第9話 ヤバそうな敵があらわれました(2)
バルガスが叫びかけようとした、その時。
「——集合!」
俺は咄嗟に動いていた。
タクヤ、リーシャ、オルファの三人を捕まえて——
「——『時間停止』」
世界が、静止した。
◇ ◇ ◇
音が消える。風が止まる。全てが凍りついた。
ゴブリンキングも、先輩たちも、完全に静止してる。
「……え? なに、これ」
オルファが驚いた声を上げた。そういえば、まだ俺のスキル見せてなかったな。
「これが聞いてた例の使えないクソスキルね」
リーシャが呆れた声で言った。
「ユウヤの時間停止だ。スキル発動中は1ミリも動けないが、作戦会議くらいはできる」
「さてと、どうブチのめしてやろうか? あのデカブツ」
俺は不敵な笑みを浮かべる。
「はぁ!? バカじゃないの!? 死ぬわよ!」
リーシャが目を剥いた。
「いやいや、先輩たちもいるしなんとかなるっしょ」
「でかいとはいえゴブリンだろ? でかスライムもなんとかなったしな」
タクヤも乗ってきた。こいつのこういうところいいよね!
「ここで一発、強めのモンスターをぶっ倒して、ゴリラの野郎に自慢したいじゃん? ついでにレベルも上がるぞぉ~コレ」
俺の言葉に、リーシャが絶句する。
「だ、だからって……!」
「あれあれあれェ~?? 極大魔法の使い手のリーシャさんともあろう方がァ、あんな"でかいだけのゴブリン"ごときも倒せないんスかァ~?」
「え~、リーシャさんってその程度だったんスか~? もしかしてチキっちゃってますぅ? コケーッ!コケコケコケッ!」
俺とタクヤで散々煽り散らかしてやったら、
「……やってやろうじゃないの!!」
リーシャの目に火がついた。
「あんたたち、誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやるわ!!」
「ちょろいな」
「ああ」
俺とタクヤは目配せした。
「よし、作戦はこうだ。解除したらリーシャは即詠唱。俺とタクヤで時間稼ぐ」
「俺は言語理解であいつを挑発して怒らせる。怒ったら攻撃が荒くなる———つまり、『命中率』が下がるのがゲームではセオリー。避けやすくなるはずだ。(まあ攻撃力は上がるんだがな)」
「……ふっ。なら俺は撹乱……だなっ!」
完璧な作戦だ。天才か俺様は。
「———じゃあ、解除するぞ」
◇ ◇ ◇
世界が動き出した。
「——って、おい!? あいつらどこ行った!?」
バルガスが叫んだ。一瞬で俺たちのポジションが変わってたからな。当然混乱する。
「『炎よ、我が手に集え——』」
リーシャが即座に詠唱を開始した。
俺はゴブリンキングに向かって走り出す。
「うおおおおお!!」
剣を構えて突っ込む——フリをして、その横を駆け抜けた。
「グルァァァ!?」
ゴブリンキングが巨大な剣を振り下ろす。俺は必死に転がり回って避ける。
「デカいデカいデカい!!」
やべぇ、想像以上にデカい。一撃でも食らったらあの世行きだ。あと、この不細工が動くたびに大粒のヨダレとか変な汁が飛んできてキショすぎる!!
「おいデカブツ!」
タクヤの声が響いた。言語理解を使ってる。
「お前の母ちゃんゴブリンだろ!」
……なにその煽り? そりゃそうだろ。
「その間抜けな面で外歩けるのマジ尊敬っスわ~!」
タクヤ、お前それゴブリン語で言ってるんだよな? なんか、聞いてるこっちの方が恥ずかしいんだが。語彙力皆無ってコワイ。
「グオオオオオ!!」
ゴブリンキングが激怒した。まさかの効いてるみたいだ。……ゴブリンの知能はムシ程度っていうからな。攻撃が荒くなる———不思議と作戦通りだ。
「な、なにやってんだあいつら!?」
「撤退って言う前に突っ込んでいきやがった!」
先輩たちが叫んでる。すまん、説明してる暇はなかったんだ。
「あの剣……」
オルファの声が聞こえた。振り返ると——
オルファがゴブリンキングの剣を見つめて、恍惚の表情のままフリーズしていた。
「禍々しい……かっこいい……」
おいこら。お前は何やってんだこんな時に。
「あのバカ!!」
バルガスが叫んだ瞬間——
ゴブリンキングの剣が、よそ見をしていた俺に迫った。
避けきれない。
「——ッ!」
その瞬間、ゴードとロックが、二人がかりでゴブリンキングの剣を受け止めていた。
「「死ぬ気か!!」」
二人が怒鳴った。だが謝っている暇はない。
俺は立ち上がって——
「タクヤ、もっと煽れ! あと三十秒!」
即座に次の指示を出す。今は戦闘に集中しろ。
「オルファ! 何やってんだ! 動け!」
タクヤがオルファに叫んだ。
「……! ごめん」
オルファが正気に戻った。次の瞬間——
信じられないスピード。残像が見えるほどの速さで、ゴブリンキングの顔面に迫る。
オルファの剣が、ゴブリンキングの目を切り裂いた。オルファさん、あんたこんな強い子だったの!?
「グギャアアアア!!」
ゴブリンキングが悲鳴を上げて、よろめいた。
「詠唱完了!」
リーシャの声が響く。
「やれ!!」
「——『イグニス・インフェルノ』!!」
轟音。
灼熱の炎がゴブリンキングを呑み込んだ。爆風が俺たちを襲う。熱波が肌を焼く。
そして——
ゴブリンキングは、影も形もなく消し炭になってた。
◇ ◇ ◇
「「「「いえぇぇぇぇい!! 勝ったぜ!!」」」」
俺たち四人は、ハイタッチを交わした。
勝利の喜びに浸る俺たち。
「お前らァァァァ!!!」
バルガスの怒声が響いた。振り返ると、マッチョ三人が鬼の形相でこっちを見てる。
「……あ」
「……やべ」
俺とタクヤは顔を見合わせた。
「死んでたらどうすんだ!!」
「なんですぐさま敵に突っ込む!?」
「俺たちがいなかったらお前死んでたんだぞ!!」
怒涛の説教が始まった。俺たちは正座させられて、ひたすら頭を下げた。
「すみませんでした……」
「反省してます……」
「……ごめんなさい」
「……私も、煽られて乗ったのは反省してる」
四人揃って謝罪。情けない図だ。
「よかった……無事で……ばか……」
ミラが泣きながら俺たちに抱きついてきた。
「……!」
こ、この柔らかい感触は……!? ウヘ、たまんねぇな。
オトコノコな感情がちょいと湧き上がってしまったが、今は反省の時間だ。
「すみませんでした……」
声だけは真面目に絞り出してみせる。
◇ ◇ ◇
しばらくして、バルガスが溜息をついた。
「……まあ、説教はここまでだ」
表情が和らいだ。
「しっかし、お前らすごいな! キモは据わってるぜ!」
「リーシャもオルファもすごい攻撃だったぞ!」
「連携も完璧だったし、いつの間にか打ち合わせでもしたのかと思ったぜ」
ゴードとロックも褒めてくれた。
……実際、時間停止で打ち合わせしてたんだけどな。
「そういえばタクヤ、お前のアレはなんだったんだ? なにやら意味わからんことを発狂してたように見えたが……?」
バルガスが聞いた。
「おお、俺の活躍を見ていてくれたんですね?! 勇猛果敢にデカゴブリンの野郎を挑発して——」
「いや、何言ってるか全然わからんかった。急に奇声上げてよ」
タクヤの顔が固まった。
「こいつの言語理解スキル、共有していないと周りには意味不明なんだよな~」
「つまり傍から見たら、一人で発狂してる変な人ね」
「……」
タクヤが黙った。
「プププ、発狂マンwww」
「うるせぇ!!」




