第8話 ヤバそうな敵があらわれました
日が暮れてきたので、近くの開けた場所で野営することになった。
「よし、今日はお前らが野営の準備をしてみろ」
バルガスがテントや道具を俺たちに渡した。
「冒険者登録時の筆記テストにも出てきただろ? 実践だ」
「お、おう」
確かに、野営の方法はテスト後に勉強した。テント設営、魔法での火起こし、トラップの設置……全部覚えてるはずだ。
「よし、俺たちの実力を見せてやろうぜ!」
「任せろ!」
俺とタクヤは自信満々で取り掛かった。
——三十分後。
「なんでテント立たねぇんだよ!!」
「知らねぇよ! 授業で習った通りにやってるだろ!!」
「ロープの結び方が違うんじゃねぇか!?」
「お前がやれよ!」
テントは見事に崩壊。ぺしゃんこになった布の山を前に、俺たちは途方に暮れてた。
「次はトラップだ! これは自信あるぜ!」
「おう、やってみろ」
タクヤがトラップ用のロープを設置し始めた。俺もそれを手伝う。
「よし、ここに引っ掛けて……こうして……」
「で、ここを通すと……」
カチッ。
「あれ?」
——バチンッ!!
「ぎゃあああああああ!!!」
自分で設置したトラップに引っかかった。ロープが足に絡まって、俺は盛大に転倒。地面に叩きつけられる。
「痛ってぇ!! な、なんで俺が引っかかってんだ!!」
「……」
「……」
先輩たちが呆れた顔でこっちを見てる。
「お前ら……本当に授業受けてたのか?」
バルガスが信じられないって顔だ。
「受けてましたけど!? 一応!!」
「そうは見えんがな……」
地面でのたうち回る俺たちの元に、ミラが駆け寄ってきた。
「大丈夫? 怪我見せて」
ミラの手が淡い光を放つ。回復魔法だ。じんわりと温かい光が、擦り傷や打撲を癒していく。
「……」
俺は、ミラの顔を見上げた。
『トゥンク……』
つい心臓が高鳴った。
なんて優しい笑顔なんだ。 それにこの柔らかい声。癒しのオーラ。うちの女性陣にも見習ってほしいものだ。
「はい、これで大丈夫よ」
「デ、デヘヘ……」
天使。いや女神か。あんなゴリマッチョ三人に囲まれているのにどうして……!?
「あんた、チョロすぎない?」
リーシャが冷めた目でこっちを見ていやがる。まったくこいつときたら……
「チェンジで」
「はぁ?」
結局、野営の準備は先輩たちがやり直してくれた。
「いいか、テントはまずここを固定して——」
「「ほ~ん」」
「トラップはこうやって、自分が通らない位置に——」
「「なるほど~」」
説明を受けながら、俺たちは素直に感心した。
「こりゃ授業で習っただけじゃわからんな……」
「座学と実践は別物ってことか……」
タクヤと顔を見合わせる。確かに、ぼけ〜っと聞いてるだけじゃダメだな。これからはもう少し真面目に受けることを検討しよう。
◇ ◇ ◇
野営の準備が終わると、マッチョどもは酒盛りを始めた。
「冒険者といえばコレだ。飲むぞ!」
「「「おおおお!!」」」
バルガスが酒樽を開けた。どこから持ってきたのか知らんが、かなりの大きさだ。
「お前らも付き合え! 今日の打ち上げだ!」
「「マジっスか! いただきます!!」」
俺は遠慮なくジョッキを受け取る。タクヤも同様だ。
「「かんぱーい!!」」
「「「かんぱーい!!」」」
ジョッキがぶつかり合う。酒が喉を焼く。最高だ。
「いいぞいいぞ! ガキども、もっと飲め!!」
「一気だ一気!」
「「「一気! 一気! 一気!」」」
ゴードとロックが煽ってくる。俺たちも負けじと煽り返す。
「うおおおお! これだけは負けらんねぇ!!」
「下がっていろユウヤ、俺の方が飲める!!」
「嘘つけ! お前昨日吐いてただろ!!」
「戯言を! それはお前の方だ!!」
完全に男子校ノリ。いや、大学生ノリか。
「……冒険者ってみんなこうなの……?」
リーシャが呆れ顔で溜息をついた。焚き火の近くで、静かに座ってる。
「私もあっちは付き合いきれなくて」
ミラがリーシャの隣に座った。
「あなたも苦労してるのね」
「本当ですよ。毎日うるさいバカどもに囲まれて」
リーシャが愚痴を零す。
「でも楽しそうじゃない」
「……別に」
リーシャはそっぽを向いたが、その口元は少しだけ緩んでた。
オルファも焚き火の近くにいた。相変わらず無表情で炎を眺めてる。
「あなたたち、あの男の子二人と正式にパーティなんでしょ?」
ミラがリーシャに聞いた。
「はい、まあ……色々ありまして……」
「色々?」
「借金とか、借金とか、あと借金とか」
リーシャが遠い目をした。2000万リーフの重みは計り知れない。
「ミラさんは、なんであのむさ苦しい三人と?」
リーシャが聞き返した。
「幼馴染なの。小さい頃からずっと一緒で」
「幼馴染……」
リーシャの声に、羨望が混じった。
「あいつらも見ての通り、筋肉だけが取り柄のバカだけど、いざって時は頼りになるのよね」
「いいですね……そういうの」
素直な言葉だった。
「そっちの銀髪の子は?」
ミラがオルファに声をかけた。
「……」
オルファは少し間を置いてから、静かに答えた。
「……私は、ずっと一人だったから。幼馴染とか、そういうのは……」
その声には、微かな寂しさが滲んでた。
「……これから仲良くなればいいじゃない」
不意に、リーシャが口を開いた。
「……え?」
オルファが顔を上げる。
「私たち、もうパーティなんだし。あのバカ二人も、まあ……悪い奴らじゃないし。あなたのことももちろん受け入れてくれるに決まってるわ……というか、そうじゃないなら私が焼き払ってあげる」
「……」
「だから、これから一緒にいろんな思い出を作ればいいのよ」
リーシャにしては、随分と素直な言葉だった。
「……うん」
オルファの口元が、ほんの少しだけ緩む。
「かっわいいわね~あなたたち!」
ミラはその様子を、微笑んで見守ってた。
「「「一気! 一気! 一気!」」」
向こうでは相変わらず、バカどもが騒いでる。
「……本当に、なにしてんだか」
リーシャが溜息をついたが、その声はどこか温かかった。
◇ ◇ ◇
翌朝。
俺は鈍い頭痛と共に目を覚ました。また飲みすぎた。全然学習しない所もかわいいね。俺!
「……ん?」
地面が揺れている気がする。二日酔いのせいか?
「おい、起きろ!」
バルガスの声が響いた。緊張した声色だ。
俺は慌てて飛び起きた。他のメンバーも同様に起き上がってる。
「な、なんだ?」
地面が揺れてる。これは二日酔いじゃない……マジに揺れている!
「気をつけろ。昨日焼いたゴブリンの巣から……何かが出てくるぞ」
ゴードが指差した方向を見る。
遠くて見えにくいが、焼け跡の中から確かに巨大な影が這い出てくる。
「——なっ」
俺は言葉を失った。
そいつは、普通のゴブリンの十倍以上のサイズがあった。全身に禍々しいオーラを纏い、手には巨大な剣を握ってる。
「ゴブリンキング……!?」
バルガスの声が震えてる。
「まずい、撤退だ——」




