れっつ、らんち&でざーと!
荷物整理が終って洗濯物を洗濯機に洗ってもらえてる間に、やっと昼食を取ることが出来た。
吹音が“オムライス”が食べたいというので、駅前の喫茶店で軽く済ますことに。俺は吹音のオムライスを少し頂いて、コーヒーを腹の中に収めた。
今の時間…3時にお昼だなんて、正直言えば女性の敵である脂肪が体内に蓄積されてしまう。それを吹音に言ってしまいたいが、腹ペコな彼女に向かって嫌味ったらしく言うのは嫌なのでやめた。
俺は美味しそうにオムライスを頂く吹音を見ながら、ノートパソコンを広げて休業明けの仕事を済ませようとした。
「え、パソコンすんの? 吹音もする~」
ケチャップが口角についていて、俺はそれを指で取ってやった。ケッチャプを口に運び、俺は口を開ける事無くただ微笑むだけでパソコンにへ視線を戻す。
俺が反応しなかったためか、吹音は残り半分のオムライスをマイペースながらに食べ始める。
喫茶店の窓側に座っている俺たちは、なんだか学生の彼氏彼女に見えるんだろうなぁと、俺は心の隅で思った。
お腹が減っている彼女は頼んだものを美味しそうに食べて、そのまえで彼氏は宿題をする…。
でも、決してイチャつく事はなくて、大人な素振りを見せる。大人の真似をしたカップル。
「ねぇ、家帰ったら何する?」
あの時の口調…?
俺ははっと吹音を見ようとするが、窓から射す光がまぶしくて直視できなかった。
「家…帰ったらリフォーム。内装をかえよう」
「そっか」
一瞬ではないだろうが、俺の目には大人な吹音が映った。口をキュッと結んで化粧も何もしていない薄いピンク色な唇。
目は幼い面影も残していない、少しほっそりとしている。視線も甘えるものではない。
「こーだい、吹音見てるの?」
手を頭に伸ばされて、はっと俺は吹音を見る。さっきと違う顔立ちで、夢を見ていたのではないかと自分を疑った。
だけれど、それは現実であって。しかしなんだったのだろう。
「ん?吹音が綺麗だったからつい見たの」
“綺麗”という言葉に吹音は頬を赤く染めた。照れているのだろう。目元口元が嬉しそうに和らいでいた。
吹音は綺麗じゃないよぉ?なんて言葉が、視線越しに聞こえる。
可愛いって言ってよ……とかなんとか。そんなのも聞こえそうなぐらいにふっくらとした目をこちらに向ける。
「吹音照れちゃってる。そろそろ帰ろうか」
「コップの中身残ってるよ?」
飲みかけのコップを指差して、荷物を持ってお会計へと向かう俺を足止めする。
「飲んじゃっていいよ」
とか、言ってみたりすると、吹音は帰り道とっても機嫌が悪くなった。
コーヒーは吹音は飲めない。味が苦いと言って、コーヒーゼリーは好きなくせに苦くなると嫌らしい。
お会計を済まして俺は1人歩く。俺の後ろを追いかけるようにして吹音が足音を立てて住宅街を小走りしていた。
あー一緒に並んで歩いたら、きっと文句の嵐だ。
俺はクスクスを笑いながら、機嫌悪そうに後ろを歩く吹音に手を伸ばしてあげた。
もちろん、吹音はその手を取らない。
「苦かったんだよ…なんでさぁ」
舌を少し見して、眉を寄せる。コーヒーがよっぽど苦かったのだろう。怒りを静めてしまったようだ。
まぁ、俺としては嬉しい方向。住宅街で騒がれなくれすむのだから。
「俺、吹音の前でコーヒー頼んだ」
「そうだけどぉ……」
「自業自得だよ、どんまい」
口を尖がらせて何か言いたそうにしている吹音と並んで歩き、しばらくして我が家に到着した。
玄関を開けて、吹音は電光石火のようにキッチンへと向かった。大量の水を口に含み飲まずに吐き出している。
水しぶきで少し顔が濡れてしまっているが、きっと吹音はお構いなしだろう。もう、その表情が複雑に入り組んだ迷路を解いているような顔をしていた。
「大丈夫?リフォームできる?」
「できなくもないけど」
舌を出してなんとかしてくれ…と、言わんばかりの顔で俺に訴えてくる。
本当に自業自得だと思うのだが、ブラックを頼んだ俺は少し苦味を感じた。だから、お互いに自業自得なのだ。
「えー。じゃあ仕方ないなぁ。そのまま舌だしといてね」
俺は吹音と顔を近づけて、出している舌を自分の口の中に含めた。
まぁ、確かに苦味があるコーヒーの味がするが、俺はそんな吹音の口の中を甘いチョコレート味にしてあげた。
「ふ……あん」
顎を少し上に持ち上げて、さらに自分の舌を吹音の口の中に侵入させていく。
舌を絡ませて、きっともうコーヒーの苦味は消えたと思う。が、俺はそのまま吹音を押し倒した。
少し狭いキッチンだが、吹音を座っている俺の足の上に乗っけてしまえば、狭いとはあまり感じない。
「苦いの消えた?」
「あ…う。まだぁーもっとー」
押し倒されていい気分にもなったのだろうか。吹音は俺にキスをもっとねだってくる。
目元に少し涙を浮かべて、髪が少し乱れていて、少し強く吸ってしまった唇は赤く火照っている。
うん。これは、俺が理性とめちゃいけないのかも?
「もっと?」
「もっとーもっとー」
俺の手を取り……あぁ。吹音にこうされちゃうと俺は抵抗の余地がなくなる。
吹音が可愛すぎて、幼さが凶器になって俺の心にグサリと貫通。まだ昼間なのにって思っても、そんなに激しくしなければいいだろうし。
「ちょっとだけだよ」
さらりとサラサラの髪を手に取って頬を撫でると、吹音は嬉しそうに唸った。
俺はもう一度キスをしてあげて、軽々と吹音を持ち上げて風呂場へと向かった。ついでにエアコンのスイッチをつけてすっかり夜モードになってしまった。




