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再び

 その国は、内乱中とは思えないほど静かだった。

 カジム王国に入ったノイエは、ちらほらと店を出す市場に足を踏み入れ、そう思った。

 そのうちの1件で薬草を売っている露天が目に留まり、ノイエは手持ちの薬の補充をしようと立ち寄った。

「いらっしゃい」

 店番の子だろうか、嫌に若い少女が客商売にはあまり向かない少し不機嫌な声色でそう言った。

 ノイエはさっと見回して、風邪薬と胃腸薬を買い求めた。

 お金を払い、商品を受け取って出ようとしたら、片隅にあった珍しいものが目に付いた。

 龍香花と呼ばれる花の練り香だった。

 龍香花は、龍の山脈にのみ生息する花で、こうして一般に出回ることは珍しく、さらにはそのルートも決まっているので、このような市場の露天では売られることがまずない。売られるとすれば街中の国と取引のある薬問屋ぐらいだ。龍香花は龍の山脈以外には、龍との交流の証として国に送られるのが通例だからだ。ただし、送られるのは種子を持たない亜種で、龍の山脈にある龍香花とは少し違う。よって龍から受け取った龍香花は、国の管理の下栽培されるのが通例で門外不出だといわれている。さらに、その花からは麻酔薬が抽出されることでも重宝されている。

「ねえ、これ、本物?」

 思わずノイエは売り子にそう聞いていた。

「ええ」

 更に不機嫌な声で売り子が返答した。

 ノイエは珍しかったこともあり、意外に安かったため、購入した。

 その時は、単純にちょっと珍しいなという想いだったが、それが後でつながっていくとも限らずに。


 ◇ ◇ ◇



「旅の人かい?

 珍しいものだね、こんな時期に」

 宿を取ろうと入ると、そう言われた。

「ええ、まあ。

 でも、内乱中だなんて思えないほど静かですね」

「まあ、まだ始まったばかりだしね。

 暫くは交渉が続くだろうよ」

 そう言って宿屋の主人は深いため息をついた。

 ノイエの他に客がいる気配がほとんどない。

 と、そこへ、誰かが勢い良く入ってきた。

「ダイザさん、手を貸してくれ、火事だ!」

 入ってくるや否や、宿屋中に響き渡るほどの声でその人が叫んだ。

「なんだって、すぐ行く」

 宿屋の主人はそう言うと、すばやく外へと向かった。

 部屋へ行こうとしたノイエも、それに続いた。

 宿屋からでると、すぐ側の民家らしき家から、赤い炎が上がっている。

 中からだろうか、子供の泣きじゃくる声もする。

 井戸からくみ上げられた水を、住人達が慌てふためきながらかけているが、古い木造の家屋では、火の勢いに勝てそうもない。

 ノイエは深く深呼吸した。

「風に漂う水の精よ、汝が力集い…」

 しかし、ノイエがその術を最後まで唱えることはなかった。

 途中で止められた術は、それでもパラパラとおざなりの様に雨を降らせた。

 突然の異常気象に、ノイエに注目が集まる。

「おい、なんで途中でやめるんだよっ」

 誰かの恨み言も聞こえたが、それに気をとられている暇はない。

 ノイエは、別の術を唱える。

「燃える業火を抱きし地の精よ、今その全てを引き剥がせ。

熱き刃を受けし風の精よ、今その全てを跳ね返せ」

 その瞬間、すっと、火が小さくなって消えた。

「あんた、魔法師だったのかい。いや、助かったよ」

 宿屋の主人はそういうとほっとした表情を見せる。取り残されていた子供たちが何とか無事に助け出された。

「大事に至らなくて良かったですね」

 しきりにお礼を言ってくる、子供たちの両親に、ノイエはにっこりと笑いかけた。

 ノイエは子供の手をとり、そっとささやくように術を唱える。

「風と水が踊る、清き精霊の名の下に」

 そうすると、子供たちの赤みをさした顔に笑顔が戻ってきた。

「本当は、火を消すのにも水の精を呼んだ方が子供たちのためにもよかったのですが、

 あまり水の精がいなかったものですから、熱にやられてしまったようですね。

 後でお医者様に診て頂いてくださいね」

ノイエのその言葉に、その場の空気がすっと変わった気がした。

 しかし、それも一瞬。

 ノイエは崩れかけた家をじっと見つめ、そしてにっこりと笑って言った。

「今日はおまけです」

 と。

「時、司りし精霊たちよ、かつての姿を思い起こせ。

 地、司りし精霊たちよ、過去の姿へと再構築せよ」

 両手を広げてそう言うと、家が元通りへと戻った。

 周囲から感嘆の声があがる。

 ノイエは、自分の仕事に満足して、宿屋へと戻っていった。


「今日はありがとうね」

部屋に戻ったノイエがくつろいでいると宿屋の主人が果物をもってきてくれた。

「いいえ。皆さんご無事でよかったです」

「ああ。本当に」


そして、夜中、誰かの気配にノイエはすっと目を覚ました。

張り巡らした結界を誰かがペタペタと触っている。

 ノイエは身支度を整え、その人物を見定めようとドアの除き穴から外を見た。

 そこには2人の姿が見受けられた。一人はどうやら魔法師らしい。ノイエの結界を解析しているようだ。

「何をしている」

 扉の向こうで宿屋の主人の声がした。怪しい二人を見咎めたらしい。

「ここに魔法師がいると聞いた」

 悪びれる風でもなく、二人のうちの一人が答える。暗くてよく分からなかったが声からして女性のようだ。

「迷惑だ。帰ってくれ」

 そう宿屋の主人が答えると、魔法師らしい男の方が何やら術を唱える。

 しかし、それが発動することはなかった。

「人の部屋の前で、穏やかじゃないわね」

 扉を開けもせず、突然現われたノイエに、二人の侵入者はぎょっとした表情をみせる。

「ご主人、ここは私が何とかしておきますから、どうぞお戻りになってお休みください」

「いや、しかし」

「大丈夫ですわ。こんな三流魔法師に引けはとりませんから」

 そう言って笑ったノイエに、主人は、「わかりました」と答えてしぶしぶ引き返していった。

「さて、どういうつもりかしら?本当に迷惑なんだけど」

 その言葉に、刃が光る。

「我等、反乱軍の魔法師だ。

 一緒に来てもらいたい」

「何のために?」

「行けば分かる」

 もう一人の女性の方がぼそりと答えた。

「いいわ。一緒に行っても。

 でも、つまらない話ならすぐ帰るわよ」

「好きにしろ」

 威圧的なその言葉に、ノイエは少しびくついてしまった。

 そう思ったのも束の間、いつの間にか移動の魔法陣を張られて、移動していた。反乱軍の本拠地に。


「随分移動したわね」

 ノイエは薄暗い部屋に移動させられて、そう言った。

 まだ移動のために張られた魔方陣が静かに光っていた。

「分かるのか?」

 男の方が動揺して答える。

「北西に30キロ。狭間の森の地下ってところかしら?」

当たりだったのだろう。男の方が嫌な顔をした。

「別に隠しているつもりはない。

 聞かれれば答える。

 妙な詮索はするな」

女性の方は、淡々と答えた。

ノイエは少しだけ、後悔した。妙なところに連れてこられたことに。

そして、この女性の魔法師がかなりの術者であることもひしひしと感じていた。

「縛・法術」

その術を聞いて、さらに後悔した。

魔法封じの術だ。

ノイエの左手首に見たことのない銀色の腕輪がはまっていた。

「まいったなぁ…」

ノイエがため息と共に言葉をもらした。

「あまり参っているようではないがな」

事の現況となっている女性は額に汗を浮かべている。

 彼女もまた、ノイエの魔力に怯えているのだ。

「用が済めばすぐ解いてやる。

 我等反乱軍の長に会わせるのだから、念のためだ」

ノイエは腕を自分の目の前に持ち上げ、その腕輪を見つめて、そしてまたため息をついた。

「ついてこい」

そういうと、二人の術者はノイエを真ん中に置き、迷路のような地下通路を歩いていった。


「術者を連れてまいりました」

 ある部屋の一室まで来ると、今度は男の方がそう言った。

 ここに反乱軍のリーダーがいるらしい。

「入りなさい」

 穏やかな声だった。

「はい。失礼します」


 部屋に入ってノイエが見たのは、まだ若き少年だった。

「ライゼリア=ホーク」

 ノイエのつぶやいた言葉に、術者二人の方が動揺した。

「何故、知っている」

 女性の方がそう言う。

「知っていても不思議ではないよ。

 2年前まで私は、王国騎士団の一員だったんだから」

 ノイエが答えるより早く、魔法師の疑問に答えたのは、ライゼリア本人だった。

「しかし、この者は旅の魔法師。

 知っているのは妙だ」

「そうでもないよ。

 他国に出向いて親善試合をしたことも多々ある。この髪の色は珍しいから、覚えていても不思議じゃない。そうだろう?」

自分の長い白髪を右手に絡めて彼は言う。確かに若い人での白髪は珍しい。

しかし、ノイエの知っている彼は白髪などではなかったはずだ。

「それにしても、覚えていてくれて光栄だよ。

そして、こうしてお会いできて。

あなたの名は?」

「ノイエだ」

「そう、ノイエさん。始めまして。

改めて自己紹介させて頂きますね。

僕は、ライ。カジム王国に反旗を翻した反乱軍のリーダーだ。

あなたが知っている僕は、もうきっと僕じゃないよ」

 ノイエは一瞬ドキリとした。

 ノイエがライを知っているのは、昔馴染みだからだ。

 カジム王国の王宮で、既に騎士団の団長を勤め上げていた兄の影にちょこまかとついて回っていたライと、王女であったノイエは良く一緒にいた。そして良く一緒に遊んで、一緒に怒られて。

 自分が王女だったノイエだと覚えているのかともとれる発言だった。

 しかし、ライがそういうつもりで言ったのではないことは、次の言葉ですぐに分かった。

「僕はもう貴族でもなければ騎士でもない。

 あなたが私を見たのが、どこの国でどんな立場だったかなんて、何の意味も成さないことだからね」

「どうして私を呼んだのですか?」

「昼間、魔法をつかっただろう?水の属性の魔法だ。

君に頼みがあってね。

君に、魔法で雨を呼んで欲しい。

返事は今すぐじゃなくてもいい。明日、また聞こう。

今日は休んでくれ」

 それだけ言うと、ライはさっさと姿を消した。

「ついてこい」

女性に言われて、再び迷路のような道をぐるぐると回らされた。

「ここにいろ」

引っ張るように部屋の中に連れて行かれて、ノイエははっと気づいた。

「どういうつもり?」

「念のためだ。」

部屋には魔法封じの結界まで張られていたのだ。

魔法を封じられていた状態ではそれを察知するのに時間がかかった。

「随分手が込んでるのね」

「念のためだと言った。同じ質問には答えない。

 --この国は、3年前より雨が極端に降らなくなり、このような状態へとなった。

 あなたも人の子であれば、人情だってあるでしょう?

 何も我等は戦いを望んでいるわけではない。

 雨を降らせるのは、この国の人のためになることだ」

 女性魔法師は、ノイエの方を見はしないで、そう言った。

「そうね。

 でもあなたの意見はとってもこの国と、そして反乱軍に偏っているわ。

 情報は公平でなければね」

 ノイエは女性の方をじっと見つめて言う。

「何が…言いたい」

「言いたいことは3つよ。

 一つは雨について。あなたの言葉だと、雨を降らせているのはあなたたちだけのように聞こえるわ。

 今この国に降っている雨は月に2回。

 国が魔法師に降らせている月初めの雨と、あなたたち反乱軍の魔法師が月半ばに降らせている雨。間違いないはずよ」

「―-間違ってはいない。

 あなたは詮索好きのようだ。調べたのか?」

 女性魔法師の言葉に、ノイエは答えはしなかった。

「二つ目は、どうやって雨をふらせるか。いくら魔法だからと言って勝手に雲が生えて来るわけじゃないわ。本当は降るはずだった近隣諸国の雨を集めて降らせているのよ。あなたも魔法師なら常識的に知っているはずだわ。魔法であまり雨を降らせすぎるのはよくないわ。この国は一生魔法だけに頼って雨を降らせ続けると言うの?それより根本的解決を目指すべきだわ。どうしてこのような状況になったのかっていう。

 そして最後に、あなたは私に人情があるかって聞いたわね。残念だけど、私は人情の前にまず、魔法師としての掟を優先させるわ。私の所属は”北の牢獄”。そういえば分かるかしら?」

 ノイエの言葉に、その中でも特に「北の牢獄」という言葉に、女性は反応した。この世界の魔法師は、全て魔法学院と魔法協会からなる組織に属している。その種類は4種類。

まず、60%の人が属する南の太陽。

そして20%の人が属する東の精霊。

そして20%の人が属する西の砂漠。

そして0.01%の人が属する北の牢獄。

 もっとも少なく、そして最も魔法師の掟と戒律を遵守しているといっても過言ではない組織だ。それには北の牢獄特有の理由もある。北の牢獄への入学と所属には魔力の量が少なければみとめられないのだ。

「私はあなたたちの話に乗る気はないわ。

 それは何年、何百年たっても同じよ」

 ノイエの言葉に、女性魔法師は部屋から去った。

 鍵を閉めて。


「全く…」

一人残されたノイエは、首にぐるぐると巻きつけられていたネックレスを取り外した。

それを床に広げ、円形を作る。

そこに手をかざして、唱える。

「我、風の精霊を呼ぶ。

 ミズガリアス=セイレーン」

 ネックレスで作られた円形から風が起こる。

「お呼びですか?ノイエさん」

円形の中から風の精霊が現われた。

「ええ。リアス、こんなところに呼び出してごめんなさいね」

「いいえ。精霊は魔力が満ちていない場所でもそれ程影響は受けませんから。魔封じですか?」

 ノイエの腕と、そして部屋をぐるりと見回したあと、そう言った。

「ええ。ちょっとね。」

「解きましょうか?この魔法具だけでは私を呼び出すことが精一杯でしょう」

そう言って自分に呼ぶに使っただろうとおもわれる床のネックレスを一瞥する。

「そうね、とりあえずはいいわ。

 今日の用件は、伝令を頼もうと思って。

 ちょっと伝えてほしいことがあるの」

「はい。お伺いします」

「長老方に言っておいて。知っている情報は全て与えるようにって。

 あの人達はきっと知っていたわ。この国の反乱軍のリーダーのことも。この国に雨が少ないことも。それなのに『命令だ。反乱について調べてこい。これは北の牢獄の意思だ』だなんて酷すぎるわ。

 そう思うでしょう?リアス」

「えっと。あの」

「あら、ごめんなさい。愚痴っちゃったね。

 まあ、そういうことだからよろしく」

「わかりました。伝えるのは伝えますけど、あまり返事は期待しない方がいいですよ。いつものことですから」

 そう言ってにっこり笑うリアスに対して何だか大人気なくて、苦笑しながら彼女を見送った。

「も、寝よ」

 そういうと、ノイエは眠りについたのだ。


 目が覚めると、もう太陽は高かった。

「何よ、この部屋、洗面所もないの?」

 起きて顔を洗おうとしたが、その場所が見当たらない。

「あ、開いてる」

 外には出れないだろうなと思っていたが、ドアの鍵が開いている。

 ふと、テーブルに目を向けたら、寝るときにはなかった朝食のパンとかサラダとか果物とかが並べられていた。持ってきた誰かが鍵を閉め忘れたのだろう。

 ノイエは、洗面所を探してうろうろと徘徊していた。


 一方。

「姉上様…」

反乱軍の基地にいたカジム王国第二王女リリアスは、随分会ってはいないが忘れるはずもない自分の姉の姿を見た。自分の方へ近づいてくるのに気づいたリリアスは、とっさに近くの部屋に隠れた。

「王女様」

 その部屋には運悪く女魔法師がいた。

「何をしに来られたのですか?」

 その声は、幾分怖い。

「何って、ライに会いにきたのよ。悪い?」

 悪びれる風でもなくそうこたえる。外で足音が遠ざかっていく。

「悪いですね。

 あなたはこの国の王女様なのですから。そうでしょう、花姫」

 愛称で呼ばれ、リリアスは少し嫌な顔をした。

「意地悪ね、サーナ。

 私がそう呼ばれるの嫌いなの知っているでしょう?」

 リリアスの言葉に、サーナは苦笑いをする。

「では、お帰りください。

 ライ様はお会いになりませんよ」

「どうしてあなたに分かるの?

 ライはまだお姉様を待っているっていうの?もう10年も経つのよ」

「第一王女のことは私は存じ上げません。

 ただ、あなたはここに来るべき人ではないし、来てはいけない人なのですよ」

 そういうと、サーナは強制的に王女の周りに魔方陣を張った。

「我、送る。風の行く先に」

 その言葉のあとに、王女の姿はなかった。

 サーナは深いため息をついて、近くの椅子に座り込んだ。


 洗面所を探して徘徊していたノイエは、無事顔を洗うことができて満足だった。

 途中で誰にも会うこともなく、なんとなく安心した気持ちで部屋に戻った。

 用意された朝食も食べ終わり、一息ついたころ、ようやくお迎えが来た。

「ライ様がお呼びです」

「そう。

 ねえ、あなた名前は?」

「サーナと申します」

「所属は?」

「南の太陽だ」

「そう」

 会話につまっていると、ライの待つ部屋へついた。


「待っていたよ、ノイエ」

 ライの笑顔に、ノイエは少し眉をひそめた。

 その顔があまりにもノイエの知っているライに似ていたからだ。

「私、雨なんて呼ばないわよ」

 ライが何かを言う前に、きっぱりと答えた。

「魔法なんて、生きていくためのオプションでしかないわ」

 その言葉に、ライはふっと笑った。

「魔法師である君が言うには、おかしな台詞だね」

「そうでもないわ。

 私は、私の想いに反する魔法は使わないわ」

「それが組織の要請でも、ですか?」

 そこに口を挟んだのは、サーナだった。彼女が言う組織とは、『北の牢獄』をさす。

「それは違うわ」

「矛盾、してますね」

「そうでもないわ」

再びノイエはそう言った。

「あなたが魔法師の組織をどう捉えているかは知らないし、『南の太陽』がどういう組織かもしらないわ。

でも、『北の牢獄』は、無茶は言うけど、私の思いに反する魔法を使わせようとはしないわ」

 その言葉に、サーナは表情を曇らせ、ライはすこし驚いた顔をした。

「北の牢獄の所属でしたか、あなたは」

「ええ。

サーナさんには伝えていたのでてっきりご存知だと思っていましたわ」

ライは少し考えた後、口を開いた。

「サーナ。彼女はお帰りのようだ。

 送ってくれ」

「ライ様っ」

「サーナ。彼女が北の牢獄所属なら、彼女を引き止めることは決してできないよ。君も魔法師なら知っているだろう。今、この世界のどの国を探しても、特定の国や組織のために動く北の牢獄の魔法師がいないことくらい。そして、そのような魔法師は北の牢獄に所属することを許されないことを」

 ライの言葉に、サーナは反論をやめた。

「送ってまいります」

「送っていただかなくて結構よ」

 サーナは左手首の腕輪を右手で握った。

 ――パリン

 その腕輪は脆くも砕け散った。

「なっ」

「もう少し、修行が必要ですよ」

 そう言ってノイエはサーナに一枚の紙切れを渡した。

 それは市販されている一般的な魔法具の一つで、よくお守りに使われるものだ。

 それを使って腕輪を割ったらしい。

「魔法師だからといって魔法具を持っていないと言うのは偏見ですし、奢りです。

 私のように露天で売っている何気ない魔法具を所持している魔法師は世の中に沢山いますよ」

 ノイエはそう言うと魔法陣を張り巡らした。

 そしてすっと消えたのだ。


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