明日へと走れ
村内に侵入したゴブリンを排除し、シドウを追って来た三人は、血の海に倒れ伏すシドウの姿を見つけた。衣服も、体も、どこもかしこもボロボロだ。ピクリとも動かない。
「……シドウくん!」
慌てて、クロードは駆け寄り、彼を助け起こした。特にダメージがひどいのは腹部だ。ミキサーにでもかけられたようにグチャグチャになっている。幸い、内臓までは及んでおらず、出血も止まっている。だが、そんなものがどれほどの慰めになるだろうか?
すでに紫藤善一という一人の人間は、死んでいるも同じだった。
「あー……クロード、さん。ゲホッ!
村の、方は、どうなりましたか……?」
だが、死に体の男は震える手を動かし、クロードの肩を力強く掴んだ。
「村のことは安心して下さい、ゴブリンは全て倒しました」
「そっかぁ……そりゃあ。よかった。
だったら、すぐに、追いかけねえと」
掴んだクロードの肩を支えにするようにして、シドウは立ち上がった。トリシャも、尾上も、その姿を見て戦慄した。常識で考えれば動けるはずなどあるまい。
「寝ていなさい、シドウくん。
キミはもう歩くどころか立っていられる状態じゃない」
「大丈夫っすよ、クロードさん。
こんなボロボロだけど、不思議と意識ははっきりしてる。
全身の骨を折り砕かれたはずなのに、立って歩ける。
そう言う体なんですよ」
数度、シドウは深呼吸した。
荒々しかった呼吸が、少しずつ落ち着いて行く。
「出血が多すぎて、ハイになっているだけです。
体の痛みを誤魔化しているだけだ」
歩き出そうとするシドウの体を、クロードは無理矢理に止めた。
「ここにエリンくんがいないということは、奪われたのですね。
僕たちに任せておいてください。あなたは休んでいなさい。
そんな体で何が出来るっていうんですか!」
クロードの厳しい言葉。だがシドウは振り返り、クロードの襟首を掴んだ。死に体になった男の、どこからこんな力が出て来るのか。クロードも思わずたじろいだ。
「……あいつの笑い声が、まだ頭の中でグルグル回ってンだ……」
「何を言っているんですか、シドウくん」
混乱しているのか、シドウの言葉はとりとめのないものだった。
「どうせお前には何も出来ない。
誰も助けられない。
誰もお前に助けなんて求めてない。
何をやっても無駄だ。
楽になれ。
それが当たり前だ。
そんな言葉が消えねえんだ。
だから、だからこそ、俺は、行かなきゃいけないんだよ」
襟首にかかる力が、強まった。
傷口が開き、シドウの頬から赤黒い血が噴き出た。
「この手で助けなきゃいけないんだよ、あの子を!
それがこの世界で命を繋いだ意味だ。
俺がこの力を手に入れた意味だ!
お節介だろうが何だろうが俺は止まらねえ!
人が人を助けられるって証明することが、俺がこの世界で生きる意味なんだ!」
言葉の意味は、誰も半分も理解出来なかった。
分かることは、シドウが決死の覚悟でその言葉を紡いでいるということ。クロードは襟首を掴んだシドウの腕を取った。
「……どちらに行ったんですか、彼らは」
「『不帰の森』。スタルト村から南に行ったところにある。
俺たちが来た道の先だ」
「ならば行きましょう。トリシャさん、尾上さん、シドウくん」
シドウは壮絶な笑みを作り、クロードの襟首を掴んだ手を放した。
「おい、クロード! 正気か!
そいつ、連れて行ったら今度こそ確実に死ぬぞ!」
「仕方がないでしょう。シドウくんをこのまま放っておいたら、勝手について来そうです。そうなったら、もうフォローのしようがない。なら連れて行った方が安全です」
クロードはシドウの笑みを受け止め、微笑んだ。
「まったく……非論理的だ!
だいたい、何でお前その傷で立っていられるんだ!」
「理不尽なまでの生命力。
それがキミの得てしまった、能力ということなのかな?」
尾上は苦笑し、シドウの肩を叩いた。シドウが痛みに顔をしかめる。
「僕もついて行かせてもらおうかな、シドウくん。グラーディという男がやっていることは、さすがに見過ごせない。こっちも、全力で事に当たらせてもらおうか」
尾上は抱えている事情のために、彼らについていくと決めた。
「……行くっていうんなら、さっさと行くぞ。
時間はそうないんだろう?」
「トリシャさん。あなたも行くんですか?」
「そうだ。何か悪いことがあるか、クロード?」
「いえ、ただトリシャさんのキャラクターから考えると、ちょっと分からない、と」
その言葉を受けて、トリシャはふっと微笑んだ。
「ふん、別にいいだろうが。この私が何をしようとも。
強いて言うならば……」
トリシャは尾上に片手を出した。
何か寄越せ、とでも言っているようだった。
尾上は苦笑し、自分が持っていた予備のサブマシンガンを渡した。
「エリンとは、短い間だが一緒にいたからな。
少しくらい……気にはなっていたさ」
トリシャは笑い、そう言った。
ここに来て、四人の心は重なった。
進むべき道は、もうたった一つに決まっていたのだ。
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とは言っても、『不帰の森』までかなり距離がある。俺たちが全力で走ったとして、果たして『不帰の森』まで辿り着くのはいつになるか。そんなことを考えていると、尾上さんが馬を連れて来てくれた。馬は二匹、背には荷物がもう積まれていた。
「村の人から無理言って買い入れて来たよ。
こちとら、急ぎなわけだしね」
「なるほど、人の足で行くよりはマシでしょうね。
ちなみに、乗馬経験は?」
「言っただろう、僕は異世界の先輩だよ?
安心したまえ、それなりには走らせることが出来るさ。
馬上戦闘は無理だろうけど、『不帰の森』の近くまでなら問題ない」
「でしたら、もう一匹は私が頂きましょう。
トリシャさん、後ろに乗ってください」
「はぁ? なんで私がお前の背に乗らなきゃいけないんだ」
「人聞きの悪いことを言わないでください。
四の五の言ってる場合じゃないでしょうが」
「いや、それなら俺がクロードさんの後ろに座ればいいだけなんじゃ……」
結局、尾上さんの馬にトリシャさんが乗り、クロードさんの馬に俺が乗ることになった。子供の頃乗馬クラブを見せてもらったことがある。馬の嘶きが、蹄の音が、風を切る音が恐ろしかったのを覚えている。もう一度乗っておけばよかったと、俺はこの時思った。あの時感じた恐怖は、幼さゆえの錯覚だったのだと理解した。
「そろそろ話してくれてもいいんじゃないですか、尾上さん!」
「ええ? クロードくん、何だって?
聞こえないなぁ、僕がまるで秘密を持っているみたいじゃないか!
僕のような好青年を捕まえて、酷いことを言う!」
聞こえていないような反応を取ったが、尾上さんはしっかり理解しているようだった。
「きっとあなたがここにいることは偶然でしょう!
ですが、少なくとも今回の事件はあなたが追いかけているものと、なんらかの関係があると考えている!」
急いでいるからか、クロードさんの言葉は自然と強いものになった。
「察しがいいね。たしかにその通り。
『共和国』から依頼を受けていたのは、《エクスグラスパー》に関してだけじゃない。《ナイトメアの軍勢》もその一部なのさ」
「たった一人にその仕事量押し付けるって、『共和国』の内政どうなってんだよ……」
「しょうがないじゃないか。どこだって慢性的な人手不足なのは変わらないよ。それが、自分たちの生活に直結してこない分野ならなおさらさ。人々はいつ来るか分からない世界の破滅よりも、明日の税金が少しでも安くなることを望むもんさ」
それは、その通りだろう。自分だって、こんな状況になっていなければ、こんなことを考えもしなかったのだろうから。そして、明日の税金も、迫る世界の破滅も、等しく人々にとっては重要なことなのだから。
「それに、この仕事あながち無関係ってわけじゃないんだよ!
僕は召喚なしで現れた《エクスグラスパー》のことを調べていたけど、その中で《ナイトメアの軍勢》とも出会った。
それも、《ナイトメアの軍勢》を操っていたのが……」
「召喚なしで現れた《エクスグラスパー》というわけなのですね?」
「そういうこと!
無関係じゃないどころか、いかにも関係ありそうじゃあないか?」
「確かに、その通りですね。何らかの因果関係があると思っても不思議はありません」
そう言われても、俺には実感はない。俺も召喚なしで現れた《エクスグラスパー》の一人ではあるが、しかし。
《ナイトメアの軍勢》を操るような力が俺にあるとは思えない。もしそんなものがあるのならば、まず真っ先に俺がその力を使っているだろう。
「まあ誰もがそんな力を持っているわけでもないし……まだ調査中なんだよ!」
「ですが、グラーディという男も《ナイトメアの軍勢》を操っている。
あなたとしては、彼が関係を持っていて、その原因が掴めると考えているんですね?」
「ま、行けたらいいなってくらいさ。そこまで求めるのはちょっと欲張りすぎさ!」
そう言いながら、尾上さんは馬を叩いた。少しずつ、馬の速度が加速していく。恐らく、俺が変身して走るよりも速いだろう。自分の遅さに涙が出て来る。
深い森を走るのに馬の足は不向きなように思えた。木の根が飛び出しでこぼこになった地面の上を走るために、馬の蹄は出来ていない。しかも、藪が深く奇襲を受ける危険性もあった。落馬すればただでは済まないし、何よりも借りものだ。
ここで馬を二頭も潰したのでは、スタルト村の人々に申し訳が立たない。俺たちは適当な場所に馬を繋いだ。
「さてと、『不帰の森』に来たはいいが、エリンたちはどこにいるんだ?」
「そうだねえ、これだけ深い森となると、探すにも手間がかかる」
「いえ、尾上さん。それほど悲観したものではないかもしれません。これを見て下さい」
クロードさんはしゃがみ込んだ。その視線の先には獣道があり、足跡が刻まれていた。
「シドウくんは彼らが、デジョンブレードと呼ばれる兵装の力を使って逃げたと言っていましたが、いつもそのようなものを使っているとは思えません。森から出歩くためには、必ず道を使ったはずです。ならば、そのために使った道が必ずあると思っていました」
「こいつを伝って行けば、エリンたちのところまで辿り着けるってわけか……!」
俺はその先を見据えた。どこに続いているのかさえ分からない。数メートル先も見通せない、緑の地獄。しかも、刻まれている足跡は人間のものだけではない。不気味な小さな五本指の足跡。恐らく、ゴブリンやオークのものだろう。だが、止まるわけにはいかない。俺たちは頷き合い、『不帰の森』奥深くまで走り出した。
走る俺たちは、地響きのような音を聞いた。『不帰の森』に近付くにつれ、その音はドンドンと大きくなっていた。
そして、俺たちはその原因をすぐに理解した。
『不帰の森』を《ナイトメアの軍勢》が取り囲んでいる。見慣れたゴブリンやオーク、更には岩のような体をした怪物や、ドラゴンのようなものが空を旋回している。
「参ったね、まさか。あれだけの戦力をここに集中させるなんて」
木の陰に隠れながら、尾上さんは言った。肩にはアサルトライフルとショットガン、腰にはサブマシンガンが二挺。コートのホルスターの中には二挺の拳銃。アサルトライフルにはショットガンの代わりにグレネードランチャーが取り付けられている。
「ゴブリンやオークを相手にするのは問題ないだろうが、ドラゴンは気になるな」
トリシャさんもサブマシンガンをコッキングしながら会話に加わる。
「特に武装を持っているようには見えません。攻撃の時には降りてきますよ」
「ああいうドラゴンて、ブレスを吐いてくるのがお決まりですけどね」
「その時はその時です。攻撃が届くか届かないかは、あとで考えればいい」
尾上さんは懐から双眼鏡を取り出し、ゴブリンたちに守られた森の奥を見た。
「『不帰の森』の入り口に当たる、この辺りに兵力は集中しているようだね。
逆に言えばここを抜けることさえ出来れば、奥まで進むことは容易だろう」
「尾上、お前のシェルショックとやらはどこまで便利なものなんだ?」
トリシャさんは問いかけた。自分の銃にも自由に弾を装填することが出来るのか、と言っているのだろう。だが残念ながら、尾上さんは首を横に振った。
「僕の力が及ぶのは半径数メートル。しかも、結構な集中力が必要でね。
あらかじめ弾を作り出しておくならともかく、戦闘中のオートリローダーとしては考えないでくれ」
「自分の弾を装填するのと、他人の弾を装填するのでは、やはり違うみたいですね」
「……だったら、速攻で抜けていくしかないですね。全部の相手は、出来ない」
俺がさっきやったように、大玉を使って敵陣に穴をあける。その間に突入。ゴブリンやオークの相手をするのは、最低限でいい。
「確かにそれしかなさそうですね。穴が塞がるまでの間に、何とか突破しましょう」
「スマートさがかけらも感じられない作戦だが……兵力が少ない以上それしかないか」
トリシャさんは諦めたように言った。
そうとも、グダグダ考えている余裕はないのだ。
俺は変身した。弱々しいラバー装甲、頼りないガントレットとグリーブ、軽い兜。これが俺の持っているすべての力。全ての力を、渾身の力で振るう。俺は走りながら両手を胸の前に置いた。
見えないボールを掴むようなイメージ。イメージは段々と、紫色の炎へと変わっていく。巨大化した炎を、俺はそのまま前に突き出した。
ゴブリンやオークが、投げ放たれた火炎弾を見た。それを避けようとしたのかもしれないが、遅かった。森の入り口を塞いでいた一団が動く前に、火炎弾は着弾。炎は着弾点から半径十メートル程度のドーム状に炎は広がっていき、
その中にいた怪物を滅却した。
「やるね、シドウくん。行こう、みんな! 今がチャンスだ!」
実際、ゴブリンたちが浮足立ったような様子はない。高度に統率されているか、あるいは感情を抑制され、機械のように動くことになっているのか。いずれにしろ、すぐさま空いた穴をカバーするためにゴブリンが回り、こちらにはオークが向かってくる。
クロードさんがオークを切り、トリシャさんが射殺する。一瞬開いた穴に向かって、尾上さんがグレネードを放った。放たれた榴弾は空中で炸裂し、大量の破片を辺りにばら撒いた。爆殺半径の中にいたゴブリンは、当然ながら全滅した!
「よし、俺も行かねえと……!?」
掌で、ヌルリとした感触があった。俺は走りながら手を見る。ラバー装甲が風化し、掌にはべったりと鮮血がまとわりついていた。これまでの疲労に加えて村での戦闘、更にグラーディにしこたま痛めつけられたことで、体にガタが来ているのだろう。
ラバー装甲はところどころひび割れ、そこからドス黒い血が流れていた。目立たない黒で助かった。
(こりゃあ、長いこと時間をかけちゃあいられねえな。速攻で行かねえと……!)
俺はスピードを緩めず、走る。世界の時間が、泥のように俺の体に纏わりついてくるような感触がした。
俺だけではない。尾上さん、トリシャさん、ゴブリン、オーク。舞い落ちる木の葉すら、ゆっくりと落ちているように俺には感じられた。
人間は死に瀕した時、脳内物質の影響だとかで時間の流れがゆっくり感じられるのだそうだ。だというのならば、俺は死にかけているのだろう。死にかけてなお、クロードさんのように俺は動くことが出来ない。舞い踊るように死を運ぶあの人は、鈍化した時間の中にあってさえ捉えきれないほど速く動いていたのだから。
(出来なくたっていい。俺は俺に出来ることを、やりたいことを、全霊でやるだけだ!)
俺は走る。オークの手が俺に伸びる。頭を下げてそれをかわす。止まらない。ゴブリンの投げた石が俺に飛んでくる。ガントレットを振るい、俺に着弾する石を狙って迎撃。止まらない。オークの一体が突撃しながら武器をなぎ払う。体を丸めるように跳躍しそれをかわし、カウンターのドロップキックをオークのたるんだ腹に放つ。着地。止まらない!
一瞬だって止まってやるか。この体に残された、どれだけあるか分からない時間を無駄にしてたまるか! そんな俺の歩みを止めるために、十体ものゴブリンが立ちはだかる。
指先に意識を集中する。立ち止まり、拳を振るえば確実にこいつらを排除出来るだろう。だが、止まっていたのでは間に合わない。必要なのは止まらずに攻撃する方法。尾上さんやトリシャさんがやっているように。俺は指先に意識を集中させる。
左右五本、計十本の指先に紫色の炎が灯り、収束していく。
ピンポン玉ほどの大きさの火炎弾。先ほど放ったものよりも出力は遥かに低い。俺はゴブリンに向かってそれを投げつける。小さな火炎弾はゴブリンの薄い皮膚を突き破り、内側からその体を燃やす。不快感を想起させる叫び声が辺りに響く。ゴブリンの動きが、瞬間止まった。
ゴブリン程度を一撃で始末出来ないとは。俺に秘められた力とやらはとんでもないものだ。だが、ゴブリンが止まったのならばどうにかなる。俺は立ち幅跳びの要領でゴブリンの頭を飛び越える。苦痛に呻くゴブリンは、それを止めることが出来ない。突破した!
そう思った俺の頭に、影がかかった。巨大な翼をはためかせた影だ。何がいるのかは分かる、上空で旋回していたドラゴンが、俺を食うために降りて来たのだろう。
尾上さんが叫ぶ声が聞こえる。トリシャさんが叫ぶ声が聞こえる。恐るべきドラゴンの咢が、俺をすり潰すために近付いてくるのが分かる。吐き気を催す凄まじい腐臭が俺の鼻に届く。だが、それをどうすることも出来ない。もはや、俺は止まれない。
「繚花剣術一の太刀。『天破斬空』」
そう、静かに言うクロードさんの声が聞こえた。
続けて、刀を鞘に納める音。
最後に、刀を抜き放つ音。
それと同時に、俺を食らおうとしていたドラゴンの左目が潰れた。鮮血が迸り、苦痛にドラゴンが咆哮を上げた。俺は食われることなく、大地に着地した。
「あんまり先行し過ぎないで下さいよ。フォローするのも大変なんですから」
クロードさんと俺の距離は十メートル以上離れている。相変わらず銃を帯びているようにも見えないし、小太刀を抜いたようにも見えない。では刀一本で、この距離を? まるで空気を切り裂き、衝撃波でドラゴンを攻撃したかのようではないか。
「しばらくまだ抜けられそうにないので、シドウくん。先にお願いしますよ」
そう言いながらオークが振るった棍棒を受け流し、返す刀でオークの体を両断した。まったく、この人はどれだけ化け物じみているのだ。どんな力を得ても、勝てる気がしない。そんな人が、俺の後押しをしてくれる。それだけで、どんな助力よりも心強かった。
俺はサムズアップし、走り出した。残ったゴブリンやオークのことは考えない。グラーディを倒せばどうにかなるという、希望的観測があるだけだ。
「待ってろよ、エリン。
それに、リンド。エルヴァ。
グラーディは、俺が倒す……!」
歯を噛み締め、俺は薄暗い森の中を走った。あの時はあてどなく走ったが、いまは違う。俺には達するべき目標があり、倒すべき敵がいる。それだけで十分だった。




