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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
決戦! すべての人の戦い
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化け物の求めたもの

 グランベルク城からも見下ろすことが出来たが、しかし凄まじい数、そして力だ。

 並の騎士たちがここに突っ込んできたとして、果たして一分生存出来るかどうか。

 幸いにモエンズとドラゴンは互いに殺し合っている、こちらには目もくれていない。


「作戦を確認します。

 ご丁寧にも正門からまっすぐ進んだところに、ゲートらしきものがあります。僕たちはここへ突入、内部に潜入します。そして最上階に設置されていると思しき何らかの装置を操作、この状況を終了させます。ここまでで何か質問は?」

「この世界の法則を操っている装置と言うのは、どういうものか分かっているのか?」

「いえ。ですがコンソールのようなものだとは聞いています。

 一際大きなジェネレーターと接続されているとも。

 それだけの情報があれば、きっと探し出せるでしょう」


 ウィラの奴、適当な情報寄越しやがって。

 と、彼女を責めることは出来ない。

 彼女は孤独に飲まれる寸前、クロードさんに助けを求めたのだ。

 完全であるはずがない。


 エンズとドラゴンの何体かが俺たちの方に気付き、邪魔ものを排除しようとして来る。今回の主役は俺たちだ、端役はどこかに行っていろ。そう主張しているようだった。


 ふざけんじゃねえ。お前たちが作った世界だろうが、お前たちが滅ぼそうとしている世界だろうが、俺たちだってそこで生きているんだ。そこで生きている以上、俺たちだって主役だ。この世界を救うために、俺たちが何かを出来ないはずなどない!


 俺はカードを、信さんはシルバーキーを、クロードさんは蒼天回廊を抜く。

 《スタードライバー》にはすでに青い宝石がセットされており、装着と同時にけたたましいパーカッションの音が鳴った。それを聞き、エンズとドラゴンが怯んだ。


「「変身!」」


 俺と信さんの声が重なり合い、同時に全身が光に包まれた。

 そして同時に姿を現す。


 十二神器と融合し、得た力。俺の最強の力、セイヴァーフォーム!

 神の力を十全に引き出したるフルアームズリンク!


 クロードさんは蒼天回廊の切っ先を敵に向け、そして小さく言った。


「それでは、始めましょう皆さん。これより我々は死地へと入ります」

「っしゃあ! 行くぜ、信さん! 俺たちの力で、世界を救ってみせましょう!」

「ふっ、遅れるなよシドウ。世界の一つや二つ、救い出して見せるさ――!」


 俺たちはエンズとブラックドラゴンの間をすり抜け、駆けた。

 背後で二つが爆発四散。

 エンズとなっていた男は変身が解除されるとともに闇に囚われ、ここから消えた。

 信さんから聞いていた、新型ドライバーシステムの欠陥。

 許せ。


 俺たちが乱入したことに両勢力も気付いたようだが、しかしそう簡単に始まってしまった戦いを止めることは出来ない。最大の敵といま互いに戦っている最中なのだから。だからこそ俺たちはその隙を縫って、悠々と進軍していくことが出来る!


「塔の最上階から入ることとか出来ないんすかね!?

 このダンジョンを一から攻めていくのは、ちょっとタルいと思うんですけど!?」


 敵をいなしながら、俺たちは進む。

 数の差は圧倒的、まともに相手にしていたのではいくら時間があっても足りない。

 それぞれをそれぞれの敵に任せ、俺たちは先に進んだ。


「屋上に入り口はないでしょう。癪ですが相手の手の内に乗るしかないない」


 流れるような動作でドライバーを破壊し、ドラゴンを殺害しながらクロードさんは進んだ。信さんも信さんで、変幻自在な軌道を取り巧みに攻撃を避けながら進んで行く。


 俺たちが途中から現れたイレギュラーである、ということも理由の一つだろうが、比較的あっさりと俺たちは塔の入り口まで到達することが出来た。あとは、進むだけ――


 そこで俺は、見た。この戦場には不釣り合いな男を。

 学生服を纏った、銀髪の少年。

 彼は人懐っこい笑みを浮かべ、人波の中にいる俺に手を振って来た。

 そうだと、分かった。


「二人とも、防御して下さい! あいつが、三石明良が来ます!」


 俺とクロードさんは防御を固めた。信さんは奴のことを知らないが、俺の声色から切羽詰まった感じは受け取ってくれたようだ。すぐさま防御態勢を固める。

 それと同時に、三石が増えた。奴の持つ能力、『不吉に踊る影(メニィメニィ・ブラックキャット)』!


 三石の軍団は一気に百ほどまで増えた。奴はエンズやブラックドラゴンを無造作に蹂躙しながら、俺たちの方に近付いて来る。だが、遠巻きに見ている分俺たちには対処するだけの時間があった。真さんはグリップを二度ポンプしベータモードを発動、クロードさんは蒼天回廊を構え直し、カウンタースタイルである地の構えを取った。


 そして俺も念じる。これだけ大量の敵を相手にするのならば……これだ!


『アルテミス!』『ポセイドン!』『デメテール!』


 俺の手の中に弓が現れた。弦を引くと水の矢が現れる。

 俺はそれを天に向け、放った。

 『ポセイドンの海槍』は海神ポセイドンの名が示す通り水を操る力を持っている。

 そして『デメテールの杖』は力の増幅装置だ。

 打ち出せばこんなことも出来る!


 上空に打ち上げた矢は風船のように膨張し、そして破裂した。

 天を埋め尽くすほどの水の矢が、一斉に大地に降って来た。

 エンズもブラックドラゴンも、そして幻影の三石も何も区別せず撃ち抜いて行く。

 それでも何割かの三石は残り、攻撃を続けて来る。


 大丈夫。幻影の三石の身体能力はそれほど強くない。あまりにも強すぎる力を、神の力がコピーし切れていないのだろう。自分がそうなったから分かる、あまりにもバカバカしい力だ。残った三石を叩き伏せ、撃ち抜き、切り払い、俺たちは本体の前に進んだ。


 そこにいたのは、あの時とまるで変わっていない三石明良だった。

 纏った学生服にはほつれの一つさえなく、露出した部分には傷一つない。

 あの時と同じように、ひどく感情を読み辛い瞳を俺たちに向けて来る。

 俺は、バックルからカードを抜いた。


「シドウ、何をやっている! こいつは敵だろう、進まなければ!」

「進まなくちゃならないのは分かってます。けど、先に行ってください」


 いまこの場にいるのは俺たちと三石だけ。エンズとブラックドラゴンは空いた隙間を埋めようとして来るが、それでも時間はかかるだろう。突入するにはいましかない。


「……分かりました、シドウくん。ですが、気を付けてくださいね」

「必ず追いつけ、シドウ! 必ずだぞッ!」


 信さんとクロードさんは三石の両脇を通り、『黄昏の塔』へと向かって行く。

 扉に手を触れたクロードさんの体が青く光り、自動ドアが開いた。

 二人はそれを通って『黄昏の塔』の内部へと消えて行った。


 それでも、三石は動かなかった。


「決着をつけるためにここに来た。そう考えてもいいのか、三石?」

「アハッ。やっぱりシドウくん、分かってたのか。ありがとう、僕の友達」


 何が『分かってたのか』、だ。

 こんなものが分からない人間がいるものか。

 おあつらえ向きなシチュエーション、何かの罠かと勘繰ってしまうほどだ。


「分からなかったよ、三石。俺にはお前が分からなかった。

 前の俺だったら、何かの罠があるかもしれないと警戒したかもしれない。

 でも、いまなら分かる気がするんだ」


 瞬間、世界の時間が制止したかのようにすべての音が消え去った。

 この世界にいま存在しているのは、俺と三石だけなのではないか?

 そう思ってしまうほどに静かだった。


「そうだね。

 前のキミだったら全員でボコボコにしてさっさと先に行こうとしてたかも。

 キミってキレやすくて、それでいて合理的だからね。参っちゃうよ」

「そうだな。お前の相手をしないで全員でボコってはいさようなら、ってするのが正しいのかもしれない。けど、俺とお前の決着に、それは相応しくないだろう」


 思えば遠くに来てしまったものだ。

 こいつは何一つ、関係がないのだが。


「この世界に来て、いろいろなものを見た。

 一度死んで生き返って、そしてもう一度死んで生き返って。

 色々な人と会って、別れて。

 分かったことが一つだけある」


 俺は三石の目を真っ直ぐ見て、そして言った。


「お前は化け物だ。

 人間の心を持たず、人間を凌駕する力をもって……

 だからこそ、お前は人間というものが知りたかった。

 だからこそ、あんなことを続けて来たんだ」


 人間を知りたい。そう願う怪物と俺は会った。

 オオムラ家所領に救っていたナイトメア。

 あの怪物は、言っていた。

 どうしてこんなことになったのか、知りたいと。


 その姿は三石のそれと酷似しているように見えた。

 人の形をして、しかし人ではない存在。

 だからこそ、彼は知りたいと願ったのだ。

 人間というものの持つ感情を。


「……そうだね。僕は知りたかった。

 どうしてそんなことを思ったのか。どうしようとしているのか。

 僕にはキミたちが当たり前に持っている感情が、分からなかった。

 おかしいでしょう? キミたちと同じ姿をしているのに、分からないなんて」


 バカか、こいつは。いきなり何てことを言い出すんだ?


「人の心なんて他人に分かるわけがねえだろうが。むしろ分かったら怖すぎんだろ」

「ああ、ごめんシドウくん。そういうことじゃないんだ。

 ただ僕には分からないんだ。感情っていうのがどういうものなのか。

 楽しい、喜ばしい、悲しい、苦しい。そういうものが理解出来ない。

 僕にとってはどんなものもフラットだったから、さ」


 それが真実かどうか、俺には判断する術がない。

 だが、この化け物がここまで自分のことをさらけ出したのは初めてだ。

 ならば、それは本当のことなんだろう。


「知りたかったんだ。人がどんなことを考えて、どんなことを思っているのか。色んなものを考えて、色々なことを思って、生きているっていうのはどういうものか知りたかったんだ。だから僕は、聞いて来た。それしか理解する方法がなかったから」


 そこまで言って、三石は寂しげな表情をした。

 こんな顔は見たことがなかった。


「でも、誰も教えてくれなかったよ。きっとそれは僕が悪いんだろう。僕のせいでみんな死んだ。色々なことを聞いて、奥底まで入り込んで、きっと彼らは『心』を傷つけられたんだろう。でも、分からなかった。だから僕は次から次へと聞いて回ったんだ」


 知りたかったと願った。

 それは罪だろうか。


 きっと罪だ。その結末を考えれば。


「そんな中で、キミが現れた。

 キミは、折れなかった。

 色々なことを聞いても。

 色々な死に立ち会っても。

 キミ自身が死ぬことになっても。

 だから僕はキミに興味を持った。

 キミならば僕にきっと教えてくれる。

 キミならばきっと友達になれる、そう思った」

「友達は何かをくれるもんじゃねえ。それにな、三石」


 俺は三石の目を真っ直ぐ見返し、言った。

 いままでならきっと言わなかった。


「もし俺に興味を持ったってんなら。それがお前の感情なんじゃねえのか?」


 今度こそ、三石は意外そうな顔をした。

 その言葉の意味を反芻し、そして微笑んだ。


「……うん、そうだねシドウくん。

 全然気が付かなかった。そうだよ、きっとそうだ」


 それは、いままで見た三石の、どんな表情よりも自然なものだった。


「キミが落ちて行く時、浮かべていた顔の意味をずっと考えていた。

 この世界でキミと再会した時、飛び上がるほど嬉しかった。

 キミが僕の敵になってくれてよかった。

 だってキミは、僕と対峙する時にだけ色々なことを教えてくれるから」


 三石は滔々と語る。

 そこにどんな意味があるか分からない。けれども俺は聞いた。


「そしてあの日、キミが消えるのを見た。

 その時、僕はあの時キミの顔を見て感じたことをの意味が分かった。

 『喪失感』だ。またキミと会えなくなると知って悲しくなった」


 きっと、ずっと前から分かっていたのだ。

 けれども、この怪物には分かったということが分からなかった。

 いままで、何も感じて来なかったのだから。


「いまだから言える。

 ごめんね、シドウくん。

 キミが死ぬ原因を僕は作ってしまった」

「お前がやったんじゃなくても、俺はああやっただろうさ」


「そうだよね。キミはそう言う人だ。

 そして、僕は二度と人を殺さない。

 こんな気持ちを抱く人が他にもいるって分かった。

 だから、僕はもう人を殺せない」


 見れば、ふっ飛ばされたエンズは最低限自己崩壊を起こさない程度にダメージを押さえられていた。ブラックドラゴンの方はここから消滅していたが。


「……お前にそれが分かったってんなら、それはきっと喜ばしいことだろうな」


 俺はもう一度、カードを構えた。

 三石も、戦闘の構えを取った。


「だがなあ、三石。

 お前がどれだけ変わろうと。

 お前がどれだけ後悔しようと。

 お前のやって来たことは消えはしない。

 償うか、報いを受けるか。二つに一つだぜ」

「報いを受けずに、のうのうと生きている人間はいる。

 けどそれをキミは許さない」


 三石の影がぶれる。

 そして、大量の三石明良がそこに出現した。


「ならば答えは一つだけだ。

 与えられるものなら与えてくれ、シドウくん。報いを」

「与えてやるよ。お前に報いを。すべての魂に詫びを入れろ、三石ィィィッ!」


 俺は吠え、駆け出す。

 それと同時に、すべての三石も動き出した!


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