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猫耳と絵本を読むだけの話?

この話からなんでもありのファンタジー色が強くなってきます。

 学校の帰り道、シーナに読んで聞かせるための絵本を本屋で買う。何を買おうか迷ったけど数冊選んだ。

 どんな話が好きか分からないのでわかりやすそうな話から違ったテーマの絵本を買った。

 楽しんでくれるといいのだけれど。




 絵本の入った袋を揺らし、ボロアパートの階段を上る。一歩ごとに軋む音がして、上るたびに不安にさせられた。

 それでも今日は学校でいいことがあった為そんなことは気にならない。

 シーナはちゃんと留守番できただろうか。そちらの方がよっぽど僕の頭をぐるぐる回っている。

「ただいま」

 鍵を回し扉を開ける。

「にゃあ!」

 開けた途端シーナが飛び掛かってきた。なんとなくそれを察していた僕はしっかり踏ん張ってシーナを受け止める。

「……っと。ただいまシーナ。帰ってきた人にはお帰りって言うんだよ」

「おかーり!」

 元気に答えるシーナの頭を撫でてやる。

 部屋に入ってシーナに絵本を渡してやった。

「これ読める?」

「にゃ?」

 当然のように頭をかしげている。一応会話ができるのだからある程度の日本語はわかるはずだけど……

 読んで聞かせているうちに少しずつ覚えていくかな?

「シーナ、絵本を読んであげるよ」

 そう言って二人ならんでテーブルの前に座る。

「昔々……」




「やあやあ我こそは桃から生まれた桃太郎! 悪さをする鬼め退治してくれる!」

 そんな声がして僕は閉じていた目を開いた。

 殺風景な場所だった。周りを海に囲まれ岩場があるばかりの寂しいところだ。

 目の前には古臭い服を着た男の子とサル、キジ、イヌがこちらを睨んでいる。

 どう見ても桃太郎だ。

 対する僕の格好はというと裸に腰巻を巻いただけという粗末な格好にとげの付いた棍棒を手にしている。

 だけどいつも通りの貧相な自分の体であることに変わりはなく、むしろ貧弱さを強調しているようにしか見えない。

 そこまで確認して自分が夢を見ているのだと気がついた。

 シーナに絵本を読んであげながら自分も寝てしまったのだろう。

 だけどなんでよりにもよって鬼の役なんだ。

「にゃー」

「シーナ?」

 足元から聞こえた猫の鳴き声に視線を落とせばそこにはいつかの真っ白な子猫がいた。

「やああ!」

 と、状況が呑み込めないでいる僕に向かって桃太郎が刀を振り下ろしてきた。

「うわっ」

 慌てて避ける。

 手には棍棒。だけどこんなもので殴るなんて夢であってもしちゃいけない。

 どうしよう。

 どうすればこの状況をなんとかできる?

 焦る僕の目の端に白猫の姿が見える。

 三匹の動物たちが白猫に襲い掛かっていた!

「やめろぉ」

 急いでそちらに駆け寄り棍棒を振り回して追い払う。

 だけど後姿を見せた僕を桃太郎が見逃すはずもなく、背中をバッサリと切られた。

 不思議と痛くはない。やはり夢なのだ。

 安心するのと同時、あたりの風景ががらりと変わった。


「今度は何?」

 辺りは雪がこんこんと降っている。

 寒い。

 そう思って肩にかかった雪を払おうとして気がつく。体が動かない。

 でもすぐに状況はわかった。

 僕は地蔵様になっていたのだ。

 さっきは桃太郎で今度は笠地蔵である。

 ここまでくれば僕でも分かった。今日シーナに買ってきてあげた絵本の夢を見ているのだ。

「てことはこの次に見るのは鶴の恩返しかな?」

 今日買った絵本はその三冊なのだ。

「お地蔵さまも寒かろう」

 思考に耽っていた僕の肩に積もった雪を払い頭に笠を乗せてくれたのは人のよさそうなおじいさんだった。

 横にはなぜか子猫の石像があり、その石像にも風呂敷をかぶせてあげていた。

 そうしておじいさんは寒そうに手をこすりながらゆっくりと帰って行った。

「じゃあお礼をしに行こうか」

 隣の猫の石像にそう言うと目の前にいくつもの米俵が現れ体が動くようになった。

 おじいさんの足跡を追って米俵を運ぶ。猫の石像は僕の頭の上に乗っていた。

 でも重くはなかった。これも夢だからかな?

 一歩一歩、歩き慣れない雪道を歩いていく。

 ようやくたどり着いたおじいさんの家の前に米俵を置くと、また風景ががらりと変わった。


 今度の僕は鶴だった。

 自分の羽を使って織物をしている。やり方なんてわからなかったけど勝手に体が動いた。

 足の上には白猫が丸くなっている。

 僕は羽を織る。

 何日も、何日も。

 あと少しで完成というその時、戸を開ける音がした。

「あ」

 と思った時には遅く、鶴の姿をしている僕の姿をおじいさんに見られてしまった。

「お、お前さんは……」

「決して開けてはならないと言ったのに……」

 ここでも勝手に僕の体は動き、あと少しのところで完成だった織物を残して飛び去った。


「変な夢だったなぁ……」

 僕は目を覚ました。今度こそいつもの僕の部屋である。

 テーブルに突っ伏して寝ていたようだ。

「シーナは……」

 隣にいたはずのシーナがいない。と、そこで足の違和感に気がつく。

「……んにゃぁ」

 僕の膝を枕にして気持ちよさそうに寝ていた。

 ふぁさりと広がる美しい銀髪に指を通す。細くて、すべすべでいくら触っていても飽きない。

 ゆっくりと毛先から梳いていく。少しずつ根元に近づくように何度も、何度も。

 おばあちゃんが髪を梳いていた姿を思い出しながら丁寧に。

「にゃぁ……」

 シーナが気持ちよさそうに鳴いた。

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