑っていると違和感がある。そんな怪訝な視線を向けられているのに気付いたのだろう、訝し気な視線を向ける。


「さっきから何だよ、おかしな顔して俺を見て。俺の顔になんかついてんのか?」

「ああ、いいえ。そうじゃないんですけど、何だか優しくなったなー、と思って」

「優しい? 俺が? 冗談だろ、この国の安全を授かる騎士が、優しいわけねえだろう」

「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて……俺たちと初めて会った時、かなり刺々しい態度を取っていたでしょう? そこから考えると、ちょっと……」


 というより、朝会った時も昨日までと同じような態度を取っていたのだ。ほんの数時間の間に彼に何があったのか。脳改造でもされたのだろうか?


「誤解すんなよ、シドウ……でよかったな? 俺は別に手前らが憎いわけでもなんでもねえ。ただ、部外者が城の中でうろついて、あまつさえ皇女を危険に晒したから警戒していただけだ。何日か一緒にいて、お前らがスパイの類じゃないってことは分かったしな」


 なるほど、やはりアリカ関係のことで彼は俺たちのことを警戒していたのか。と、なるとそれとなくアリカに大村さんのことを紹介しておいた方がいいのかもしれない。男二人に愛されるとは、アリカも罪な女性だ。無意識のものとはいえ。


「俺が嫌いなのは……手前の力もねえくせにデカいことを言うような奴だけだ」

「耳の痛い話だな。俺も大してそれと変わらねえし」

「力がねえことを自覚して、自らを鍛える奴ならばそうじゃねえ。俺が嫌いなのは……」


 大村さんの横顔は、ちょうど影になって見えなかった。

 だが、声色は感じ取れた。


「貰い物の力を振りかざして、自分が強いと勘違いしているような奴だ」


 けれども、その言葉には、確かな憎悪が秘められているように俺には思えた。果たして、それは誰のことを言っているのだろうか? 言葉には出さないが、俺のことか? あるいはクロードさんのことか。もしくは、この国の仕組み自体を言っているのだろうか。そんなことを考えている間に、俺たちは跳ね橋のあたりまで辿り着いていた。


「明日もここに来るんだろう? あのオモチャ、今度は俺にも試させてくれよ」

「衝撃にぶっ飛んでも知らねえぜ。んじゃ、お世話になりました。大村さん」


 俺は頭を下げて、くるりと振り返り跳ね橋の上を進んで行った。その姿を、大村さんはずっと見ていた。俺が渡り終えるのとほとんど同時に、跳ね橋が再び上げられた。


「貰い物の力、か。俺たち《エクスグラスパー》ってのも、そんなもんなんだよな……」


 俺は弱い。けれども、他の人と比べれば大分マシな環境にいる、とは思う。鍛えれば鍛えるだけ強くなってくれるのは、この力があってこそのものだ。そして、俺以外の《エクスグラスパー》は、そうした努力を嘲笑えるだけの力を持っている。

 大村さんが嫌っているもの、それは努力を無視する、理不尽のようなものなのかもしれないな、と思った。



 帝都への滞在を始めてから、そろそろ二週間になろうという時になった。あれだけ賑わっていた収穫祭は潮が引くようにして消え去り、騒がしくも穏やかな日常が帰って来た、と駐在の兵士さんは言っていた。二週間も泊まっていれば、顔なじみも増えて来る。


「確かに収穫祭の時期は儲かるけど、俺はこれくらいの方がいいんだよねぇ」


 食堂兼酒場の主人、アーノルドさんはアツアツのベーコンを皿に盛りつけながら言った。そう言われても、俺は収穫祭の時の帝都しか知らないので、どうしても違和感のほうが強くなってしまうが。

 アーノルドさんがサービスしてくれたパンを乗せて、俺たち定位置の席に向かう。宿の中の人だかりも、とんと少なくなっているような気がする。


「どうですか、尾上さん、トリシャさん。何かめぼしい情報はありましたか?」

「いや、買い物ついでに街で聞き込みを行っているんだけど、なかなか上手くはね」

「とか言って、買い物の方がメインになってるんじゃあないでしょうねぇ?」


 俺が意地悪く聞いてみると、尾上さんは苦笑し、否定も肯定もしなかった。


「おや? 尾上さん、これはもしかするともしかするのではないでしょうか?」

「下らないこと言ってるんじゃないよ、シドウ。そっちの方こそどうなんだよ?」


 俺が尾上さんに詰め寄ると、トリシャさんからアツアツのポテトが顔に向かって飛んで来た。食べ物を大事にしなさいとお母さんに教わらなかったのか、この人は。


「困ったことに、それほど重要なそうなことは聞こえてこないんですよねぇ」

「まったく、こっちを訳知り顔で非難しておいて、そっちこそ何もないじゃないか」

「訳知り顔で非難していたのはシドウくんだけなので、勘弁して下さいよ、トリシャさん。水道管の不調が相次いでいるようですが、あまり関係はなさそうですね」

「専門の修理チームも、いまはてんやわんやってところか。大変だね、帝都も」


 尾上さんは『帝国』の兵士に同情するようなことを言いながら、食を進めた。


「……? 姉さん、訳知り顔で非難って、どういうことなんだろう?」

「うー、どういうことかは、分かりませんけど……シドウさん?」


 純粋な疑問を口にするエリンと、赤面しながら俺のことを恨みがましく見るリンド。何だか珍しい感じがする。というか、リンドは分かっているのだろうか?


「ふぅ、ごちそうさまでした! それじゃあ、僕は一足先に行ってきますね!」


 突破口を探していると、予期しないところからそれが現れた。彼方くんは慌ただしく食器を片付け、水を飲み干すと荷物をひっつかみ、走り去っていったのだ。


「オイオイ、ちょっと急ぎすぎなんじゃないのかい? 大丈夫なの?」

「ま、帝都で何かおかしなことがあるわけじゃないでしょ。

 それに……尾上さん。応援してあげましょうよ。あいつだって、自分が何をしたいのか分かってないんですよ」

「危険性を理解していないっていうなら、止めてあげるのが大人だと思うんだけど」

「そうじゃねえっすよ! あいつは滾る思いにもやもやしながら駆けてるんですよ!」

「迷いを抱いたまま戦いに参列するのは、感心出来ませんね。取り除くべきでしょう」


 またこの人は。分かっててこういうことを言っているんじゃないかと勘繰りたくなる。どちらにしても、戦闘脳が強すぎるのではないだろうか?


「んもー、違うっすよ二人とも。あれは、『恋』ってやつだと俺は思うんですよね」


 身を乗り出して俺は言った。

 尾上さんとクロードさんはあきれ顔でそれに答えた。


「恋、ねえ。それこそ他人がどうこういうことじゃないんじゃないでしょうか? だいたいシドウくんは彼から聞いたんですか? 彼方くんが誰かを懸想(けそう)していると?」


 懸想、とはだいぶ古い表現を使う。

 確かに彼から直接聞いたことはないが、しかし。


「いや、間違いありません。あれは間違いなく、恋です。俺の目には狂いがないっすよ」

「曇りに曇ったその目玉は、取り外した方がいいと思うんだよね、僕は」


 尾上さんは冷たく切り捨てた。曇り切ったとは何だ、曇り切ったとは。確かに見誤ることは多いだろうが、しかしそれは敵が一枚上手だったことが多いからであって、断じて俺の目が狂っているわけではない。何せ、相手も格上ではないのだから。


「尾上さんだって、その目で見れば俺と同じ感想を抱くはずです。あれは恋だと」

「そもそも、あの子が誰かに恋心を抱く理由があるんですか? あまり城の方々との交流は深くない」

「人を好きになるのに理由はいらない、っていうじゃないですか。一目ぼれですよ」


 お米のことではない、人の思いのことを言っているのだ。悪しからず。


「仮に本当のことだとしても、首を突っ込むことじゃありません。下世話すぎます」

「でもでも、首を突っ込まないと彼方くんにとって不利過ぎる気がして……」


 さすがに彼らも興味を惹かれたようだったので、俺は大村さんのことを話した。


「大村さんがアリカ皇女のことを? それは……キミは聞いたんですか?」

「いや、聞いてないですけど正しいはずです。俺の目に狂いはない……」

「あー、分かった分かった。そうだね、正しいね。応援してあげなよ。じゃあ終わり」


 尾上さんはあからさまに適当な態度になって、会話を打ち切ろうとしてきた。まるで俺が間違っているようではないか。俺はムキになって話を続けようとした。


「大村さんがアリカ皇女のことを思っている、なんてのはさすがに受け入れられませんよ。彼とはほとんどの時間一緒にいますが、そんな気配は微塵も見せません」

「あの人はシャイですからね。二人っきりで話してみると、結構面白い人ですよ」


 あのキャラの変わりようはすごかった。普段がツンツンし過ぎているだけに、ああして普通に会話をすることが出来るようになるだけで一歩進んだような気分になってくる。俺は数日前、二人で一緒に城の中を歩いた時のことを話してみた。


「本心を隠すのが上手い人ですね。しかし、キミにそんな態度を、ねぇ……」

「? 何か気になることがあるんですか? それとも、何か気付くことが……」

「いえ、そんなものはありませんよ。ですが、僕は大村さんがキミのことを嫌っているように見えたものでして。だから、意外だなと申しているんですよ」


 やはり、クロードさんの目にもあの人が俺を嫌っているように見えたか。まあ、あれだけ露骨な態度を取っているのならば当たり前だろう。気付かない方がどうかしているというものだ。しかし、俺の見解とクロードさんの見解は奇しくも一致しているようだ。だが、最初の話題に関しては一致をみない。どういうことなのだろうか?


「ほら、そんな下らない与太話で時間を潰している暇があるのか、お前たち?」

「おっと、そろそろ時間になってしまいますね。行きましょう、シドウくん」

「あ、はい! それじゃあ尾上さん、トリシャさん! あとのことお願いしますね!」

「おいお前ら、フォトンシューターの調整だけじゃなくて片付けまで任すつもりか!」


 すみません、とひとしきり頭を下げながら、俺は城への道を急いで行った。


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