話の後で
現在に戻ります
「私が見聞した当時の様子は以上です。
3年も前のことですから、これ以上のことはあまり覚えていません」
「そうですか。
ありがとうございます」
ノイエはそう言って、唐突にテーブルの上に先程つみとった龍香花と、この国に入った時に購入した龍香花の練り香を並べた。
「当時、こういったものを御覧になられましたか?」
「これは、龍香花ですね。
3年前は見かけませんでした。ただ、今回この国に来てから度々みかけました。特にあの日国葬のあった神殿付近で。練り香の方は見かけてませんが」
龍香花は吟遊詩人の間でもよく歌詞の中に登場する。実物を見たことがなくても、絵や物語の挿絵などでよく見られ、どの地域においてもその露出と認知度は意外に高く、地域による描写の差が少ないとされている。また、独特の愛らしい形状も認知度UPに一役買っている。
「そうですか。ありがとうございます」
ノイエはそういうと、再び金貨を吟遊詩人へ差し出した。
「これは?」
「情報量よ。とてもいい話だったわ」
しかし、吟遊詩人はそれを受け取らなかった。
「このような話など、誰にでもできます。
それに、素晴らしい前国王様の話をお金に変えたら恨まれそうです」
そこまで言われたら、ノイエは、押し付けるわけにもいかない。
「では、魔術師らしいお礼をさせて下さい」
そういうと、ノイエはにっこり笑って、右手を天に伸ばした。
「過去の鎖を水の刃で、
未来の鎖を風の刃で、
そして、現在の鎖を炎の刃で断ちたまえ。
ノイエリアスエンテの名の下に」
ノイエの言葉に、三つの何かが二人を過ぎった。
「今のは、一体…」
「占い師が良く使う、祝福ですよ。
本当は、一生に一本しか切ることができないしがらみを、少し余分に切っておきました。
私の知る限り、私しか使えない魔術です。
あなたは昔、一本断ち切られていますね。過去のしがらみを」
何か思い当たったのだろう「あっ」と小さな声を漏らして、吟遊詩人はじっとノイエを見つめた。
「そんなに役に立つ情報を言ったとは思わないんですが…」
そう言う彼に、ノイエは、にっこり笑った。
「分かった気がするの。色々なことが、ね」
にっこり笑ったノイエだが、全てが明らかになるまで、まだもう少し時間がかかることになるとは思わなかった。
次の日、ノエイは、風の精霊であるミズガリアス=セイレーンを前に、難しい顔をしていた。
「情報はないって?」
「はい。過去30年に作成された所蔵の文献と、北の牢獄に所属する全ての魔術師への連絡、それに龍の生態を研究しているという生物学者の論文を探したそうですが、何も」
その返事に、ノイエは困った顔をした。
「困ったわ。
誰か、龍に知り合いはいないのかしら」
その言葉に、精霊は、返答した。
「何でも、3年前までは、この国の亡き国王様と仲がよく、交流もあったそうです。
亡くなられてからは、その縁も途切れてしまったとか。
でも、もしかしたら、この国の方々の中には、今でも交流のある方がいらっしゃるのではないでしょうか」
リアスの言葉に、ノイエは、昔を思い出した。
城でよく見かけた眉目秀麗な青年が数人、よく父と一緒にいた気がする。
綺麗過ぎて、少し怖くて、結局遠くから見ているだけだった気がする。
後に父に聞いた時、あの人達は、とっても大切な友人だよって、そう教えてくれた。
あの人達が龍だったと言う確信は随分前からあった。
「今でも交流があるとしたら、当時の将軍クラスね」
ノイエは呟くように言った。
「ねえ、リアス。悪いんだけど、もう一回戻って調べなおすように伝えて。
過去30年だなんて生ぬるいことはなしにしてちゃんと調べなさいって。あと、北の牢獄だけじゃなくて、連絡のつく魔術師全てに聞いてって。生物学者も、論文だけじゃなくて本人から直接話を聞いてって。
お役所仕事なんかしたら、承知しないんだからって、伝えておいて」
「はい。では行って参ります」
そういうと、リアスはふっと姿を消した。
「先代から変わっていない重鎮ねぇ…」
王宮に宝石を届けるのを生業にする町の宝石商の主人と会話をしているノイエは、その言葉の先を聞き出そうと身を乗り出した。
「えっと、私はあんまり詳しくないんだけど、確か、サガ=マキラス将軍様が、5年ほど将軍の任につかれているかねぇ。他にもいるんだろうけど、何せ交流がなくってね。分からないよ。
マキラス将軍様はお若いし、私たちが宝石を届けに行くときも気軽に話してくださるから覚えているんだよ」
「そうですか。ありがとうございます」
そう言うと、ノエイはある程度の確信をもって王宮へと向かった。
宝石商に尋ねる以外にも数人の商人たちのも同じことを聞いたが、皆一様にサガ=マキラスの名を口にしたのだ。マキラス家は代々将軍家の家柄で、ノエイが王女として王宮にいるときも、マキラス家が将軍を務めていた。当時の将軍は高齢だったから、代替わりしていてもおかしくはない。しかも、在任5年であれば、龍と交流のある可能性が十分にある。
ノイエは待ち伏せをしていた。
とはいっても、城門や屋敷の前ではない。彼の城内の執務室だ。
きちんと客人として扱われ、お茶まで出してもらている。
ノイエの待ち伏せる執務室の外が何やら騒がしくなってきた。どうやら将軍様のお戻りらしい。
「――客人と言うのはその方か?」
乱暴にドアが開いたかと思うと、意外に若々しい声がした。
「お初にお目にかかります。ノイエと申します」
座っていた椅子から立ち上がり、優雅に挨拶をしてみせた。
「初ではないがな。
それにしても昨日とは別人だな」
そっと視線をあげると、そこには昨日、ライゼリア家の屋敷の前であった青年が重厚な扉を閉めるところだった。
「あなたが、サガ=マキラス将軍様だったのですね」
確認するかのように言った言葉に、マキラス将軍は顔をしかめながら頷く。
「ええ。
昨日会った私が将軍だと知って来たのではないようですね。
どうぞ、お座りください」
マキラス将軍にそういわれて、ノイエは再び座り、そして彼もまた座った。
「それで、何の用でしょうか?お嬢様」
ノイエの格好はどこぞの貴族の娘のような格好だ。昨日の魔術師としての格好とは確実に違う。マキラス将軍が「お嬢様」と言っても間違いがないような格好だ。
「申し遅れました。私、北の牢獄に所属しております魔法師でノイエと申します」
「ほう、北の牢獄とは穏やかではありませんね。
一体私ごときに何をお聞きになりたいのですか?
そのように変装までされてここまで来られて」
マキラス将軍はさほど驚く風でもなく、淡々と言葉を続けた。
「私達、魔法師は国という組織に関わりません。特に北の牢獄に所属する魔法師は。
ただ、例外があります。
魔法師の違法な介入がある時、あるいはその可能性があるときです。
ご存知ですか?」
「聞いたことはありますね。噂程度ですが」
「今回、私が来たのはその調査のためです。
ただの定期調査ではなく、疑いが濃厚であるためこうして調査しています。
本来なら、直接経緯を報告することは認められていないのですが、事態が事態なだけに、伝えてしまった方がいいと判断しました。
できれば、今の段階では、マキラス将軍様一人の胸に留めておいて欲しいのですが」
淡々と、しかし内容としてはかなり厳しい状況を聞かされ、戸惑いを隠せないようすだ。
「もし、あなたたちのいう違法行為があれば、この国はどうなるのですか?」
「私たちは国に対して処罰をあたえるという行為はできません。
実際、違法行為が確かにあったという国に対して何の対処も行えなかったこともあります。ですが逆に歴史から姿を消した国もあります。
ただ、間違った決断は致しません」
きっぱりと断言したノイエに、マキラス将軍は少し安心した表情に変わった。
「それで、私にどうしろと?」
「龍族の方にお話を聞きたいのですが、お知り合いの方はおられませんか?」
「龍香花のことですか?
今の状況は今までにないことですから」
「ええ。残念ながら、龍族との交流がある国はもうありません。
最後まで交流があったのは、ここ、カジム王国だけですから」
「そうですか。
ですが、残念ですが私は存じ上げません。代替わりしてからは一度も龍族の方がお見えになったことはありません。もちろん、王個人と交流がないとは言い切れませんが」
「そうですか、ですが、マキラス将軍様の父上様が龍族の方と懇意にしていたはずです。連絡手段なり、語り継がれてはいないでしょうか?」
「いえ、父はそのようはことは漏らさない人でしたので。
父ももう亡くなってから随分経ちます」
ノイエは八方塞がりに落胆を隠せなかった。
「では、庭園を見せていただけませんか?」
ここまで来たのだ。収穫なしは避けたい思いでそう言った。
「献上品の龍香花を御覧になりたいのですね。いいですよ。
ご案内します」
そう言って立ち上がったマキラス将軍について、ノイエも立ち上がった。
部屋を出ると、執務官の一人が外出する将軍を止めた。
「将軍、まだ仕事が…」
「そう言うな、仕事より大事なことかもしれないよ」
執務官はノイエと将軍を見比べ、それ以上は何も言わなかった。恋人と勘違いでもしたのだろう。しかし、一方のノイエはそういう意味には捉えられず、今後の未来のカジム王国を思う声に聞こえた。
庭園に案内されたノイエは懐かしい想いに駆られた。
「庭師だ」
そう言って紹介された老人は、ノイエがまだこの王宮にいたころと変わらない人だった。
「庭師のオオキです」
そう言って老人は頭をさげる。
「始めまして。ノイエといいます」
「彼女が龍香花を見たいらしい。
案内してくれないか」
「はい」
そう言うと庭師は、少し離れた一角に連れて行かれた。
「随分今年は少ないんだな」
「はい。今年で龍香花もみおさめになるでしょう」
「種は?」
「これで最後でございます」
その言葉に、マキラス将軍はため息をついた。
「そうか」
しんみりとした話だが、ノイエは切り出した。
「あの、もしよろしければ、一輪頂けません?」
「だめだ」
マキラス将軍に即効で断られた。
「すまないが、私は執務に戻る。
ノイエ殿もほどほどにして帰りなさい」
そういうと、さっさと戻ってしまった。
その後姿を暫く見ていたが、不意に影ができた。
「どうぞ」
そう言って差し出されたのは一輪の龍香花だった。
「どう…して?」
「ノイエリアス王女でしょう。お久しぶりです」
「オオキ。分かってたんですか?」
「当たり前です。ノイエリアス王女が何度この庭園で遊ばれていたことか」
ノイエは庭師をじっと見詰めた。
「王女は戻ってこられないのですか?」
「そうね」
「ルイガス様は、ノイエリアス王女をお待ちですよ」
ノエイは少し笑った。
「ルイガスは、国王よ。
何も臆することはない。私に遠慮して国政を司らなくてもいいのよ。
皆には黙っておいて。私がここに来たことを。
私はもう王女ではないのよ」
「分かりました」
「この龍香花は頂いてもいいの?」
「ええ。先代国王様にお供えする内の一輪です。娘である王女様に差し上げても国王様は咎めたりなさりませんよ」
「そうだといいわ。
ありがとう」
そう言ってノイエはそれを受け取った。
宿屋の部屋に戻ったノエイは、ホーク家の龍香花と、王宮の庭園の龍香花を見比べていた。
並べてみればその違いは歴然としていた。
王宮に咲いている龍香花は花が大きく、葉が少ない、明らかに観賞用だ。それに比べ、ホーク家に咲いていた方は龍香花が元は薬草であることを存分に示すような形態だ。
ふと、この国に最初に来た日に買った龍香花の練り香のことを思い出した。
今、この国に龍香花から練り香を作る余裕はないはず。それに、あったとしても正規の薬問屋で売買されるはずだ。市場の露天で売買されるはずもない。どうしてあの時それに気づかなかったのか不思議でならない。ノイエはそう思うと、またあの露天へいこうと急いで部屋をでた。
「あっ!」
出た瞬間だった。
あの時露天にいた少女が大きな荷物と共に、部屋に入ろうとしている所だった。
「あなた、露天にいた子でしょう!」
部屋に入ろうとするのを手で制して叫ぶようにそう尋ねた。
「そう、ですけど、何か?」
相変わらず不機嫌そうな声だった。
「あなたに聞きたいことがあるの。今、いいかしら?」
「何の話でしょう?」
「龍香花のことよ。
売っていたでしょう?露天で」
「ええ。ですが、お話できることはありませんよ」
「いいから、来て」
そう言うと半ば無理やり自分の部屋へと引き込んだ。
少女は不機嫌だったけど、この国に来る前に前の都市で手に入れた砂糖菓子とお茶をだすと、表情が和らいだようだ。
「私はノイエというの、よろしくね。
ところで、あの龍香花はどこで手に入れたものかしら?」
砂糖菓子をほお張る少女に聞くと、少女はふっとノエイを見上げて「旅の商人から買ったのよ」と言った。
「その人は知り合い」
「ええ。でも、誰かは言えないわ。
龍香花の流通は極秘なのよ。そんなことも知らないの?」
確かに少女の言うとおりだ。龍族から直接流通する龍香花は特定の商人に売られ、その商人から更に契約のある商人へと売られていくのだ。
「あなた、名前は?」
「カヲリよ」
「年齢は?」
「22よ」
年齢の割りに幼い気もしたし、自分より年上だということもびっくりした。
「カヲリさんはどうして、龍香花を売る商人と知り合ったの?」
「父様の知り合いだったの。
あなたも、龍香花を扱いたいの?」
「いいえ。私は魔法師だから」
その言葉に、カヲリは嫌そうな顔をした。
「魔法師がどうしてそんなこと聞くの?」
「調査中なの」
「何の?」
ノイエはそれには答えず、一呼吸おいてから質問をした。
「ねえ、カヲリさんは龍香花については詳しいの?」
「まあ、普通の人よりは」
ノイエは、ホーク家の龍香花と王宮の庭園の龍香花をカヲリの前に並べた。
「この龍香花が、どうしてこんなに違うのかご存知ありませんか?」
カヲリは砂糖菓子を口に運ぶ手を止めた。
「あなたが調査してるのって、このこと?」
その口調がすこし緊張しているのをみて、ノイエは確信した。
カヲリは何かを知っていると。
「ええ。教えていただけないから」
「・・・私の口からは漏らすことはできません」
はっきりとそういわれ、ノイエは少し押され気味になりながら、「どうしても知りたいの」と言う。しかし、カヲリはそれっきり龍香花の話題を出すことはせず、口をつぐんでしまった。
「私、戻ります」
そういうと、すっと部屋を出て行ってしまった。
ノイエはその素早さにストップをかけられず、そのままカヲリを見送るしかなかった。
手がかりを得られなかったノイエは、深いため息をついた。
そして先ほどカヲリにみせるために並べた龍香花をじっとみつめ、そして再びため息をつく。しかしそうしていても始まらないので、ノイエは花瓶に龍香花を生け、さらに保護の魔法をかけて眠ることにした。まだ完全に糸が切れたわけではない。お使いに出している風の精霊、リアスが戻ってきていない。一縷の望みをかけてノイエは眠りについた。
次の日の朝、ノイエは最悪な日だと初めは思った。
「ノイエ様。ノイエ様っ」
耳元で然程大きな声ではないが、雑音には十分なる声で、起こされていささか不機嫌に目を覚ました。
「リアス、戻ってきてたの?おはよう」
「ノイエ様、もうお昼ですよ。なんでまだ寝てるんですか?」
少し不機嫌な声に、ノイエはクスリと笑った。
「笑ってる場合じゃありません。ちゃんと聞いてきましたよ。
結果から言うと、駄目でした。北の牢獄にももう情報がないそうです」
「本当に?」
「本当です。疑い深いですね」
リアスは何だか怒っていた。
「調査に駆り出されて、長老様には、年寄りを扱き使ってとか文句を言われて。
精霊長にも聞きに行ったのですが、今はそれどころじゃないって門前払いです。この国のバランスが悪いせいで対策に追われてて忙しいって。『おまえはいいわね、暇そうで』なんて嫌味までいわれたんですよっ!!
でも、何も分からなくって。。。」
一気にまくし立てられて、ノイエは困ってしまった。
「そう、ごめんなさいね。嫌な役回りをさせてしまって」
「本当ですっ!!」
「でも、危険ね。精霊界も混乱してきたとなれば、恐らく龍族でも同じね。彼らもまた環境には敏感なはずだから。何事もなければいいけど」
ノイエは深刻な顔をして暫く黙り込んだが、すっと立ち上がってとりあえず身支度を整えた。
「どうするんですか?」
「――まだ、分からないわ。どうしたら、いいのか」
ノイエはすっとベッドに腰掛けた。
その時だ、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。リアスは素早く姿を消し、ノイエは立ち上がって扉へ向かう。
「どなたですか?」
外から、「カヲリです」と昨日の夜と変わらない声が聞こえた。
ノイエが急いで扉をあけると、そこには、カヲリ一人ではなかった。眉目秀麗な青年が一人、カヲリの後ろにいた。
「始めまして、ノイエ殿。私、ネイザラスと申します。今朝カヲリからあなたのお話を聞きましてね。少し、お時間よろしいですか?」
八方塞がりだったノイエが断るはずもなく、二人はノイエの部屋に迎え入れられた。
「突然申し訳ありません」
「いえ、私も、もう一度カヲリさんにお話を伺いたかったので」
「そうでしたか。お聞きになりたいのは龍香花のことですよね」
「はい」
そう言ってノイエは水差しに生けた龍香花を座っているテーブルへと移動してきた。
「お役に立つかどうかは分かりませんが、私が知っていることをお話しましょう」
「その前に、いいですか」
「ええ」
「どうして私に話を?」
「そうですね。肝心なことを忘れていました。
私はこのカヲリと同じく商人です。詳しくは言えませんが、龍香花から得られる練香と薬を主に扱っています。ですが、最近、その商売が芳しくないのです。どうも原因はこのカジム王国にあるらしいのです。今朝カヲリから話を聞き、もしかしたら、打開策が得られるのではと思ってこうしてきたのです」
「そうですか。分かりました。
龍香花についての情報を教えてください」
ノイエは完全に彼を信じたわけではない。何となく、彼はもっと違う何かを隠しているかもしれないと思った。しかしそれは今ここで議論することではない。今はとにかく情報優先だ。
「はい。
まず、この龍香花の違いです。こちらの花が大きい方は観賞用です。龍達がこれを好んで栽培することはないと聞いています。これは友好の証として、国に送るために特別に栽培される亜種です。もちろん、この龍香花からも練り香や薬が取れると聞いていますが、オリジナルと比べてその量は半分だと聞いています。そして、その練り香や薬は販売することを許されますが、亜種の龍香花は種を残さないようになっているので、龍族との交流が切れれば自然とその流通もなくなってしまうと聞いています。
そして、こちらの龍香花は、この国の至る所で見られているようですが、これは本来龍の山脈でしか栽培されない種です。龍族はこれを好んで栽培し、練り香や薬から人間界での貨幣を手に入れいているようです。ただ、水龍だけは龍香花を栽培しないようです。彼らが住んでいるのは湿原地ですから、栽培に向かないという理由もあるようです」
ノイエはその言葉に、はっとすることがあった。
「何か分かりましたか?」
ネイザラスがそういうと、ノイエは「多分」といって、龍香花をじっと見つめた。
時間が経ってはっきりしてきたのだが、ホーク家から持ってきた龍香花はかなりしおれてしまっている。それにひきかえ、王宮の龍香花はかなり生き生きとしている。摘んだ時間が違うとはいえ、ノイエは保護の魔法をかけていたので、その差は歴然だった。