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第三十九話 そして始まりへ

「それで、今はどんな感じなの?」

休日明けの月曜日、都合五日ぶりの通学路を歩きながら美帆が美耶に訊ねる。

「うん、身体の方はもう何とも。心の中にBeが居るのも、もうそんな違和感は無いんだけど・・・」

そう言って美耶は日差しに手を翳した。

通学の時間帯だと言うのに、木々の間からこぼれる光は目に痛い程だった。

まるで春の季節が切り取られてしまったように、今日も暑くなる予感がする。


「だけど?」

美帆にとって、Beを滅ぼし切れなかったのは痛恨の極みだった。

父から話を聞いた時には、目の前が真っ暗になったものだったが、超神と相打ちに父が居なくなるよりはましと、今は割り切っていた。

おのれ超神、いつか滅ぼしてくれると、今更ながらに決意する。

「聞いてよ、あたし絶不調なのよ」

「絶不調? 身体は何ともないのに?」

美耶が言うには、Beが美耶の幸運と言うよりも、剛運をマイナス補正しているのだと言う。

Be曰く、美耶が命に執着しないのは自分の運勢に頼り切って居るからなのだそうだ。

何が有っても何とかなってしまう。

そんな幸運に頼りきりでは常識的な人格形成を阻害する。

そこで、美耶の父とも相談の上、運勢のマイナス補正を実施中なのだ。


「階段滑ってお尻ぶつけるし、交差点で車に轢かれそうになるし、もう散々よ」

美耶はそう言ってお尻をさすった。普通の人には当たり前の些細な災厄は、彼女にとって、これ迄出くわす事の無かったアクシデントだったのだ。

「うん。でも、そう言うのは今の内に慣れて置いた方が良いのかも・・・」

美帆がそう言って自分のお尻をさする。

橘媛の神の権能を手放した彼女もまた、これ迄の幸運から見放されていた。

つい先程も、道端でビニールの傘袋を踏みつけて派手に転んだばかりだったのだ。


「それでも、あたし達は生き残ったわ」

ふと、美帆がそう呟く。

今回の事件では、死さえ覚悟した瞬間が何度も有った。

何よりも下手に超神を野放しにすれば、世界その物を死に至らしめてしまう。

大げさでも何でも無く、それが美帆の正直な感想だったのだ。

それに美耶が頷く。

美耶にとっても本当に大変な事件の連続だった。

特に、心の奥底での体験は、美耶と言う存在の根幹を揺らがす程の出来事だった。

それを忘れるなど有り得ないし、忘れ無い為に代償が必要と言うなら、美耶はどんな代償だって支払っただろう。

「そうそう、そう言えば代償って、いったい何だったの?」

学校に近付くにつれ、美耶達に気付き手を振る女生徒達が増えてくる。

それにいちいち挨拶を返す妹に美帆は言った。

「そうね。先ずはあたしにひっ付いて、沢山経験する事かな」

「それが代償なの?」

美耶がきょとんとした顔をする。

「先ずはパパの故郷に行ってみましょう。あたしもそろそろ顔を出さなきゃならない友達が居るし」

「パパの故郷・・・?」

美耶がそれを思い出すのに、きっちり五秒が必要だった。

「でも! それって・・・」

美帆が黙って青空を見上げる。

その方向には朝方の月があって、更にその向こう側には、天の川銀河中央部ハビタブルゾーンが広がっている筈だった。


「えっ、えっ? でもあたし、宇宙語とか分からないよ?」

見当違いのリアクションに、美帆ががっくりと肩を落とす。

「Beが居るじゃない。心に間借りさせてあげてるんだもの、その位は手伝ってくれるわよ」

“ 無論だ。それに、見聞を広める事は君の心の成長にも役立つだろう ”

ごく自然に口を挟んで来るBeは、まるでこれ迄の事など無かったかの様で、すっかり美耶の保護者気取りだった。

「でも・・・」

「そうだ、アルバイトとかしてみない?」

そう言って美帆が手を打ち合わせる。

「向こうなら公官庁とかコネが有るし、堅い仕事に馴染んで置けば、就職にだって役立つかも」

「えっ! 本当?」

今一つ乗り気でなかった美耶が、食指を動かす。

美耶の月々のお小遣いは普通より少な目で、これは、沢山のお小遣いが子供の非行を招くと、堅く信じる父の方針だった。

当然アルバイト等もっての他だったのだ。

「あたしが良いって言うんだもの。パパが文句言う筈が無いわ。どうする? 行ってみる?」

「行く!」

美耶の心のスイッチが入って、たちまち目が輝いて来る。

「この星では出来ない、沢山の経験をしましょう。全てはそれからよ」


日々の健忘に置き忘れた色々を、今こそ取り戻そう。美帆はそう考えていた。

これ迄はBeの、超神の番人と言う責任が彼女の頸木となって、様々な事柄を諦めざるを得なかったのだ。けれど・・・、


行こう。

もう一度、空の彼方を見上げる。

彼の地に置いて来た約束と、幼い頃に抱いた自分との約束に心を馳せる。

美耶を連れ、もう一度あそこへ行って、今度こそ父の汚名をそそぐのだ。


元々が、ニート暮らしの作者が、日記の代わりの軽い気持ちで紡いでいたお話だったのです。

それが、一昨年の暮れから社会人に復帰した事で、自由に使える時間が激減し、話を創ろうという気持ちまでも擦り減らしておりました。

けれど、続きを書く事自体は止めはしませんでした。

二、三日に数行と言う事もありましたが、それでも石に爪を立てるような気持ちで創作を続けていました。

結果、本当に久方ぶりの更新となってしまいましたが、それでも何とか結末を迎える事が出来ました。

此処まで読んでくださった方、お待たせして申し訳ありませんでした。

そして、本当に有り難うございました。

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