表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
最弱英雄、降臨す
4/187

閑話休題:男と女とゴブリンと

「ふぅむ、困りましたね。

 ここはいったいどこなのでしょうか……?」


 辺りを見回し、男はつぶやいた。丈の長いダスターコートを身に纏い、その下にはサスペンダーで吊るされた長ズボンとシャツ。取り立てて特徴のない姿だ。

 男は顔を振った。丸いサングラスが彼の動きに合わせて光を反射させる。耳を隠すほど長い栗色の髪が風に凪いだ。それほど珍しいことではない。


 だが、彼は腰に大小二本の刀を帯びていた。飾り気のない日本刀だ。


「参りましたねえ。

 さっさと帰って、依頼料を全額突っ込んで来ないといけないのに」


 はぁ、とため息を吐き、顔を落とした。しかし、彼はすぐに気配を感じ身を起こす。刀の柄に手をかけ、じっと当たりの様子を伺った。藪が動いた。


「お前は……クロード? 貴様が、なぜこんなところにいる?」


 藪の中から現れたのは、女性だった。

 流れるような銀の髪、端正な顔立ちと白い肌、燃えるような赤い瞳。それ以外はすべて黒で覆われていた。ナイロンめいた素材のロングコートも、女物のスーツとパンツも、被っている丸帽子も、すべてが黒だ。

 スーツの下のシャツも黒、ネクタイも赤と黒のチェック柄という徹底ぶりだ。クロードと呼ばれた男と同じように、彼女も丸いサングラスを着けていた。


「いやぁ、僕はよく分からないうちにここに来てしまいましてね。

 あなたはどうです?」

「……私も、なぜ私がここにいるかは判然としないな」


 そう言って、彼女は手を下ろした。

 その手に握られているのは、無骨なリボルバー。


「これが貴様の策略でないというのなら、いったいどういうことだ?」

「あのぅ、トリシャさん。僕はあなたの目から見て友人を罠に嵌めるような男だと?」


 トリシャと呼ばれた女は鼻を鳴らした。自分で考えろ、とでも言いたげだ。


「少なくとも、ここは火星(マーズ)ではないようだな。地下世界でもなければ、だが」

「センター・オブ・ジ・アースってわけですか? ちょっと古典的過ぎるネタですね」


 クロードは困ったように苦笑するが、しかしその目を突然細める。


「……トリシャさん、気を付けてください。何かがここにいます」

「何か、って……そりゃあ、何かはいるだろう。森なんだから、さ」


 クロードは答えることなく、腕を一閃させた。

 次の瞬間、彼の手には抜き放たれた刀が握られていた。濡れたような、と例えられる、青白い刀身。工芸品めいた美しさ。

 クロードはそれを薙ぎし、飛びかかって来た緑色の生物を切り払った。


「……なんだ、そいつは。生物兵器か何かか……!?」


 トリシャは狼狽えた。

 そんな彼女に、クロードは冷静な声を投げかけた。


「さあ、何かは分かりませんが。

 しかし、退屈はしなさそうだということは分かります」

 

 刀を構え、二人を包囲したゴブリンを待ち構える。

 刀身には傷一つついていなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ