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猫耳の今後について決めるだけの話

 とにかく住職さんに話を聞いてみよう。ここがお寺でよかった。

 猫の仏もお寺でいいのかという疑問は湧いてこなかった。




「おや、れき君。今日は可愛らしいお連れさんがいるのですね」

 そう言って僕たちを出迎えてくれたのは、坊主頭に人の良さそうな笑みを浮かべた住職さんだ。

 住職さんはお寺の近くに建っている小さな建物に案内してくれる。何て名前なのかは知らないけど、住職さんがたまに寝泊まりをする場所らしい。

「今日はこの子のことで相談があって来ました」

「ふむ…」

 猫耳幼女を見る住職さんの目が、普段のニコニコと細められたものから迫力を感じさせられるものへと変わる。

「これは……猫又……?いや…………」

 しばらく何事か考えていた住職さんだったが、やがて結論が出たのか普段の穏やかな笑みに戻った。

「とりあえず害は無さそうですので安心してください」

 言われてみて初めて明らかに普通じゃない猫耳幼女に警戒していなかったことに気付く。見た目はこんなでも人ではないのに。

「その様子ではあまり警戒していませんでしたね? まあこの容姿では致し方ないですが……」

 そこで住職さんは一度区切り、考える素振りを見せた。

「これは知らなければ知らないままの方がいいのですが、既に関わってしまっている以上説明しないわけにもいかないでしょう。そちらの猫を見れば分かる通り、この世界には人ならざるあやかしやこの世に『悔い』を残しさ迷う霊が存在します」

 その言葉は目の前に実物がいて尚僕に衝撃を与えた。

「それらはほとんどの人には視えません。それこそ寺や神社の人間であってもです。ですが歴くんはこれからそういったモノが少しずつ視えるようになるでしょう」

「えっ!?」

「妖や霊に触れた者はそういったモノ達に引かれやすくなってしまうんです。ですのでそれに対する策を含めて説明させていただきます」

 住職さんの雰囲気に合わせ僕も真剣に話を聞く。

「まずそちらの猫ですが、おそらく歴くんの守護霊になっています」

 言われて猫耳幼女を見るが、貰った饅頭をかじかじしている姿からはとても何かから守ってくれるようにはみえない。

「多分猫又の成り損ないかな。本来猫又というのは山猫が化けたものだとか、長く人に飼われたものがなるなんて言われているけど、その子は大分幼いうちに死んでしまったから猫又になるには力が足りなかったのでしょう。半分浮遊霊に成っています。そこまでしてでも歴くんを守りたかったようですね」

 この子はいったい何故そこまでして僕を守ろうとしてくれるのだろう。僕がやってやれたことなんて、精々がお墓を作ってやったくらいだ。それに今時守ってもらわなくても大した危険なんてない。

 猫耳幼女を見たら手についた餡子あんこをペロペロ舐めていて、むしろ何も考えていないんじゃないかとも思う。

「汚いからこれで拭きなさい」

 ハンカチを渡してあげる。

「それで僕はこれからどうしたらいいんでしょうか?」

「基本的には何か見えても無視をすることですね。霊などは自分たちを認識することのできる人間がいてもそうそう気になりません。大抵の霊は悔いを無くすことしか考えていませんから。それでも近づいてくる場合は私のところに来てください」

 策と言うから、何かお札的なものをくれたり、お経を教えてくれたりするのかと思ったけど必要ないみたいだ。

「もちろんすぐに私のところに来れない場合は別に護身手段を渡しますが、極力彼らとは関わりにならない方がいいです」

「わかりました」

 自分よりもはるかにこういったことに詳しいであろう住職さんが言うのだから問題はないのだろう。後は具体的にこの子についてどうするかを考えないと。

「この子は……」

「ふむ、無理矢理成仏させることができないわけではないですが、できれば歴君を守るという思いを遂げさせて成仏させてあげてください。けして歴君の害になることはないはずですし、しばらく一緒にいて自分がいなくても大丈夫だとわかればそれほど時間もかからずに成仏するでしょう」

「でも食費とかを考えると……」

「それについては安心してください。本来妖や霊は食事を必要としません。たまに食事をすることのできる妖もいますが、栄養補給が目的ではないので絶対に食べなければいけないということはないです」

「そうなんですか」

「ええ、何か問題が起きましたらすぐに私が対処しますのでためしに何日間かだけでもそばに置いてあげてみませんか?」

「わかりました。住職さんがそうまで言うならきっとその方がいいんですよね。この子はしばらくウチで面倒見ます」

「よろしくお願いします」

 こうして猫耳幼女の今後について話し合っていたが当の本人は全くこちらに興味もなく二つ目の饅頭を食べていた。住職さんのいつになく真剣な、いや、僕の両親と祖父母の葬式の時にも見せていた真剣な様子になかば飲まれてしまったけれど、本当に僕なんかがこの子の面倒を見れるのだろうか。そこまで考えて本人は僕を守ると言っているのだからそこまで大変なことにはならないだろうと思い直す。

「いつまでも猫耳幼女じゃかわいそうだから何か名前を付けてあげないとですよね……」

 しばし猫耳幼女を見て悩む。

「白……じゃあまりにもそのままだし…………」

 見た目がほとんど人間の女の子なこともあり、あまり猫っぽい名前にするのも気が引けた。

「シーナ。うん、君の名前はシーナにしようどうかな?」

 その美しい日本人には見られない白銀の長髪を見てふと思いついた名前。我ながらぴったりの名前だと思う。

「んー?んにゃぁ」

 どうやら猫耳幼女もといシーナも気に入ってくれたみたいだ。

「よかった気に入ってくれたんだ」

 そう言って頭を撫でてあげる。さらさらとしていてすごいさわり心地がいい。ずっと撫でていたくなる。

 シーナが喉をごろごろ言わせたあたりで手を止めたらものすごく不満そうな顔をしたのでまた手を動かした。これいつやめればいいんだろう?

「すごいね。もう以心伝心かな?」

 住職さんが面白がっていう。

「そんなんじゃないですよ」

 ただ単にシーナが素直でわかりやすすぎるだけだと思う。




「今日はありがとうございました」

そう言って歴君は頭を下げる。

「うん、何かあったらいつでも連絡してください」

 歴君には連絡先を伝えてあるので何かあったらすぐに連絡するように言ってある。念のために月代つくよさんにも伝えておいたからなんとでもなるだろう。

 仲良く帰って行く二人の様子に安心して建物の中に戻る。

「祐一さん、歴君はあれでよかったの?」

 奥から妻が声を掛けてくる。

「ああ、できれば歴君には元気になってほしいからね」

 家族を早くから失い、失うことに慣れてしまった歴君は人付き合いに苦手意識を持ってしまっている。少しでも力になれればと話し相手になるくらいしか今まではできなかったけれど、あの子と一緒に暮らすうちに少しでも前向きな考え方ができるようになってほしい。

 昔、彼女と一緒に過ごした数日間がきっかけで変わった私のように。

 あの時私は自己満足であったとしてもあの子に自慢できる自分になりたいと誓ったんだ。自分に似た境遇の歴君を放っておくことなどできなかった。

 そんなことをすべて言わなくても理解してくれているのだろう。妻は微笑んで、

「祐一さんがそう言うのならきっと大丈夫ね」

 ……いつか歴君にもこんな風にすべてを知っても受け止めてくれる人ができるはずだ。それまではできる限りの助けになってあげよう。



ここまで読んでいただきありがとうございました。


いい人その1

住職さん

幽霊が見えることに悩んでいたが、高校生の時に会った幽霊が切っ掛けで悩みに立ち向かうことができた。

今は奥さんと二人で仲良く暮らしている。


実は住職さんは拙作『瀬』の主人公のif&afterキャラでゲストとして登場。この後もたまに登場します。

話は全く繋がっていませんが同じ世界観の話ということで、読んでくれると嬉しいなーという露骨な紹介でした。


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