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猫耳と目を覚ますだけの話

 とりあえず明日はシャンプーハットと布団を買いに行こう。そう決意して僕は眠りについた。

 家には布団が一組しかなかったのでシーナを布団で寝かしつけた後、僕は部屋の隅で毛布にくるまる。


 まだ春先と言うこともあって夜は少し肌寒かったが起きてみれば暖かかったので問題なさそうだ。まだ目ざまし時計はなっていない。

 僕はそのまま近くにあった枕を抱いて二度寝した。




 これは夢だ。

 ぼんやりとした意識の中で状況を確認する。いわゆる明晰夢というやつだと思う。

 教室の前に立ち先生の合図を待っている。

 まるで映画でも見ているかのように自分の身体の後ろから眺める事しかできない。

 これはほんの二ヶ月前の記憶だ。二月のあの日僕は華利根中学校に転校してきた。シーナだった?猫を拾う数日前のことだ。

 初めて見る教室のドア、見慣れない廊下、何もかもがこれまで生活していたすべてと違っていた。

 扉の向こうからはまだ見ぬ同い年の少年少女たちの喧騒が聞こえてくる。

 今日から僕もこの中に入ることになる。はたしてうまく馴染めるだろうか。こんな季節はずれの時期に転校してきたわけで、イジメられたりしないだろうか。

 次々と不安が浮かんでは消えていく。

 担任の男性教諭のどうぞという声に覚悟を決めドアを開けた。

 一斉に集まる好奇の視線に心臓を鷲掴みにされたような痛みが走る。どんどんと心臓の音が激しくなっていく。だけどココで失敗する訳にはいかないと表情を引き締めた。

 無難な自己紹介だったと思う。名前と、前に住んでいた場所について、それと趣味。転校してきた理由については変に気にしてほしくなかったので家の都合でと言うことにした。

 中学生らしいアホな内容を含むいくつかの質問に答え先生に指示された席に着いた。大体教室の中心だった。

 こんなところの席が空いているわけがないので、たぶん僕が早く馴染むように席をずらしてくれたのだろう。幸いなのかクラスには空席も多く生徒の数は三十人かそこらのようだから席の融通は利いたみたいだ。

 前の学校は一学年五クラスあって同級生も二百人近くいたからクラスが一つしかなく、全校でも百人程度しかいないこの学校はだいぶ小さく感じる。

 でもそのすべてが知らない人なわけで。

 若干人見知りのような感じになってしまっていた僕に何人かの子が話しかけてくれるが、上手く返事を返すことができない。

 そうして始まった僕の新しい学校生活の始まりを夢と言う形で追体験かのごとく思い出した。まあ自分のことだから追体験と言うのはおかしいのだけれど、夢だからかどこか他人事のように見ることができた。

 ……うん。これはないよ…………

 今更ながらに自分を客観的に見ることができて自分の情けなさがわかった。せっかく仲良くなろうと話しかけてくれているのに「……うん」とか「……そうだね」とか話しかけるなオーラ全開の受け答えしかできてないじゃん!

 今日からはもう少しまともに会話できるように頑張ろう……

 今更な決意を胸に抱いたところで目覚ましの音が鳴り響いた。



「ん……ぁあ」

 口を大きく開けて欠伸をしながら目をこする。何やら重たい。

 仰向けに寝転ぶ僕のお腹が大きく膨れ上がっていた。正確にはその上にかぶさる毛布が。

 僕は何でこんな部屋の隅で寝てるんだっけ……?

 その疑問の答えを思い出して慌てて毛布をどけた。


「……にゃぁぁ」


 そこには昨日の夜には布団の中にいたはずのシーナが僕のお腹の上にぐでーんと寝ていた。

 たぶん天井から今の僕たちを見ると十の形に見えるんじゃないだろうか。いやシーナが小さい分(短剣符)の形だろうか。

 ってそんなことはどうでもいいんだ。何がどうなってこんな状況になったんだっけ?


 可能性一、シーナが寝ぼけて僕のところに来た。うん、これが一番ありそうだ。僕に非はない。

 可能性その二、シーナの寝相が驚くほど悪い。これも僕に非はない。

 可能性のその三…………は何だろう?寝ぼけた頭で二度寝したことは覚えているんだけど。その時妙に暖かくて近くにあった枕を抱きかかえてもう一度寝た……っあ。

 可能性その三、僕が寝ぼけてシーナを抱き枕代わりにした。

……

…………

………………

「アウトォ!」

 僕何やっちゃてんの!? 見る人が見たら完全に通報されても文句言えない状況じゃん!

 思わず叫んだ僕の声がうるさかったのかようやくシーナが目を覚ました。

「んにゃ~」

 気にしていないみたい。うん、そうだよね。猫だもんね。猫を抱えているだけだと思えば何の問題もない。そうに違いない。そういうことにしよう。そういうことにしてください。お願いします何でもしますから!

 欠伸を一つして目をしぱしぱさせているシーナを見てそれ以上気にしないことにした。このままだと勝手に墓穴を掘りそうだもの。だからこういう時の挨拶を一つシーナに教えることから今日の一日を始めよう。


「シーナ、おはよう」

「にゃー!」


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