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第3話 偉そうな女に絡まれました

「あら~?」


聞き覚えのある声に振り返ると、赤髪ポニーテールの女——リーシャが、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら立っていた。


そう。例のしち面倒くさそうな女に絡まれたのだ。まさに最悪。


「聞いたわよ? あんたたち、スライム相手に逃げ帰ってきたんですって〜?」


クソっ!どこから情報が漏れた!


「クソカスファイヤボールの次はクソカス敗走? ほんっと雑魚すぎてもうカワイイ域ね」


こいつ煽りスキル高すぎんだろ。寛大さには定評のある俺でも流石に今のにはプッツンしそうだぜ。


「うるせぇ! そんなに言うなら、お前も来いよ!」

「別にいいわよ?」


リーシャが余裕の表情で髪をかき上げた。


「私の本当の実力、見せてあげるわ!」



◇ ◇ ◇



同じ頃、ギルドの受付。


「ガロンさん、例の訓練生たちがまた外壁の方に向かっていきましたけど……」


受付嬢の報告に、ガロンは書類から顔を上げた。


「……はぁ? あのバカども、またスライム狩りに行ったんじゃないだろうな?」

「おそらく。今度はリーシャさんも一緒みたいですが」


ガロンは深い溜息をついた。


「諦めの悪いガキどもめ。調査部隊の報告もまだ来てねぇってのに……」

「止めなくてよかったんですか?」

「止めて聞くような連中か? あれが」


やれやれ、と肩をすくめる。


「一応、ギルドの冒険者にもあいつらを追わせろ」

「ガロンさんも優しいですね」

「やかましい」



◇ ◇ ◇



再び街の外壁に出て、スライムと対峙する。

相変わらず二メートルの巨体が、一丁前に殺意を込めてこっちを見ていた。


「スライムにしては大きいわね! 下がってなさい。私が片付けるわ!」


リーシャが前に出て詠唱を始める。


「『炎よ、我が手に集え——』」


魔力が渦巻く。相変わらず凄い魔力だ。

よし、このまま一撃で——


「……ちょっと、時間稼いでくれない?」

「はぁ!?」


詠唱に集中したまま、リーシャが言い放った。


「訓練所で見たでしょ? 私の魔法は詠唱に時間がかかるのよ。その間、あのスライムを引きつけておきなさい!」

「そんな余裕あるわけねぇだろ!!」


スライムが酸を吐いた。俺とタクヤは必死に逃げ回る。


「早くしろぉぉぉ!!」

「も、もうちょっと……!」


逃げ惑いながら、俺は叫んだ。


「ファイヤボールとかでいいからさっさと撃てよ!! まずは小技で足止めすんのが戦闘の常識だろ!!」

「……使えないのよ」


リーシャの声が、少し沈んだ。


「あのゴリラにも言われたけど、魔力制御ができないの。ファイヤボールを撃とうとしても、全魔力使って強制的にこの魔法になっちゃうのよ」


ん?


「つまり——自由に魔法が使えないってことか?」

「……そういうこと」

「お、お前もカスじゃねぇか!!」

「うるさいわね!! あんたたちよりマシでしょ!!」


罵り合いながらも、俺たちは必死に時間を稼いだ。

酸を避けて、体当たりも避けて、命からがら脱兎の如く逃げ回る。


「詠唱完了!」


リーシャの声が響いた。待ってましたァ!


「——『イグニス・インフェルノ』!!」


轟音と共に、灼熱の炎がスライムを呑み込んだ。爆風が俺たちを襲って、熱波が肌を焼く。

そして——スライムは影も形もなく消滅してた。


「「すげぇ……」」


俺とタクヤは、その圧倒的な火力に言葉を失っていた。


「ふふん」


リーシャがドヤ顔で振り返る。煤けた髪をかき上げる仕草がなんかカッコいい。


「これが本物の魔法よ。感想は?」

「やっぱ威力だけは流石だな!」

「マジですげぇわ!」

「報酬は9:1でいいわよ? もちろん私が9ね!」


リーシャが訳のわからんことをのたまいだしたので、俺たちは無視して即刻帰ってやった。


こうして、俺たちは初めてのクエストを達成したのだ。



◇ ◇ ◇



冒険者ギルド内の酒場は、その夜、かつてない盛り上がりを見せていた。


「いよっしゃあああああ!! かんぱーーーい!!」


ジョッキがぶつかり合う音が店内に響き渡る。俺たちは初めてまともに稼いだ金で、祝勝会を開いていた。報酬自体は大したことないけど、ドブさらいに比べりゃ天と地の差だ。


「おい、マルクス、ダリオ! お前らも飲めよ! 今日は俺たちの奢りだ!」

「マジか!? ユウヤさん太っ腹ァ!!」

「さっすが俺らのユウヤさんだぜ!!」


同期の見習い冒険者どもが群がってきて、酒場は一気に宴会場と化した。


「おいおい新人ども、聞いたぞ! 変異種のスライムを倒したんだって?」


カウンターで飲んでいた先輩冒険者が、ニヤニヤしながらこっちに来た。


「よくやったじゃねぇか! 俺からも一杯奢ってやる!」

「「マジっスか!? ありがとうございます!!」」

「おう! 新人の初勝利は全力で祝うのが冒険者ってもんよ! 店主、こいつらに酒追加!」

「あいよー!」


次から次へと先輩冒険者たちが酒を運んできて、テーブルの上はあっという間にジョッキの山になった。


「飲め飲め! 若いうちはいくらでも飲めんだろ!?」

「ほらタクヤ、お前も遠慮すんな!」

「い、いや俺はそんなに強くな——」

「いいから飲め!!」

「ぐえっ」


タクヤの口に無理やりジョッキが押し込まれる。


「ユウヤさん、俺にも奢ってくれよ!」

「俺にも!」

「しょうがねぇなぁ! 今日は気分がいいから、好きなだけ飲めぇい!!」

「「「うおおおおお!! さっすがユウヤさんだぜ!!」」」


調子に乗った俺は、気づけば財布の中身を全部吐き出していた。まあいい、初勝利をあげた今日くらいは豪遊してもバチは当たらんだろ。


「ほら、リーシャも飲めよ! お前のおかげで勝てたんだからさ!」


同じテーブルで一人静かに飲んでたリーシャにジョッキを差し出す。


「はぁ。これだから男って生き物は……」


リーシャは呆れた顔で溜息をついたが、差し出されたジョッキは受け取った。


「まあ、奢りなら貰っておくけど」

「素直じゃねぇなァ!」

「うるさいわね!」


俺でなきゃ見逃しちゃうところだったが、リーシャの口元は少しだけ緩んでいた。案外こういうノリも嫌いじゃないのだろう。


「よーし、次は一気だ一気!!」

「「「一気!一気!一気!」」」


屈強な男たちが音頭を取って、店内が大合唱になる。


「いくぞタクヤ! 負けた方が次の奢りな!」

「は!? ちょ、待っ——」

「「「一気!一気!一気!」」」


周りの声援を受けて、俺とタクヤは同時にジョッキを煽った。喉を焼く酒が胃に落ちていく。最高だ。


「ぷはぁ!! 勝ったぁ!!」

「うぐ……げほっ……卑怯だぞ、いきなり……」


「うおおおお!! ユウヤ、てめえやるじゃねえか!!」

「アザッス先輩!!」


リーシャが「本当にバカね……」と呟きながらも、どこか楽しそうに俺たちを眺めている。


ンフーッ! コレっすよ!コレ! やっぱこういうのが俺が夢見た異世界ライフっすわー! 仲間と酒を酌み交わして、冒険の成功を祝う——最高じゃねえか!!


「悪くないじゃん、異世界生活!!」


俺はジョッキを高々と掲げて叫んだ。酒場中から歓声が上がる。



◇ ◇ ◇



同じ頃、ギルドの奥。


ガロンは部下から届いた調査報告書に目を通してた。


「あの変異種を倒したか……ガキどもにしてはやるじゃないか」


二メートル級のスライム。通常種とは比べものにはならない凶暴さと耐久力を持つ、Bランク相当の魔物だ。それをFランクですらない"冒険者見習い"が倒したのは素直に評価できる。


だが——報告書の最後のページを見て、ガロンの表情が曇った。


「……被害報告?」


そこには、無慈悲な一文が記されてた。



『周辺農地の麦畑——全焼』



ガロンは深い、深い溜息をついた。

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