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猫耳とご飯を食べるだけの話

 シーナと自宅であるアパートへと帰る道すがら、スーパーに寄った。

 僕は料理なんてできないから、大体いつもスーパーの惣菜や弁当で済ませてしまう。それも閉店間際の売れ残った値引きシール付きの物だ。

 誰かの手料理というならまだしも、食事は栄養摂取程度の認識でしかなく、安くて腹が膨れれば良い。というのが僕の持論だ。

 勿論、同じ安い物なら美味しい物を食べたいが、その為に遠出するのも面倒だし。

 そんなわけで今、僕たちはスーパーの中である。

 住職さんが用意してくれた帽子のお陰であまり目立たずにすんでいる。お寺に行った時とは比べられないほど人目が減った。

 水色の可愛らしいニット帽で住職さんの奥さんが以前使っていた物を譲ってくれたのだ。もう4月とはいえまだまだ夕方以降は冷えるからちょうどいい。

 惣菜コーナーを眺めながら弁当売り場を目指す。

 安物の腕時計を見て歩幅を緩め、ペースを落とした。後数分で割引シールが貼られることを経験で知っていた。

 近くまで行くといつもの店員のおばちゃんがシールを貼っていた。

「あらぁ! 今日も来たんね! たまには栄養のあるもん食わんといかんよ?」

 そう言って貼っていた30%引きシールとは別に半額シールをこっそり渡してくれる。

「内緒だよ」

 ウインクのつもりなのだろうか、両目をバチンと閉じ左目だけ開く。

「いつもすみません」

 その事に思わず吹き出しそうになるが、たまにこうして()()をしてくれる優しい人だ。いくら感謝してもしたりない。

「あら今日は可愛いお連れさんがいんね?」

 シーナに気付いたおばちゃんが驚く。

「んー?」

 首を傾げながら見つめ会うシーナとおばちゃん。

「しばらく親戚の子が泊まっていくことになったんです」

 事前に考えていた言い訳を使う。とりあえずこれで誤魔化すしかない。

「あら〜じゃあもう一つあげないとねぇ」

 半額シールをもう一つ。

「流石にそれは……」

「子供が遠慮せんねっ」

 無理やり手渡されたそれに申し訳なく思いつつ、一番安いノリ弁を二つ買って帰途に着いた。




 電子レンジから取り出したノリ弁を二つテーブルに並べる。

 焼けて色が変わってしまっている畳にちゃぶ台の様な丸く足の短いテーブル、後は古い洋服箪笥くらいしかない部屋だ。シーナと向かい合って座る。

 シーナのわくわくしたようなキラキラした瞳に罪悪感を覚える。

 ごめん、それ売れ残りの値引きされたただのノリ弁なんだ……

「何か食べれない物ってある?」

 確か猫は葱や烏賊を食べさせちゃいけなかったはずだけど……それを言ったら人間用の濃い味付けの物も全てだめか。

「ないよぉ?」

 無いらしい。本人が分かってないのか、幽霊みたいなものだから平気なのか判断に迷うけど本人が大丈夫だと言うのだから良いのだろう。まさか死ぬことはあるまいし。

「じゃたべよう、頂きます」

「いただきます〜?」

 首を傾げるシーナ、背中に流している白銀の髪がそれに合わせて揺れる。猫耳がピクピク動く。

 容姿に惑わされそうになるけど、やはり人ではないんだよね。このくらいの子なら誰でも知ってる様な当たり前も知らないんだ。

「頂きますっていうのはね、料理を作ってくれた人や食材を獲ったり作ったりしてくれた人、今日だったら安くしてくれたおばちゃんも。このご飯を食べるのに関わった色んな人にありがとうって気持ちを込めて頂きますって言うんだ」

 普段何となく言ってる挨拶だけど初めて知る子にはこのくらい説明した方がいいよね。

「じゃーお兄ちゃんにもいただきますぅ」

「へ?」

 突然の僕への頂きますに驚いて変な声が出た。

「お兄ちゃんが買ってくれたからー」

「そ、そうだね」

 何だかむず痒かった。

 もう一度頂きますを言ってから食べたノリ弁はいつもと違う味がした。

 シーナを見れば箸をゲンコツみたいに握り込んで持っている。

 それでちくわの天ぷらを刺してかじりつく。

「ふにゃっ」

 驚いた様に箸を取り落としてしまった。どうやら熱かった様だ。

 やっぱり猫舌なのかな? そんなに熱くなっていないはずだけど……

「大丈夫?」

 若干涙目になりながら頷くシーナ。

 仕方ないか……

 僕はシーナの向かいから隣に動き、オカズを箸で一口サイズに小さく切る。これで大分冷めやすくなったけど……

 シーナは警戒してか自分で食べようとしない。

 僕はちくわに息を吹きかけ冷ました後一切れ口に放り込んで見せた。

「ほら、おいしいよ?」

 それでやっと弁当に興味が戻る。じっとちくわを見ていたかと思うと、

「さっきのふーふーしてー」

と頼んできた。

「はいはい」

 完全に小さい子どものお世話だけど、どの辺が僕の守護霊なのだろう。

 また一切れ箸で掴み息を吹きかけ、弁当に戻そうとしたところで、

ぱくりっ

 箸から直接食べてしまった。

 もぐもぐしてちくわを飲み込んだシーナは満面の笑みでこういうのだ。

「おいしいねー」




――なんかもう守護霊とかどうでもいいや。シーナが満足するまでここにいさせてやろう。


 こうしてシーナが来てから初めてのご飯は賑やかに過ぎていった。

いい人その2

スーパーのおばちゃん

ちなみに彼女は店長に言って割引の差額は店に払っています。

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