表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
決戦! すべての人の戦い
168/187

王座の間へ

 予定通り信さんは敵を引きつけてくれているようだった。

 城塞の真下から街を見ると、光がいくつも見えたからだ。

 生き残ってくれ、と思うが、同時に俺たちも生き残れるかとも思う。

 頭上にはいくつものマシンガンターレットが存在するのだから。


「こ、こんなところいると、マジで生きた気がしねーんですけど……」

「安心して下さい、シドウくん。ああいうターレットには射角と言うものがありますから、真下に撃てるほど器用なものではないはずです。ここが一番安全な場所ですよ」

「気分と実際に安全かどうかは関係ないって、分かってて言ってますよね?」


 まあ、クロードさんがこういうところで空気が読めないというか、人の心の機微に疎いのはいまに始まった話ではない。あまりに強すぎる力を持つため、なんというかズレているのだ。こういうところはあの男と――三石明良と似ているように思う。


(そういや、あいつはいったい何をしてるんだろうな?

 死んだわけじゃないだろうが)


 結局、グランベルクでもあいつに会うことはなかった。会わなくてよかった、とは思うが。あいつと戦っていたらガイウスと戦うどころではなかったはずだ。それはそうなのだが、これまでちょっかいを出してきた男がいきなり現れなくなるのは気分が悪かった。


「余計な考え事を支点じゃねえぞ、シドウ。集中しろ、死ぬぞ」

「うっ、そんなこと顔に出てましたかね、俺? 参ったなァ……」

「ったく、こんなところで死んでたらつまらねーわよ。シドウ」


 俺のことをこれ見よがしに罵倒してくる少女を、俺はじっとりした目で見た。結局、なんだかんだ言ってアリカは俺たちに着いて来た。彼女ほどグランベルク城の状況に精通している人間はいないだろうが、それでも万が一ということもあるだろうに。


「し、しかしこれほど少数で城を攻めるなんて……大丈夫なんですの?」

「なぁに。どう足掻いたってこれ以上戦力は集まらないんですよ、リンドさん?

 だったらこっちの気力が萎えていないうちに攻めた方がいいに決まってます」


 まあ、戦うとなればそれが一番いいのだろうな。『真天十字会』との戦いが終結してから、実際には数カ月。まだ『真帝国』兵たちには新兵器の運用ノウハウがない。だからこそこれくらいの襲撃で済んでいたわけで、熟練したらこうはいかない。


 だからこそ、いまだけだ。敵の練度が高くないいまが。敵が兵器の扱い方を理解し切っていないいまが。戦いの傷が癒え切っていないいまが、最後のチャンスなのだ。


「俺とハヤテと楠、それからエリンと忍軍の連中で上を押さえる。その間に……」

「僕とシドウくん、それからリンドさんが皇帝のところへ。アリカさんは……」

「モチ、彼方のところ行くわよ。あいつ、一発ぶん殴ってやらないと気が済まないわ」


 ごくごく短いミーティングとも言えないような会話の後、俺たちは素早く動き出した。大村さんたちニンジャ軍団は対地対空砲を破壊し、信さんの侵入をサポートするために。俺たちは皇帝たちのところに向かうために。大村さんたちが騒ぎを起こしてから俺たちは動くことになっているので、まだ少しだけ間がある。


「……何だか震えてきてしまいましたわ、覚悟はしていたはずなのに……」

「こんなこと覚悟決めてできる奴なんて、いないさ。

 でも、俺たちは一緒にいる。みんなでやれば何とかなるさ。なあ、みんな?」


 クロードさんとアリカはサムズアップで応えてくれた。

 それを見てアリカも微笑んだ。少しは落ち着いてくれたようだった。

 そんなことをしている間に、城塞の上から爆炎が上がった。

 忍軍が仕掛けた爆薬によって、ターレット群が破壊されているのだ。


「っし、大村さんたちも動き出した。俺たちも行きましょう、準備はいいですね?」

「いつでも行けますよ、シドウくん。行って、すべてを終わらせましょう」


 俺は深呼吸をして、『アレスの鎧』を取り出した。

 この作戦を終わらせるためには、こいつの力が必要不可欠だ。

 力を貸してくれ、エルヴァ。この世界を守るために。


 俺とリンドは同時に変身。手薄になった門を越えて城内に侵入した。

 物陰から中を覗き込んでみると、あまりの変わりように目眩がしてきそうになった。


 趣を残しているのはレンガ造りの城塞くらいのものであり、城はほとんど別物になっていた。近代的な鉄筋コンクリート造の建造物が、そこにはあった。一面ガラス張りになっているが、強度的な問題はなさそうだった。叩いてみると硬質な手応えが返ってくる。


「ウソでしょ、私の城が……あの子、こんなことまでしてたなんて……」

「きっとこれも『奴』の仕業でしょうね。こんな技術、この世界にあるはずがない」

「施設の全面を覆っているのは硬化プラスチックでしょうね。透明性があり、向こう側のことを見渡すことは出来ますが、銃弾程度なら問題なく弾き返すことが出来ます。砲弾や爆薬によって破壊されても辺りに飛散しない。ガラスより安全な素材として開発されたものですが、製造に特殊な技法が必要です。この世界では実現出来ないレベルの、ね」


 入り口にはカードキーを通すスロットのようなものが設置されている。押しても退いてもビクともしない、少なくとも生身の力でここを突破することは出来ないだろう。そしておそらくは、フォースレベルの力も考慮されているはずだ。どうやって侵入する?


 そんなことを考えていると、クロードさんは刀を抜いた。俺の知覚速度を超えるスピードで抜き放たれた刀は大仰な新素材をあっさりと切断し、辺りに転がした。


「さて、行きましょうか。慣例から考えて、恐らく彼方くんは上にいるはずです」

「……さっきの説明、まるで意味がなかったんじゃないのかしら……?」


 こうもあっさり突破出来ると、そんな風に感じてしまう。

 クロードさんに続いて、リノリウムめいた光沢を放つ床に足を乗せる。

 カツン、と思いの外大きな音が反響する。

 この世界に来てから、こんなに靴音がはっきりとしたことはなかったはずだ。


「これも侵入者避けの一環、ってことっすかね。

 こんなんじゃ隠密行動なんて出来ない」

「なに、やる方法はいくらでもありますよ。待ち構えられているなら話は別ですが」


 俺たちが施設内に足を踏み入れると同時に、左右の通路と正面の階段からフォースを身に纏った騎士たちが何人も現れた。その数、およそ二十。

 俺がこの世界から消えている間に量産体制が整ったと聞いていたが、これはあまりにもあんまり過ぎるだろう? 《エル=ファドレ》のパワーインフレについていくことが出来ているのだろうか?


 騎士たちは五十センチ程度のダガーナイフや長柄の槍、あるいは一メートル以上の長さをした巨大な騎士剣を持ったものがいる。ジリジリと包囲の輪を広げている。後方からもドタドタと言う足音が聞こえて来る。ここに留まっている暇はない!


「さっさと突破しましょう。

 グズグズしているとなぶり殺しにされてしまいますからね」


 クロードさんは真剣な表情で構えを取った。俺もそうする。

 目指すは正面階段。

 俺たちが構えたのとほぼ同時に、長柄の槍がこちらに向けられた。

 そして、先端にエネルギーが収束する。何らかの射撃武器なのだろう。


 俺たちは一斉に跳んだ。


 アリカは素早く物陰に隠れ、俺は正面に、クロードさんが左側に、リンドが右側に向かった。俺は着地と同時に跳び込み前転を打ち、着地点を狙った射撃を回避。尚も追撃を繰り出してくるフォースに対し、ネックスプリングの要領でドロップキックをかました。正面装甲を砕く手応えがあり、フォースがほとんど水平に吹っ飛んで行った。


 空中で身を捻りうつ伏せに着地。両手を使って素早く立ち上がる。立ち上がった俺に、槍が振り下ろされた。上体を逸らし回避、槍を奪おうとするがその横合いから大剣がなぎ払われる。たまらず屈んでそれをかわすが、今度は後ろから二体のフォースがダガーナイフを振り下ろしてくる。間一髪のところで再び前転を打ち回避、素早く反転する。


 さすがは正規軍、連携がなっている。たった数カ月でこれほどまでの軍隊が出来上がるとは驚きだ。だがこっちは伝説の英雄で『聖遺物』持ち、簡単に負けてはやれない。


 大剣持ちがこちらに迫る。

 短剣持ちは素早く左右に展開、挟撃を行おうとしている。

 槍はその中間に立ち、こちらの動きに応じて臨機応変に対応を変える構えだ。

 隙が無い。


 大剣持ちは刃を捻りながら振り上げる。

 ここだ、出掛かりの剣を脚甲で受け止め、逆の足で回し蹴りを放つ。

 両手で剣をホールドしているフォースはそれを防げない。


 たたらを踏む大剣持ちにもう一発サイドキックを打ち込み、距離を離す。

 反動をつけて走り、左側のフォースに向かって行く。

 後方からの射撃を受けるが、しかしそれは無視する。

 背中にいくつかの銃弾が炸裂し、痛みが全身を駆け巡るが、それは我慢!


 突き込まれるフォースダガー、それをかわし、腕を取る。捻り上げ、後ろに回る。

 騎士の悲鳴が聞こえ、銃撃が一旦止む。

 バカめ、仲間が人質に取られるとは思ってもみなかったのだろう。

 『卑怯もの!』と叫ぶ声が聞こえて来る。負け犬の遠吠えが心地いい。


 騎士たちにじりじりと近付いて行き、ある程度の距離まで近づいたところで捕まえた騎士を離してやる。大剣と槍の方に騎士を押し付け、挿入されたカードを一押し。右腕にエネルギーが収束。短い助走をつけ、もう一人の短剣持ちを殴りつける。ダガーでそれを受け止めようとするが、無駄な努力。ナイフと甲冑が砕け、フォースは吹っ飛んだ。


 素早く反転。まだ仲間の方に気を取られている騎士を無視し、状況を観察する。左側にいたフォースは一番多かったはずだが、クロードさんはそれを問題にせずあっさりと騎士たちを無力化し、リンドの救援に向かっているようだった。あれなら大丈夫だ。


 後ろに控えていた槍持ちが動き出す。槍の先端にエネルギーが収束し、エネルギー弾が放たれる。フォースダガーもハンドガンのように使えるらしいが、差し詰めこれはライフルと言ったところだろうか。ダガーのそれよりも高威力な弾丸が俺に迫る。


 だが残念、それは一度見ている。

 タイミングを合わせ、弾丸に拳を当てる。

 弾き返された弾丸は槍に命中し、それを弾き飛ばした。


 無手となったフォースに素早く接近、《フォースドライバー》を掴むと、思い切り引っ張り外してやった。安全機構が働き、騎士は後方にふっ飛ばされた。空中で装甲が分解され、生身の姿が露わになる。


 大剣持ちは怒りを込めて剣をなぎ払う。

 俺はそれを真正面から受け止める。

 バカ力か、それとも剣の出力が桁違いなのか。

 押されそうになるが、何とか堪える。


 剣を押さえながら、がら空きになったフォースの背中に何度も蹴りを叩き込んだ。

 一撃、二撃と繰り返して行くうちに剣に込められた力が抜けていくのを感じる。

 いまこそ反撃の時。


 剣を思い切り引っ張り、投げ捨てようとした。

 それはあっさりと成し遂げられた。

 剣を失ったフォースは一瞬忘我状態となる。致命的な隙を晒した騎士に俺は全力の後ろ回し蹴りを叩き込んだ。甲冑を粉砕する手応えとともに、騎士が吹っ飛んで行った。


 残ったダガー持ち一人への対処は簡単だった。

 顔面に拳を叩き込むと、あっさり吹っ飛んで行った。

 これで完了、五体を相手にするのに結構手間取ってしまったが、周りは?


 そう思ってリンドの方を見ると、二人がかりであっさりと制圧されていた。二人で十五体のフォースを? そのうちクロードさん単独で七体くらいを相手にしていた気がした。生身であっても、この戦力。一番の化け物はあの男なのではないだろうか?


「さてと、まだ救援が来そうですね。さっさと上がりましょう、さすがに骨が折れる」


 クロードさんはアリカを助け起こした。俺とリンドは先に階段の方に向かう。

 だが。


 最初にふっ飛ばしたフォースには、まだ意識があった。

 彼は俺が投げ飛ばした大剣を持ち、それを天井に向けた。

 そして、フルブラスト機構を作動させる。

 剣にエネルギーが収束し、それが天井に向かって伸びて行った。

 マズい、これは!


 俺とリンドは反射的に駆け出し、階段を昇った。

 俺たちが踊り場に着いた直後、天井が崩落。

 フォースとともに通路を飲み込んだ。クソ、この程度で止まると思うな!


「クロードさん、こっちは大丈夫です! 瓦礫をふっ飛ばします、離れて!」

「いえいえ、シドウくん。こっちはこっちで対応しますから大丈夫です。

 お先にどうぞ」


 何を言っているんだ?

 そう思ったが、瓦礫の隙間から向こう側を意味が分かった。


 救援に現れた十体近いフォース、そしてその先頭に立っているのはケルビム。


「こいつらを始末してからゆっくり行こうと思います。

 キミは先に彼方くんのところへ」

「ッ……! 分かりました、クロードさん! 気を付けてください、それじゃあ!」


 俺たちは頷き合い、階段の上へと走った。

 空いた穴を飛び越えるくらいは楽々だ。


 散発的に登場するフォースを殴り飛ばしながら、俺たちは彼方のところへ向かった。

 かつてのグランベルク城を思い出す。

 大まかな指針くらいにはなるはずだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ