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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
必然のボーイ・ミーツ・ガール
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ワクワク新兵器開発譚

 そんな感じで初日が終わった。宿に戻った俺たちは尾上さんたちと合流し、情報を交換し合った。トリシャさんたちのフォトンシューター作成は順調に進んでいるようだ。


「フォトンレイバーを原形にしているから、フォトンシューターもシドウに使わせたいと思う。何か意見はあるか、みんな?」

「ないですね。銃はちょっと好きになれません。いい刀でもあればいいんですがね」

「キミの剣撃に耐えられる刀があるとは、ちょっと思えないんだけどなぁ……」


 尾上さんは苦笑しながら言った。特に反対意見も出なかったので、フォトンシューターは俺が使うことになった。それから先は、役体のない話ばかりで盛り上がった。下水管破裂で汚水が流れ出たそうだが、大丈夫なのだろうか帝都は。


 こうして何でもない時間を過ごせるのが、俺は嬉しかった。

 考えてみれば、ここのところ殴ったり切ったり撃ったりと、殺し合いばかりをしてきた気がする。こうした穏やかな時間というのも、人間には絶対に必要なのだ。しばらくそうして楽しんだ後、俺たちは床に就いた。久しぶりに俺は、穏やかな眠りを迎えられた気がした。


 次の日も、その次の日も、俺たちは帝都で一日を過ごした。王城と宿屋とを往復し、図書館に入り浸り、そしてその日の終わりには鍛錬を行う。そんな日々の繰り返し。

 何日も繰り返していると子供組はそんな調べ物に飽きて来たものだから、アリカの誘いに応じて城を見て回ったりした。大村さんが凄い顔をしていたのは、見ないことにする。

 城というものの内側に入ったことはなかったので、かなり面白い体験だった。贅の限りを尽くした応接間に入ったり、普段仕事で使われている部屋には行ってみたり、あるいは兵士たちが使っている兵舎にこっそり侵入してみたり。アリカは城の中でも愛される存在であり、彼女の御転婆に頭を悩ませつつも、みんなそれを楽しんでいるようだった。


「出来たぞ、シドウ。お前の要望を取り入れたフォトンシューターだ!」


 そんなある日のこと、確か帝都に入ってから一週間くらい経った時だった。珍しくトリシャさんが夕食の時間に遅れたかと思ったら、ドタドタと階段を降りて来た。クマがくっきりと顔には刻まれており、その手には黒光りする大砲めいた銃があった。


「おお、さすがっすよ! デカした、トリシャさん!」


 素早くテーブルの上を俺たちは片付けた。その上に、トリシャさんはフォトンシューターを置いた。原形となっているのはショットガンだったが、ほとんど原形をとどめてはいなかった。金属パーツによって補強され一回り大きくなったそれは、大昔に博物館で見た抱え大筒のようなものだった。榴弾砲の御先祖様のようなあれだ。


「ポンプアクションで魔法石からエネルギーを充填する仕組みになっている。連射は効かなくなっているが、魔法石のエネルギーを節約し、継続戦闘能力を高めることにした。まだ試していないが、既存の銃火器より瞬間火力では勝っているはずだ」


 トリシャさんは熱っぽく力説した。

 俺はフォトンシューターを片手で持とうとした。


「おッ……おおっ、思ってたより重いですね。片手じゃ絶対使えない……」

「お前の要望も取り入れて、近距離戦闘も出来るようにしているからな。

 銃剣なんかを付けると強度が低下するから、逆に銃本体の強度を補強して鈍器として使えるようにした」


 なるほど。確かにこれなら頭の上に降り下ろすだけでたいていの奴なら倒せそうだ。


「《ナイトメアの軍勢》と戦うとなれば、接近戦になる可能性も出て来るが……」

「すいません、トリシャさん。俺のわがままを取り入れて貰っちゃって……」


 俺は思わずうつむいてしまった。あの戦いで分かった、俺は例え銃越しでも、人を殺すことが出来ない。三石に抱いたような、強烈な殺意を維持することが出来ない。あるいは、あいつに殺意を向け過ぎてしまった結果なのかもしれないが。


「いいよ。おかげさまで、銃自体の威力も向上させることが出来たしな。本体の重心は先端に集中しているから、発砲時の反動もそれほど大きくはならないはずだ。とはいっても、試射もまだ済ませていないからどこかでテストする必要があるがな……」

「だったら、城の広場でも使わせてもらいましょうよ。どうせ、発砲テストをするなら彼らの許可を貰わなきゃいけなくなる。それなら一石二鳥になるでしょう?」

「おお、そうだな。それでいいと思うぞ。じゃあ、私は先に寝させてもらう……」

「オイオイ、トリシャくん。ご飯も食べずに寝てしまっては健康に悪いぞ?」

「すまんな、いまは健康より何より睡眠時間が欲しいんだよ……」


 トリシャさんは大あくびを一つして、部屋に戻っていった。よほど疲労がたまっていたのだろう、尾上さんの言葉も聞こえていないようだった。やれやれ、と息を吐いた。


「彼女、ここんところかなりかなり根を詰めていたからね。許してあげてくれよ」

「許すもなにも、トリシャさんは俺のためにやってくれたんですから。感謝しますよ」

「取り敢えず、何をするにしても明日ですね。トチらないように、キミも早く寝なさい」


 明日誤射でもしてしまったら洒落にもならない。俺はクロードさんの忠告に大人しく従い、二十キロはありそうなフォトンシューターを持って部屋へと戻るのだった。


 翌日。空は快晴、なれども波高し。

 事実、城を覆う堀には白波が立っていた。


「ったく、練兵場を使いたいなんていきなり言って……何をするつもりなんだか……」


 大村さんはあからさまにイライラした口ぶりで、俺たちの要請に応じてくれた。口は悪いがいい人なのかもしれない。今更だが俺たちの所業への罪悪感が湧いて出て来る。


「大村さん、確認しておきますが、あの先には人や物はありませんね?」


 クロードさんは二十メートルほど先にある巻き藁を指さした。

 大村さんは鼻で笑った。


「見て分からねえのか? あの奥にあるのは城塞だけだよ」

「なるほど、ではシドウくん。最初は全力でやっても構わないそうですよ」


 了解、と俺は短く言って変身した。大村さんが少し驚いたような顔をした。そう言えば、大村さんにこの姿を見せるのは初めてだったか。まあ、多分これからもっと驚くことになるだろうが。俺はフォトンシューターを右手で持ち、左手でホールドした。


「やっぱりかなり重いですね。この姿でも、照準がブレて仕方がない……」

「先端に重心が偏っていると言っていましたから、余計そう感じるのかもしれませんね。トリシャさんから、それの使い方についてはレクチャーを受けているんでしたね?」

「バッチリだ、クロード。さあ、シドウ! そいつの威力を知らしめるんだ!」


 トリシャさんはいつもの冷静さがどこに行ったか分からないほどハイテンションになっていた。大丈夫なのか、と思いつつ、俺はフォトンシューターの本体に付いたつまみを捻った。

 『MIN』と『MAX』、俺にも分かりやすい表示形式だ。当然『MAX』に合わせる。グリップをポンプすると、エネルギーが銃口に収束していくのを感じた。


「オープンサイトが付いているから、それで照準を合わせろ。気休めだがな」


 俺はグリップの上のあたりについたオープンサイトを見た。

 なるほど、確かに気休めだ。覗く部分と銃身上部についた中心部分とを噛み合わせることで照準を合わせることになっているようだが、自分の目だけで見てもそう変わらないのではないかと思えてくる。


「んじゃ、行きますよ! フォトンシューター、フルファイアーッ!」


 トリガーを引いた瞬間、俺の体が反動で後ろにぶっ飛んだ。背中から地面に叩きつけられながら、俺は弾の行く末を見守った。上に逸れた弾丸は巻き藁を掠めた。掠めただけで、巻き藁はバラバラになった。弾丸は尚も上昇しながら突き進んでいき、城塞へと到達する。そして、それをバターのように焼き溶かし、天空に消えて行った。

 大村さんの顔を見る。開いた口が塞がらない、という表情だった。


「やはり威力が大き過ぎるか。シドウの筋力でも保持できないとは予想外だったな」

「そういう問題じゃねえだろ、オイ! なんだお前ら、あれはいったい!」


 我に返った大村さんはがなり立てながら、トリシャさんに近付いて行った。元凶である俺に近付いて来ないということは、無意識にフォトンシューターを恐れているのだろうか。まあ、撃った自分が言うのも何だがこれはあまりに危険すぎる。


「うるさいな、出力調節を間違ったのは謝るがありゃ誤射だ、誤射」

「誤射で城を壊されてちゃたまらねえんだよ! どうすんだよ、あれは!」

「知らんわ、そんなこと。壊れるような壁を作っている方が悪いんだ」


 トリシャさんは一切悪びれずに行った。まさに外道、大村さんも開いた口がまた塞がらなくなったようだ。トリシャさんはそんな彼を横目に次の指示を出して来た。


「シドウ、出力を絞って撃ってみろ。さっきみたいなことにはならんはずだぞ」

「さっきと同じことになったら、出力を調整出来る意味がないじゃないっすか」


 呆れながらも、俺はフォトンシューターの出力を『MIN』に合わせた。そして、トリガーを引く。先ほどとは比べ物にならないほど小さい、しかしやはり強烈な反動が俺を襲った。

 卵の殻くらいなら反動だけで砕けてしまいそうだ。放たれた弾丸は巻き藁を掠めるようにして飛んで行き、背後にあった城塞の煉瓦壁に激突して消滅した。


「直撃がないと、ちょっと威力が測り辛いな。もうちょっとよく狙えよ、シドウ」

「そう言われたって、俺銃を撃つの自体初めてなんだからちょっと考慮してくださいよ」


 最低出力の攻撃が、砦を壊すことがなかったと分かっただけでも儲けものだろう。やがてグリップをポンプしてもトリガーを引いても、銃はうんともすんとも言わなくなった。


「エネルギー切れか。やはり、戦闘時間はネックになるだろうな」

「反動もスゴイですよ。まともにこいつを扱い切れる気がしませんよ……」


 ため息を吐きながら、俺はトリシャさんにフォトンシューターを返した。同時に、変身を解除する。あの体でも、反動は大分堪えた。生身ではとても扱えないだろう。


「ちょっと改良を加える必要があるだろう。実地でデータが取れてよかったよ」

「それはどうも。どういう方面で改良を加えて行くつもりなんですか?」

「頭の中ではいろいろと出来上がっているんだが、まだ形になっていないからな。保留しておいてくれ。一先ずは命中精度を向上させることと、持続時間の延長をすることになるだろう。あと、シドウ。お前はこれを使っておけ」


 そう言って、トリシャさんは宿から持ってきたアタッシュケースを俺に差し出して来た。何かと思って受け取ってみる。ケース自体も重いのだろうが、片手で受け取ろうとしたことを後悔するほどの重量だった。地面に置き、ケースを開いてみる。


「……あのー、トリシャさん。これはいったい何なんでしょうか……?」

「見たことがないか? ライフルだ。やはり、命中精度には本人の練度もあるからな」


 俺の目の前に現れたのは、映画で何度も見たことのあるライフルだ。正確には違うのだろうが、レミントン系のボルトアクションライフルに見える。命中精度はかなり高く、猟師さんや自衛隊の狙撃チームでも使っているという。サイトの類はない。


「取り敢えず、日が出ている間はこれで練習をしておけ。言うまでもないが取り扱いには注意しろよ、この口径のライフル弾が命中すれば人間なんて簡単に死ぬんだからな」


 そんな大事なものをただの高校生に渡さないで下さい、と思ったがトリシャさんの目は真剣だ。俺だって、フォトンシューターをねだった身だ。真剣に応じなければ。


「分かりました。大村さん、悪いんですけどしばらく人払いをお願いしていいですか?」

「もういい、好きにしろ。何だかもうよく分からなくなってきた……」


 ここ数日大村さんの態度も大分柔らかくなっているような気がする。いや、何かを諦めたような風情すらある。去って行く後ろ姿に、どこか哀愁が漂っている気がした。


「さて、と。大村さんとトリシャさん、二人に力を貸してもらったんだ。

 これで何も出来なかった、なんて言ったらウソだぜ、紫藤善一……!」


 俺はライフルを構えようとした。そこで、気付いた。俺は銃の撃ち方なんてものを知らない。トリシャさんもフォトンシューターの調整のために帰ってしまった。

 参ったぞ、このままでは弾の装填すら出来ないではないか。何かないか、と思ってケースの中を見直してみると、あった。初心者用の射撃教本のようなものらしい。


「ほーほー、これなら……俺のような素人でも分かるかもしれないな……」


 姿勢を正し、力を抜いて、ライフルを構える。それにしても、この世界に来てから実生活で役に立たない知識や経験がどんどん増えているような気がした。元の世界に入ったら、自衛隊にでも入らない限りこれらは役に立たないのではないだろうか?


 そんな下らないことを考えながら、俺はトリガーを引いた。人々の喧騒すら、ここには聞こえてこなかった。ライフルの発砲音、ボルトを引く音、薬莢が転がる音だけが辺りに響いて行った。なお、使用した弾丸はすべて回収することになっている。トリシャさんいわく、同じような技術がこの世界で作られてしまっては面倒だから、だそうだ。


 銃を構え、トリガーを引く。銃弾を回収し、自分なりにフォームを調整する。静かな時間が流れていく。静かすぎて、哲学的な気分になってきてしまうほどだった。


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