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俺の日常  作者: 宵賀
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泣かない約束

 秋になるまでには、吹音を退院させてやりたかった。それは、吹音の誕生日もあるし、付き合い6年日記念もあるから。

 だから俺は先生に話しに行っているが、先生はあまりよい返事をくれない。


――どうしてかなぁ……子供だけれども俺が側にいるからいいと思うんだけど


 吹音とトランプをしながら俺は何故かと言う事を考えてしまう。そして、吹音が何も動かない俺をみてすぐにトランプは飽きたという。


「飽きーした。ねぇー」


 眉を寄せて、何も期待していなさそうな瞳で俺に聞いてくる。その()が言う。「家はまだか」と。

 俺も、吹音を家に帰らせてあげたい。このまま入院をしていれば費用だって高くなるし、家も使わなくてはダメになってしまう。


「家帰りたいね、俺も帰りたいよ」

「ね、じゃー帰ろ! 今、いまぁ~」


 手を掴み、“帰ろうコール”が始まる。流石に一ヶ月もここ(病室)にいると、つまらなさが倍増する。

 しかも、自由が限られているし、好きな事はできないから……吹音の事を考えると今の状態が窮屈すぎてつまらないのだろう。


「帰ったら何するの?」

「えち」


 即答で答えられる。

 俺は「こら」と小さく叱りつけて、吹音を膝の上に乗っけてやった。


「悪い子だよ、そういう子は一緒に寝ませんからねー」

「ほんとぉ?」


 今度は不安げな目をして、こちらを向く。その目からは、「本当にそうなの?」と、強く問いかけてくる。

 俺は、少し……。

 その目に負けてしまうのだが、プイッと横を向いて


「子供は早く寝るから、一緒に寝れないんだよ。だから寝ないの」


 うぅ…っと、吹音の顔が歪む。今にも泣いてしまいそうだが、ぐっとそれを堪えているのだろう。口がヘの字に曲がっている。

 おまけに手には握りこぶしを作って、文句を言いたそうにしているが、それは言うことは出来ない。

 口を開いてしまうと、涙が零れ落ちてしまうことを知っているのだろう。


 俺はそんな吹音をみて、心の中で笑みを浮かべた。

 以前、吹音は病室で今みたいな悪ふざけなのに、「もう構ってやらないからね」と言った瞬間に泣き出してしまった事があった。

 それほどショックだったのか、10分ぐらいは泣き止むことはなかったが、ギュッと抱きしめてやりながら優しく「ごめんね」と囁くと泣き疲れたのか寝てしまった。


 起きた時には、少し暗い顔をしていたが俺が微笑ましく吹音の頭とかを撫でてやると、機嫌はいつものように戻った。

 その時に、俺は「泣く子は俺好きじゃないなぁ」とわざと聞こえるように言い、「嫌い?」と、すぐに問いかけられて「いい子が好きだから。吹音ちゃんはすぐ泣くからなぁ」と吹音に、自分が幼いと分からせてあげたいと思い「泣く子は俺に好かれない」事を分からせた。

 「じゃあもう泣かないの、絶対」

 「約束する?」

 無理矢理だと思うのだが、吹音はあまりの幼さで単純にも泣かないと約束をしたのだ。



「あれ…泣かないね」


 涙を抑えているその目は、少し複雑な色をしている。

 本当は泣きたいのに自分が嫌われたら嫌だから、という思いで、吹音は首を振る。


 泣いてたまるもんかー


 なんて声が聞こえそうなくらい、激しく振る。

 たった1回の出来事だったのに、吹音はちゃんと理解していた事に俺は内心驚く。


「そっか、いい子だね…吹音ちゃん、いい子だよ。大好き」

「うん」


 小さな声でそう言った頷きは、俺たちにとっては大きな頷きになった。

 幼いなら、それなりの事を教えてあげればいつもの生活に戻れる…そう、俺が考えた。


「おーちは?」


 でも、やはり退院の仕方を先に覚えさせるのが先ではないか…というのが、最近の俺の悩みである。

 実際の所、先生からは落ち着いている吹音をみて、退院を検討しているらしい。

第7話の読者数は98名様でございました☆

もしかしたら、いま読んでいるあなたが、その中の1人かもしれませんよ!?

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