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第15話 腐れ死体を殲滅してやりました(2)

その後、ギルド内の酒場にて。


「あれ、お前ら今日は飲まないのか?」


先輩冒険者たちに声をかけられる。


「いや~、疲れてるし臭いしで、今日はいいっスわ」


俺は手を振った。グールの腐臭がまだ鼻に残ってる気がするんだよな。風呂でも入ってさっさと寝たい気分だ。


「な、、なな何があった!?」

「ど、どうしたんだお前ら!?」


なぜか、先輩冒険者たちが狼狽し始めた。屈強な男たちが、まるでこの世の終わりみたいな顔をしている。


……いや、そういう日も普通にあるだろ。


「え、なに? 俺らそんな酒カスだと思われてんすか!?」


「「「…………」」」


沈黙が答えだった。


……なんたる不名誉な!!



「まぁ座れよ」


バルガスとロックが大量の酒を持って声をかけてきた。先日のゴブリン退治でお世話になったBランクの先輩冒険者たちだ。いつのまにか酒場に来ていたらしい。


「いや、先輩~……今日は疲れたから飲めないっすよ? もう寝たいんですー!」


俺は断ろうとしたが——


「まあまあ、一杯だけ」


グラスを押し付けられた。


……仕方ない。嗜むだけなら。俺はグラスを受け取って、一口飲む。


「——うんめぇ~~!!」


思わず叫び声が上がる。


「バルガスさん! ロックさん! 俺が間違ってましたァ! 酒ってのはよォ~?! 疲れている時に飲むからこそ骨身に沁みるもんなんだぜェー!!」


「だろ~?」

「お前ならそういうと思ってたぜ」


バルガスたちがニヤリと笑う。


結局、俺たちはいつも通りの飲み会を始めることになった。


「いや~、マジで今日は散々だったな」


俺はグラスを傾けながら愚痴を零した。


「あのドS司教のせいで、酷い目に遭った!」

「大量のアンデッドに囲まれて、死ぬかと思ったぜ!」


タクヤも酒を片手に同調する。


「本当よ! あんな授業をこの麗しい私にあてがうなんて……ありえないでしょう? あんなの下郎が思いつくことよ!!」


今回ばかりはリーシャも同意だった。少々クチの悪さは気になるところだが、珍しく意見が一致したな。


「あのドS司教のツラは二度と拝みたくな——」


「誰がドS司教、ですって?」


——背後から嫌な声が聞こえ、俺たちは凍りついた。


振り返ると——エルヴィンがニコニコ笑いながら立っていた。


「「「ヒィィィィイ!!」」」


俺たちの悲鳴が同時に上がる。


「いや~、驚かせてしまいましたね」


エルヴィンは悪びれる様子もなく、俺たちの向かいに座る。


「し、司教さん……なんでここに?」

「そちらのお嬢さんの黒剣、あれが一人でに地面から抜けて街を浮遊していくもので」


——は?


「道すがら人を傷つけちゃいけないと思い、ついてきたんですよ」


……やっぱり、あの剣自分で帰ってきてたのかよ!


「それと、その剣の呪い……もうひとつありますねぇ……」


エルヴィンが悩みながらグラスを傾けた。


え? 酒飲んだ!?

こいつ今普通に酒飲みましたよ!?


「聖職者って酒あかんのちゃいますの!?」

「いやいや、私もたまには息抜きが必要ですからね」


エルヴィンがニコニコしながら答える。


……こりゃまたとんでもない司教もいたもんだ。さすがは、あのゴリラの知り合い。


「そうです! 最近、敵が急に強くなることはありませんでしたか?」


エルヴィンが何か閃いたように聞いてきた。


「あ~、言われてみれば」


俺は思い出した。ちょうど今朝も話していた、コボルトが妙に強かった件だ。最近ちょこちょこ強めの雑魚に遭遇することが増えている。


「やっぱり。それもおそらくその剣が原因ですね~。理由はわかりませんが、敵を大幅に強化する呪いの効果もあるようです」


「なにィ!?」


思わず叫び声が上がる。


「とんでもねえなその武器! オルファ、やっぱり捨ててこよう!」

「……絶対だめ!」


オルファが頑なに拒否する。


「オルファさぁん……」


俺は溜息をついた。


「まぁいいじゃない! 新たな強敵っていうより、ザコの強化版って感じみたいだし。倒し方もわかってる分、知らない敵より経験値効率も良さそうじゃない?」


おお。リーシャが初めてまともなことを!!


「一理あるな!」


タクヤも同意した。それもそうか! 前向きに考えるとしよう。


「ああ、そうだ。オルファさん」


エルヴィンが思い出したように言った。


「以前お預かりした首飾りの調査が終わりまして」


あ〜ノロ吉くんのことか。すっかり失念していたが、確かゴリラが知り合いに調べさせるとかいって没収された……あれ、エルヴィン司教のことだったのか!


「……返してもらえるの?」

「いえ、それが……」


エルヴィンの表情が、少しだけ曇った。


「調査の結果、あれは極めて危険な代物だと判明しました。封印された悪魔の気配がある……とでも言いましょうか」

「……」

「申し訳ないですが、あれは教会で厳重に管理させてもらいます。お返しはできません」


オルファの表情が、みるみる沈んでいく。


普通なら厄介払いできてラッキーだと思うところだが、呪い大好きっ子のオルファにとっては大切なコレクションの一つだったのだろう。


「……そう」


オルファが小さく呟いた。声に、隠しきれない落胆が滲んでいる。いつもなら意地でも引き下がらないはずなのに……相当ショックなんだろう。


「その代わり、と言ってはなんですが——その剣の方は、お持ちになっていて構いませんよ」

「……え?」


オルファが顔を上げた。


「あの首飾りほどの危険性は感じられませんし、何より……あなたがそれを大切にしているのは見ていてわかりますからね」


邪剣を抱き抱えるオルファを見たエルヴィンはニコリと笑った。


「まぁ、なにかあればいつでもウィステラ大聖堂に来なさい。こう見えても私はそこそこ名の知れたプリーストでしてね。若いころはよくガロンたちと冒険していたものです」

「え! 古い知り合いって……同じパーティだったってこと?!」

「フフフ、そうですよ」


エルヴィンがニヤリと笑った。


「はえ~、じゃあドS司教さんも元Sランクなんですね! ダブルミーニングってわけか! やりますやん!」

「……ちょっと何言ってるかわかりませんが、ありがとうございます」


意外だった。あのゴリラと一緒に冒険してたのか。道理で妙に仲が良さそうだったわけだ。


「……ありがとう」


オルファが小さく頭を下げた。


首飾りを失った悲しみと、邪剣を手元に置ける安堵。複雑な感情が、その表情に浮かんでいる。


「というわけで、オルファさん」


エルヴィンがオルファに向き直った。


「その剣も失いたくないなら、しっかり管理しておくこと。いいですね?」

「は、はいぃ」

「では、私は墓地の片付けが残っていますので、これで」


エルヴィンは立ち上がって、ギルドを出ていった。


なんか微妙な空気になっちまったな……


「ま、飲み直すか!」


俺はグラスを掲げた。



◇ ◇ ◇




同じ頃。ウィステル大聖堂。


ガロン、エルヴィン、バルガスの三人が集まっていた。


「——というわけで、あの剣は間違いなく呪われた武器でしたねぇ」


エルヴィンが報告した。


「アンデッドを引き寄せる効果に加えて、敵をランダムで強化する効果もあるようです。今のところ大きな問題はなさそうですが……経過観察は必要かと」

「ふむ……」


ガロンが腕を組んで考え込む。


「で、エルヴィン……例の首飾りの方は?」

「あれは……想像以上でした」


エルヴィンの表情が険しくなった。


「封印された悪魔の気配がある。それも、かなり上位の。下手に刺激すれば何が起こるかわからない」

「……やっかいだな」

「ええ。なので教会で厳重に管理することにしました。あの子には悪いですが」


エルヴィンが溜息をついた。


「スライムの変異種。ゴブリンキングの出現。そして、そいつが持っていた呪われた剣……」


バルガスが指折り数えた。


「立て続けに起きすぎじゃないっすか?」

「……ああ」


ガロンが頷いた。


「なにか、よくないことの前触れみたいだな……」


三人の表情が曇る。


不穏な空気が、大聖堂を包んでいた。


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