お約束の誘拐事件
しばらく進んでいくと、住宅街と思しき場所まで辿り着いた。街路の左右にはアパートメントと思しき高層建造物がいくつも――とは言っても三階か、四階建てくらいだが――立ち並んでおり、祭りの喧騒もここまでは及んでいないように思えた。恐らくは、ベッドタウンめいた閑静な住宅街なのだろう。道を通る人にも、どこか気品を感じる。
大き目な噴水の縁に腰かけ、俺たちは息を吐いた。高度な上下水道設備が完備されているようである。噴水の中央には巨大な銅像が鎮座している。巨大な剣を片手で天に向けた、大柄な男。台座には『ヴィルカイト一世』と彫られている。
「取り敢えず、あの人たちは撒くことが出来たみたいです。やりましたね」
「エリン……何だか最近染まってる気がするんですけど、気のせいですの?」
その言葉の裏には『アホなシドウに』と続く気がした。何を言うのか、こ奴は。変化するのは悪いことばかりではないだろう。特に、エリンなど大人しすぎてみているこちらが心配になってきてしまうほどだ。もっと積極性を持ってくれてもいいと思う。
「さてと、嬢ちゃん大丈夫か? なんかおかしな奴に追われてたみたいだが……」
と、言って俺は引き連れて来た、薄墨色の髪の女の子に声をかけた。おかしな奴に追われている、と言ったがこの女の子も相当おかしな子だ。なぜあいつらに追われている? 見た目から考えれば、チンピラヤクザの類ではないことは明らかだった。
「え、ええ。助かりました。ありがとうございます」
女の子は棒読みの謝辞を述べ、くるりと反転して去って行こうとした。そうはいくか。
「待てい。上手く誤魔化したと思ってんだろうが、そうはいかねえぞこのクソガキ」
「ちょっと、退いてくださいよ。私にはこれから行くところがあるんですから」
憮然とした態度で女の子は俺を睨んで来る。何て好戦的な子なんだ。エリンにはもっと積極的になってほしいとは思うが、しかしここまではなってほしくないな、と思った。
「さっきので、俺たちもあいつらに睨まれちまったかもしれねえんだ。せめて、何であいつらに追われてるか話せよ。こっちを巻き込むだけなんてそんなのねえだろ?」
「はぁー? 別に私助けてくれなんて頼んでませんけど? あなたが、勝手に、あの人たちに、喧嘩を売っただけだってこと、お分かりになってませんー?」
女の子は人差し指をこめかみに押し付け、『貧しい頭脳でお分かりになりますか?』とでも言いたげな表情を浮かべる。このクソガキ、人が大人しくしてりゃあつけあがりやがって。まあ、俺もあの程度であの男たちに因縁をつけられるとは思ってはいなかったが。ほんの少しでも申し訳のなさを感じてくれればよかったが、強かすぎる。
「はぁ……追いかけられてんだろ? だったら、一人でいるのはあぶねえじゃねえか」
「それは、そうですけど……でも、あなたたちに関係のあることじゃありませんから」
「そうですわ、シドウさん。あまり他人の立ち入ったところまで首を突っ込むのは……」
リンドが俺を冷静にたしなめた。まあ、確かにこのガキに関わってやる義理はないわけで。この子も関わってほしくなさそうだったし、ここは大人しく引き下がった方が良さそうだ。何より、俺たちには宿に戻るという大事な目的があるのだから。
そんなことを考えていると、女の子の腹が可愛らしく鳴った。
「……んだよ、お前腹減ってんのか?」
「うっ……そ、そんなことねーですし! 何か聞き違えたんですし!」
少女は顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。
何たる負けず嫌いか。仕方あるまい。
「そういや、俺たちまだ飯食ってなかったな……お前も一緒にどうだ、お嬢ちゃん?」
「えっ……で、でも、私、ここにそんなお金持ってきてないし……」
「欠食児童一人に飯を奢るくらいの金ならあるよ。まあ、安心しろ。金取ろうってわけじゃねえんだ。あんまり栄養足りてねえちんちくりんなカッコがあまりに哀れで……」
言い切る前に、脛を思い切り蹴られた。さっきまでは手加減していたのだろう、今回脛に加えられた衝撃は前より遥かに強いものだった。あまりの痛みに俺は跳ねまわった。エリンやリンドの冷ややかな視線が、俺に突き刺さったような気がした。
「人の事どっかバカにしないと、会話ってのが出来ないんですか! あんたは!」
「ちくしょうが、これについてはお互いさまだろうが! 彼方、なんか言えよ!」
俺は涙目になりながら、彼方くんに話を振った。しかし、反応はない。つい先ほどまでも声を発していなかった彼方くんは、彼女の顔を見ながらボーっと突っ立っている。この様子で、俺はピンと来た。
これを失敗させたのでは、男が廃るというものだ。
「ホレホレ彼方くん。キミもこんな子供が一人でうろついてるのは危ないと思うよな?」
「ふえっ!? あ、えっ、アッハイ! そうですね!」
「なに、そんなに引っ付いて……気持ちが悪いんですけど……」
少女は信じられない、という風に両手を上げた。こいつは本気でしばかにゃならんかもしれないが、それは後だ。見るからに、彼方くんは都会であった都会的な少女に一目ぼれをしている。女の趣味が悪いですね、と言いたくなるがそれはまあ人それぞれだろう。
「恵んでやる、とまで言うつもりはねえけどな。一人で食うよりはマシだと思うぜ?」
「うっ……わ、分かりましたよ。食べてないから。同じトコで食べることもありますね」
つくずく可愛くないクソガキだ。まあいい、これも彼方くんの恋路のためだ。俺は辺りを見回し、どこかは入れるところがないかを探した。住宅街なら、この辺りに住む人たちが利用するような喫茶店か何かがあると思ったからだ。そして、それは当たった。上品な佇まいをした喫茶店が、そこにはあった。ウッドデッキ風の店構えもいい。
「丁度いい、あそこで軽く食っていこうぜ。腹減ったら他で食えばいいだろ」
そんなことを言ったが、それが失敗だったと俺はすぐに知ることになった。ランチメニュー一人三百ルク。俺の地元ではパン一斤百円だったので、これを基準にすることにする。この世界でパン一斤は二十ルク。銅貨にして二十枚分だ。すなわち、一円に対して一ルクは五倍程度の価値である、と考えていいだろう。つまり、この店のコーヒー、サラダ付きのパスタセットは俺たちの世界で言うところの千五百円程度ということになる。
それなりにいいトコのランチメニューと考えれば、これくらいは妥当な値段なのかもしれない。だが俺が尾上さんから強奪したお小遣いは全額で二千ルクだ。これくらいあれば数日は暮らせる、と言われて出されたのがこの金額だ。初日で四分の一になった。
「……まあ、いいだろう。人のためになることをするには出血を伴うんだ……」
「あの、シドウさん。お会計厳しいなら、僕が少しは出しますよ……?」
「いいんだ、彼方くん。そう言うのは俺じゃない人のために取っておくんだ……」
不可思議めいた顔を浮かべる彼方くんをはぐらかし、俺は会計を行った。銅貨百枚で銀貨一枚分、銀貨十枚で金貨一枚分となる。これより大きな価値を持つ貨幣もあるそうだが、さすがにそれは持たせてもらえなかった。危険すぎるので当たり前だろうが。
金貨を一枚、そして銀貨を五枚差し出した。残ったのは銀貨が五枚だけ。俺の財布は一瞬にして寂しくなった。それなりに賑わっていたが、真昼の時間を外していたためかすぐに俺たちのところへ料理が運ばれてきた。温かみのあるメニューだった。
「ホレホレ、さっさと食っちまえ。行くとこがあるんだろ?」
パスタをぐるぐると巻き、口の中に放り込んだ。程よく弾力のある麺が、歯に反発した。麺に絡まったトマトソースの味わいが何とも言えない。
「……あなた、その腕どうしたんですか? ミイラ男みたいになってますね?」
そう言われて、俺も腕に目を落とした。塞がりかけているとはいえ、余人に見せるにはあまりに忍びない傷だらけの腕なので、最近は包帯をぐるぐる巻きにして隠すことにしている。おかげさまで、奇異の目には事欠かない。むしろ悪目立ちしている感すらある。
「正義の代償だよ。いいことをするってことは、傷だらけになるってことと同義だ」
何を言っているんだ、こいつは、とでも言いたげな冷めた目を、少女は向けて来る。本当のことを言っているのだが、どうにも信じられていないようだ。確かに、正義だと自認しながら戦ったことはないのだが。しかし、こう言う包帯グルグル巻きの人間に対して『ミイラのような』という慣用句を使うとは思わなかった。この世界にピラミッドは恐らくないだろうに。
まあ、すべては《エクスグラスパー》のおかげなのだろう。
「あの、そう言えば……キミ、名前はなんていうの?」
おずおずと、彼方くんが口を開いた。ルビーのような真っ赤な目が、真正面から少女の顔を見据える。
そう言えば、この子の目も同じように赤い。そんなところから、彼方くんは少女とのシンパシーを感じているのかもしれない。
「えっ、っと……その、私は……アリカ」
口にし難いものを無理矢理ひり出すように、少女は声を詰まらせながら言った。何か、名前を口にしたくない事情があるのだろうか? 多分、そうなのだろう。この子の身なりから見て、それなりに地位があることは明らかだ。もしかしたら、やんごとなき血脈なのかもしれない。
多少察しが良ければ、これだけでも特定できたのかもしれないが。
「ほーん? で、どこに行きたいんだ? 送れるトコなら送ってくが……」
「……街外れの、霊園」
意外な言葉だった。もっと騒がしいところに連れて行け、とねだるのは予想していたが、まさかそんなところに行きたいと思っていたとは。俺たちは顔を見合わせた。
「聞いていいか? なんでそんなところに、キミ一人で行こうと思ったんだ?」
「……お父さんは忙しいから。命日の今日にも、行かなかったしッ」
なるほど。だから父親に反発してこんなところに来ているのか。合点が行った。
「別に親父さんだって行きたくないからそんなことしてるわけじゃないだろ。
別に命日には必ず行け、って法律があるわけでもねえだろ?時間見つけて二人で来いよ」
「ッ……! 分かったような口きいて、あんたに何が分かるってのよ!」
机を勢いよく叩いて、アリカが立ち上がった。
その顔には怒りが浮かんでいた。辺りの視線が痛く突き刺さってくるので、出来れば止めていただきたかった。
「座れよ。周りの人から見られてんぞ。ってか、飯の最中に騒ぐんじゃねえ」
「騒がせてるシドウさんが言うと、絶妙に説得力がありませんわね……」
リンドが呆れたようにつぶやいた。なんだろう、この数時間の間に俺の評価がグングンと下がっているような気がする。まあ、そんなことは置いておいて、だ。
「分かったよ、俺が悪かった。んで、その霊園ってのはどこにあるんだ?」
「……ここからすぐ。でも、ここまで来たらもう、一人で行けますしッ」
そう言って、アリカは店から出て行こうとした。ウッドデッキ風の店から出るのはすぐだ。肩を怒らせて歩いて行こうとする。やれやれ、先に会計をしておいてよかった。
「おい、待てよアリカ。ったく、飯の礼も言わずに突っ込んで行きおって」
「そ、そうだよ! 待ってよ、アリカ! 僕たちも一緒に行くから!」
「いや、お前あれだけやられてガッツあるよな……」
俺だったら好きな女の子にあれだけされれば、千年の恋も冷めるというものだ。思うに、同世代の子がいなかったうえに、姉があんなエキセントリックな性格だから、女というものに根本的に慣れていないのだろう。将来ダメな女を引っ掛けそうだ。
歩き去って行こうとしたアリカを追いかけ、俺たちは噴水の前まで来た。
その時だ。
屈強な体格をした数人の男が、アリカの行く手を遮った。
そして、その手を取った。取った、といういい方は生やさしいだろう。無理矢理掴んだ、と言った方が正しい。
「ちょっ……! な、なにをする! 放しなさい!」
あの慌てぶり、恐らくあいつらはアリカを追いかけていた角刈り集団とはまた別の連中なのだろう。その証拠に、特徴的な角刈りが奴らの頭にはなかったのだから。
「オイオイオイ、手前ら何してやがる。嫌がってる子を無理矢理に――」
最後尾にいた男の肩を掴んだ。
あっさりとその体が反転したように思えたが、違った。次の瞬間、俺の眼前で星が散った。殴られたと気付いたのはすぐだったが、遅かった。襟首が掴まれ、思い切り引かれた。足が宙に浮いた。そして、投げられた。
「し、シドウさん!?」
エリンとリンドの声が重なって聞こえた。次の瞬間、俺の耳に着水音が聞こえて来た。聞こえて来たのではない、実際に俺が水の中にいるのだ。噴水に投げ込まれた。
「ッッッ! 手前らァッ! いきなり何しやがんだ、このスカタンがァーッ!」
怒りがふつふつと体中を満たし、俺の体を鎧った。勢い良く水しぶきを上げて俺は立ち上がった。男が驚き、身をすくませるのが見えた。まさか、投げ込んだ男がこんな格好になって立ち上がってくるとは思わなかったのだろう。まさにサプライズドライブ。
アリカは集団の中でも、一番屈強で背の高い男に担がれていた。一瞬のうちに、彼女には猿轡と目隠しがされていた。営利目的の誘拐か何かか。ともかくこのまま放ってはおけない! 俺は噴水の縁を蹴り、跳躍。男たちの反応も早く、一目散に逃げだそうとした。
しかし、その行く手は上空から降り注いだビームによって塞がれた。リンドがフローターキャノンを展開し、彼らの前に光のカーテンを出現させたのだ。石畳が煙を上げながら融解し、それを見て男たちはたたらを踏んだ。その前に、俺は立ち塞がる。
「何考えてんのか知らねえけど、そいつを連れてこうたってそうはいかねえぞ」
右手首を握り、腕の感触を確かめた。三石との戦いから一週間と少し、本格的な交戦を行うのは久しぶりだ。だが、不思議とこんな連中に負けるとは思えなかった。不思議なことだ。ほんの三週間前まではボコボコにぶっ飛ばされていたというのに。
そして俺の対角線に当たる場所で、彼方くんが剣を抜いた。
彼の体格とは不釣り合いな剣を見て、男たちのいくらかは露骨な嘲笑を浮かべた。油断してんじゃねえよ。
「こんなところで足止めを食らっているわけにはいかん。速攻で終わらせるぞ」
一際屈強な男は、背負っていたアリカを隣にいた団員に押し付け、拳を打ちつけた。大気が震えたような気がした。すでに暴動の気配を察し、周辺は騒然としている。この街を守る騎士団が現れるまでの時間はそれほど長くない。こいつらも焦っているのだ。
男は手にメリケンサックのようなものを嵌めている。そして、サックには黄色い宝石のようなものがついていた。それが、光り輝いたかと思うと、男の体を鎧が覆った。エリンたちが使っているのと同じ、魔導兵装。それも、かなり攻撃的なタイプのものだろう。
「こ奴の首にはバカバカしいまでの賞金がかかっておる! 邪魔をするのならば容赦はせんぞ、小僧! 不可思議な武器を持っているようだが、その貧弱な力で俺には勝てん!」
「口数の多いやつだな。んで、ありきたり過ぎてあくびが出てくるぜ」
肩をぐるりと回す。ごく短い期間だが、戦い続けて来たおかげか、分かることがある。こいつからはクロードさんや三石のような威圧感も、ケイオスのような脅威も感じない。
「エリン! リンド! 彼方くんのサポートをしてやってくれ。こいつは一人で十分だ」
「抜かせ、ガキが! そう言って死んでいったものは多いぞ! イヤーッ!」
男が拳を振りかぶり突っ込んで来る。上半身を覆う装甲はなるほど強力そうだが、しかし下半身にはほとんど展開されていないようだ。それでも、俺のよりはマシだが。
突っ込んで来る男の軸足に蹴りを入れる。膝関節を横合いから打たれ、男の体がつんのめる。つんのめり、落ちてきた男の顎に向かって右のアッパーカットを繰り出す。男の体がのけ反る。もう一歩踏み込みながら回転、後ろ回し蹴りを男の腹に叩き込んだ。ゲロを吐きながら男の体は弧を描き飛んで行き、手下たちの体に折り重なるように倒れた。
「……おお。やりゃあ出来るもんだな、俺でも」
数秒の残身。すぐさま構えを解き、変身を解除する。忌々しいことだが、三石がやったのとほとんど同じことをやってしまった。相手の出鼻をくじく、単純だが有効なやり口だと思った。他の連中に関しては、もう彼方くんが処理してくれているようだった。
まあ、あのインチキバリアとインチキビームがあるなら、この程度の相手障害にもならないだろう。俺はアリカを渡された小男をじろりと睨んだ。男がすくみ上る。
「うん、分かるよ。自分もやられねえかってビクビクしてるんだな? 大丈夫、俺はそこまでひどくねえからさ。分かるよな、エエ?」
「ハイ、分かります」
小男は震えながら言った。そして担いだアリカの体を下ろした。俺はアリカに近付き、彼女に施された拘束を解いてやった。逃げ出そうとした小男は、彼方くんが放ったビームによって打ち倒された。バカが、誰が逃げていいと言った。
「大丈夫か、アリカ? どっか怪我してなグワーッ!?」
腕の拘束を解いた途端、殴られた。まったく、活きのいいお嬢様だ。暴れる彼女をなだめつつ、猿轡と目隠しを解いてやる。振り回される腕が、止まった。
「えっ……こ、これどうなってるの? あ、あいつらは?」
「お前の下でノビてるよ。ったく、俺たちに喧嘩を売った報いってやつだ」
「た、助けてくれたの……? そ、その、私の、ために……?」
まあ、そういうことになるか。俺はアリカを助け起こしてやった。みんな、彼女の無事を喜んでいるようだった。彼方くんもはにかんだ笑みを彼女に向けた。
「うぇっ、あっ、その……た、助けてくれて、その、あり……」
「! 待ってください、誰か来ます。さっきの連中のお友達みたいですけど……」
まあ、これだけ騒げば何事かと駆けつけて来るのも当たり前だろう。さて、ここにいたら捕まるだろう。だが、これ以上この女の子に構っていてもいいものだろうか?
「……っし! 善は急げ、さっさとここから逃げようぜ! お前ら!」
まあ、言うまでもない。毒を食らわば皿まで、と言うが最後まで付き合ってやろうではないか。俺はエリンに指示を出した。彼女の言う霊園がどこにあるのか調べてもらった。
「住宅街を抜けていけば近いですよ、シドウさん! 行くんなら急ぎましょう、彼らがもうかなり近くまで来ているみたいですからね!」
「えっ、ええ!? で、でも、そんなの危ないですよ!?」
「危険が何だってんだよ! 火事と祭りは江戸の華、ってな!
ここまで思わせぶりなことしてくれたんだ、俺たちにも最後まで見せてくれたっていいんじゃねえのか?」
俺は走り出した。エリンの指示した方向に向かって。彼方くんが手を差し出した。アリカはその小さな手を取った。二人は駆け落ちめいて走り出した。自然と笑っていた。
「何笑ってんのよ、デカ人間! あんたはもう、さっきからグチャグチャと……」
「はっはっ! 悪い悪い! なんかここまで来ると面白くなっちまってな!」
さて、この後俺たちにどんなことが待っているのだろうか?
俺の世界の常識に照らし合わせれば未成年略取、ということになるのだろうか? この世界の常識がどんなものかは知らないが、しかし何らかの罪問われることは間違いないだろう。
まあいいさ。関わってしまったんだから。
それなら最後まで行くのが責任ってやつだ。




