燻る紫炎/覚悟を投げろ
村の奥の方、昨日の夜俺たちが歩いてきた方向から、火の手があがっていた。黒い煙が朦々と立ち上り、空の青に一筋の線を描いていた。火事か? それにしては様子がおかしい。村人たちの切羽詰まった悲鳴は、単なる火災によるものではないように思えた。
「ゴブリンだーッ! ゴブリンが出たぞォーッ!」
何だって! 俺たちはいっせいに構えを取った。
クロードさんはすぐ走り出した。
「女将さん、この辺りには騎士団とか、駐留してないのかい!?」
「こんなところに騎士団なんていないよ!
港の方にはいっぱいいるけどねぇ!」
尾上さんは女将さんに問いかけた。この状況は自分たちで凌ぐしかないらしい。
「女将さん、逃げてくれ! ここは俺たちでなんとかするからッ!」
それだけ言って、俺もクロードさんに続いて行った。ゴブリン程度なら、俺だって何か役に立てることがあるはずだ。走りながら、意識を集中する。あの時感じた感覚を、あの時抱いた情念を思い出す。俺の体を鎧う、『力』を呼び覚ますために!
村の入り口のあたりに、何体ものゴブリンがたむろしていた。手にたいまつのようなものを持った連中もいる、こいつらが村に火を放ったのか? そして、その近くには無防備な村人。怯え、震え、ただゴブリンに殺されるのを待っている。冗談じゃない!
クロードさんが走りながら刀の柄に手をかける。俺の体にも、燃え上がるほど熱いものがこみ上げてくる。俺はそれを否定しない。俺はそれを受け入れる。体が内側から燃え上がるような感覚の中、俺は俺の望む姿に『変身』した。
クロードさんが右手を刀の柄に掛けたまま、左手を閃かせた。村人に攻撃を行おうとしていたゴブリンの頭部に、短刀が突き刺さった。あまりの勢いからか、ゴブリンの体はのけ反り、門の柱に縫い付けられた。助かったと理解した村人からまた悲鳴があがった。
俺も負けてはいられない。走るスピードを緩めずそのまま突撃、進路上にいたゴブリンをサッカーボールのように蹴り上げた。ゴブリンはそのまま吹き飛んで行き、仲間のゴブリンもう一体を巻き込んで村の外へと投げ出された。ゴール!
「逃げてください! ここは俺たちが何とかしますから!」
俺は叫んだ。その叫びが通じたのだろう、人々の震えがなくなった。よろよろと立ち上がり、逃げ出そうとした。それを許すまいとゴブリンが襲い掛かろうとするが、それこそ許さない。俺はゴブリンと村人との間に立ち、威嚇するように構えを取った。
そして、俺に気を取られていたゴブリンの意識は永遠の闇の中に刈り取られた。背後に迫っていたクロードさんが刀を抜き放ち、まとめてなぎ払ったからだ。その剣の威力たるや、見ている方が呆然とするような凄まじいものだった。
優れた刀は人の体――と言っても死体だが――を数体まとめて切る、と言うがまさにその通りのことになった。
「ナイスアシスト。おかげさまで簡単に始末をすることが出来ました、シドウくん」
そう言って刀を鞘に納めた。
刀身は陽光を反射し、輝いた。脂の一つもついていない。
「……まっさかあ、俺がいなくてもなんとかなったでしょ、これは」
お世辞でもなんでもなく、その通りになると思う。変身した意味がないではないか。
「いえ、油断しないでください。まだ、僕たちの敵はいますから」
えっ、と俺が間抜けな返しをしたのとほぼ同時に、火薬の炸裂音が辺りに響いた。家屋の屋根から俺に飛びかかろうとしていたゴブリンの一体が、弾けて飛んだ。
「油断しちゃダメだよ、シドウくん。敵はどこにでもいるんだから、さ」
それを放ったのは、尾上さんだった。彼は硝煙立ち上る銃を肩に担ぎ、言った。M4ライフルに形状が似ているが、ところどころのパーツが違っているように見える。銃身下部にはM203グレネードランチャーのようなものが付いていたが、マガジンもついている。恐らくは、アタッチメントタイプのショットガンだろう。イナゴか何かのように次々と現れ出でるゴブリンを掃討するには、そちらの方が都合がいいのだろう。
「まったく、尾上! お前いったい何なんだ! あのバッグに何であれだけ、入る!」
その後ろからトリシャさんと、エリンも出て来た。トリシャさんの手には小型のサブマシンガンが握られている。粗末なフォアグリップのついたタイプだ。昔自衛隊の装備名鑑で見たことがある。
九ミリ機関けん銃だ。公式で『拳』の字は『けん』だ。命中精度が恐ろしく悪いという評判だろうが、どうなのだろう。俺の背中に当たらなければいいが。
「しかし、これほどのゴブリンが村に浸透してくるとは。
よくあることなんですか?」
「いやぁ、まさか。《ナイトメアの軍勢》とは領地を接しているが、人里に降りて来るのは稀さ。ゴブリンにはゴブリンのルールがある。そうそうカチ合わないはずだよ」
「ということは、こんなことになっているのには理由がある、というわけか」
俺たちの脳裏に一つの言葉が浮かんでくる。グラーディ。
「エリン、グラーディって奴はこんなことも出来るのか!」
「ボクがいた頃は、こんな大規模なことは出来なかったはず……でも!」
「エリンくんが留守にしていた、ほんのわずかな間に彼も進化したというわけですか」
気味の悪い叫び声が辺りに轟いた。俺たちは全員、構えを取る。だがどこから来る?
「サードアイ、展開! ゴブリンの位置は、こちらで捕捉します……!」
エリンの周囲で風が逆巻き、彼女の足元から光の玉が旋回しながら現れた。光はやがて一つの形、すなわち巨大な人間の眼球のような形を取り、独りでに飛んで行った。
「あ、あの気持ちの悪いものは、おっ、お前の力なのか!?」
トリシャさんは顔を青くしながら言った。
誰だってそうなる、俺だってそうなった。
「魔導兵装まで持っているとはね。
グラーディの奴、油断できない相手だな……」
一方、尾上さんは冷静なものだった。
まるでこのことを知っていたような対応だ。
「尾上さん、エリンが使ってるのが何なのか、知っているんですか!?」
「これは魔導兵装。この世界の人間が《エクスグラスパー》を越えるために編み出した魔導技術の結晶であり、この世界の技術を上回る兵器さ」
「《エクスグラスパー》を越えるための技術だって……!?」
「『光』と『闇』の戦いが終わった後、何が起こったと思う?
人間同士の戦いさ。《エクスグラスパー》がいなくなり、この世界の人間が戦わざるを得なくなった。自然と戦線は膠着、この世界の人間はそれを打開するために兵器を作った……らしい」
「らしい、ということは魔導兵装を実際に作ることは出来ない、ということですか」
「ああ。いまは発掘兵器を掘り出し、運用している。魔導兵器自体、《エクスグラスパー》が作ったって噂もあるくらいさ。それくらいこの世界の技術から隔絶している」
過去の戦争で使われた、呪わしき兵器。それを操る、彼女はいったい?
「凄い勢いでこの村を取り囲んでいる……!
こんな数を使って、どうしようと!」
エリンはサードアイを周囲三方に飛ばした。両目を瞑り、意識を集中しているように思える。その額からは弾のような汗が浮かんでおり、魔導兵装の使用が彼女の精神に多大なダメージを与えているのだということを如実に理解させた。
その異様な兵器を使いこなす彼女は、いったい何なのだろうか。
(ッ……! 何を考えてんだ、俺は!
何を使ったって、エリンはエリンだろうが!)
そうだ。どんな力を持とうとも、呪われし兵器を操ろうとも、目の前にいるのはただの少女だ。たった一人、姉妹と袂を分かってでも自由を得るために逃げ出して来た少女だ。
初めて泊まる宿に心躍らせ、笑顔を見せてくれた少女だ。世界でたった一人、俺の味方になってくれた、か弱くてか細くて、守ってやらなきゃいけない子なんだ!
「これを使っている人は、いったいどこに……グウゥゥッ……!?」
突如として、エリンが苦しみ始めた。両眼を押さえ、うずくまってしまった。俺は彼女に駆け寄り、その体を抱いた。脂汗を浮かべながら、しかし彼女は叫ばない。歯を食いしばり、衝動を抑えている。どれだけの痛みが、彼女を襲っているのだろうか。
「エリン! 大丈夫か、しっかりしろ! エリン!
返事をしてくれ!」
「あっ、ぐっ……! だ、誰かが、サードアイを……気を、付けてください……!」
「! 上です、みんな避けてください!」
クロードさんが叫び、バックステップを打った。
彼の言葉は真実だった。天空からいくつもの光線が俺たちに向かって降り注いだ。もちろん、エリンに対しても。俺はエリンに覆い被さった。俺の背中に何発もの光線が降り注いだ。内臓が弾けそうな痛みだった。背のタフさは正面の六倍らしいが、これを真正面から食らっていればどうなっていたか。
「このビーム……! まさか、ここにリンドたちも来ているのか!?」
「可能性は高いですね。あんなものを撃てるのが何人もいれば話は別ですが……」
クロードさんにいつもの余裕は感じられない。というのも、続けてビームが空中から降り注いで来ているのだ。明らかにクロードさんに攻撃が集中していく。それをステップで、フェイクで、跳躍で。紙一重の軌道でどうにかクロードさんは回避していく。
「クロード!」
「近付かないでくださいね、皆さん。どうやら僕に彼女はご執心のようでして……」
言われなくてもあんなところに近付いたら、一瞬にしてスイスチーズになってしまうだろう。それに、俺たちの方もそれどころではない。ビーム攻撃を皮切りにして、第二陣のゴブリンが村に侵入してきたのだ。中には俺が森で見た大柄な豚顔も存在する。
「オイオイ、オークまで出て来るのか!
これはちょっとマズいんじゃないの?」
尾上さんは笑いながら言った。笑ってはいるが、頬には冷や汗が流れている。ゴブリンの数はほとんど数え切れず、四方八方からこちらに迫ってくる。オークはそれほど数が多くないものの、ゴブリンと比べれば体格が大きく、武器も豪華なものを使っている。
尾上さんは指先で射撃モードを変更、アサルトライフルを腰だめにし、ほとんど狙わずに連射した。真っ直ぐに進んでくるゴブリン、狙いをつけるまでもないということだろう。銃声が一秒ごとに数体のゴブリンが挽き肉へと変わっていく。しかし。
「マズい、尾上さん! 敵の数が多すぎる! そのままじゃ弾切れになるぞ!」
銃は強力な兵器だ。だが有限の兵器だ。剣なら切れなくなっても棒切れとしての価値はあるだろうが、精密機械である銃を打撃武器として使用するには勇気がいるだろう。
「安心してくれていいよ、シドウくん。僕は特別製でね……!」
尾上さんはトリガーを引きっぱなしに、迫り来るゴブリンの群れに連射した。おかしい、とっくに弾が切れていてもおかしくはない。M4ライフルの装弾数は三十発前後のはず、マガジンの形状から見ても間違いはないだろう。スペアに差し替える様子もない。
尾上さんは『僕は』特別だと言っていた。それならば、これは。
「これが……尾上さんの《エクスグラスパー》能力!?」
「その通り! これがこの世界に来て発現した僕の力、
『無窮の戦火』! この僕に、弾切れという言葉は存在しないのさ!」
FPSの無限弾モードでもやっているというわけか、リアルで。いや、無限弾モードでもマガジンチェンジくらいはする。これはそれよりひどい。装弾数にも最大弾数にも無限のマークが書かれているタイプの武器だ。清々するくらいのチートっぷりだ。
「つっても、銃自体が疲弊しないわけじゃない。熱ダレも怖いし、この辺で!」
尾上さんはアサルトライフルのトリガーを引くのを止め、代わりに銃身下部に設置されたショットガンのトリガーを引いた。銃火が途切れたのを見計らい、飛びかかって来たゴブリンが肉片に変わり、辺りに撒き散らされた。一瞬、目の前に敵がいなくなったタイミングで、尾上さんはライフルを手放し、コートの中のホルスターから二つのボールを取り出した。カチリ、とスイッチを押す音がした。そして彼はそれを投げ捨てた。数秒後、ゴブリンの群れが突如として爆発。先ほどのものは未来の手榴弾なのだろう。
「まったく、異世界という奴は!
これだから無茶苦茶で、好かないんだよ!」
トリシャさんは尾上さんと背中を合わせ、手に持ったサブマシンガンを小刻みに連射した。広場から来るものと違って、路地から来るゴブリンは数こそ少ないが、屋根を伝って来たり、建物の中を通ってきたりしている。そのため、トリシャさんは疲弊していた。
「それもそうですね、トリシャさん。
いい加減ストレスが溜まって来た」
クロードさんはその場で横回転跳躍を打った。体を捻り空中から放たれたビームを避け、同時に足を薙ぐようにして放たれたオークの棍棒攻撃を回避。回転しながら刀を振り上げ、オークの右手足を切断し、絶命させた。そして何事もなかったように着地。
「とにかく、この砲撃者をどうにかしないと埒が空きませんね」
「しかし、こんな攻撃どうにか出来るものなのかな?」
「出来ないことはないでしょう。この世界にFCSだのCICだのがあるようには思えません。見えない場所から僕たちを攻撃することは、恐らく敵には出来ないのでしょう」
そこから先は言わなかったが、恐らくクロードさんはこう続けたかったのだろう。サードアイはそれを可能にするために開発された魔導兵器なのだろう、と。エリンが『視て』リンドが『撃って』エルヴァが『守る』。これが本来の布陣なのだろう。
「クロード、さん……
サードアイを破壊される寸前、見えたんです。姉さんの、位置」
「本当ですか、エリンくん?
それは、いったいどこのことなのでしょうか?」
「広場の、噴水の先。
奥の森に、姉さんたちは、隠れているはずです……」
どうする。もしかしたら、発見されたから動いているかもしれない。だが、同じくらい動いていない気もする。噴水周辺を取り囲むオークの群れがその証明だ。それは、先ほどから段々と密度を増している気がした。筋骨隆々なオーク戦士が増えてきている。
「クソ!
早いうちに突破しないと、本当に突破出来なくなってしまうぞ!」
家屋の窓を破って突撃して来たゴブリンを機関けん銃の銃底で打ち据え、その隙に飛びかかって来たゴブリンを逆の手のリボルバーで射殺しながら、トリシャさんは叫んだ。
「とはいえ、あれだけの密度を突破できる武装があるかって言われると怪しいけどね」
恐らく、本当に破壊力がある武装はどこかに隠しているのだろう。尾上さんは悔しげに言った。クロードさんが向かおうとするが、まとわりつくビームに阻まれる。
「あの時の……あの時の、紫色の炎が、もう一回出せれば……!」
俺は歯噛みする。あれが出たからと言って、どうなるというのか。オークを一撃で滅ぼすことは出来たが、そんなことはクロードさんなら朝飯前にやっている。だいたい、燃える拳でいったい何を殴りつけろと言うのか。『冥土の土産』とばかりに、リンドが姿を現してくれるとでも?
そんなことは有り得ない。だいたい、あれはあれから一回だって自由に出すことは出来ていない。俺は結局、何も出来やしない。
ギュッ、と。俺の二の腕を、エリンが掴んだ。細い腕。まじまじと見てみたことがなかったが、その手は細く、そして白い。そして、ところどころに擦り傷がある。真新しいものもあれば、古いものもある。逃走の過程で出来たもの。これまでに出来たもの。
(……何度同じことを言わせれば気が済むんだよ、俺)
俺は、エリンの手の甲に、自分の手を合わせた。何が出来るとか、出来ないとかじゃない。出来ないんなら出来る方法を考えろ。もしないなら、体ごとぶち当たって行け。このちっぽけな命を燃やせ。俺は、この子の味方であると、決めたんだから。
俺の覚悟に呼応するように、エリンの手の甲に合わせた右手が紫色の輝きを放ち、やがて炎が現れ出でた。
それは、俺も、エリンも、燃やすことはない。それは、俺の意思に感応し、その姿を変えていった。結局のところ、覚悟が決まっていなかっただけだ。
この力は俺の意思だ。
俺の意思が萎えない限り、こいつは俺の力になってくれる!
俺はエリンの体を庇いながら手を掲げた。紫色の炎は俺の手の中で、何度も複雑な孤を描き飛んだ。小さかったその球はドンドンと大きくなっていく。掌ほどの大きさだったそれは、俺の頭よりも遥かに大きくなり、もはや手で持っていられなくなっていた。
「シドウ……!? それは、いったいなんだ……!」
防戦していたトリシャさんも、思わすそれを見てしまった。それを無視して、俺は腕を振りかぶった。何度も野球には参加させてもらったが、毎回ピッチャーだけはやらせてもらえなかった。無駄に球威があってコントロールがないから、だそうだ。
「今度は外さねえ……!
これを外すなんてことは、あっちゃいけねえんだから!」
俺は投げる。どこにリンドたちがいるのか、それは分からない。だが、投げる。投げなければ、何も望む場所には届かないのだから。俺の手から離れた球が、回転しながら一直線に飛んで行く。
その軌道上にいたゴブリンやオークは、その形に切り取られた。真っ直ぐに球は森の中に飛んで行き、そして森の中から紫色の光の柱が立った。
「凄いな、シドウくん。
放出能力に関しては、なかなかのものかもしれないね」
あれでなかなか、か。《エクスグラスパー》の世界というのは随分と厳しいヒエラルキーのようだ。とはいえ、それも異世界召喚勇者サマのお約束なのだろうけれども。
「さっきの砲撃も止んだようです。
統率者が消えれば、ゴブリンたちも大人しく……」
そう。ゴブリンたちは大人しくなるはずだった。
後でゆっくり二人を探そう。俺はそんなことを考えていた。
だが、そんな妄想は軽く打ち砕かれてしまったのだ。
ゴブリンたちは動きを止めない。
むしろ、その動きを加速させているように見えた。
「冗談だろう、これ以上相手にしろってか!
ボスは消えたんじゃなかったのかい!?」
「さて。消えたところを見たわけではありませんから……
仕方がありませんね、これは」
そう言い、クロードさんは水平に飛んだ。そうとしか言えないほどのスピードだったのだ。ゴブリンたちに向かって矢のように迫っていったクロードさんは一団の前で刀を抜き、なぎ払った。まとわりつくゴブリンたちを巧みにかわしながら、叫んだ。
「尾上さん! トリシャさん! 手伝ってください、こいつらをここで釘付けにします! シドウくん、エリンくんを連れてここから逃げてください!」
「そんな、クロードさん! 俺も、俺だって戦うことは出来る!」
「僕はクロードくんに賛成だよ、シドウくん。いまの状態のエリンちゃんを守りながらじゃ、戦えない。見えない砲撃が止んだいまだけが、ここから逃げ出すチャンスだ!」
俺はエリンを見た。
さっきよりはマシになったようだが、苦しさは抜けていない。
「北東側の出口が、港に続いている。村人もそっちに行っているだろう。
キミは駐留している騎士団を呼んできてくれ。押さえはするが、さすがに厳しいもんでね!」
「くっ……分かりました!
クロードさん、トリシャさん、尾上さん! ご無事で!」
俺はエリンの体を抱きかかえ、走った。
追いすがるゴブリンが、段々少なくなった。