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第十八話 本当の自分の願い その二

「美耶ちゃん。あなた、本当にもう大丈夫なの?」


いつものお昼休み。

教室で、お弁当の卵焼きに箸を付けながら涼子が訊ねて来る。

「うん、もうすっかりだよ。心配掛けちゃって御免ね」

頬張っていた蓮根の挟み揚げを慌てて飲み込みながら美耶は答えた。

美耶はその後、三日も学校を休む羽目になってしまったのだ。

毎日見舞いに来ていた涼子は美耶の容態など承知の筈なのに、それでも聞かずには居られないのだろう。

「美耶ちゃんの大丈夫は、全然当てにならないんだから」

不満と心配の入り交じった表情で、涼子が美耶の弁当箱に大きなエビフライを差し入れしてくる。

美耶の大好物のエビフライは、お弁当で食べるのを前提に軽めの油で調理されていて、冷めていても思わず笑顔になる美味しさだった。

“だが、挟み揚げといい、揚げ物ばかりでは栄養に偏りが生じてしまう”


「美耶ちゃん退院おめでとう。これ、お祝いのお裾分け」

「わぁ、智ちゃんありがとう」

何度かお弁当を一緒したクラスメイトの仁科智子が、アスパラの肉巻きを差し入れてくれて、有り難く。

ついでと言う訳でも無いのだが、とっさに声を掛けていた。

「良かったら、智ちゃん達も一緒に食べない?」

「えっ、良いの?」

いつもは二、三人で集まってお弁当を使うのだが、今日は美耶の退院イベントと言う事もあって、勢い机の島が大きくなる。

気が付けばクラスメイトの大半が参加して、ちょっとした食事会の様相を呈していた。


   ◇   ◇   ◇


「結局、美耶の病気って何だったのよ?」

皆を代表して、クラス委員長のよりが訊ねてくる。

「んー、良く分からなくて。お医者さんが、何ちゃら性ストレス障害って、言ってた」

「何ちゃら性って何よ、何ちゃら性って。美耶って、見かけによらずアバウトなんだから」

依が吹き出して、それに釣られるようにクスクス笑いが広がって行く。

「ちょっと、そこ笑う所?」

「だって、色気より食い気の美耶に、ストレスなんて有るわけ無いじゃん」

その言葉にクラスメイト達がどっと沸いて、美耶が頬を染める。

「ど、どーいう意味よ!」


けれど、美耶が不満を呈すると、依はまぁまぁと言って手の平を泳がせた。

「怒らない怒らない。勉強もスポーツも出来る孤高の美人さんが、実は愛すべき食いしん坊だと知って、皆親近感を抱いてるんじゃない」

そう言って、憮然とする美耶にミニハンバーグを差し入れして来る。

「あたし、別に食いしん坊なんかじゃ・・・」

顔を顰めて反論しようとしたものの、依の家のハンバーグの味を思い出すと、ついつい口元が緩んでしまう。

それを見て、涼子が思い切り溜息を吐いていた。

「美耶ちゃん、分かり易すぎ」

“確かに君は自分の事を知らなさすぎる”


皆に笑われているのに、不思議と嫌な感じはしなかった。

少し前まで、こんな感じの人付き合いが苦手だった筈なのに、今はすんなりと馴染んでいる自分を見つけていた。

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」

気が付くと、依に習って、皆がそれぞれにお弁当のお裾分けを始めていた。

「遠慮しない。退院祝いだから」

「いや、気持ちは嬉しいんだけど・・・」

玉子焼きにソーセージ、きんぴらゴボウに海老焼売。美耶の大好きなおかずで、お弁当が膨れあがって行く。

「美耶、イチゴは? 好きだったでしょ?」

「それは、好きだけど・・・」

練乳の掛かった真っ赤なイチゴに心が揺れる。

けれど、一回の食事量としては明らかにカロリーオーバーだった。

“君の身体はまだ成長過程にある。この程度のカロリー摂取は、取り立てて害にはならないだろう。もっとも、君の懸念する体型の維持については、残念な結末に終わるかも知れないが”


『うるさい!!』


何かを面白がる様な調子を感じて、美耶は思わず怒鳴り返していた。

気が付くと、タッパーからイチゴを取り分けようとしていた級友が、目の前で固まっている。

『ごめんなさい!』

我に返って飛び上がる。

「今のはゆっこに言った訳じゃなくって、そうじゃなくって! これ以上食べると太るって、心の中の声に言った訳で・・・」


「ぷっ、くくく・・・」

皆が呆然として固まる中、委員長の依が吹き出していた。平手で美耶の背中を叩きまくる。

「美耶って面白い! あんたって、結構ゆかいな子だったのね。ひょっとして、猫かぶってた?」

堰が切れたようにクラス中に笑い声が広がって行く。

美耶は、恥ずかしさの余り真っ赤になっていた。

「そうじゃなくって、今のは冗談じゃなくって・・・」

小さくなって口ごもる。


そう。全く冗談事ではなかった。

何故なら、精神生命体であるBeは、今も美耶の心の中に居たのだから。

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