仕方ありません、尻拭いをしてあげましょう。
完全なる作者の趣味です。
「貴女が星野朝陽ね?私達と一緒に来て下さらない!」
静かな廊下に響き渡る声。
その声の方には、取り巻きとおぼしき者達を連れた派手な髪型の令嬢が此方を睨み付けている。
対して声をかけられているのは、
軽くウェーブのかかった長い金髪に、藍色の瞳をした整った容姿の少女だ。
(ーあぁ…またか…。)
令嬢達が此方を睨み付けている理由などとっくに解っている。
そのため私はため息をつく。
「…残念ながら、私の名は空宮夜明。貴女方がお探しの星野朝陽さんの叔母です。あと此方が私の生徒手帳ですが。」
そう言って私が星野朝陽ではないという証明に生徒手帳を見せれば、
自分達が人違いしたのに気付き、令嬢達は顔を青くする。
「えっ!おっ叔母?!そんな…。」
「ちなみにお探しの朝陽さんなら、彼方の中庭で生徒会役員の皆様とご一緒に居ますが。」
そういって窓から中庭を見れば、綺麗な顔をした5人の少年達と水色の瞳をした私に瓜二つの少女が
話している姿が目に入る。
少女の名は星野朝陽。
この聖桜学園に編入してき編入生で、
編入後すぐにこの学園の人気者である生徒会役員全員を虜にした私の姪である。
瓜二つの私達はこうしてよく見間違えられ、
私までが多くの女子生徒に睨まれたり絡まれたりする。
「…そっそう、それじゃあ私達はこれで「まぁお待ち下さい。」…何ですの?」
「朝陽さんに用があるなら私から伝えましょうか?」
ニコッと、
自分でも解っているくらい悪い顔で微笑めば令嬢達は面白い位震え上がる。
「っー結構ですわ!」
顔を真っ赤にした令嬢は足早に去っていき、廊下は私だけに。
「はぁ…、毎回毎回疲れますね、お嬢様方の相手をするのは…。
いい加減、双子だからって間違えるのは止めてほしいですねぇ生徒手帳が肌身離せないし。
…それにしても。」
再び窓から中庭を見ればまだそこには朝陽達が居た。
「私の双子の妹兼姪っこの朝陽さんも大変ね。ゲームと違って此処には敵が多いようですし。」
ため息をつき、私も教室に戻るために足を動かす。
ーー朝陽達を見れば、思い出すのは1つ。
この世界がゲームの世界という事だ。
この世界がゲームであるのを思い出したのは今から12年前、まだ私が5歳の時だ。
私が生まれ変わった空宮夜明は星野朝陽の双子の姉として誕生するが、
生まれながらに病弱な朝陽に両親は付きっきり。
その為、星野家の分家であり母方の実家である空宮家に預けられる。
だが両親は月日が経つに連れ夜明の事を忘れてしまい、見兼ねた空宮家に夜明は引き取られ、
私達は、血縁上は双子の姉妹でも戸籍上は伯母と姪の関係になった。
両親を盗られただけでも夜明は朝陽を恨んでいるのに、
夜明の婚約者である攻略対象の生徒会長をも朝陽に盗られた事で夜明はゲームの悪役となってしまう。
5歳の誕生日に、両親に会いたくて連絡をするも、両親は見事に私を忘れていた。
両親に忘れられていた事に酷くショックを受け、更には階段から落ちた事で私が前世で、
この世界『貴方と共に』(?)と言う多分そんな題名だった乙女ゲームをプレイしたり事故で死んだりした事を思い出した。
「やっぱり彼女も転生者かしら?逆ハールートを着々とクリアしてる見たいですし…。」
教室に戻る道中考えるのは朝陽の事。
けどまぁ彼女が着々とゲームをクリアしようとも、彼女に夢中で生徒会役員どもが仕事をしなくても、
どうでもいいですけどね?
前世の記憶を思い出した私がする事はただ1つだけ。
「空宮副委員長!!」
教室にまもなく着こうとした時、
誰かが私の背後から声をかける。
振り返ってみればそこに居たのは、攻略対象の1人である風紀委員長
五島誠司だ。
生徒会役員同様整った顔の五島も学園の人気者で、現在星野朝陽が攻略しようと奮闘している相手。
「どうかしましたか?委員長。」
「中庭で、空手部の部長と生徒会役員が一触即発だそうだ。すぐ向かうぞ。」
「今度は空手部ですか…。あれほど生徒会役員は使い物にならないから、風紀委員会に話を通せと言ったのに。」
朝陽が来てから生徒会役員は仕事をしなくなった。
それは学園の周知の事実だ。
その為、生徒会の仕事は私が所属する風紀委員会に回って来ている。
また私も全部活に風紀委員会に話をする様に伝えたが…未だに風紀委員会でなく生徒会に話をしようとする部活が後を絶たない。
「いや、部費とかの話ではないらしいぞ?」
「…そうですか。まぁいいです、さっさと中庭に行きましょう。」
苛立つ私に空手部のフォローを入れた委員長と共に、〔風紀〕とかかれた腕章を付け、中庭に迎う。
ーーーー
「毎日毎日飽きもせず公衆の面前でいちゃつきやがって!!ムカつくんだよお前等!」
「はっ、何だ?俺達が朝陽と仲いいからって羨ましいのか?いっとくがてめーに朝陽は渡さねぇぞ。」
中庭には空手部部長と生徒会が険悪ムードである。
しかし…。
「確かに部活の事ではないですね。」
「あぁ…。」
しかし険悪な理由が完全な私怨なのにはどうも呆れてしまう。
だが仕事は仕事だ。
「風紀委員会です。双方落ち着いて下さい。」
「いい加減落ち着け空手部部長に生徒会ども。」
空手部部長と生徒会の間に割って入る私達だが。
「きゃあー誠司君!朝陽を助けに来てくれたのね!」
「ちょっ!離れろ!?」
委員長の姿をみた瞬間、委員長の腕に抱きつく朝陽。
「てめぇ五島ぁ!」
「今すぐ朝陽さんから離れなさい!」
「「そーだそーだ!離れろ!」」
「…」
密着する2人に対し攻略対象の
俺様生徒会長
一ノ瀬彰
腹黒副会長
二階堂政人
双子の書記と会計
三木右近
三木左近
寡黙庶務
四峰忠明
はお怒りだ。
ですがね逆です。朝陽さんがくっついてるんですよ…。
もはや蚊帳の外となってしまった私と空手部部長。
おや、空手部部長もお怒りですね。
「ふっ…ふざけんなよてめー等ぁ!?最近彼女と別れたばかりの俺への当て付けかよ!!」
「違います。貴方が彼女さんと別れて居ようが居まいが彼らはいつもこうです。」
怒りやら悲しみやらで顔を真っ赤にした空手部部長、
一応私は宥めたつもりですが……効果ありませんね。
「ちゃごちゃとうるせーんだよテメーはぁ!!」
「っ!?空宮!」
「「「!!?」」」
お怒りの空手部部長は握り締めた拳を私に向かって振り下ろす。
朝陽さんや生徒会役員に囲まれてる委員長が私の名を叫んだ事で、生徒会役員も私達に気付いた。
委員長が此方に向かおうとするが朝陽さんが彼から離れようとしない。
ーですが委員長、お忘れでは無いですか?
私ーー強いんですよ?
ズダァァン
委員長や朝陽さん、生徒会役員は驚愕する。
何故なら、私に向かって殴りかかろうとする空手部部長を
彼らより小柄の私が地に叩きつけたのだから。
「なっ…、くっ黒帯の俺が投げ飛ばされた…。」
「残念でしたね空手部部長さん。私は格闘技は全部有段者ですので。」
空手は勿論、柔道・剣道・合気道等の格闘技は護身用に幼き頃から鍛えてます。
お金持ちの家は意外と危険ですからね。
「さて、空手部部長。一緒に風紀委員会室に来てくださいね?」
「はい…。」
微笑めば怯えられました。少しショックです。
「そっ空宮…大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですよ委員長。彼の事は私に任せて、ごゆっくり朝陽さん達と仲良くして下さい。
…彼女の尻拭いは私の役目ですから。」
未だ朝陽さんに抱きつかれたままの委員長が此方に来ました。
ですが、朝陽さんは無言で此方を睨み付けている。
顔にはまるで、
「どっか行きなさいよ!誠司君は朝陽のモノなの!」と書かれているようです。
正直、長い事彼女達に関わりたくないので委員長を置いて帰ります。
「それでは失礼します。」
「はっ?ちょっまっ!置いていくなぁ!?」
「誠司君!あんな人より朝陽達と一緒にお茶でもしない?さっき朝陽の事守ってくれたお礼がしたいの。」
「俺はお前何か守ってねぇぇぇ!!」
中庭から委員長の叫び声がしますが…放っておきます。
これから私は空手部部長を風紀委員会室に連れていって、反省文50枚は書かせないといけません。
それに…。
「私は朝陽さんの尻拭いをすると決めましたからねぇ。」
乙女ゲームそのものに、ましてや悪役として関わるのはごめんです。
記憶を思い出してからは、ゲームには一切関わらない様にと決めましたし。
なので朝陽さん。
さっさと逆ハーENDでもBADENDでもHAPPYENDでも何でも構いませんから、クリアして下さい。
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この時の私は知りませんでした。
空手部部長を投げ飛ばした事で生徒会役員に興味を持たれ、これから乙女ゲームそのものに関わる事になってしまう事を…。
でもそれはまた別のお話。
人気がでたら続き書いてみようと思ってます(笑)