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俺の日常  作者: 宵賀
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喧嘩で早めに出て行った家

 車を駐車場へ止めると、俺も荷物を持ち、エントランスを抜ける。

 やはり、一週間の出張のためか、荷物が少し多く、そして重い。


「吹音……あいつ軽い物だけ持って行ったな」


 ちゃっかりとしている吹音の事を思い、後で軽いお仕置きをしてやろうと考えた俺は、エレベータを抜け玄関に着くと、わざとインターホンを押し吹音を呼び寄せた。

 ガチャリと音を立てて開いたドアにもつれかかるように、俺は疲れたモードに入った。

 お仕置きもしてやりたいが、重い荷物を持って歩いた為か、腰が痛い。


「吹……持って。重いから。方っぽ」

「うん」


 両手でしっかりと持ちリビングへと運ぶ、吹音の後姿。

 その後を俺は追いかけるように、同じ道を辿る。


 俺達の部屋は、玄関の先に右にキッチン、奥にはリビング、左には寝室がある。

 よくありそうな間取りだが、ここの部屋のリビングは何故か広い……そのためか家賃は少しお高めであるが。

 リビングの真ん中には折りたたみ式のソファー、東と西で窓が2つ、パソコンとラックがテレビの横、そして俺の小さな本棚がある。

 それだけでギュウギュウに詰め込んでいるリビングだが、少しゆとりがあるようにも思える。


 キッチンは1人入れば狭い………きっと、その部分が狭いから、リビングが広いんだなぁって思う。

 ガス台と電気コンロ、電子レンジ、小さなオーブン、冷蔵庫、茶箪笥で、すっごく狭い。

 俺達が入ったらきっと、作業は出来ても身動きは出来ない。


 寝室はダブルベッドで、ナイトスタンドが1つ。

 後は小さな机が2つ、俺と吹音の勉強机がある。まぁ、俺は勉強机って言うか、本で埋まっている。


「おっもー」


 どさっと、リビングに荷物を置き、すぐにソファーへと腰をかける。

 力がないのは分かるが、少しオーバーな態度だと、俺は思う。


「重くないでしょうが。吹、ご飯ー」


 時計はもう6時を回っているが、外はまだ明るい。

 紫とオレンジ色でグラデーションされている空は、いつ見ても綺麗である。


「わぁかった、わかったー」


 もう、それでも嫁候補かと、突っ込みたくなる吹音の態度。だから、俺はプロポーズはしない。

 今したら、何となくダメな気がするし、タイミングがあると思うから。


 吹音は何か作ろうと冷蔵庫を開けたりして、ブツブツ喋っている。

 俺はリビングを後にして、明日の準備の再チェックをしに、寝室へと向かった。




「ここで寝るのは今日で、それから一週間も先…かぁ」


 再チェックしに来たのだがそれはもう昨日もしたことだから、俺はキャリーバックに目もくれずベッドへと倒れこむ。

 目を閉じ、いつもの匂いの中に、少し柑橘系の匂いが少しした。

 瞼の裏で、吹音がマットレスを外に干した後、いつも何かのスプレーをしていた様が浮かび上がる。


 一体、何のためにしていたのか分からないが、夏の汗臭さよりかは、いい香りである。

 クーラーをあんまり使わず、風で普段は暑さを凌いでいるゆえ、汗が自然と出ることは知っている。

 それに、夜の事情事をした際は、必ず、2~3時間はクーラーをつけるが、それでも暑くなる始末だから、結局水道代が多くなったりもする。


 こんな事を考えていたから、寝ていたのだろう。

 俺は、吹音の吐息が聞こえるのを目覚ましとして、ふと目が覚めた。

 目の前にはやはり、吹音がいて、幸せそうに寝ている。


 そんな彼女の顔にそっと触れて見せると、そっと俺は起き上がり、リビングへと向かう。

 キッチンからは何かパンを膨らませているのだろう。オーブンからいい香りがする。


「調理中に寝ちゃうなんてなぁ…」


 冷蔵庫の中にある麦茶を取り、コップに注いでいるとき、俺の目に壊れたガラスの破片が目に飛び込んできた。

 何だと思い、カラスの破片を拾うと、その近くには割れたグラスがあった。


「……?」


 何をしてこうなったのか、全く理解できない。

 俺は首をかしげながらガラスの破片達を片付けていると、今度は俺が大事にしている本が濡れているのを見てしまった。

 これは、事件である。


「あぁぁー!」


 思わず、絶叫をしてしまう。

 この本は中学時代のときから大切にしてあった本。しかも、それが濡れっぱなしっという、悲劇。

 どうして吹音は黙っているのか。

 というよりか、俺の隣で添い寝している事自体が変である。変を通り越して謎の域に行く。


「起きろ! 起きろ吹!」


 怒鳴らない程度に起こすが、俺は結構怒り気味。

 少し乱暴に起こすと吹音の腕を持ち、事件現場へと直行。


「なんだよこれ! なんで拭かなかった。なんで寝ちゃったんだよ!」


 キッと吹音を睨みつけ理由を聞く。


「う……。水飲もうとしたら、●●(←黒くで気持ち悪い奴です)でた。ビビってギャーなって、手に持ってたグラス投げちゃって、本に当たって。どうしようって…」


 俺の脳裏で、1人で慌てふためく吹音の姿が浮かび上がる。

 でも、すぐに拭かなかったのは…?


「状況は分かった……。けど、すぐに拭かなかったのはなんで?」

「拭こうと思ったよ、でも、紙だから破れちゃうと怒られる」


 いや、きっと、拭いていて欲しかった。

 俺は悲しい気持ちの中に怒りが湧き上がる様を、どこかで感じた。


「拭いて欲しかったよ、吹。それに、寝てたのとかありえない。起こし行ったんでしょ、俺寝てたからさ」

「うん、でも……」


 俺はプツっと、何かが切れる感じがして、うつむいている吹音に怒鳴りつけた。


「でもでもって、吹!いい加減にしろ!謝る事が先だろう?何してるんだよ、子供でもないんだからさ!」


 言い過ぎた……と、少し後悔をした。が、それは少し間違いであった。


「だから、ごめんて、謝ろうとしたの!でも、光大がこっちの話し聞かなかったじゃん、今。寝ちゃったのは、寝てたから寝たいなーって思ったの」

「寝たかった?俺は疲れてたから寝たの! 吹はもう……」


 俺は手に力瘤を作り、じっと俺の目を見てくる吹音に向かって、後悔をすることを言ってしまった。


「吹は子供過ぎてる!大人になれって何回言った?甘えすぎなんだよ、お前は。俺はもう、今日は出て行く!」


 吹音の目には、少し驚いたような、それでも何か抜けているような色があった。

 俺は口を閉ざしてしまった吹音に背を向けて、寝室にあるキャリーバックを荒々しく手に取ると何も言う事もなく玄関を出て行った。

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