闇を滅せよ希望の光
しばらくすると、エリンもエルヴァも立ち上がって来た。みんなに集めて来た服を着せる間、俺も立ち上がり、体の具合を確かめた。数秒前までは立ち上がるのも辛いくらい体中が痛かったが、とりあえず動けるくらいには回復している。もしかして俺に与えられた能力は変身ではなく不老不死か再生能力なのかと思ってしまうくらいだ。
俺たちは歩き出した。しばらくして、クロードさんたちもやってきた。彼らも無傷ではなかった。広い部屋の、だいたい中央辺りで、俺たちは合流した。
「シドウくん、その様子ではどうやら、どうにかなったようですね?」
「ええ。グラーディはぶっ倒した。みんな無傷です」
クロードさんは俺に向かって微笑んだ。トリシャさんも尾上さんも、まんざらではなさそうだ。俺はエリンたちに向き直った。リンドとエルヴァは、ぎこちない態度だった。
「姉さん。ボクたちは、これでもう自由なんだよ」
「自由になって、それで、どうするのです?
ここを出ても、私たちは……」
「それを決めるのはキミじゃない。キミがこれから旅立つ世界の方だ」
そう言って、俺はリンドの頭を撫でた。エリンのそれと同じく、いつまでも触っていたくなるような柔らかい髪。リンドはくすぐったそうな顔をするが、特に嫌がりはしない。
「世界は広い。記憶がなくたって、そんなの関係あるかよ。
どこにも居場所がないなんて、そんなことはないさ。
俺たちと一緒に行こう。自分の居場所を見つけようぜ?」
「でも……それでも、私を受け入れてくれる場所がなかったのならば……」
「見つかるさ。見つかんなかったとしたら、俺が責任取るさ」
リンドは驚き、顔を上げた。
「片道切符の異世界旅行、目的も居場所もないのは俺も一緒だ。
こんな俺じゃ頼りないかもしれないけど、でも責任もって、お前たちがいられる場所を探し出して見せるさ」
言っていて思ったが、なんて無責任なセリフだ。
こんな言葉で納得してくれるほど愚かな少女ではないだろうに。けれどもリンドは、ゆっくりと頷いてくれた。
「さて、行きましょうシドウくん。それに、皆さんも。
長居したい場所ではありません」
「あたしたちが、ついて行っていいのか……?」
「事情はよく分かりませんが、あなたもグラーディの被害者であることに間違いはないようですからね。親の責任を子に押し付けるような真似はしたくありませんので」
クロードさんはそう言って笑った。甘いな、とでも言うようにトリシャさんが大きなため息を吐いた。エルヴァも、ぎこちなく俺たちの言葉に頷いてくれた。
「それはともかく、早く行くよ。
ここを包囲している軍勢もまだ全部片付けてないし」
「えっ、じゃあどうやってあの群れの中を突破して来たんですか?」
「取り敢えず、目の前の邪魔な連中だけを排除して無理やり抜けて来た。
シドウ、お前がやったのと同じだが、こっちの方が人数が多かったんでな。
簡単に済んだ」
俺のことを責めるような視線をトリシャさんは向けて来た。まあ、当たり前か。俺が無理矢理突破したせいで、残りをみんなに押し付けることになってしまったし。
「ま、まあとにかく行きましょうよみんな!
グラーディがいなくなったんだ、きっと表のゴブリンどもも、どっかに逃げて行ってるでしょ! なぁ!」
「そ、そうですね。《ナイトメアの軍勢》を操っていたのはグラーディですし……」
俺は無理やり話しの流れを変えようとした。
エリンもそれに乗ってくれたので、助かった。
やれやれ、と首を振るい、トリシャさんもとりあえず話を続ける気はなくなったようだ。助かった。あとはここを脱出して、一旦村に戻るだけだ。
「ああ、ところでシドウくん。彼が持っていた銀色の杖なんだけど……」
「ああ、これのことですか? 俺がぶっ壊しちまったんですけど……」
そう言って、俺は銀色の杖を掲げた。グラーディの武器、すなわち拳大の魔法石は、俺が破壊した。移動中に尾上さんから聞いたことだが、地水火風大自然のエネルギーを内包した鉱石がこの世界には存在するという。
そして、それを解放する使い手こそが魔術師なのだ。魔術師はこの世に存在する万物を、おとぎ話のように操ることは出来ない。ただ、魔法石に込められた力を発現させる術を持っているだけだ。そのため、魔法石さえ砕けば魔術師は常人と変わらない。ただ単に、少し頭がいい人間に過ぎないのだ。
「そうか、キミが破壊したか……それほど大きな魔法石、珍しいんだがなぁ……」
「あ、もしかして壊しちまったらマズかったですか? だったら、すいません……」
「ああ、いいんだよシドウくん。キミが必死だったっていうのは分かってるしさ。それに、多分《ナイトメアの軍勢》を操っていたのはその魔法石だろうしね」
俺は驚いた。魔法石の存在は聞いていたが、まさかそんなことが出来るとは。
「出来るかどうかは分からないよ。でも、現状出来る可能性があるのはそれだと思う」
「確かに、グラーディは他に武器とか持ってる様子はなかったですからね」
尾上さんはこめかみのあたりに指を置き、ブツブツと何かをつぶやいた。何かを考えているのだろうか、しかしそれはすぐに終わった。
「いや、いいだろう。それより、そいつを連れて行こうと思うんだが、いいか?」
「さっさとここから離れたほうがいいんじゃなかったのか、尾上?」
トリシャはそういって反論した。
尾上さんは申し訳なさそうに頭を振った。
「ごめん、最初はそのつもりだったけど、この部屋を見て気が変わった」
「あなたもですか。どうにもこの部屋、《エル=ファドレ》っぽくはないですね……」
「《エル=ファドレ》っぽくないっていうか、あまりにSFっぽ過ぎません?」
いや、クロードさんや尾上さんにとっては、SFと言うより現実的なのかもしれないが。いずれにしろ、この世界の技術水準からかけ離れたものであることは間違いない。
「グラーディがどのようにして、この技術を手に入れたのか。気になるね」
グラーディはエリンたちを作り出したと言った。つまりそれは、俺たちの世界で言うところのクローン技術ようなものなのではないのだろうか? 俺たちの世界ですらまだ実現していない技術を、なぜ異世界の魔術師が知っているのだろうか?
「彼は縛って連れていく。済まないけど、少しだけ時間をくれ」
尾上さんはそう言って、部屋の奥に行こうとした。しかし。
「待て……貴様ら……逃がさんぞ……!」
だが、俺たちが近づこうとした寸前、グラーディが立ち上がり怒声を放った。
「諦めなさい、グラーディ。あなたの武器はもう存在しない。
ここが年貢の納め時です」
クロードさんの言葉は、穏やかなものだ。あくまで投降勧告、といった風情だ。
「諦めろ……? 年貢の納め時……? 諦めろと申したか、この私に!」
グラーディは怒り、ローブを脱ぎ捨てた。そこにいたのは、小枝のように細い体の男だった。長年の不養生がたたっているのか、肌は枯れ木のようにしわがれており、頭髪にも脂が足りていないのか艶がない。だが、一番目を引いたのは彼の頭だ。
額から二本の角のようなものが生えており、口の端からは鋭い牙が覗いている。
「グラーディ……まさか、お前はデーモンだったのか……!?」
「左様。私はこの醜い、貴様ら人間とかけ離れた外見のために偏見に晒され、ずっと虐げられてきた! おかしな話よ、私はお前たちと同じ言葉を使い、お前たちと同じように思考をし、お前たちと同じように世界を感じることが出来るというのに!」
グラーディの叫びは、慟哭にも似ていた。
どうしようもない感情の奔流を感じる。
「だから……だからナイトメアを信奉したのか! 自分を虐げた世界に復讐するために」
「おかしいかね! 私を救わぬ世界を滅ぼしてくれる存在はそれしかなかった!」
「そのために、エリンやリンドを、エルヴァを使おうとしたのか! 何のために!」
「決まっているだろう! この世界に『闇』を、ナイトメアを復活させるためだ!」
グラーディは哄笑した。
伝説の『闇』を、ナイトメアを復活させる?
そんなことが本当に出来るのか?
尾上さんの目が、細まったような気がした。
「なるほどね。彼女たち三人は、ナイトメアに捧げる生贄といったところか!」
「なかなか察しがいいな、人間。その通り。ナイトメアはただの人間を食らわぬのだ」
グラーディは懐から一冊の書を取り出した。その表紙は何か大きな力で押し潰されたようにへこんでいた。彼は重い書をぺらぺらとめくり、二の句を探した。
「かつて、この世界の人間は万物を感じ取り、操る力を持っていたという。だが長き戦いの歴史によってその力は失われ、いまはこのような物がなければ世界に干渉することすら敵わぬ。その力を持った者を、ナイトメアはこの世界から食らい尽くしたという」
「万物を操る力……本当の、魔術師の力……?」
「左様! だが、私はその力を、現代に復活させた! だが……だが貴様がァッ!」
グラーディは怒りを帯びた視線を俺に向け、射殺すような勢いで指さした。
「なぜだぁ……なぜ貴様はこんなことをする!? これが我のたった一つの希望であったというのに! 有り得ぬと言っていたことを成し遂げる力が人間にはあると、貴様は言っただろうが!願いを守りたいと言った! ならば我の願いを守って見せよ!」
「こうも言ったと思うがな……手前だけを幸せにするような願いは、絶対にぶっ潰す」
その視線を、その殺意を、俺は全身で受け止めた。
怯んじゃいけない。こんな奴には。
「あんたがどんな人生を歩んできて、どんな苦しみを味わってきたかなんて、俺には分からねえ。どうすればそれだけ、人というものに絶望する事が出来るのか分からねえ。けど、だからこそ、俺はあんたが間違っているって、そう言える!」
「何も分からん人間風情が、我が積年の恨みを、我が悲願を否定するかァーッ!?」
「ああ、分からねえ! 分からねえからこそ、エリンたちの思いを否定するあんたが許せねえんだ! まるっきり同じじゃねえか! あんたを否定してきた人間たちと、いまあんたがやっていることは同じじゃねえか! 自分の思いを成し遂げるために、他人の願いを踏みにじるなんて、そんなのは本末転倒じゃねえかよ!」
俺はグラーディを殴り飛ばすような勢いで、拳を突き出した。
「それになあ……俺はエリンが伸ばした手を取った!
エリンの願うことは、俺の願いだ!
それをあんたが邪魔するってんなら、ぶっ飛ばしてでも止めて見せる!」
「貴様ァーッ! そのような論理矛盾を堂々とォーッ!」
グラーディは喉が張り裂けるほど強く叫んだ。
「それを助けようなどと、無駄なことだ! いずれ死す定めにある!」
「なんだと!?」
グラーディはとんでもないことを言った。ブラフか?
それにしては堂々とし過ぎているし、そもそもそんな嘘をついて、あいつの溜飲が下がる以外の意味があるか?
「我の承認なくして、小さき者たちが生きることは叶わん!
どれほど遅くても三月の間にそれらは死ぬであろう!
貴様の行いは無駄だ! ハハッ、ハッハッハ!」
「手前……言ってんだろうが!
無駄かどうか決めるのは手前じゃねえ!」
全身の血液が沸騰するような感覚。変身は起こらない。
これは、俺自身の怒り!
「手前の思い通りになんてさせてやるかよ!
そんなクソみたいな運命、潰してやる!」
クロードさんが刀の柄に手をかける。
「これ以上邪魔をするというのならば、あなたにはここで
死んでもらうことになります」
「いや、クロードくん。彼をここで殺してもらっちゃ困る。
生きていてもらわないとね」
尾上さんもコートの下のホルスターから拳銃を取り出した。SIGに似たデザイン。
「彼がどのようにして、このような技術を手に入れたのか?
どのようにしてナイトメアを復活させようとしたのか?
そして、どうやって複数の魔導兵装を手に入れたのか?
興味がある。彼にはまだ、生かして聞かなければならないことがいくつもある」
拳銃と刀を向けたグラーディ。
この距離ならば、どんな足掻きをしても死ぬ。
「俺にも聞きてえことがある。どうすれば戻せるか、聞かせてもらうぞ……!」
だがそれでも、グラーディの顔から余裕が消えることはなかった。
「残念だがタイムリミットだよ……!
時間稼ぎに付き合ってくれてありがとう!」
部屋の中の機械音が、突如として大きくなった。まるで、モーターをフル回転させているような音だ。どうなっている、時間稼ぎだと?
グラーディの手には、暗黒色のクリスタルが握られていた。
「なっ……!? 手前、そんなものどこに隠していやがった!?」
「研究者なら人に知られん秘密を一つや二つ、持っているものだぞ!」
「この期に及んで、まだ悪足掻きをしようというのですか、グラーディ!」
クロードさんは叫んだ。グラーディは笑った。グラーディは手に持ったクリスタルを振り上げた。角が尖っており、刺さると痛そうだが、しかし武器に出来そうにはない。
もちろん、グラーディにその気はなかった。なぜなら彼は、自分の胸にそれを突き立てたのだから。鋭利なクリスタルが、グラーディの心臓に突き刺さった。
「お前……!?」
だが、驚くべきはそれからだった。彼の手の中にあった暗黒色のクリスタルが丸で靄のようになり、彼の体に纏わりついたのだ。それはどこを通っていったのか、彼の体に吸収されるかのように、どこかへと消えて行った。
「はっはっは……ハッハッハァッ!
いまこそ、闇の時代は来たれりィーッ!」
グラーディは恍惚の叫びを上げた。俺たちは呆然とそれを見るしかなかった。
グラーディの背後に、暗黒の球体が現れた。暗黒の球体は渦を巻きながら、どんどんと大きくなっていく。部屋全体を飲み込み、やがて俺たちをも飲み込んだ。気が付くと、俺たちの周囲に満点の星々が輝いていた。床材は古ぼけた石畳に変わった。
「繋がった……! ハハッ、ははは! やった、繋がったぞ! この世界と!」
「グラーディ! 手前、いったい何をしやがったんだ!?」
「言ったであろう、かつて滅ぼされた『闇』を顕現させると!
正確に言えば『闇』は滅ぼされたわけではない、異界へと放逐されてしまっただけなのだよ! そして私は異界への扉を開いた! そう、ナイトメアがおわするこの世界への扉をなァーッ!」
グラーディは哄笑した。だが、俺たちはそれを見ていなかった。その後ろを見た。
それは、ぼろぼろのマントを纏った人間大の生物だった。マントの下か二本の足が覗いていることから見ても、恐らくそれは人型なのだろう。だが、その足は黒かった。単純に肌が焼けているとか、色素が強いとか、そういうレベルではない。
漆黒の闇。宵闇よりも暗く、光射さぬ地の底よりもなお暗い。暗黒星の如き漆黒が、そこにはあった。
ゆっくりと、闇を放ちながら人型の怪物はグラーディに近付いて行く。哄笑するグラーディはそのことに気付かない。肩に手を置かれて、やっとそれに気付いた。
グラーディは恍惚の笑みを浮かべ、そしてその体が段々と、闇に呑まれて行った。
「あいつ……! まさか、人を食っていやがるのか……!?」
それが生物で言うところの捕食に当たるかは分からない。だが、怪物が手を触れた肩から徐々にグラーディの体は黒い靄のようなものに呑み込まれて行った。体を完全に闇が覆い尽くしたかと思うと、その黒い靄は怪物の手に向かって収束していった。デーモンの魔術師、グラーディがそこにいた事実は、髪の毛一つすらなくなっていた。
「あれが……伝説に唄われし『闇』……根源の闇、ナイトメア……」
尾上さんの言葉は震えていた。
トリシャさんも、エリンも、リンドも、エルヴァでさえも。怪物が放つ根源的な恐怖によって、彼らの体は震えていた。
だから俺は、エリンの手をぎゅっと握った。エリンの震えが治まった。
「何だかよく分かりませんけど……みんな。倒しましょう、あの怪物を」
「倒すって、正気かいシドウくん!? あれは伝説の『闇』!
この世界の神たる『光』の力を持ってしても、この世界に放逐するので精いっぱいだった怪物だぞ!?」
「そうだ! エリンたちを助けるという当初の目的は達成した!
退避すべきだ!」
尾上さんとトリシャさんは反論するが、しかしクロードさんは納得してくれたようだ。
「逃げるにしても、あの怪物が逃げ道を塞いでしまいましたからね。
とりあえず、あいつを黙らせなければここから脱出することさえ出来ないのではないでしょうか?」
恐らく、機械的なエネルギーでこの世界と、向こう側の世界との境界を開いたのだろう。どうすれば出られるか分からないが、しかし少なくともナイトメアを倒すことさえ出来れば、この状況をどうにかする事が出来るのではないか、と俺たちは思っていた。この空間は、ナイトメアのために作られた世界なのだから。
「さすが、クロードさん。
俺の考えていたことを代弁してくれて、感謝します」
「なぁに。
こちとら殴り合いでしか解決案を見いだせないだけですよ……!」
クロードさんは刀を抜き、右手で構えた。左手は刀を撫でるような形で置いている。どんな状況にも対応できるようにする構えなのだろう。
「俺が守る。エリン、リンド、エルヴァ。下がっていてくれ」
正直なところ、守れるか不安になるくらい全身はボロボロだ。グラーディに何度も叩きつけられた成果、背中の感覚がほとんどない。かき回された腹筋が、今更になって痛くなってきた。だが、ここで踏ん張る事が出来なければ、何のために俺はここに来た?
俺の意思が折れない限り、俺は戦える。
俺の全身を装甲が包み込んで行った。
「……冗談じゃありませんわ。
半死人に助けられる謂れなんてありません!」
リンドは純白の宝石をあしらったリングを付けた右手を掲げた。すると、彼女の周囲に四つの浮遊物体が現れた。エリンのサードアイよりも攻撃的な外見をしている。
「フローターキャノン、守りなさい。私だけじゃない。
大切な姉妹を、大切な未来を!」
「ふん、リンドがやる気になっているってのに……あたしがやらないわけにもいかないか」
エルヴァは両手を大上段に構え、振り下ろした。金属同士がこすれ合うようなエフェクトとともに、彼女の手に漆黒の大剣が現れた。彼女はそれを風車めいて振り回す。
「調子はいいみたいだな、デジョンブレード! さあ、あいつをぶった切るぞ!」
エリンが掴んでいた俺の手を放した。俺はエリンの方を見る。エリンは微笑み、首を縦に振った。そして、きっとナイトメアを睨み付け、意識を集中させた。彼女の周囲で風が逆巻き、光が現れた。三つの眼球が、ナイトメアの動きを見据えた。
「サードアイ、見せて。ボクたちが掴む未来を……ボクたちに残された、明日を!」
ナイトメアは俺たちから十五メートルほど離れた場所で停止し、両手を広げた。すると地面から湧き水のように『闇』が湧き上がって来た。それはやがて形を取った。すなわちゴブリン、オーク、単眼の巨人サイクロプス、恐るべきドラゴン。
「さすがは根源たる災厄、ナイトメア。自由に軍勢を操ることが出来るようだね」
「確かに、あいつらがいては脱出することすらままならん、か」
そう言って尾上さんとトリシャさんも戦闘態勢を取った。
「行くぜ、ナイトメア!
手前が俺たちを滅ぼす根源たる災厄だって言うのならば、俺は手前のもたらす滅びだって越えて生き抜いてみせる!」