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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
神なる時代の反逆者
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煌めく破邪の銀光

 そうしているうちに、俺の体がどんどん半透明の霞に包まれて行った。

 何らかの攻撃だろうか、そう思ったが違った。

 呼吸は苦しいがどうにもならない、と言うほどではない。

 いったい何が起こっているのだろうか、そう思っているうちに霞が一気に晴れた。


 次に俺の目に飛び込んで来たのは、視界いっぱいに広がる砂漠だった。


「……はぁ!? な……何がいったい、どうなってやがる!?」


 振り返り、いままで俺を包み込んでいたものを見る。それは雲だった、予想通り。ということは、俺はあの光を越えいままで空中にいたということか。辺りを見回しても建造物らしきものはまったくないので、《エル=ファドレ》に戻ったものと思える。


 いや、そんなことを考えている暇はない。

 いま俺が気にするべきは地面に着地した後のことだ。

 如何に変身したとはいえ、この高度から落ちて無事に済むとは思えなかった。

 どうすりゃいい、重力加速の中で俺は必死に考えた。

 そんな俺の視界の端に何かが映った。


 それは、暗い闇の色だった。

 宵闇の中にあっても、その闇は更に暗かった。

 それを放っているのは、漆黒の甲冑。


 そしてそれはちょうど、俺の落下地点の辺りにいた。


「ヤバイヤバイヤバイ! ちょっと待て、せめて退いて! そこから退いて――」


 地上に激突する寸前で、フォトンレイバーを使えばいいじゃないかと思った。

 もちろん、時すでに遅しだ。俺の体は物理法則に引っ張られて行き、地上へ。

 落下地点にあった黒い甲冑と激突。

 俺と甲冑は作用、反作用を受けて逆方向にふっ飛ばされた。


「ギャァーッ!?」


 衝突の衝撃があまりに凄すぎたのか、俺の体からラバー状の装甲が剥がれ落ちていく。衝撃が相殺されたが、しかしそれでも殺しきれず俺は砂の上を何度もバウンドし、その辺にあった建物の石壁にぶつかってようやく停止した。腰が砕けるかと思った。


「ってぇ……! こ、こっちの世界に戻ってくるなり、これかよ……!」


 痛みに呻き、腰を押さえながら立ち上がる。

 とりあえず折れているようなことはないので、一安心。

 立ち上がり、辺りを見回した。俺はいま砂漠の街、それも廃墟の街のようだ。

 結構破壊痕が目立つのは、ここが過去戦場になったからだろうか?

 それにしては傷跡に新しいものが目立つ気がする。


 それにしても、いったいどこなんだ。確かウルフェンシュタインの西側に砂漠地帯があったような気がするが、もしかしてそこか?


「キミは、まさか……シドウくん!? 生きていたんです、か……?」


 懐かしい声が聞こえたような気がした。あれはクロードさんだろうか?

 視線を横に向けるとクロードさんと、もう一人予想もしていなかった人物がいた。


「うぇっ!? し、シルバスタ!? あ、あんたがどうしてこんなところに!?」


 街中で有名野球選手と会うのと同じくらい衝撃的だった。

 まさか、俺のことを救ってくれたヒーローが俺の目の前に出てきてくれるとは。

 それも、クロードさんと並んで。二人はいったいどういう関係なのだろうか?

 もしかして、前々からの知り合いなのか?


 俺は思わずシルバスタの方に近寄り、その手を取った。冷たくゴツゴツとした感触があった。当たり前のことだ。そして興奮した俺はそんなことをまったく気にしない。


「俺、向こうの世界で助けていただいて以来、あなたのファンです!

 あの、あの時はお礼を言えなかったんで、いま言わせてもらいます!

 ありがとうございました!」


 手をぶんぶんと振りながら、俺は謝意を表した。

 ああ、よかった。礼を言うことが出来て。

 シルバスタにお礼を言えなかったのは、俺の人生でも五指に入る後悔の一つだ。


 俺の態度に困惑していたシルバスタだが、すぐに調子を取り戻し、俺の手を引き剥がした。そして、腰のベルトらしきものに挿されていた鍵を引き抜いた。銀色の装甲が光に包まれ、消えて行く。その下から現れたのは親友の兄、園崎真一郎だった。


「……え? 信さん? も、もしかして、あんたがシルバスタ……だったのか?」

「久しぶりだな、シドウ。こうして再会することが出来て、俺も嬉しいよ」


 信さんは不器用な笑みを作り、俺の生還を喜んでくれた。

 俺も嬉しくなるが、果たして喜んでいいのだろうか。

 俺は、あなたの妹をこの手で殺したのに。


「いきなり出て来たと思ったら、やってくれましたね……! いい力の使い方だ」


 俺たちは弾かれたように声がした方向を見た。

 砂煙の中から、漆黒の甲冑を纏った粘っこい口調の男が現れた。

 甲冑はまったくの無傷。態度にはどこか余裕さえ感じられる。

 冗談だろう、掛け値なしの本気、それも重力加速まで加えたものだったというのに。


「信さん、あいつはいったい何者なんです……!?」

「あいつの名は天十字黒星。シルバスタの技術を奪い、世界を征服しようという男だ」


 つまる話、危険人物だということか。

 奴の放つ力が、ビリビリと大気を震わせているようにも見えた。

 かつて見たガイウスでもこれほどのエネルギーを持っていただろうか?


「あんたの敵ってことは、つまり俺の敵ってことだ! なら、やるしかねえな!」


 俺は肩をぐるぐると回し、男に突っ込んでく。

 走りながら力を展開、渾身のストレートパンチを男に向かって繰り出す!

 顔面の真正面を捉えるパンチが男を――


 倒さなかった。むしろ殴った俺の手の方が痛かったのではないだろうか。

 天十字の方はまったく動きさえしなかった。

 弾き飛ばされる俺を見ながら、天十字は笑った。


「どうしました? もしかしてそれで殴っているつもりなんですか?

 それでは、教えて差し上げましょうか。殴るとは、こういうことを言うのです……!」


 男の黒い手が霞んだ。かと思うと、俺の頬に衝撃があった。

 首が一回転するかと思うほど凄まじい衝撃だった。

 俺は水平に吹っ飛んで、さっき当たったのと同じ壁に当たった。


「くっ、なんだこいつは……つ、強すぎるぞ……!」

「こいつが強いことは分かっていたから、注意しようとは思っていたんだが……」


 何ということだ。これではあからさまに道化ではないか。

 天十字はクツクツと嗤う。納豆よりも粘っこくて、クサヤよりも臭い野郎だ。

 悪党の匂いがプンプンするぜ!


「あなたの力では私に勝てないということは、いまので分かったはずです。

 では大人しく……死んでいただくことにしましょうか、キミたちには!」

「舐めんじゃねえぞ、クソ野郎! 一度ぶっ飛ばしたくらいで調子に乗んなよ!」

「それには同感ですね。シドウくんは打たれ強さと諦めの悪さが取り柄ですから」

「すいません、それだと俺にそれ以外いいところがないみたいなんでやめてください」

「コントはもう結構ですよ。諦めの悪い方には、ここから消えていただく!」


 天十字の右手にエネルギーが収束し、円盤のような形になる。

 込められたエネルギーはまさしく桁違いの量だ、変身解除では済まないだろう。

 俺はフォトンレイバーを抜いた。


「まだまだ、やれることはやらせてもらうぜ! 天十字! まずはこいつだ!」

「それは、フォトンレイバー!? なぜお前がそれを持っているんだ!」


 信さんが驚き、叫んだ。

 そう言えばこれはシルバスタのものだ。

 最近こいつに依存し切っていたのですっかり忘れていた。


 しかし、タイミングが悪い。天十字のチャージは続いている。

 少なくともフォームチェンジをしなければ奴には勝てないだろう。


 俺はトリガーを引こうとした。

 だが、フォトンレイバーはその前に俺の手からもぎ取られた。予想外の方向から力を込められたため、あっさりとフォトンレイバーは元の持ち主に奪い去られてしまった。チャージを終えた天十字は、暗黒の円盤を俺に向けて投げつけて来る。

 回避も防御も、不可能。


『PHOTONE RAYBER! LEDY!』


 信さんのベルト、《スタードライバー》から不可思議な機械音声が響いた。これは、シルバスタの強化変身を告げる音。信さんの体をシルバスタの通常装甲が包み込んだかと思うと、ショルダーアーマーと脚甲が変形、背中に四基のスラスターが生まれた。

 真さんは目にも止まらぬ速度で俺の前に立ったかと思うと、腰の入った回し蹴りを繰り出した。蹴り足と暗黒の円盤とがぶつかり合い、そして円盤が弾き飛ばされ、その軌道上にあったいくつもの建物を粉砕しながら宵闇へと消えて行った。

 俺はそれを呆然と見た。


「こいつは返してもらうぞ、シドウ。これは俺が持っていた方が都合がいいんでな」

「アッハイ、分かりました。まあ、返せるなら返しておきたかったですし」


 実際のところ俺の戦力がダウンするので微妙なところだが、まあ仕方がないだろう。フォトンレイバーだって元の持ち主に使われた方が嬉しいはずだ。


「秘密兵器ですか、園崎くん。その剣は見たことがありませんでしたね」


 天十字は笑いながら、パチパチと拍手した。あからさまに嘲るような色合いが見て取れる。奴がそんな態度を取るのも無理はないだろう、レイバーフォームとなったいまでも天十字と信さんとではあからさまに力に差があるように見えたからだ。


「ですが、神の力を『使っている』キミは私に勝つことは出来ない!

 私は神を『屈服させ』、神の血を取り込み、ここにいる!

 キミとはランクが違うんですよ、園崎くん!」

「さっきから神、神、神とやかましいですね。信心深いようには見えませんが」

「私は神を信じてはいない。私自身が神だからだ。

 星神の力をどうしてこの世界で使えるか、不思議に思ったことはないかね?

 理由は簡単だ、ここは異なる世界などではなく、西暦の先にある世界なのだから」


 あの女、ウィラもそんなことを言っていた。

 だが、天十字はどうしてそんなことを知っている?

 この男がウィラの味方であるようには思えなかった。


「そうなると、別のものも見えて来る。

 『聖遺物』も、《エクスグラスパー》も、元は同じ。

 星神の力を操る《スタードライバー》の技術から生まれたものなんだよ」

「この世界の力が……俺たちの持っているものと、同じだというのか?」

「その通り。人々に星神の力を与えているのさ。

 そして星神の力を物理的な力へと変換するデバイス、それが『聖遺物』。

 だが誰も分かっていない、力の真の使い方を」


 天十字はどこか恍惚とした表情で演説を続ける。

 足も止まっているが攻撃は出来ない。


「『聖遺物』は単独では神の力を鎧と成すだけだ。

 《エクスグラスパー》は神の血、すなわちその力だけをその身に宿す。

 それでは不完全なのだ、神の肉と血、その双方を手にすることが出来なければ、真に神の力を手に入れたとは言えない!」

「……なるほど。それが、自分のことを神だと自称する理由ですか」

「その通り!

 この世界に来て与えられた《エクスグラスパー》の力!

 そして私が元の世界から持ち込んだ《ダークドライバー》の力!

 この二つが合わさることによって、私は真に神の力を得た!

 私をここに呼び込んだものさえも想定していなかった力だ!」


 と、すると奴は《ダークドライバー》に自分の力を注ぎ込んでいるということなのか? 無茶苦茶に聞こえるが、元が同じものならばそれも可能なのだろう。


「キミは私には勝てない。所詮、キミは神の力を与えられ、使っているだけ。

 ご機嫌を伺いながら戦っているに過ぎない!

 人が道具を持ったところで、神の力には及ばない!」

「それはどうかな、天十字。人は何度も神を殺して来た。人にはその可能性がある!」


 信さんは手元でフォトンレイバーを回転させ、逆手に持った。

 柄頭に付けられていた宝石を手に取り、それをフォトンレイバーから外した。


「信さん!? 何やってんすか! そんなことしたら、フォトンレイバーが……」

「見せてやるよ、天十字。人間が作り上げた力を。俺たちに遺された、力を!」


 信さんはフォトンレイバーに付けられていた宝石を《スタードライバー》中心部にあったくぼみにセットした。すると、宝石が光った。シルバーキーの持ち手の部分も同様に。誰もが呆気に取られている中、《スタードライバー》だけが空気を読まずに叫び出した。


『FULL DRIVE! SET UP!』


 けたたましいパーカッションの音が《スタードライバー》から鳴り響いた。

 宝石から漏れ出した光がドライバーに刻まれたラインを埋めていく。

 何が起こっている?


  信さんはシルバーキーを掴み、そして捻った。

 一瞬、音が止んだ。


 『WOLFS PACL! LADY!』

 『SILVER BACK! LADY!』

 『WILD GUARD! LADY!』

 『PHOTONE RAYBER! LEDY!』


 四つの音が響き、信さんの鎧、腕、足、頭が光り輝いた。

 銀色の巨大な手甲が現れ、腕を一回り太くした。

 背中から翼とブースターが現れ、火を噴いた。

 シルバーウルフがひとりでに腰へと向かい、そこにマウントされた物体と結合した。

 真さんは右手でフォトンレイバーを、左手でウルブズパックを持ち、構えた。

 それと同時に眼孔部が一際強く光り輝いた。変身の終了を告げる光だ。


『FULL! ARMS! LINK! START UP!』


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