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第21話 大変なことになりました(2)

「あつ! さむ! あつ! さむっ!!」


相反する感覚が全身を同時に襲ってきて、俺は叫び声と共に意識を取り戻した。


熱い。寒い。熱い。寒い。なんだこれ、身体中が混乱している。しかも視界がぐるぐる回っている——いや、回っているのは俺たちの方だ。


「なんだこれどういう状況!?」


隣でタクヤも同じようにわめいている。凍っていたはずの体が動くようになっているが、代わりにとんでもないことになっていた。


遠目に見えた光景で、ようやく状況を理解した。


オルファがクロ吉くんで俺たちの氷塊をブッ刺して、焚き火の上でクルクルと回転させている。豚の丸焼きの要領だ。しかも鼻歌混じりで、ノリノリである。


「……解凍しているの」


淡々と言うオルファの横で、エルヴィンが回復魔法をかけ続けていた。おかげで焼死も凍死もしていないようだが——この司教、鼻歌混じりでノリノリなのがちょっと怖い。


「てかリーシャ! お前がこの魔法を解除すりゃいいだろ!!」


俺はクルクル回りながら叫んだ。


「は? 何言ってるのよ」


リーシャが腕を組んで、心底呆れた顔で答えた。


「そんなことしたら、凍っている部分が急激に膨張して体がバラバラになるわよ? まぁそれはいいとして——」


よくねえよ。


「——一緒に凍らせたアイツの氷まで解けちゃうでしょ。そっちの方が問題」


振り返ると、封印の間の奥で、デミウルゴスが変身半ばの姿のまま氷漬けになっている。紫炎が氷の中で歪んだまま固定された、なかなかにグロテスクなオブジェだ。


……確かに、あれが解けたらまずい。


「にしてもオルファ、お前そのクロ吉でよくこの氷塊を持ち上げられたな。俺たち二人分だぞ?」


「……クロ吉くんは、すごいの」


呪いの邪剣で人間二人分の氷塊を串刺しにして肩に担ぐ少女。絵面がどう考えてもおかしい。邪剣とはいえ、そんなパワーがあるなんて。


「す、すごいですね……あの細い腕で……」


リーシャも驚いている。オルファ本人の膂力なのか、クロ吉くんの呪いの恩恵なのかは不明だが、どちらにしても規格外だ。


しばらく焼かれ続けた結果——ようやく全身の氷が溶けきった。


俺とタクヤは焚き火の横にぐったりと倒れ込んだ。全身がビショ濡れで、骨の髄まで冷えきっている。エルヴィンの回復魔法のおかげで怪我はないが、精神的ダメージが甚大だ。


「……二度とやるなよリーシャ」


「味方ごと凍らせる魔法使いとか聞いたことねぇぞ……」


タクヤがガタガタ震えながら抗議するが、リーシャは涼しい顔だった。


「結果的にアイツを止めたんだから感謝してほしいくらいだわ」


——こいつ、反省する気ゼロだ。




◇ ◇ ◇




「で、こいつどうするの?」


リーシャが氷漬けのデミウルゴスを指差した。変身半ばの姿が氷の中に閉じ込められている。紫炎が消え、今はただの氷像と化していた。


エルヴィンが顎に手を当てて考え込んでいる。


「そうですねぇ……殺してしまうのは簡単ですが、聞きたいことも山ほどありますし」


殺すの簡単なんだ。さすが元Sランク、スケールが違う。


「呪いの剣のこと、魔物の凶暴化のこと……この悪魔が全ての元凶なら、情報源として生かしておく価値はあります」


「でも生かしておいたら危なくないですか?」


リーシャの問いに、エルヴィンがニコリと笑った。


「大丈夫ですよ。5%の魔力で、この私に逆らえるとは思えませんから」


その笑顔が、一番怖い。


「そうだ、いいことを思いつきました!」


エルヴィンが手を叩いた。その目が、いつものドS司教の輝きを取り戻している。嫌な予感しかしない。


「君たち、先に帰っていてください。あとは私が処理しますので」


「処理って……」


「ふふふ。まあ、お楽しみに」


俺たちは不安を抱えながらも、言われるがまま大聖堂を後にした。




◇ ◇ ◇




俺たちが帰った後——封印の間にて。


エルヴィンが氷に向かって語りかけた。


「さて、そろそろ氷も薄くなってきましたし……聞こえていますか? デミウルゴス」


氷の中で、デミウルゴスの指がピクリと動いた。


「……聞こえている。さっさと殺せ」


「おやおや、あなたが確かあの剣に呪いを込めたんでしたね?」


「……そうだが?」


「ならあの呪いをまず解いてもらう——と言いたいところですが、あのお嬢さんが悲しんでしまいますし。それに首飾りを預かった手前、教会から出てきたのが原因とあってはマッチポンプみたいで後味も悪い」


エルヴィンの目が、穏やかなまま——しかし、有無を言わさぬ圧を帯びた。


「あの子たちの力になりなさい」


「は? 何を言って——」


その時、氷が砕けた。デミウルゴスが残りの魔力で氷を内側から破壊し、体が自由になる。


「よし、今だ! 残りの魔力でこいつを——」


言い終わる前に、教会じゅうに幾重もの多重魔法陣が展開された。聖なる光が封印の間を満たし、デミウルゴスの動きが完全に封じられる。


「……っ! この力……まさかお前——」


デミウルゴスの目が見開かれた。


「『二つ名』のエルヴィン……! なんであの時、あのガキどもが戦っている間に手を出さなかった……!」


「それはですね」


エルヴィンが微笑んだ。


「あの子たちが頑張っていたから、つい見ていたくなりまして。まぁ、親心みたいなものですかね? ガロン」


「うるせえよ」


封印の間の入口に、ガロンが立っていた。腕を組んで壁にもたれかかっている。いつからいたのだろう。


「お前は『二つ名』の……」


デミウルゴスがガロンを見て、さらに顔を歪めた。元Sランクが二人。5%の魔力では、逆立ちしても勝ち目がない。


「というわけで、これは契約です」


エルヴィンが一枚の羊皮紙を取り出した。


「この街に危害を与えないよう管理する名目でもあるのですが——ガロンの元で、新米冒険者向けに教官をやりなさい」


「えええ〜」


間の抜けた声が封印の間に響いた。伝説の悪魔の抗議にしては、あまりにも情けない。


「ふふふ、言ったはずですよ? 契約、って」


エルヴィンの目が、すっと細くなった。


「もちろん、悪魔であるあなたと契約してあげるのです。あなたの要求するものを、差し上げられそうですが……」


デミウルゴスの表情が変わった。悪魔にとって、契約とは絶対だ。そして——契約には、対価がある。


「……条件は?」


「教官としてあの子たちを指導すること。魔族の戦い方、呪い、暗黒魔法——あなたの知識を存分に教えてあげてください。その代わり、あなたの要求する対価を支払いましょう」


「……いいだろう。悪魔は決して契約を破らない」


デミウルゴスがニヤリと笑った。打算的な光がその瞳に宿っている。


「てわけで、あとはガロン。頼みましたよ」


「わかったよ」


ガロンが溜息をつきながら頷いた。


エルヴィンはデミウルゴスが去った後、独りごちた。


「……この子たち、本当に頭は大丈夫なのだろうか。少し心配になりますね」


伝説の悪魔を殴り倒し、氷漬けにし、家族だと言い張る——確かに、普通ではない。


だが、だからこそ面白い。



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