牡丹雪
ちらちらと白い牡丹が天から降る。
ああ、天よどうしてか貴方は救わん。
病院の一室に難病に掛り今尚、苦しみを我が眼に見せてくれる気配がない者よ。どうして、君は気丈なのか。
「何か必要なものは要らないかな」
万が一、君が言葉を発するのなら、私は何でもいたします。
「オニギリを一つ頂けませんか」
ああ、天よどうしてか貴方は救わん。
私はなりふり構わず、君が私のために、死を覚悟して発したその言葉。 それに必死に応えるために、私は心地よい風のように外に出た。
白い牡丹が降りしきる天への贈り物に今は感涙の情を忘れて、私は惨めにも手を真っ赤にさせながら綺麗な白を掬ったのだ。
「はい。すまないが、二つの事が邪魔をし、これになってしまっんだ」
「すみません。そして、ありがとうございます」
君は一滴の雪溶け水を零し、無理をした。
口の周りをチアノーゼ色に染めあげながら、無理をしたのだ。
こんな私の為だけに。なんとも健気な君よ。
ああ、天よどうしてか貴方は救わん。
君の隣に申し訳なく私が置いた不格好なオニギリは、徐々に徐々に溶けて地面に潜るのだった。
――――― ああ、天よどうしてか貴方はドチラモ救わん。