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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
決戦! すべての人の戦い
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銀月神

 桟橋上で二つの力が激突する。

 一つはシルバスタ・フルアームズリンク。

 そしてもう一つはセラフィム・バーストフォーム。

 ぶつかり合い、シルバスタが弾き出された。


 セラフィムは全身の継ぎ目から深紅の炎を迸らせている。

 眼孔部の色もいままでとは違い、血のように深い赤に染まっている。

 変わった、それが一目で分かる。


「決着をつけようじゃあないか。カウラント島でつけられなかった決着をね!」

「つけていいのか、あんた? これが終わって、死ぬのはお前の方だ」


 ソロンは叫び腕を真一郎に向かって伸ばした。そして腕が、文字通り伸びた。

 正確には腕全体が深紅の炎に包み込まれ、そして膨れ上がった。爆発的な勢いで膨れ上がった腕はすべてを飲み込むドラゴンの如く真一郎に向かって突き進んで行く!


 真一郎はブースターを起動し浮遊、ソロンの周りを旋回しながらウルブズパックを放った。高エネルギー弾がいくつもソロンに向かって行くが、しかしそれは彼を包み込む新区の炎によって飲み込まれ、消える。見掛け倒しではなく物質的、魔力的エネルギーを持っている炎なのだ。ちまちまとした遠隔攻撃では埒が明かない。


 真一郎はフォトンレイバーとウルブズパックをホルスターに戻した。迫り来る炎竜を急上昇で避け、追いすがる竜を急降下で置き去りにし、ソロンに迫る!


「ヌゥーッ! 接近戦で勝負をつけようというのかね!? しかし無駄だ!」


 真一郎は空中で身を翻し、ソロンが放った火炎弾を回避。ブースターの出力は弱めず、急降下キックをソロンに向かって繰り出した。ソロンはバックジャンプでそれを回避、真一郎の着地点には巨大なクレーターが穿たれた。鋼鉄を抉るシルバスタの力!


 降り立った真一郎は、ソロンとのインファイトに移る。

 ソロンが念じると炎竜が消え去り、元の腕がそこに現れた。


 ソロンは真一郎が繰り出した大振りのストレートパンチをスウェーで回避、無防備な真一郎の腹に連続パンチを繰り出した。だがそれは、左のワイルドガードですべてが受け止められる。拳圧が衝撃波となりさざ波を作った。


「何てスピード、何てパワーだ……

 これが本気の、本当のソノザキの力なのか……!」


 その様子を遠目から伺っていたクラウスは、目で捉えることすら出来ない攻防を見て戦慄した。真一郎も、ソロンも、自分たちの前では本気の一部さえも見せていなかったのである。あの中にフォースが飛び込んで行っても、何も出来ぬ内に敗退するだろう。


「いかがいたしますか、クラウス様。我々も団長を助けるべきでは……!?」

「いや、無理だろう。それよりも本島に渡る手段を探せ。主戦場はあちらだ」


 悔しいが自分たちに介入出来ることは何もない。クラウスは歯噛みした。

 地獄の戦争を勝ち抜き、フォースを手にして、少しは強くなった気でいた。

 だが、何も変わらない。

 己の無力さゆえに、愛する女性を亡くしたあの日から、何も変わっていなかった。


 真一郎はソロンの連撃を受け流し、喧嘩キックめいたタメの少ない前蹴りを繰り出した。だが蹴りは虚しく虚空を蹴った。正確に言うならば、炎の尾を。炎に包まれたソロンは軌跡を残しながら真一郎の背後に回り、その頸椎に致命的な一撃を繰り出す。


 信一郎は咄嗟に両手を背中に回し殺人チョップを防御。だが凄まじい衝撃が両手に走った。ソロン=アーミティッジ、セラフィムは強敵だ。ブラックホールに匹敵するエネルギー量、そして全身から漏れ出す霊的な炎。機動力に関してはこちらが確実に上だ。


「ハッハッハァーッ! どうした、園崎! 貴様の力はその程度かーッ!?」

「はしゃぎ過ぎだぞ、阿呆が。そんなに見たいなら見せてやる……!」


 ウルブズパックを抜き、グリップを一回ポンプ。

 高火力遠距離狙撃形態、アルファモードが発動。ブースターを作動させ空中に浮遊、距離を取りながら真一郎はトリガーを引いた。本体部分を狙った射撃は的中、ソロンの甲冑から眩い火花が上がった。


「ヌゥーッ! だがこれならどうだ、ソノザキ!」


 ソロンは気合を込めた。

 すると、彼の体全体が巨大な火球へと変わった。

 真一郎もこんな相手と戦ったことはない。

 だが、構わずトリガーを引く。

 炎に穴が穿たれるが、しかしこれがダメージを与えているのかは分からなかった。


 生ける炎がジグザグの軌跡を取りながら真一郎に向かって接近してくる! 真一郎はソロンを迎撃せんと銃弾を何度も放つが、しかしソロンの動きは速く、満足に弾を当てることが出来ない。眼前まで迫ったソロン、真一郎は反射的にトリガーを引くが、ソロンは彼を飛び越え、背後に回って来た。背中に激しい衝撃。


 人型を取り戻したソロンが背中から蹴りを放ったのだ。

 隕石のような勢いで真一郎は桟橋に叩きつけられた。

 ソロンもそれを追って桟橋の上に降り立つ。


「いい姿だなー、んー? このまま戦いを続ければ、死ぬのはどっちだったかなー?」


 真一郎は膝立ちになって立ち上がり、ソロンの方を見た。

 その目は死んでいない。


「言っただろう、このまま続ければお前が死ぬ。それに変更点は一切、ない!」


 ソロンは嘲るように笑った。だが、途中で目を剥いた。

 真一郎は桟橋に剣を突き立てている。ソロンが動こうとしたが、その瞬間真一郎はトリガーを引いた。『FULL BLAST!』、やかましい機械音と共に剣にエネルギーが収束、桟橋を爆発させた。


「この私を水に沈めようとでも言うのか、園崎! それで私が死ぬとでも!?」


 ソロンはそう言ったが、すぐにそうではないことに気付いた。

 フォトンレイバーでの攻撃でそんな器用なことが出来るはずはない。

 だが、彼の足元だけは崩れていなかった。


「『修復(リペア)』」


 更に、不思議なことが起こった。ソロンが落ちたその直後、桟橋は何事もなかったかのように元の姿を取り戻したのだ。これこそが真一郎が得た能力、『修復』の威力!


 ソロンは湖に突き落とされた。だが彼にとってその程度のことは問題にならない。

 熱蒸気で視界は塞がれるが、それがどうした?

 桟橋の影から飛び出し、ソロンは真一郎の方を見た。


(貴様と私との間に横たわる断絶を思い知らせてやろう!)


 そう思ったが、真一郎は既に桟橋上にはいなかった。

 その代わり、上空にいた。


『CONECTER ON! SILVER CRESCENT!』


 裂空砲ウルブズパックと光子剣フォトンレイバーとが結合し、一本の巨大銃剣シルバークレッセントを形作る。真一郎はその切っ先を水底のソロンに向けた。


 彼が今どこにいるかは、彼自身が教えてくれる。

 彼が絶え間なく放出する水蒸気によって。


「ケリをつけてやる、ソロン。それが貴様の望みだと言うのならばな」


 真一郎は三回グリップを引いた。

 シルバークレッセント、オメガモード。

 砲口に凄まじいエネルギーが収束する。


 だが、真一郎はそれで終わらせない。

 シルバーキーを引き抜き、シルバーウルフに挿入、捻った。

 『OVER BLAST! OMEGA BURST!』。

 天に輝く眩い銀月、それがいまの園崎真一郎だった。


 ソロンは絶叫を上げながら飛び上がる。

 その姿を冷静に見据え、真一郎はトリガーを引いた。

 光の渦にソロンが飲み込まれる。それでもソロンは諦めず突き進む。


「なぜだァ……なぜ、なぜ!? 俺は最新型なのに! 支配者なのに! なぜ!」

「どうして俺に勝てないかって?

 当たり前だろうが。勝つことしか許されないなら!」


 真一郎は強くトリガーを引き絞る!

 光が収束して行き、ソロンを焼く。


「どこがおかしい! 支配者が勝つことが!

 勝つことこそが存在証明! 勝利者こそが支配者!

 それが世界の掟だ、そこに背を向ける貴様はただの負け犬だァーッ!」

「違う、そうじゃない!

 負けるからこそ己の弱さを知り、それを変えることが出来る!

 敗北を知らない人間に、敗北から這い上がった奴に勝つことなんて出来やしない!」


 ソロンの手が真一郎に伸びる。

 だがその指先は光の粒子に還元され、この世界から永遠に消えようとしている。

 その指先は、かすかに震えていた。


「お前は負けないわけじゃない。負けられないだけだ。

 《ダークドライバー》システムを応用して作り出したその力。

 負けたものは神への供物として捧げられるだけだ」

「皮肉な話だな……神の下についたってのに、神の下に召されちまうとは……!」


 ソロンは最後に、少しだけ笑った。

 少なくとも、真一郎にはそう見えた。


「だがお前はあの男に勝つことは出来ない。全世界の支配者たる、あの男にはな」

「それでも食らいついてやるさ。この命が続く限り。それが俺に科せられた使命だ」


 ソロンは消え行く手をギュッと握った。

 彼の存在は、ドライバーごと消滅した。


 油断ならぬ強敵であった。シルバスタの力がなければ、《エクスグラスパー》の力がなければ、このフィールドでなかったら、果たして勝つことは出来ただろうか? 薄氷の上を進むような勝利だったが、しかし勝つことは出来た。次へと進むことは出来る。


 真一郎は眼下を見下ろした。クラウス=フローレインとその部下が桟橋を通り、城へと向かっている。その歩みは慎重だ、もうしばらく時間はかかるだろう。

 オメガモード・フルブラストによるダメージを受けたシルバークレッセントを『修復』し、真一郎は城塞へと向かって行った。すでにターレットは落ちているが、先ほどあそこでも戦闘があったようだった。それも、かなり激しいものが。場合によっては増援が必要だろう。


 真一郎が機首を向けた時、一際巨大な爆発があった。

 《フォースドライバー》爆発四散の際の反応ではない。

 ということは、やったか?


 それでも楽観視は出来ない。

 もしそうであるならば、エネルギーを使い切って勝利を得た可能性もあるからだ。


 真一郎は一気に加速、城塞を飛び越えグランベルク城の敷地内に侵入した。

 見下ろすと、そこでは大村やハヤテたちがフォースに包囲されていた。

 すでに彼らの体からは力が失せている。

 真一郎の予想通り、すべてのエネルギーを使い切って勝利したのだ。


 真一郎は上空でシルバークレッセントのグリップを二度ポンプ、ベータモードを発動させると、眼下の包囲騎士目掛けて制圧射撃を行った。上空から降り注いだ高エネルギー弾頭をまともに食らい、騎士たちはほとんど抵抗出来ずに爆発四散した。


 呆気にとられる大村たちの前に、真一郎は降り立った。ヒーローのように。


「ボーっとしている場合じゃないぞ。

 桟橋から次が来る。そっちの対応をしないとな」


 大村は一度聞き返したが、すぐに何を言われているのか理解したようだった。


「ハヤテ、ニンジャどもに桟橋を上げさせろ! 多少時間は稼げるだろう!

 園崎、お前は城に向かえ!

 あいつらだけじゃ手に負えねえかもしれねえからな!」

「分かった。頼んだぞ、大村。ハヤテ。俺は少し――世界を救ってくる」


 真一郎はグランベルク城に向けて飛んだ。

 白煙を引き飛ぶ影を、誰もが見た。


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