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俺の日常  作者: 宵賀
23/28

意識朦朧 ver吹音

もう、私は何時間眠り続けてるだろうか。

 記憶があやふやの中残っているのは光大からの電話着信とメール受信音ぐらいだけ。

 あの時、電話に出れたら光大の声が聞けて。

 メールを見れたけれど、何が書いてあったのか良く覚えてない。


 うつぶせに寝ていて、しばらく経った後だった。

 どこか遠くで誰かが私の名前を呼んでいた。よく分からないけれど、体が揺れていた。私は、名前を呼ばれたので、答えようとしたけれど体は動かないし、寒かったから目を開けることも出来なかった。

 そして、チクリと、自分の腕に何か刺さる感じがした。

 蚊に刺される感じではなく、注射をするような感じで。


 そこから、また記憶が飛んでしまって。

 死神が迎えに来たのかなって思った。

 光大と喧嘩したままでちゃんと謝ってないし、もうすぐ自分の誕生日なのに死んじゃうのかなって。思ってたら少し悲しくなった。28回目の誕生日。光大がくれる誕生日プレゼントを毎年楽しみだった。のに、今年はお預けかなって。


 寝ている自分の頬に暖かい涙が伝った。

 拭うことも出来ないし、口を開くことも出来ない。


 さっきから、頭が痒いのは気のせいかな。

 今夜は吐血しちゃってお風呂に入ってないから。…あ、ベッド血だらけにしちゃったな。あれから時間経ってるしもう血は取れないよね……。

 光大の奴、怒ってるかな。血だらけのベッドで寝たくないとか、いいそうだ。


―――あれ?


 私はさっきとは違う“感じ”がして、思考回路を少し止めた。

 頭の痒さがなくなったのもそうだし、それよりもまた人も声が聞こえるようになったこと。

 そして、自分の口に心地の良いマスクがかけられたこと。


 どうしたんだろう。さっきまでは息苦しい感じがしてたのに。

 起きて確かめたい。

 そう思ったけれど、私の体はまだ重くて目もあけれなくて。自分の吐いている息が対流して肌に当たるのを確認すると、それがとても温かいと思った。


―――私…死んだ人みたいに冷たいのかな。


 少しショックを受けながらも、心の中で「はぁ」とため息をつくと、タイミングが良いのか分からないが温かい何かが私の頬に触れた。

 そして、どこからか声が聞こえた。


「聞こえるか……?」


 その声は、喧嘩をして家を出て行った、馬鹿みたいに幼くなった私を介抱してくれた、大好きな光大の声。

 聞こえるよ……。そう伝えたいが、自分の意思では何もすることが出来ない。「うごけぇぇ」と強く思っても、ピクリともしない。

 私がそうこうしているうちに光大が喋り始めて。耳を傾けながらも動こうと必死になる。


―――え!?今この人なんていった!?


 必死になっていたあまり、私はきっとものすごい重要な会話を聞き逃してしまった。

 確か「寝かせない」…とか何か?……あ、違うな。「狸」なんたらだっけな。

 動きたいのに体なのに、頭だけはちゃんと動く。

 そしてまた、心の中でため息をつくと、今度は心地の良い女性の声が聞こえた。


「あんたの彼氏は最高で最悪ね……」

―――は!?いきなり何言ってるの!?


 私は女性の声、親友の冴の声に一瞬にして怒りが増す。

 何が最低だー! すっごくいいんだ! 冴なんかには分からないのだよー!!!

 とか何とか、言っていたらまた……。


「彼氏さんもらって行くから……会社には書類が……」


 ある意味とんでもない事が親友の口から漏れているに違いない。

 しかも彼氏をもらうってどういうことだし……。

 あきれながらもそう耳を傾けていると、次第に私の耳には何も聞こえなくなった……。














 次に物音を聞いたのは、コツコツという音。

 なんだと思い、目を開ける。


 それはとてもあっけない瞬間だった。

 青白い空が視界に入ってきて、私はしばらくの間訳が分からなくなる。


―――何してるんだっけ。


 ど忘れの程度でははない。空を見た瞬間。というよりも物が視界に入ったとき、今までの記憶が収縮されて、自分が蟻になったと思った。


 ―――「起きました」って。言うんだぞ―――


 光大がそう言ってたような言ってなかったような。私は一応目覚めたので口を少し開けてみる……が、酸素マスクが付いていて思うように言葉を発せられない。

 しかも、左の手が異様に握り締められていて。

 首を少し動かすと光大が私の手を握っていてくれた。


―――光大じゃん、寝てるねこの人。うん。分かる、寝てる気がする。だって目が閉じてるもん。


 規則正しい寝息が聞こえて、私は少し嬉しく思う。無事に見れたのもあるし、こうして手を握っててくれたから。

 私の事心配してくれてたんだな…。そう思って、右手を動かしてみる。ありえないくらい白い自分の手を見たが別にどうも思わず、そっと光大の髪に触れされる。


―――感覚ないし。


 苦笑しながらも、右手を元も場所に戻した。

 そして、私は少し眠くなったので最後に一言呟いてから瞼を閉じた。


「……こうだい、起きたよ」



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