閑話休題:悪党たちの決起
「グラーディがやられたようだな」
「所詮奴はこの世界の魔術師。我らの末席にも届かぬ雑兵。実際羽虫と同じ存在」
薄暗い石室の中に、数名の男女がいた。
ランタンに照らされた室内は死角が多い。
「ドースキンでの件といい、今回といい。邪魔立てするものは意外にも多い」
その中で最も位階が高いと思われる老人は、革張りの椅子に座り、高価な毛皮のコートに身を纏い、王冠めいたサークレットを被っていた。全身に刻まれた皺は、彼の年齢が恐らく五十は下回らないであろうことを物語っていた。だが緩くウェーブのかかった、歳不相応に長く、そして多い髪の毛が、彼の外見年齢を押し下げていた。
「『王』よ。ご安心召されよ。我らの痕跡は残らず消え去っている故」
その男はこの部屋にいながら、誰にもその気配さえ感じさせることはなかった。いかに頼りない明かりに照らされた部屋であったとしても、それは異様なことだった。
「準備も滞りなく進んでおる。懸案事項など、何も存在はせぬよ」
その言葉を発した老人は、『王』と呼ばれた男よりも歳をとっていた。薄汚れた白衣の下にはこれまた薄汚れたシャツ、擦り切れたジーンズ。まばらな白髪は、『王』の外見とは対照的に、老人の年齢を何倍にも上に見せていた。
「間もなくであります故、『王』よ。あなたの理想は間もなく達せられるでしょう」
「この世界には無駄なものが多すぎる。そしてそれを下民は理解していない」
『王』と呼ばれた男は頬杖を突き、右手を振るった。
闇の中から一人の男が現れる。
「ドースキンでの回収任務は滞りなく。彼らは新たなあなたの指となるでしょう」
「『十二人』。これで揃ったということか。僥倖なり」
『王』は闇の中で薄く笑った。相対する男も、同じように薄く笑った。目の前の『王』よりも遥かに下位であるにも関わらず、その男は笑っていたのだ。
「聖遺物探索行は遅々として進まぬが、いいだろう。これだけの数の《エクスグラスパー》、これだけの数の武器弾薬、これだけの数の構成員。これが揃えばいいのだ」
『王』は立ち上がった。闇の中からいくつもの影が現れる。近代的な服を身に着けたもの、ニンジャ、ヒッピー、巨漢。『王』は彼らを睥睨し、そして高らかに宣言した。
「これより我が世界は来たれり! 腐敗し、停滞した現行体制を打破し、我々が真の世界を作り上げる! 叫べ、我らの名を! 我らは『真天十字会』なりッ!」
室内が熱狂に包まれた。
学生服の少年は、それを冷ややかに見つめていた。




