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第十二話 星から来た者 その一

千年前、橘媛が父の命により銀河中央に赴いた時、彼女は三つの物をこの世界に持ち帰った。


一つは大量の合成食料。

これは、飛鳥時代の終わりに起こった大きな飢饉から、大和の国を救う為の物だった。


一つには穂積次郎と言う人物。

彼は銀河中央部に存在する大きな世界を統べる者だったが、その地位は、媛の父を裏切って手に入れた物だった。

彼は、自らの心の中に世界の敵である精神生命体を住まわせ、その利害をコントロールする事によって、世界の安寧を保っていた。

けれど、数十万年による精神共生は次郎の心を破綻させていた。媛は、次郎の心から精神生命体を分離することで彼を救ったのだ。


そして、最後の一つ。

橘媛は、次郎の心より抜き取った精神生命体を、この世界に持ち帰った。

仕方が無かったのだ。

精神生命体は滅ぼす事が不可能だった。

そして、何より次郎の心から沢山の情報を得た敵を、そのまま解放する訳には行かなかったのだ。

媛は銀河を滅ぼし掛けた、未だ全容の知れない敵をプログラムシェルに硬く閉じ込め、自らの寝室に置いた。

就寝時には、必ず確認するのが媛の日課だった。

例え酔い潰れていようとも、自らの力を使い硬く封印を施すのだ。

万一それがこの世界に解き放たれれば、何が起こるか知れないのだから。


 ◇   ◇   ◇


ブティックでの買い物の帰り路、いきなり雨に降られた。

ニュースで話題の異常気象という事なのだろうか。この春は特に天候が崩れやすく、その日も予報には無い雨だった。

道沿いのコーヒーショップは雨宿りを求める客で一杯で、両手に沢山の荷物を抱えた美耶達が入り込む隙間は無かった。

フラワーショップ前の軒下の日除けに避難したものの、雨の止む気配は無く、タクシーが通り掛かる様子も無い。仕方無しに美帆が決断していた。


「あたしの宿に行きましょう。此処からならそんなに遠くないから」

「美帆の宿?」


使い捨てのビニール傘を買って、雨の路を早足で歩く。

雨足は更に強く成って来て、美帆の定宿に着く頃には、三人ともずぶ濡れになってしまっていた。

そこは、余り大きくはないが、古くて趣のある洋館風のホテルだった。

フロントに向かおうとすると奥からスタッフが駆け付けて来て、大きなタオルが手渡される。

「連絡下されば、お迎えにあがりましたのに」

ホテルのスタッフは、頼りになるお姉さんと言った感じの女性だった。

「さすがに、此処まで降られるとは思わなかったから」

美耶達は、制服のスカートから雨が滴り落ちる有様で、荷物の紙袋もびしょびしょになってしまっていた。

美帆が女性に、濡れた制服を乾かしたいと頼むと、承知しましたと笑顔が返ってくる。

美耶はほっとしていた。

ずぶ濡れの制服をどうしたら良いかと、先程から心を悩ませていたのだ。

ブティックの濡れた紙袋もそのまま預けてしまう。中を確認して、乾かしてからお持ちしますと言われ、至れり尽くせりとはこう言う事なのかと、心底感心していた。


 ◇   ◇   ◇


「特急で仕上げますから、一時間程お待ち下さい」

美帆の部屋でバスローブに着替えて、濡れた制服を手渡すと、スタッフの女性はきびきびとした足取りで部屋から退出して行った。


「何だか凄い部屋だね」

涼子と一緒にふかふかのソファーに腰を下ろして、改めて美帆の暮らす部屋を見渡す。

美帆は、最上階に二つ有るスイートルームを両方とも貸し切りにして暮らしていた。


「此処のオーナーとは知り合いで、安く貸して頂いているのよ」

落ち着いた感じの内装に、凝った造りの家具が置かれていて、ちょっとしたお姫様気分になる。

外泊の経験の少ない美耶には、ホテルの善し悪しなど分からなかったが、それでもその部屋はリラックス出来そうな暖かな感じの部屋に思えた。

窓からは、今も雨に煙る鉛色の景色が見渡せる。

先程迄塗れながら歩いた街が、今では別世界の様だった。

曇天のため見通しが悪かったが、晴れれば湘南の海まで見通せるらしい。


「ついでだからシャワーを使ってくれば? 身体が冷えたでしょう?」

美帆にそう言われて、美耶は自分の身体が冷え切っている事に気が付いた。

「美耶ちゃん先に使って。私、疲れたから後にする」

涼子から言われて、美耶はふかふかのソファーから身体を起こした。

洋式のバスタブは初めての経験で、使い方を習ってシャワーを浴びる。

外国製のボディーソープは薔薇の香りがして、何だか海外旅行をしている気分になった。


シャワーでゆっくりと暖まってから美帆と交代する。

身体を拭いて下着を着けようとしていると、美帆がクローゼットルームに新品が有るから使うようにと言ってきた。

歳経た姉は気前が良い。

正直、一度使った下着を身に着けるの抵抗があって、その言葉に甘える事にした。


「涼子?」

バスローブの格好で部屋に戻ると、従姉妹は先程の格好のままソファーで眠ってしまっていた。

雨の中を歩き回って、余程疲れたのであろう。

美帆が言ったクローゼットルームは、美耶には何処を指しているのか分からなかった。

仕方なく一つの扉に見当を着けると、足音を立てないようにドアに近付き、ドントディスターブの札が掛けられたドアノブを回す。


「うわぁ! 」


美耶は思わず悲鳴を上げてしまっていた。


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