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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
決戦! すべての人の戦い
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銀月を背負うもの

 翌日。

 『真帝国』首都警備隊はグランベルク桟橋へと向かって行く不審な人影を目撃した。大小様々、フードを被った一行は素性を明かさぬまま宿へと入り、一夜を明かした。そのうち一人、宿屋の店主との交渉を行ったものは手配書と照らし合わせることで逆賊の一人、園崎真一郎であることが発覚した。


 騎士団は彼らを泳がせ、桟橋付近で捕縛することを決定した。彼らの力は未知数であり、都市部での戦闘に万が一なるようなことがあれば市民への被害が及ぶことは必至だったからだ。騎士団は宿の周囲に待機し、一夜が明けるのを待った。


 翌日。陽が頭上に昇るくらいの時間にチェックアウトした園崎は、人目を気にしながら桟橋に向かって足早に歩いた。騎士団は包囲網を狭め、彼らをついに捉えた。




 グランベルク桟橋。

 西暦世界から持ち込まれた技術によって作られた超硬金属によって作られた橋は跳ね上げられていた。唯一の入り口は既に閉じられていたのだ。如何に彼らが常軌を逸した力を持っているとしても、容易に突破することは出来ないだろう。


 作戦の失敗を悟ったのか、真一郎は踵を返し去ろうとした。

 その前に騎士が立ちはだかる。

 『真帝国』騎士団きっての精鋭、クラウス=フローレイン。


「ここまでだ、ソノザキ。お前は既に包囲されている。ここからは逃げられない」


 クラウスは手を上げた。詰所の影や屋根から騎士が顔を出す。まだフォースの力を発現させてはいないが、合図一つで彼らに飛びかかれるような体勢を取っている。


「グランベルクには一歩だって踏み入れさせはしない。この世界を壊させはしない」

「……それはこの歪んだ世界のことか、クラウス。そうじゃないはずだろう」


 真一郎はフードを取り、真正面からクラウスのことを見据えた。


「完全無欠な世界なんてありはしない。そんなことは俺だって分かっている。だが少なくとも、かつての『共和国』は歪みを知りながら、それを正すために動いていたと思う。権力者が悪であるならば、例え痛みを受けてでも正そうとする気概があったはずだ」


 かつて真一郎は、『共和国』地方都市ドースキンで歪みを目にした。撤廃されたはずの奴隷制度は姿を変えて残り続け、民と正義を守るはずの聖職者は歪んだ欲望を民の血で発散していた。だが、その歪みは人の手によって正された。それが正しい在り方だ。


 ドラスティックな変化があったとしても、人の心は変わらない。

 変化をすべて受け入れられるほど、人間は強くない。

 しかしそれらをすり合わせ、話し合い、戦い、人々は世界を変えて来た。

 過去を乗り越え、学習し、より良い世界を作ろうとしていたはずだ。


「『真帝国』が作り出す秩序の中に、未来はあるか。クラウス。

 『真帝国』は汚いものを切り捨て、漂白し、それが正義であると嘯いている。

 だが、それが本当に正しいことなのか?

 それがお前の望んで来た……理想を体現した世界だというのか、クラウス!」

「黙れ、ソノザキ! お前にそんなことを言う資格があるとでも思っているのか!?

 苦しみから逃れ、傷つくことを恐れてきたお前に! 現実の世界を生きる辛さに耐えられなかったお前に、天下国家を語る資格があるとでも思っているのか!?」


 クラウスは激高した。

 ずっと彼は恨んでいたのだ、途中で投げ出した自分のことを。


「そうだ。俺は投げだした。俺のすべきことから目を背け、逃げ出した。

 だが、だからこそそれがどんなに醜く、愚かなことかは分かっているつもりだ!

 クラウス、お前たちが目指している先にあるのは繁栄や安穏じゃない!

 永遠に続く憎悪と闘争だけだ!」

「それでも俺には守らなければならない世界がある!

 お前を倒して守るべき世界が!」


 クラウスは《フォースドライバー》を取り出し、セットした。


「これだけの数のフォース、捌き切れぬであろう! お前はここで押し潰される!」

「さて……それはどうかな? たった一人で逃げ回るのは、俺の得意技なんでな!」


 真一郎は《スタードライバー》を取り出し、セットした。

 クラウスは身構える、しかし彼が放った一言が引っかかっていた。


(たった一人? どういうことだ。まさか全員で戦うつもりだとでも……?)


 真一郎はシルバーキーを取り出し、《スタードライバー》にセット、捻った。


「さて、そろそろ始めようじゃないか……変身!」


 真一郎の体が光に包まれる!

 それと同時に、背後にいたローブ集団も動く!

 彼らは一斉に身に付けた布を脱ぎ捨てる!


 その下にいたのは――ニンジャ!

 赤、青、黄! 色とりどりのニンジャ装束を纏った、ニンジャがそこにはいた!


「なっ……ニンジャ!? ニンジャだと! バカな、そいつらはお前の――」

「俺の仲間だなどと言った覚えはないな! さあ、行くぞ!」


 真一郎はシルバーウルフをショックモードで発砲、呆気に取られていた騎士に弾丸を見舞う。無防備な状態でショック弾頭を食らった騎士はもんどりを打って倒れる。その隙にニンジャたちはパルクールめいた俊敏な動きで瞬く間に脱出して行った。


 それを追おうとするものも何人かいるが、しかし真一郎が許さない。左手首に仕込んだブレスレット型デバイスに隠匿されたボタンを押し、シルバーバックを展開。天高く舞い上がり、屋根から一行を狙っていた騎士の一団に向かって飛ぶ!


 騎士たちはフォースの展開を終え、上空にいる真一郎に向かってフォースガンを発砲。だが複雑な軌道を描いて飛ぶ彼を撃ち落とす技術を持っているものはいなかった。

 巧みな空力操作で幻惑的な軌道を取りながら、真一郎は落下。空中でシルバーバックを解除し、自由落下に身を任せ、屋根に着地。シルバーエッジとフォトンレイバーの二刀流を展開し、屋上のフォースたちに襲い掛かった!


 シルバスタとフォースの間には隔絶と呼んでも差し支えないほど凄まじい力の差がある。シルバスタの力を十全に使いこなすことの出来る真一郎と、ほんの数カ月しか訓練を積んでいない、しかも実戦経験などほとんどないフォースとであればなおさらだ。フォースたちが繰り出した斬撃や刺突は双剣によって巧みに受け流され、逆に斬撃を食らう。


 真一郎の持つ技量を警戒し、屋上のフォースは狼狽え距離を取った。

 だが、それは悪手だった。

 真一郎は手元で双剣をくるりと回転させ、挿入したシルバーキーを捻った。

 『FULL BLAST!』の機械音声が《スタードライバー》から流れ出した。


 真一郎の全身から放たれるエネルギーが高まった。

 フォースたちは警戒するが、しかしその瞬間には勝負が決していた。

 真一郎は踏み出した。フォースたちの知覚能力さえ超えるスピードで。逆手に持ったシルバーエッジを振り払い、順手に持ったフォトンレイバーを突き込み、一瞬にして五つの《フォースドライバー》を破壊! 爆発四散!


「くっ、おのれソノザキ! これ以上やらせはせんぞーッ!」


 クラウスはフルブラスト機構を作動させ、大地に拳を打ち下ろした。

 地の魔力と感応し、大地が変形していく。

 真一郎はバック転を打ち回避、彼が一瞬前までいた空間を岩の咢が押し潰した。

 連続して放たれる攻撃を、真一郎は連続バック転で鮮やかに回避!


 回避運動を取りながら、真一郎はホルスターにセットしたウルブズパックを抜き、シルバーウルフと接続。『WOLFS PACK! SILVER STAR!』、特徴的な機械音がしたかと思うと二つの物体が結合、裂空砲ウルブズパックが顕現!


 再度のバック転を打ちながら真一郎はシルバーキーをドライバーから引き抜きスロットルに挿入。ウルブズパックのグリップを一度引き、シルバーキーを捻った。

 『FULL BLAST! ONLY ONE ALPHA!』の機械音声!


「行って来い、ウルブズパック! 邪魔をする奴を食らい尽くせ!」


 真一郎は天に向けて弾丸を放った。放たれた光の矢は途中で軌道を曲げ、クラウスに向けて飛来する。異常を察知したクラウスは側転を打ち弾丸を回避。

 だが、アルファドライブの攻撃は未だ終わらない。回避したと油断したクラウスの背中に弾丸が突き刺さった。魔導鎧の結合が、舞い上がる火花と共に砕かれた。


 着地した真一郎はグリップを二度引く。

 『BETA MODE! LET‘S! HUNTING!』、ウルブズパックが散弾射撃モードに移行した。地上に銃口を向け、真一郎はトリガーを引く。狙いなどほとんどない射撃がフォースたちに叩き込まれる!


 だがフォースたちもやられてばかりではない。

 散弾の雨を受けながらも、フォースガンを展開し真一郎への反撃を行った。

 二つの弾丸が空を裂き、彩る。そしてフォースの数と弾幕が勝った。

 真一郎は銃撃を嫌って路地に向かって飛び降りて行く。


 それはフォースたちが待ち望んでいた瞬間だ。

 地上に降りた真一郎を追撃するためにフォースたちが動く。


 だがそれはむしろ、真一郎の予想通りの展開であった。

 『WILD GUARD LADY』、機械音声が響き、路地から光が漏れ出たと思うと、先ほど侵入していったフォースが弾き出されてきた。第二陣は出鼻をくじかれ、足を止めてしまった。


 路地から出てきたシルバスタの姿は、先ほどとはまったく変わっていた。両手には重厚な白銀の手甲を着けており、全身を覆う鎧もまた一回り大きなものに変わっていた。威風堂々、真一郎はゆっくりとフォースたちに向かって歩く。その姿を見て、フォースたちは恐怖した。これこそがシルバスタ強化変身態、ワイルドフォーム!


 ゆっくりと歩みを進めながら、真一郎は身をすくめていたフォースを裏拳で殴りつけた。殴られたフォースは一瞬にして吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ動かなくなる。恐慌状態に陥った騎士たちは、歩み寄る真一郎に対してフォースガンを発砲。だが放たれた弾丸はワイルドガードによって受け止められ、彼を傷つけることは出来なかった。


 銃撃を行いながら、騎士たちは考えた。

 近付かれたその時が残された唯一の反撃タイミングだと。前衛の騎士たちはフォースガンをダガーモードに変換、後衛の騎士たちは真一郎の動きを止めるため銃撃を続けた。そして、反撃の時を待った。


 だが、その時は永遠に訪れない。

 それもまた、真一郎の掌の上だったからだ。

 彼は密かにシルバーキーを捻る。

 『FULL BLAST! WILD GUARD!』、両腕に星神のエネルギーが収束していく。光り輝く手甲を携えたまま真一郎は進み、そしてフォースから五メートルほど離れた地点で防御を解除、両腕を彼らに向かって突き出した。


 突き出された拳の部分から、白銀に輝くエネルギー波が放出される。騎士たちは巨大な拳が飛んでくる、そんな光景を幻視した。風に吹かれる木の葉のように、重装のフォースを纏った騎士たちはあっさりと吹き飛ばされた。


 これがワイルドガードの持つフルブラスト能力。真一郎がワイルドブレイカーと呼んでいる力だ。収束したエネルギーを直接叩きつけるだけではなく、遠距離に放出することが出来るのがワイルドガードの強みだ。彼の道を遮るものはほとんどいなくなった。


「おのれ、ソノザキ! 貴様、ここから生きて帰れるとは思うなよ!」


 だがクラウスとその側近の精鋭騎士が残っている!

 さらに周辺からはドタドタと言う慌ただしい足音。

 周囲に待機していたフォースも結集しているのだ!


「諦めろ、ソノザキ。貴様がどれだけ力を持っていようとも、十万のフォースを倒すことなど出来はしない。大人しく投降せよ、ここで苦しんで死ぬこともあるまい!」

「投降すれば生かして帰す、とか言ってくれれば喜ばしいことなんだが……

 お前そう言う交渉ごととか、騙しとかが下手だな。

 悪いが俺に利のない提案を聞くつもりはない!」


 真一郎は上げられた桟橋の方に走り出す。

 何をしている、クラウスは訝しんだ。跳ね上がっているのは入り口の部分だけではない、十にも及ぶジョイント部分がすべて跳ね上がっているのだ。しかも、不審者が足を踏み入れた瞬間迎撃システムが作動するようになっている。まかり間違って足を踏み入れることが出来たとしても、待っているのは死だ。


 クラウスはそう思っていた。だが、現実は彼の想像を超えて展開していった。重々しく跳ね上がっていた桟橋が下げられているのだ。それだけでも不思議な事態であるというのに、変化は更に起こった。城塞に設置されたターレットが爆発したのだ!


「なっ、バカな!? どうなっている、これはーッ!?」


 そう言い、辺りを見回したクラウスは桟橋の制御室から逃げ出す赤と青のニンジャを見た。真一郎が周囲を撹乱し、逃げると見せかけることで注意を逸らし、桟橋を操作したというのか? そうとしか考えられない、クラウスは己の不見識を恥じた。


 騎士は再び桟橋を下げようとしたが、それは叶わなかった。

 戦闘に紛れて桟橋の制御装置が破壊されていたのだ。彼らは機械を使うことは出来るが、機械がどのような仕組みで動いているのかは分からない。破壊された装置を修復することなど出来はしない。


(このまま城内に押し入るつもりか、ソノザキ! そうはさせんぞ!)


 クラウスは素早く部下に指示を出し、桟橋を走る真一郎を追った。

 だがクラウスの予想に反し、真一郎は桟橋の途中で立ち止まり、振り返った。

 そこまで到達して、クラウスは真一郎の真意に気付いた。


 桟橋の幅は西暦世界で言うならば大型トラック二、三台が楽々と通れるほど広い。

 それでいて足場になるような場所はほとんどなく、高所を取られる心配もない。

 圧倒的力を持つ個としては、これほど整った環境はないだろう。


「さてと、フォースとやらはあとどれくらい残っている?

 どれだけ来てくれても構わん。

 いずれにしろ俺がすべてを破壊することに変わりはないのだからな」


 真一郎は笑った。クラウスはそれに答えず、真一郎の包囲を再び完成させた。


「貴様の快進撃もここまでだ、ソノザキ。真正面から押し潰してくれる!」

「それはどうかな? 俺の進撃はまだ止まらないぜ、クラウス!」


 真一郎はフォトンレイバーのトリガーを引いた。

 『PHOTON RAYBAR LEDY』、特徴的な機械音声と共に彼の装甲が変形していく。背部アーマーが展開しブースターとスラスターが出現、脚甲にもいくつものスラスターが現れた。シルバスタ最速の姿、レイバーフォームがここに誕生! 真一郎は手元で剣を回転させる。


「ッ! 虚仮脅しだ、こんなもの! 総員、かかれ! 怨敵を破壊せよッ!」


 クラウスの支持を受け、フォースたちは一斉に飛びかかって来る。だがシルバスタの知覚能力を持ってすれば、それらをすべて見切ることさえ不可能ではない。

 半歩身を引きながら剣を振るう。ダガーの一撃を避け、逆に剣撃を叩き込む。引いた方の足を軸に回転、横合いから大振りな斬撃を繰り出そうとしてきたフォースの甲冑を薙いだ。


 一瞬にして二体が叩き切られ、最後のフォースは恐怖に囚われ足を止めた。

 そんな敵を、真一郎は逃がさない。一歩踏み込み、袈裟掛けの斬撃を繰り出す。

 甲冑とドライバーをまとめて叩き切られた。フォース三機は一瞬にして爆発四散!


「バカな……最新鋭のフォースが、ここまで簡単にやられるなど……」

「最新鋭機だろうが何だろうが、年季が違うんだよ。簡単にやられてたまるか」


 ならば、と五体のフォースが一気に飛び込んで来る。

 彼らが持っている獲物はフォースダガーではなく、長柄のものだ。

 フォーススピアとでも言うべきものだろうか?

 長物は中、近距離戦において大きな力を持つ。

 単なる剣で攻略出来るものではない。


 ただし、それは神の力を受けたシルバスタでなければ、の話だ。

 真一郎はシルバーキーを引き抜きレイバーにセット、捻った。

 『FULL BLAST!』のかけ声がフォトンレイバーから響き、白銀のエネルギーが刀身に収束していく。光り輝く刀身を、真一郎は遠心力を込めてなぎ払う。白銀の三日月が、刀身から投射された。


 突っ込んできた騎士たちは、その一撃を避けることも防ぐことも出来なかった。圧倒的エネルギーを叩き込まれた魔導鎧は一瞬にして粉砕され、生身の騎士が投げ出され、橋に叩きつけられた。苦し気に呻く部下を見て、クラウスは歯噛みした。


「ここまで……ここまで、違うものなのか? 俺と、お前の力とは……」

「互角の条件ならば、どうなっていたか分からないだろうな。だが、悪いなクラウス」


 真一郎は天を指さした。いまはこの世界に存在しない星を。


「俺には星神の加護がついている。そう簡単に負けはしないさ……!」


 真一郎とクラウスたちの間に存在する、乗り越えられない差。

 それは彼らの持つエネルギーが、有限であるか無限であ(・・・・・・・・・・)るかの差だ(・・・・・)


 クラウスたちが使っている《フォースドライバー》はこの世界に存在する魔法石、まだ確認されてない元素から抽出されるエネルギーを使って稼動している。新元素には周囲に存在する有形無形のエネルギーを吸収し、自己の存在を補完するという特性がある。だからこそ、見た目上は無限に使うことが出来る。だが貯えられるエネルギーは有限だ。


 それに対して真一郎の使う《スタードライバー》システムにとって、デバイスは単なる出力装置に過ぎない。彼にエネルギーを与えているのは神との間に繋がれた不可知のレイライン。リミッターが備えられてはいるが、神との親和性、そして彼自身の精神状態によって引き出すことが出来るエネルギーは決まってくる。


 真一郎は気付いていないことだが――生ける神、月の神は彼の立ち上がる闘志を認め、更なる力を与えることを決断した。無限の存在たる神が与える、文字通り無尽蔵のエネルギーを、彼は制御することが出来る。少なくとも力という点では勝負にさえならない。


「さて、騎士団諸君。

 とっくに気付いているだろうが言っておくぜ、ここにいていいのか」


 真一郎の言葉に、騎士団は動揺し、半歩下がった。

 真一郎は一歩踏み出す。


「ま、来ないって言うならこっちから行ってやるがな――!」


 踏み出そうとした真一郎だが、強化知覚と彼の第六感が危機を伝えた。

 スラスターを展開し大きくバックジャンプ。

 次の瞬間、巨大な炎の塊が彼のいた地点に降り立った。


「あーあーあーあーあー!

 何をやっているんだね、騎士団諸君! 賊一人にこんな!」


 そこに現れたのは、ソロン=アーミティッジだった。

 ティアドロップサングラスの向こう側からは不機嫌な目が覗く。

 真一郎は嘲るように笑い、彼に剣を向けた。


「あんたが来てくれるってんなら、好都合だ。お相手願おうか、騎士団長殿?」

「何をやっている、お前たち! こいつは単なる陽動だ! 敵は城にいるぞッ!

 こんな奴は放っておいて、さっさと城へと戻れ!

 お前たちが守るべきものはなんだ!?」


 ソロンは激高するが、しかし騎士たちは動かない。

 そんなことは分かっているのだ。


「そんなことは分かっているさ、ソロン団長。

 だが、俺のことを放っておいていいのか?

 俺の力があれば周辺の騎士を一掃することも、街を焦土に変えることも出来るぞ?」


 なるほど、そういうことか。ソロンは得心した。

 騎士たちはこの男を相手にしているのではない、相手にせざるを得ないのだ。

 あまりに強い力を持っているために。

 この敵を放置することによって、更なる被害が出ることを恐れているのだ。

 ソロンは笑う。


「大した自信だよ、お前。マジで騎士団のすべてを相手にする気か? 俺も含めて?」

「自意識過剰な騎士団長閣下くらいならな。余裕さ」


 真一郎の余裕たっぷりな態度を見て、ソロンは激高しそうになる。だがそれをあと一歩のところでこらえて、サングラスを外し、湖に投げ捨てて正気を保った。


「あれはキミを殺してから回収するとしよう。

 専門の業者に作ってもらった特注品なんでな……

 あれだけしかこの世界に存在しないんだ。貴重な存在なんだよ、あれは」

「そうか。ならばお前が二度とあれを手にすることはないということだな」


 尚も余裕を崩さない信一郎を、ソロンは睨み付ける!

 そして、走り出す!


「私は余裕ぶったガキという奴が嫌いでね! 焼き滅ぼしてやるよ、貴様ァーッ!」


 ソロンの体が炎に包まれ、炎が甲冑を形作る!

 恐るべきセラフィム、ここに降臨!


「滅びるのは、終わるのはお前の方だ! ソロン=アーミティッジ!」


 真一郎はフォトンレイバーの柄にセットされていた宝石を外し、《スタードライバー》のくぼみに挿入する。そして、ソロンを見据えシルバーキーを捻った。けたたましいパーカッションの音が止み、シルバスタの全武装が次々と展開されて行く!


『FULL! ARMS! LINK! START UP!』


 最強の力、フルアームズリンクを展開し、真一郎はソロンに向かい駆け出す!


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