表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

猫耳と太田君の話

 翔也と友達になりクラスのみんなとも少しずつ話ができるようになってきた。クラスのみんなはいい人たちばかりで一部の人以外とは結構普通に話せるようになってきた。これまでの癖のせいで翔也以外とはまだ敬語が抜けないのをなんとかしたいんだけど……

 両親が亡くなってから数年ぶりに今が幸せだと断言できる。これもシーナがやって来てからで、僕にとって彼女は幸せを運んできてくれる招き猫だったみたいだ。

 そんなシーナと僕は今商店街にある小さな本屋に向かって手をつないで歩いていた。シーナの小さな手はぷにぷにと柔らかくとても暖かかった。

「にゃー」

 シーナも見るからに楽しそうでその顔を見るだけで幸せな気分になってくる。水色のワンピースの下からはわずかに尻尾が機嫌よく振られている。

「ん? そこにおられるのは転校生殿……っと歴殿とお呼びした方がよかったですな」

 声を掛けてきたのは色白でやせぎすな少年、同じクラスの太田君だ。教室ではいつも本を読むか何かを書いている。大仰な語り口調は僕の敬語以上にクラスでは目立っている。僕の敬語があまり気にされないのは彼のおかげなのかもしれない。

「やあ、太田君。買い物ですか?」

 ここ数日の成果で自然に挨拶ができたと思う。

 太田君は何やら大きな袋をいくつも抱えていた。彼が出てきたのは虎縞模様の猫が描かれた看板のお店だった。一見して何のお店だかわからなかったが、入り口を覗くとCDが並んでいたのでCDショップなのだろう。

「漫画とラノベを少々」

 そう言って細い筒のはみ出た袋を掲げる。

「ここ本屋だったんだ。ずいぶんとたくさん本を読むんですね」

 てっきりCDショップだと思っていたから少し驚いたけど奥にのぞく階段の先は本を売っているのかな?

「ここは漫画、ラノベ、アニソン、円盤、ゲームといわゆるオタク向けの商品が集まっている店ですな」

 そういったお店があるとは知らなかった。まだこの町に来てからスーパーと本屋くらいしか行ったことがなかったから他に何があるのかもよく知らないんだ。素直に感心して頷く。

「そうだ、歴殿は以前未来来市に住んでおられたのでしたか? では、魔法獣っ娘らぶりーカレン&ぷりてぃーユーナ―二人のとき☆めき―をしっておられますかな?」

「まほ……? 聞いたことない……です」

 何かのタイトルだとは思うんだけど聞いたことのないものだ。そもそもここ数年テレビなんて見ていなかったから何が流行っているのかも知らない。

「その作品と未来来市がどうかしたんですか?」

「その作品は女児向けアニメなのですがそのモデルとなったのが未来来市なのです! 小生はその作品……通称まほカレのファンでしてな、たとえばショッピングモールニュー未来来では主人公の二人が互いの想いをぶつけ合って戦う名シーンとしてファンの間では有名なんですぞ!」

 太田君がいつにない勢いで語り始めた。それだけ好きってことなのかな……?

 突然の変わりように若干たじろぐ。

「そ、そうなんだ。ニュー未来来なら何度か買い物に行ったことありますよ」

「では一階の二番ホール北側通路脇にカレンちゃんとユーナちゃんの等身大フィギュアが飾られているのはご存知ですかな!? 原作者の魔法少女大好きスギル先生が出身地でもある未来来市に寄贈したものが飾られているはずなのですが!」

 おばあちゃんと何度か行った時、子供たちが集まるホールに……

「ああ! ありました!」

「それがまほカレなのですぞ! 女児向けながらしっかりとした人間関係の変移や大切な人を守るために戦う少女たちの熱いバトルなどが描かれた大変おすすめな作品なのでぜひ見てほしいですぞ! 小生布教用のブルーレイディスクを持っているのでよければお貸しします!」

「あはは……嬉しいんですが、僕の家テレビとか無くって――「なら、ノベライズ版かコミカライズ版はいかがですかな!?」

 かぶせるように言われ、漫画ならシーナでも楽しめるかと思う。

「なら漫画の方を貸してもらえるとうれしいです……」

「わかりましたぞ! 小生の家はここから五分ほどなので良ければ今から来ますかな?」

 満面の笑みで太田君が家に来ないかと誘う。

「あ、でもこの子が……」

 さっきから早口でまくしたてる太田君に驚いたのか、シーナは僕の後ろに回って腰にしがみついている。僕は大丈夫だよという気持ちを込めて頭を撫でてあげる。それだけでシーナは安心しきった表情を浮かべた。

「ネコミミキター!」

 突然太田君が叫んだ。

 さっきから遠巻きに僕たちを見ていた町の人たちが一斉に半歩下がる。僕も下がった。

「こちらの可愛らしいお嬢さんはどちらですか!?」

「この子は……」

用意してあった言い訳をする。

「なるほど、シーナたんというのですな。小生は太田重蔵と申す者であります! 歴君の友人としてよろしくであります!」

 そう言ってびしっと敬礼を決める。

「にゃー?」

 太田君の様子にか、僕の友達と名乗ったからかシーナは太田君を真似て小さく敬礼をした。


 その後はシーナを見ては悶える太田君の家に行きまほカレの漫画を借りてアパートに帰った。




 ……ちなみに漫画はスピンオフ?など何種類もあり合計60冊以上あった。腕と腰が痛い。


未来来市ミラクルし、主人公の以前住んでいた街。大型ショッピングモールやアミューズメントパークなど多くの施設があり賑わっている。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ