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猫耳(だが幼女だ)を拾うだけの話

 僕は華利根中学三年一組に所属している。平均よりも身長が低いことがコンプレックスなどこにでもいる中学生だ。

 少し人と違うのは家族を皆亡くしてしまい一人暮らしをしていることくらい。

 そんな普通の中学生であるところの僕は現在非常に混乱している。

 今僕は自宅(ボロアパートの二階奥の部屋)の前にいるのだけれど、入ることができないでいた。

 玄関の扉の前で女の子が寝ているのだ。

 扉を背に座り、頭をこっくり、こっくりと揺らしている。

 女の子は小柄な僕よりもなお小さい……というよりも五歳くらいの幼女だ。

 見たことのないくらい綺麗な、透き通った白銀の髪が床に広がり、その小さな頭には()()がぴくぴくと動いている。

 普通の幼女が玄関の前にいるだけでもどうしていいのかわからないのに、明らかに普通の幼女ですらない。

てか猫耳ってなんだよ!? あれ動いてるんだよ!? 本物!? 本物なわけないよね!?

と絶賛混乱中なわけです。

 恐る恐る近づき耳(猫耳の方。何故か人間の耳も付いていた)をつついてみる。


ピクッ


 動いたよ。完全に動いた。頭から直接猫耳をくっ付けて周りの刺激に反応するような無駄技術が発明でもされたのでもなければこれは本物だ。

 だんだんぴくぴく動く猫耳を弄るのが楽しくなってきてしまい、気が付いたら半ば幼女の頭を抱えこむような体勢になっていた。端から見たら完全に事案発生です。慌てて離れようとするがこういう時のお約束としてその直前にパチリと目が開かれる。

 引き込まれるような黒い瞳。そこにはアホ面を晒す自分の顔があった。

 額から一筋汗が垂れる。

 言い訳しようと口を開くが――

「んにゃー」

 猫耳幼女の眠そうな鳴き声が響く。全くといっていいほど警戒の色がない様子にこちらまで気が抜けた。

「キミ、どうしてこんなところにいるの?」

 猫耳幼女は小首を傾げ、口を半開きにしてぽかんとした顔を浮かべる。

 数瞬の後、口を開く。あ、八重歯だ。

「お兄ちゃんにあいにきたのー」

「はい?」

 呆ける僕。抱き付く猫耳幼女。

 ていうかいつまでも猫耳幼女って呼びづらいな。

「お、お兄ちゃんって僕のこと?」

「そうだよぉ」

 額を僕の胸にこすりつけるような動作が猫っぽさをより強くする。

 今の僕の混乱っぷりは先の猫耳幼女発見時と比して尚大きいものだった。

 え? 父さん、母さん隠し子がいたの? というか人間と猫って子供つくれたっけ?

 頭がこんがらがった僕は取り敢えず中に入れることにした。

「とりあえず、中に入る?」

「にゃー」

 この時は頭が回らず気がつかなかったけど、よく考えたら見知らぬ幼女(猫耳)を部屋に連れ込むって犯罪にしか見えない。人に見られなくてよかった。

 何もない部屋。必要最低限の家具しかない。

 部屋に一つしかない潰れた座布団に猫耳幼女を座らせる。

 何だこの状況、何だこの状況。

「で、キミはどこの誰なんだい?」

 今さらな質問。いくら幼女でも見ず知らずの他人を家に入れてからする質問じゃない。

「んー?」

 だが首を傾げるだけ。誤魔化したり、騙そうとしている雰囲気ではない。さっきは普通に会話できたし言葉が通じないわけでもないはずだ。

「じゃあどっちから来たのかは分かる?」

 せめてやってきた方角くらいわかれば家まで送っていけるかもしれない。

 すると猫耳幼女はにぱっと笑うと、

「あっち」

と言って北西の方角を指した。

 そちらには僕の通う学校がある。あまり住宅はなかったと思うけど……

「案内できる?」

「にゃー!」

 たぶん肯定の返事だろう。そんなわけでそこまで案内してもらうことにする。

 途中ほとんど人とすれ違わなかったのは幸いだった。大体の人は幼女を見るとぎょっとした顔を浮かべたが、そういうカチューシャでもしているんだろうと微笑ましく笑うだけだった。

 案内されて辿り着いたのは僕の通学路にある、ちょっとした雑木林に囲まれたお寺だった。

 そこは寂れた小さなお寺でポツポツと墓があるだけのほとんど人の近寄らない場所だった。

 僕は葬式の時にお経を読んでくれた住職さんが管理するお寺の一つだということでたまに来ているけれど。

「ここ?」

「にゃー」

 しかし住職さんに孫がいるという話は聞いていない。

 ふと見回すと、茶色いゴミが落ちているのに気が付く。

 ゴミ箱に捨てようと近付くとそれはいつかの捨て猫が入れられていた段ボールだった。風雨に晒されぼろぼろになっている。

 それを見て頭に子猫の姿がよぎる。

「あれ……?」

 傍らの猫耳幼女を見る。

 どこか既視感のある容姿。

 白い輝くような銀髪。

 幼い年齢。

 右の耳(猫耳の方)のやや欠けたような傷。

 あり得ないということは分かっている。それでも胸によぎった疑問を尋ねずにはいられなかった。

「君、もしかしてあの時の猫……?」

 その問いに対して、猫耳幼女の返答は――


「んにゃー!」


 満面の笑みと腹の辺りに軽い衝撃、ハグをしながらの肯定だった。

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