猫耳(だって猫だもの)を拾うだけの話
この話は作者がほかの小説につまった時の息抜き用小説です。最初のプロローグ的な部分までは連続で投稿しますが、それ以後はかなりの不定期更新となります。
現在、更新が滞っています。続きを書くつもりはありますがいつからになるかは未定です。
以上を読んで、それでもいいよという心の広い方のみお読みください。
真っ白な猫だった。
片手に乗ってしまいそうな程小さな体を寒さに震わせていた。
ちっちゃな命の灯火は今にも消えそうだ。
段ボールに敷かれた新聞紙程度で寒さがしのげるはずもなく、まだ跳び跳ねることすら出来ない細い脚では茶色い壁を越えることもできない。
「君も一人なのかい?」
一人の少年が子猫を抱えた。
か細くミーっと鳴いた子猫の額を指の先でそっと撫でた少年は寂しげな笑みを浮かべる。
「僕もなんだ。」
そう呟いた少年は自宅のボロアパートに帰っていった。
後には新聞紙だけ残った段ボールがぽつんと残っていた。
少年は子猫を部屋に降ろすと一枚しかない毛布で子猫をくるみ、財布を片手にまた外に出ていった。
バタンと閉じた扉を白い子猫はじっと眺めていた。
まるで二度と会えないとでもいうかのように。
今生の別れを告げるかのように。
決して財布に余裕があるわけではないが、高い子猫用のミルクを買ってきた少年を出迎えたのは、既に動かなくなった冷たい骸だった。
少年の手からミルクの入った袋が落ちる。
少年が見つけた時には既に手遅れだったのだ。
「ごめんね…やっぱり僕じゃ何も出来なかった……」
少年は雑草の繁った共同の庭の隅に子猫を埋めた。
棒きれ一本の簡単なお墓にミルクをかけて手を合わせる。しばらくそうしてから誰もいない部屋に戻って行くのだった。
少年は一人だった。
両親を早くに亡くし、祖父母とともに暮らしていたがそれも去年までだ。
祖父が天寿をまっとうし、後を追うように祖母も逝ってしまった。
両親、祖父母の残してくれた財産があるので高校を卒業するまでくらいの生活費はあった。
少年は中学卒業後すぐに働くつもりであったが、祖父母が強く高校入学を勧めていたため進学するつもりだ。何もできなかった自分のせめてもの孝行だと考えているのだ。 祖父母の亡くなった後、遠い親戚の経営するボロアパートに引っ越したが、書類上少年の保護者となっている親戚とは引っ越してすぐに一度あったきりであった。
そして毎日学校に通うだけでなんの趣味もなく無気力に生きていた少年に転機が訪れた。
その日からひとりぼっちの少年は歩みだす――
止まっていた時間が動き出した。