第14話 腐れ死体を殲滅してやりました
異臭を放つグールが、墓地のあちこちからワラワラと湧いて出てくる。その数、軽く百は超えてるんじゃないか?
「は、はぁ!?」
「多すぎだろ!!」
流石に焦る俺たち。周りを見ると、他の養成所生たちも逃げ惑ってる。
だが、ガロンと司教は——ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて腕を組みながら見物していやがる。
「このドSどもが!!」
俺は叫んだ。とりあえず、時間を止めて作戦会議だ。
「——『時間停止』」
世界が静止した。もうこのスキルの発動にも慣れたもんだ。アンデッドも、教官たちも、他の養成所生も全員が瞬時にフリーズする。
「私の魔法で焼き払ってやればいいと思うの!!」
我慢の限界に達したのか、リーシャが物騒なことを言い出した。
——マジでやめてくんない?
あーんな高そうな教会を巻き込んで破壊したら、借金がいくらになるか想像もつかん。 二千万でも今の労働地獄だっつーのに、これ以上増えたらどうしてくれんだよ!?
「バカタレ。俺とタクヤで神聖魔法を展開するから、お前らは俺たちの間に入ってじっとしててくれ」
「……それでいいの?」
リーシャが不満そうな顔をしたが、他に案もない。今回の作戦はこれでいく。
「じゃあ解除するぞ——」
◇ ◇ ◇
世界が動き出した。
俺とタクヤはすぐに背中合わせになって、神聖魔法を展開し続ける。
四方八方から迫るアンデット相手に女子を守りながら戦うなんて……なんか歴戦の勇者みたいでテンションが上がるじゃないの! まあ、守る対象が微塵にも姫っぽくないのは癪だが……
「『ターンアンデッド』!」
「『ターンアンデッド』!」
俺たちの聖なる光が次々とアンデッドを消し飛ばす。だが——
「なんか……俺らの方だけヤケに多くねえかこいつら?」
違和感を覚えた。
ゴキブリみたいに湧いて出てくるグールたちを次々浄化しながら、周りを見渡してみるが……逃げ惑っている他の養成所生のところには、せいぜい一~二体くらいしかいっていない。
なんかこれ、この墓地のほぼ全てのアンデッドが俺たちの方へ集まってきているような——いや、俺たちというか……オルファ……? の……? まさか……?
「その剣、呪われていますねぇ!」
司教の声が響いた。
——やっぱりかぁぁぁぁ!!
「その剣には魔物を引き寄せる類の呪いがかけられているようです。それはもう強力なやつが」
エルヴィンがニコニコしながら説明する。随分楽しそうだなこの野郎。
「おおお、 おい! オルファ! その剣、今すぐ捨ててきなさい!」
タクヤが叫んだ。
「……いや」
オルファは剣を離そうとしない。
状況を理解したリーシャが奪い取ろうとするも、オルファはさらに必死の抵抗を続ける。
「まったくもう! この子ったら、まったくもう!」
リーシャが憤慨しながら揉み合う。
くっそ! 加勢したいが、アホみたいに押し寄せてくるこの腐れ死体の対応でそれどころじゃない。
「オルファ、な? あとでちゃんと返してやるから! 今はそれ離してくれ」
タクヤも必死で説得を試みている。
「あ、あんなキモい奴に正気を吸われてもいいのか?!」
負けじと俺も声を絞りあげる。
——!? まじかこいつ……先の言葉にあろうことか、この娘。意外と満更でもなさそうな顔をしていやがる。
前にヒロイン枠がどうのこうの言ったが、前言を撤回しよう。
駄目だこいつ……早くなんとかしないと……!!
「お前らァ!!」
「「ああ!!」」
俺の合図で、リーシャとタクヤが一斉にオルファを取り押さえた。
隙が生まれた瞬間——俺は例の禍々しい黒剣をぶんどり、墓地の中央に投げ捨てた。
案の定、グールたちがゾロゾロとそっちに向かっていく。なにやらこの世の終わりみたいな顔でオルファが見つめてくるが、盛大に無視してやった。
「……飴玉に群がるアリみてぇだな」
こうなってしまえばあとはカンタン!! アンデッドの山に向けて、ターンアンデッドを撒き散らしまくるだけでいいんだからな!!
「『ターンアンデッド』!」
「『ターンアンデッド』!」
俺とタクヤで怒涛の連射。聖なる光がアンデッドの群れを次々と消滅させていく。もはや殺虫剤で大量駆除してるみたいで、ヘンな快感さえ感じてきた。
「やっぱ、あれだ。動かない敵を一方的に倒すのって楽だし楽しくて気分がいいね!」
俺はそう言いながら、狂ったように神聖魔法を撃ち続けた。
◇ ◇ ◇
日が落ちる頃には、なんとか全て片付いた。
アンデッドのキモさと神聖魔法の崇高さを身にしみて学んだ俺。危うく「聖」に陶酔して入信しそうになっちゃうくらいには、ターンアンデッドに助けられたな。
というか——
なんて邪悪な授業を思いつきやがる、このドS司教は。これで本当に聖職者なのかよ。
俺たちは不満たらたらでギャーギャーと喚きながらギルドに帰っていった。
死ぬほど大変だったが、おかげでかなりレベルも上がった。受付の魔水晶で確認すると——
「おお、15になってるじゃん!」
「俺も15だ」
俺とタクヤは同じレベルだった。
「私は……」
リーシャが魔水晶に手を置く。
「……変わってないわ」
「「プーーwww」」
俺とタクヤは即座に煽った。
「そりゃそうだろ! お前何もしてなかったもんな~」
「守られてただけだもんな~? 姫プのお加減はいかがでしたかぁ〜?」
「うるさいわね!! 次は絶対抜き返すんだから!!」
可愛く鳴いて見せるリーシャ。煽り甲斐があって実にいい。実のところ、俺たちも前回の鑑定結果で「あろうことかこの女に負けるとは……」と内心めちゃくちゃ焦ってたから、今回の実習にはかなり助けられた。
ふと、オルファを見ると——あの黒剣を抱きしめて、安堵の表情を浮かべている。こういう争いには興味がないらし……
「おいまて」
俺は思わず声を上げた。
「なんでソレ帰ってきてんの? 俺たち、回収しに行った記憶、ないんだが?」
確かに、墓地の中央に投げ捨てたはずだ。なのに、例の黒剣はいつの間にかオルファの手元にある。
もしかして、この剣……自分で帰ってきたのか?
背中に一瞬悪寒が走った。
「……ま、そんなわけないか! 誰か親切な人が届けてくれたんだろ!」
そう言って俺は、考えるのをやめた。深く考えると怖いもんね。




