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第4話 目が覚めたら全裸で捕まってました

……頭が、割れるように痛い。


ゆっくりと目を開けると、見慣れない石の天井が見えた。冷たい床。鉄格子。薄暗い空間。


どこだ、ここ?


「……おはよう」


隣から聞き慣れた声がした。首を動かすと、同じように鉄格子の向こうにタクヤがいた。顔面蒼白、目の下のクマがさらに悪化している。


「……お、おう。てかなんで俺たち檻の中にいんの?」

「お前も覚えていないのか?」

「全然」

「俺もだ」


二人して記憶がない。昨日の打ち上げの途中から、何も思い出せない。


「目が覚めたか、クソバカども」


低い声と共に、檻の外に人影が現れた。ゴリラ——じゃなかった、ギルドマスター兼教官のガロンだ。腕を組んでこっちを見下ろしている。それにしても凄い形相だ。


「あ、教官。おはようございます」

「おはようじゃねぇ。お前ら、昨日の夜何したか覚えてるのか?」

「いえ、全然」

「だろうな。お前ら、ギルドの酒場で酔っ払って全裸で騒ぎまくったあげく、そのまま奇声を発しながら街中を闊歩してたんだぞ」


……えぇ?


「全裸で……?」

「街中を……?」

「そうだ。そのまま衛兵に捕まって、公序良俗違反で留置所送りだ」


マジか。マジでか……俺たち、異世界に来て全裸で逮捕されたの?

タクヤと顔を見合わせる。お互い絶望的な表情をしていた。


「……最悪だ」

「……異世界にまで来て、全裸で捕まるなんて」


これではまるでバカみたいじゃないですか。


「それだけじゃねぇぞ」


ガロンが隣の牢を指差した。そっちを見ると——赤髪ポニーテールの女、リーシャが収監されていた。


「お前もかよ……」

「私はあんたたち全裸バカとは違うわ。テロリストの容疑よ」

「テロリスト?」


タクヤが素っ頓狂な声を上げた。


「昨日の爆炎のせいで、近所の麦畑が全焼したんですって。それでテロリストと勘違いされたみたい」

「なんだ、自業自得じゃねぇか」

「あ、あんたたちのせいでもあるでしょ! 時間稼ぎが下手だからこうなったんだから!」

「は? 言いがかりはよせ! お前が魔力制御できないのが原因だろうが!」

「なんですって!?」


檻越しに睨み合う。相変わらず朝っぱらから腹の立つ女だ。


「やかましいぞお前らァ!!」


ガロンの怒声が響いて、俺たちは黙った。ゴリラの一喝に大気が震える。


「……とはいえ、だ」


ガロンが溜息をついた。


「あの変異種のスライムを倒したのは評価する。Bランク相当の魔物だったからな」

「Bランク……」

「というわけでお前ら三馬鹿は、パーティを組め!」


「「「えーーー?」」」


三人同時に声が出た。


「いやよ、こんな変態どもと」

「こっちのセリフだ、テロリスト風情が!」

「組むメリットないだろ」


なにが「というわけで」だ。支離滅裂な発言に全員が全員、断固たる拒否の姿勢をみせた。


「わかってないなァお前ら。昨日の面子はクエスト中一緒にいたんだ。当然、連帯責任だぞ?」


ガロンが不穏なことを言い出した。


「れ、連帯責任!?」

「麦畑全焼の弁償、公序良俗違反の罰金。お前らに今回課せられた借金の総額は諸々合わせて……」


ガロンが一枚の紙を取り出した。そこに書かれた数字を見て、俺は目を疑う。


「2000万リーフだ」

「「「に、2000万!?」」」


桁がおかしい。元の30万リーフの借金がノミに見えるレベルだ。


「返し終わるまで労働地獄だからな。覚悟しとけよ?」


異世界に来て、借金2000万。チート無双の夢は一体何だったのか。


「それと——」


ガロンが俺とタクヤを見た。


「お前ら全裸バカ二人、親族や身分証明の情報が何も見つからなかったが……このままだと不法滞在で追放か処刑だぞ?」

「「……は?」」


追放。処刑。物騒な単語が並んだ。


「今回だけは俺が身元引受人になってやるから、言うことを聞いておけ」


要するに、逆らえないってことだ。

借金2000万はもう免れられないらしい……


「厄病神じゃねぇかこの女ー!!」


俺はリーシャを指差して叫んだ。


「思ってた異世界転移と全然違うー!!」


タクヤも絶叫している。


「私のせいじゃないわよ!!」

「ほとんどお前のせいだろうが!!」


文句を言い合いながらも、俺たちは渋々パーティを組むことになった。だって他に選択肢がないんだもん。



◇ ◇ ◇



留置所を出る際、俺はふと足を止めた。同じフロアの、奥まった場所にある別の牢。そこに、一人の女がいた。


銀髪に、赤い瞳。整った顔立ちだが、表情は氷のように冷たい。クールというか、無感情というか——周囲を完全に拒絶してるような雰囲気だ。


「あの子は?」


俺が聞くと、ガロンの表情が曇った。


「……『呪われた貴族の娘』だ」

「呪われた?」


タクヤが眉をひそめた。


「なんでも、あいつがいるところに魔物や厄災がやってくるらしい。危険因子ってことで隔離されている。もう随分前から誰も近づきやしない」

「可哀想……」


リーシャが小さく呟いた。


「ま、変に深入りしない方が身のためだぞ」


ガロンはそう言って、俺たちを外に促した。俺は少しだけ立ち止まって、その女を見た。


呪い、か。


「どうした?」


タクヤが俺の顔をうかがう。


「いや、なんでもない」

「?……はやく行こうぜ」


銀髪の女が、こっちの視線に気づいた。赤い瞳が俺を捉える。

一瞬だけ目が合って——彼女は無表情のまま、視線を外した。


なんか、気になる存在だな。かわいいし。



◇ ◇ ◇



留置所から解放されて、養成所に向かう。

授業開始前、同期のマルクスとダリオが寄ってきた。


「お前ら昨日は最高だったな! まさに伝説の夜だったぜ!」

「酔っ払って全裸で捕まるとか、すごい逸材だな!」


こいつら、全然同情してねぇ。むしろ楽しんでいやがる。


「うるせぇ……頭痛い……」

「二日酔いがやばい……」


俺もタクヤも、まともに立ってるのがやっとだ。


「そんなことよりよォ」


マルクスが急に真顔になった。


「お前ら、女子とパーティ組んだってマジか?」

「精神支配系のスキルでもあんのか? 俺たちにも教えろよ」


ダリオも詰め寄ってくる。なんなんだこいつら。


「んなもんあるかボケ」

「隠してんじゃねぇよ!? 冒険者はよォ、ただでさえ女子が少ねぇんだ!」

「しかもあんな綺麗で可愛い子と仲良くパーティだ? 舐めてんのかてめぇらコラ」


完全に嫉妬じゃないすか。そういえばこの養成所の男女比、圧倒的に男が多かったんだったな。


「こいつは末期だ……」


二次元オタのタクヤですら引いている。もちろん俺も同感だ。


だが、ここで超天才な俺様はまたもや名案を閃いてしまったのです。


「君たち。そんなに言うなら、全然あげるよ?」

「……は?」

「あの女のせいで、俺たちパーティの借金はつい先日2000万リーフを超えたけどな!」


マルクスとダリオの顔が引きつる。


「おいどうした、待ちに待った女冒険者だぞ?」


タクヤも乗ってきた。借金ついでにあのやかましい女も追い出せるなんて! 悪魔的な作戦だ。ナイス俺!


「おいリーシャ! お前を拾ってくれる新しいパーティのマルクス君だ! 挨拶しなさい!」

「はぁ?!」


リーシャが血相を変えた。


「なんでこんな不細工な間抜けと組まなきゃいけないのよ?!」

「見ての通り性格も一級品だぜ! あとはよろしくな!! マルクス君! ガハハハ!」


俺たちは高笑いしながら、その場を離れようとした。


「……」

「……」


マルクスとダリオが固まっている。そして——


「す、すまねぇ。さっきの話はなかったことに」

「「ですよね〜!!」」


秒で返された。うん、賢明な判断だ。


「かーっ!! リーシャ、お前返されたぞ! よっ! 返品娘!」


タクヤが腹を抱えて笑ってる。


「うるさいわね!! あんたたちのせいでしょ!!」


リーシャが顔を真っ赤にして怒鳴る。キミの性格のせいですよ? あと借金。



◇ ◇ ◇



それから数日が経った。


俺たちは相変わらず養成所で授業を受けて、夜はバイトをして、空いた時間にたまに討伐クエストに行って——という生活を続けてた。借金2000万リーフは途方もない数字だが、少しずつ返していくしかない。


リーシャとも、なんだかんだで馴染んできた。煽り合いは相変わらずだが、戦闘ではそれなりに連携が取れるようになってきてる。魔力制御ができないのは致命的だが、あの火力は本物だ。時間稼ぎさえできれば大抵の敵は吹き飛ばせる。


問題は、俺たちの時間稼ぎ能力が壊滅的ってことなんだがね!



そんなある夜のことだった。


街中に、警報が鳴り響いた。


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