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最弱英雄の転生戦記  作者: 小夏雅彦
立ち上がる、何度でも
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新たなるフォース

 店外にいたエリンとリンドが合流して、四人の朝飯となった。

 幸い、余裕のある席だったので二人が追加されてもまったく問題はない。

 ないのだが、リンドがこちらを見てくる視線が痛い。

 俺と楠さんとを見比べて、何かを察しようとしているようだった。


「えーっと、エリン。リンド。こちらは楠羽山さん。この街で偶然知り合ったんだ」


 よろしくお願いします、とでも言うように二人は頭を下げた。

 楠さんの方は、何とも微妙な顔をしている。

 俺の方に説明を求めるかのように視線を向けて来た。


「あー、すいません楠さん。二人とも、人見知りの激しい子なんで」

「別にそれはいいさ。

 私だってガキの頃は人見知りをよくしたから、その気持ちはよく分かる。

 分からないのはさ、シドウ。あんた、この子たちといったいどういう関係なんだ?」

「別にッ。シドウさんとどういう関係でも、あなたには関係ないのでは?」


 正論だが、あまり言われて面白い言葉ではないだろう。楠さんの眉がピクリと動き、口元が般若めいて反り返ったような気がした。こりゃマズい、話題を変えないと。


「しかし、こんなところで会うなんて偶然だなー。二人とも、何してたんだ?」

「……別に。シドウさんが、楽しげに、女の人と一緒にいるから、気になっただけです」


 まったく話題が変わらなかった。むしろ気まずさだけが増しているように思えた。


「なんだ、お前。こいつが女と一緒にいて、妬いてたのか? いっちょまえに?」

「ベッ、別にそういうことじゃありません。そんなこと、関係ありませんからッ」


 リンドは顔を真っ赤にして楠さんに反論してくる。

 何というか、むずがゆくなってくる。

 楠さんがニヤニヤとした視線を向けて来るのに耐えられない。


「思われてるってことは素晴らしいことだな、ええ? シドウよぅ」

「あの、言わないで下さい楠さん。何て言うか、無性に恥ずかしいんですから」


 客観的に見てもリンドは可愛い方だろう。

 黒を基調としたドレスは彼女の雰囲気に合致しているし、どこか儚げな雰囲気を放つ顔立ちといい、声といい、同年代なら俺だって夢中になってしまいそうな気になる。


 しかし、だ。リンドはまだ子供だぞ? 外見も中身も。

 この子にメロメロになっていたら俺の方がおかしい人だろう。


「リンドも、なんつーか、あー……いや、何でもない」

「言いたいことがあるならはっきり申し上げてくれます?」


 リンドが責めるような視線を俺に向けて来る。エリンも困ったような顔をして、ウェイトレスさんが持ってきたコーヒーを啜っている。何て奇妙な会合なんだ。どこかに突破口だとか、そういうものがあればいいんだが。


 そう考えていると、市街地で悲鳴が上がった。俺は反射的に立ち上がった。楠さんも二人も、周囲の状況を冷静に観察する。エリンは反射的にサードアイを展開、楠さんが訝しげな視線を向けるのにも構わず、悲鳴があった方角にサードアイを飛ばした。


「ッ……! これは、《ナイトメアの軍勢》です! また奴らが市街地に!」

「何だって!? 昨日の今日で、いったいどういうことなんだ……!」


 ウルフェンシュタインの市街地に《ナイトメアの軍勢》が現れるとは、いったいどういうことだ? まさか、避難民の中に『真天十字会』の人間が混ざっていて、それがあの黒い結晶をばら撒いている、とか?

 考えている暇はない、俺は駆け出した。


「楠さん! いきなりで済まないんすけど、その二人のことを頼みます!」

「おい、シドウ! 任せるって、お前はいったいどうするつもりなんだよ!」

「決まってるでしょうが、あの化け物を倒しに行くんですよッ!」


 エリンとリンドの悲鳴のような声が聞こえてくるが、それは一旦無視することにする。相手がどんな怪物かは分からないが、騎士団が到着するまでそれなりに時間がかかるだろう。それまでに多くの人が死ぬ、ならばこの場に居合わせた俺が戦うしかない!


 テラスの手すりを飛び越えながら変身、人波をかき分けて、俺は先へと向かって行った。到着したそこにいたのは、やはり奇妙な姿をした化け物だった。

 簡単に言うならば、直立するカメのような姿をした怪物だった。カメのわりに手足が長くマッシヴだが。背負った甲羅には多数の座薬のような形をした突起がついていた。


「こいつ、やっぱり見たことがねえ! 新手の化け物ってことかよ!」


 カメのような化け物は両手をクロスさせた。迫力が増したように思える、俺は構え直した。すると、カメは意外にも攻撃をして来たりせず、本物の亀のように丸まった。


 甲羅についていた突起が脈動したような気がした。俺は反射的に叫びながら伏せた。次の瞬間、甲羅に取り付けられていた突起の付け根が爆発! 文字通り爆発的な勢いで座薬のような突起が辺りに撒き散らされる! 半径数メートル以内にあった建物の壁に突起が突き刺さり、不幸にもまだ近くにいた人を押し潰し突起が地面にめり込んだ。


 この野郎、ふざけやがって。そう考えて立ち上がろうとした俺だが、撃ち込まれた突起がまた蠢いたような気がして身じろぎした。半透明の突起の中に、何かが見えた。かと思うと、突起が内側から破れた。その中から現れたのは、小さなカメのような怪物!


「こ、こいつ、子機みたいなものを生み出すことが出来るのか……!?」


 発射された突起、すなわちあの化けカメの卵が孵ったわけではない。割合としては一割を切っているだろうか。だがそこから生まれた四体の化け物はすぐに大きくなり、親カメの四分の三ほどの大きさになった。親カメが二メートル大の巨漢であるのに対して、子カメは一メートル五十ほどの身長しかない。威圧感漂う体つきは一緒だが。


 親カメと子カメ――マザータートルとベビータートルとでも名付けようか――はいっせいに俺の方を向いた。一番近場にいた俺を血祭りに上げてから先に進もうとでも言うのだろうか? 望むところだ、俺はフォトンレイバーを引き抜き、トリガーを引いた。装甲が展開されているその最中、ベビータートルたちが俺に向かって飛び込んできた。


「手前ら! 変身中は襲い掛からねえってのがお約束だろうがッ!」


 もちろん、こいつらに特撮番組のお約束が適用されるわけはないのだが。

 最近のヒーローはこういう不意打ちを防止する機能を持っているが、残念ながら俺にはない。いち早く展開を終えたショルダーアーマーの姿勢制御用スラスターに点火、紫色の炎を辺りに撒き散らした。強烈なエネルギーの噴出を受けたベビータートルは逆に吹っ飛んだ。


 マザータートルは意外と堂に入った構えを取り、俺の方に突っ込んできた。

 左腕のジャブを半歩引いてかわし、逆に剣撃を繰り出す。それはマザータートルの右腕で受け止められた。皮膚の表面で火花が舞うが、しかし切断には至らない。硬い。


 強引に剣を振り払おうとする。マザータートルは俺の力に抗し切れず、しばし体勢を崩した。どうやらこの前戦ったランドドラゴンほど力は強くないようだった。崩れたのを見逃さず剣を切り返し、胴体目掛けて剣を振り払う。マザータートルが吹っ飛んだ。


 苦し気に呻くマザータートルに追撃を加えようとするが、横合いから衝撃。

 吹き飛ばされたベビータートルの一体が復帰して来たのだ。力はマザータートルよりも弱いが、不意を打たれたためどうしようもない。

 更に吹っ飛んでいたた先にはもう一体のベビータートルがいた。今度は両手で掴まれた。俺のことを押し潰そうとしているのか?

 何とか振り払ったが、今度は腹に衝撃。左手からもう一体のベビータートルが踏み込んできたのだ。たたらを踏んだ俺の側頭部にもう一撃。やはりベビータートルの仕業だ。


 今度は俺が吹き飛ばされる番だった。火花を散らしながら地面を転がっていく。

 何とか立ち上がるが、マザータートルがその場で反転するのが見えた。

 先ほどよりも数は少ないが、卵があった。

 勢いよくせり出して来たそれが、俺に向かって発射された!


「グワァーッ!」


 弾丸ライナーめいた勢いで放たれたマザータートルの卵が、俺の体に炸裂した。

 肩、腹、胸、頭、様々な部位に卵が弾丸のように叩きつけられた。

 俺の体は再び転がって行った。狙いを外した卵がその壁に辺り潰れたり、潰れなかったりした。潰れなかった卵はすぐに孵り、新たにベビータートルを生み出していった。


「ち、チクショウ……これじゃあ、キリがねえじゃねえか……!」


 肩で息をしながら立ち上がろうとした。だがそれは叶わなかった。強烈な虚脱感、レイバーフォームの活動限界時間だ。俺の体から装甲が消滅していく。


(どうする? シューターを使えばこいつらを殲滅出来る、かもしれないが……)


 フォトンシューターはあまりに威力が大きすぎて、逆に市街地を破壊してしまうかもしれない。かといって、出力を絞るとあのカメどもを排除出来なくなるかもしれない。


「……クソ、迷っている暇はねえ! やれるのが俺しかいないってんなら、やるしか!」

「待ちたまえ、シドウくん! それ以上は我々に任せてもらおう!」


 背後から声をかけられた。誰だ?

 俺は振り返った。だがやっぱり分からなかった。


 四人の騎士たちが、こちらに向かってゆっくりと歩いて来る。騎士団の制服に加えて、マントまで羽織っているからかなり高位の騎士であることは確かだろう。

 胸に輝く勲章は大村さんのそれよりも豪華なので、それは間違いない。だが、これほど地位の高い人で俺に知り合いはいただろうか? 思い出そうとするが、やはり俺の知り合いにそんな人はいない。そうして悩んでいるうちにもう一度卵で撃たれた。


「背中から人を撃つとは。やはり《ナイトメアの軍勢》、騎士の誉れを理解せぬか!」


 リーダー格と思しき髭面の男性が唸った。

 刈り上げた艶のある髪と口元と顎を覆い、もみあげと完全に繋がった髭。鋭い眼光。きっと裏ではクマと陰口を叩かれているに違いない。

 左右に三人の騎士を伴っており、彼らも同じように高位騎士であることが推測された。インテリっぽい短髪の男、ライオンのような金髪をした男、儚げな美女。


(……なんだ、これ。新手の戦隊ものとか、そう言う感じなの……?)


 しかし見ているとイラついてくるぐらいイケメンばかりだ。

 そんなことを考えながら、俺は必死でマザータートルが放った卵の弾丸を弾き落し、奥へと向かって行こうとするベビータートルを押し止めた。

 ゆっくり歩いて来るんじゃねえ、もっと急げよお前ら!


「ああ、もう騎士さん! ここは俺が押さえるから、みんなの避難を急いでくれよ!」


 こう言っては何だが、生身の人間でこいつらを抑えられるとは思えなかった。クロードさんのように極まった力を持っていたり、尾上さんのように優秀な武装を持っているなら話は別だが、残念ながら彼らがそれを持っているようには思えなかった。確かに鍛え上げられた体格をしているが、しかしあの程度で新型は止められないだろう。


「よく頑張った、シドウくん。これ以上は我々に任せてくれたまえ」


 一団のリーダーと思しきクマめいた男のマントがはためいた。

 その下、腰の辺りには特異な形をしたバックルがあった。

 金属質な光沢を放つバックルの真ん中には雄々しく嘶くユニコーンめいた刻印があり、四つの頂点にはそれぞれ赤青黄緑の小さな宝石が嵌められていた。それを見ようと振り返った瞬間、俺はベビータートルに殴られて転がった。


「行くぞお前たち!

 これ以上《ナイトメアの軍勢》の跋扈を、『真天十字会』の狼藉を許してはならん!

 我らの力を思い知らせる時だ……変身(・・)!」

「……はぁ!?」


 這いつくばり、転がりながら俺は騎士の方を見た。

 彼らは一斉にバックルの中央にあったユニコーンの印章を押した。

 すると、バックルに嵌められた四色の宝石が一斉に光り輝き、不可思議な色彩を放った。そこから放たれたエネルギーが大気を揺らした。


 赤い光が輝き、彼らの体を包みこんだ。

 すると、彼らの体を俺の体と同じような赤いラバーめいた装甲が包み込んだ。続けて黄色の光が瞬き、腕と胸元を包み込む。馬上騎士が使うようなシンプルなガントレット、そして胸当てが出来上がる。続けて緑色の光が彼らの足元で輝いたかと思うと、膝から爪先までを覆う強固な具足が形成された。


 最後に、青色の光が瞬いた。光は頭部に収束し、青みがかった銀色のヘルメットを形成した。眼孔部のスリットが白く発光し、《ナイトメアの軍勢》を威圧的に睨んだ。


「我らは神の地上代行者……世界を覆う闇を払うものなり!」


 彼らは全員でポーズを取った。背後で火薬が爆発していれば完璧だった。


「ゆくぞ、我ら騎士団の……人間の底力を、奴らに見せてやれ!」


 彼らは一斉に『応』と叫び、駆け出した。這いつくばった俺を飛び越え、マザータートルの方に向かって行く。それを邪魔するベビータートルの攻撃を容易く受け止め、逆に拳を叩きつけ、投げ捨て、突き進んでく。あからさまに俺よりも強かった。


「俺と同じような力を、騎士団の人たちが……? ってか、あれ何なんだ?」


 ポカンとして成り行きを見守っていたが、背後から上がった悲鳴で我に返った。

 振り返ると、そこでは楠さんと二人がベビータートルに囲まれていた。


「ッ! リンド! エリン! 楠さん!」


 逃げられていなかったか。俺は歯噛みし、駆け出した。

 あの距離ではフローターキャノンの展開も間に合わないだろう。

 間に合わなければ……死!


 二人の怯える顔が見える。楠さんは二人を安心させようと、手を回した。だが、どうなるものでもない。ベビータートルは無慈悲に突き進み、魔手を振り上げている!


「……チッ! 仕方ねえな……使いたくは、なかったんだけど!」


 楠さんの目つきが変わった。彼女は一番手近にいた、手を振り上げたベビータートルの懐に素早く入ると、掌をその体に当てた。すると、どうだろう。ベビータートルの体が一瞬にして燃え上がったではないか。影さえ残さずに、ベビータートルは消滅!


「楠、さん? あなたは、もしかして……」


 エリンが楠さんに話しかけた。彼女は何も答えず、ただ眼前の敵を見据えている。

 もう一体のベビータートルが三人に襲い掛かろうとするが、そうはいくか。

 なぎ払おうとした腕を取り、乱暴に振り払う。力の弱いベビータートルは、俺の力でも簡単に引き剥がすことが出来た。体の泳いだベビータートルに回し蹴りを叩き込み、距離を取る。


 転がったベビータートルを踏み越えて、別のベビータートルが近づいて来る。さっきの連中が始末し損ねた奴らだ。だが、問題はない。俺は腰に回したフォトンシューターを手に取り、トリガーガードの横にあったボタンを押した。

 機械音声が辺りに鳴り響き、俺の全身を追加装甲が覆って行く。力が漲る。

 ブライトフォームの完成だ。


 突っ込んできたベビータートルが手を振り上げる。だがそれが振り下ろされるよりも速く、俺は奴の腹にフォトンシューターの銃口を突き込んだ。ベビータートルの体がくの字に折れ、動きが止まる。

 その隙に出力を調整、『HALF』に合わせてトリガーを引く。ベビータートルの腹を突き破り、弾丸が空へと抜けて行った。


 射撃の衝撃で吹き飛びながら爆散してくベビータートルを無視し、跳躍。

 転がったベビーたーとの首をへし折りながら着地。

 手近にいたベビータートルの顔面にフォトンシューターを叩きつけ、陥没させる。

 同じようなのばかり相手にしていて嫌になる。


 横合いから飛び込んできたベビータートルが俺の胸部装甲にパンチを叩きつけた。

 何の衝撃も本体には入ってこない。

 ブライトフォーム変身時に展開される白銀装甲『プラチナムプレート』は俺の手甲の倍以上の強度を持つという。そしてしなやかだ。


 叩きつけられた腕を振り払い、逆に腰の入ったストレートパンチをベビータートルに叩き込む。くの字に折れながら飛んで行った奴が爆散、そして俺の足元の奴も爆散した。


 向こうはいったいどうなっている? 突如現れた四人の甲冑の方を見てみる。

 非常に優勢なようだった。新たに現れた甲冑の能力はノーマルの俺以上、強化変身を行った俺以下という感じのようだ。その代わり、彼らには培ってきた経験と連携がある。二体一で前後左右から攻撃を行うことで、ベビータートルを確実に始末していた。


 そして、ついに彼らはマザータートルに肉薄した。

 この段になっても、マザータートルは闘志を萎えさせていない。一筋縄ではいきそうにない。ので手伝うことにした。マザータートルが腕を振り払い、甲冑の連中が離れたタイミングを見計らい、銃撃を行う。予想外の方向から受けた攻撃によって、マザータートルはたたらを踏んだ。


「いまだ、あんたら! やっちまえ!」


 特に不平不満が出ることがなかったのは幸いだった。それどころか、騎士の一人は俺にサムズアップで答えてくれた。嬉しいが、誰が誰だか分からなかった。


 彼らは一人一つずつ、バックルに嵌められた宝石を押した。

 ボタンのようになっており、押すと引っ込むようだ。

 それと同時に、バックルから『FULL BLAST!』という機械音声が流れた。

 俺の持っているツールと同じ、ということはトリシャさんが?


 炎の力が右手に、水の力が左手に、風の力が右足に、地の力が左足に収束する。

 バックルの頂点に嵌められている宝石の色と、それぞれ対応しているようだった。


 まず水の力を纏った騎士が動く。彼の右手に集まった水の力は刃のように伸びた。駆け出し、すれ違いざまに一閃。マザータートルの体を守っていた両腕が切り取られた。

 続けて火の力を纏った騎士の右手が無防備な腹に炸裂。凄まじい音と熱を伴い、マザータートルに大きなダメージを与えた。

 最後に、両足に力を収束させた二人が跳躍。空中で交差しながら、それぞれの足に収束したエネルギーをマザータートルに叩きつけた。


 四つの高エネルギー攻撃を受けては、さすがの新型ナイトメアも成す術がなかった。

 両腕を広げて呻いたかと思うと転倒、そのまま爆発四散した。


「『フォース』部隊実戦テスト第一回。無事に終了したようで何よりですな」


 熊のような男の声が、甲冑の向こう側から聞こえて来た。

 彼らはほとんど同じタイミングでバックル中央にあったユニコーンの印章を押した。

 変身も解除も同じアクションで行うのだろう。

 彼らの体が再び光に包まれたかと思うと、再び人の姿が露わになった。


「もっと早く駆け付けられれば良かったのだが、申し訳なかったな」

「はぁ、それはまあ、別にいいんですが。それより、あなたたちはいったい……?」


 俺は頭に浮かんできた率直な疑問を口にした。


「申し遅れました。私はグラフェン騎士団長を務めさせていただいているものです。

 彼らは私の部下、イリューシンにライオネル、アンリです」


 そう言われて短髪、金髪、美女の順に頭を下げて来た。俺の方も思わず頭を下げてしまう。名乗ってくれたはいいが、状況はさっぱり分からない。

 いや、それよりもだ。


 挨拶もそこそこに、俺は変身を解除しエリンたちの方に向かった。


「楠さん、あなたは……《エクスグラスパー》だったんですか?」


 楠さんはバツの悪そうな顔を浮かべて頷いた。

 知られたくないことだったのだろう。

「積もる話もあるでしょうが、ご一緒していただけますか? シドウくん、それに……」


 騎士団長はそう言って、俺と楠さんたちの方を見た。彼女は観念したようだ。


「分かったよ、着いて行く。だから連行とか、そう言うのはナシにしてくれ」

「もちろんだ。人の命を救ってくれたキミを連行など出来ようか?」


 騎士団長は柔和な笑みを浮かべて先頭に立った。

 熊のような外見をしているが、案外気のいい人なのかもしれない。

 楠さんもそうだ、荒っぽい感じだが、いい人だ。


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