第12話 生き恥を晒すことになりました
昼過ぎ。
俺たちはいい感じのレストランに入った。せっかく金があるんだから、たまには贅沢してやるぜってところだ。
料理を注文して、豪勢な食事を味わいながら他愛のない会話をする。なかなか優雅な昼下がりだね。
「そういや俺たちって、パーティ名なくね?」
ふと思いついて言った。
「確かに、冒険者といえばそれが必須だよな。強大な魔物とか倒して活躍した時、凱旋で『勇者パーティ・白銀の金獅子』とか歓声が上がるんだ」
「そんな痛い名前は絶対にお断りよ?」
リーシャが即座に却下する。
「なんだとォ! 最高にカッコいいだろうが!」
「ダサいわよ。センスのカケラもない」
「ぐぬぬ……」
タクヤが悔しそうにうめき声をあげる。
「……暗黒丸は?」
オルファがボソッと呟いた。
「おい、オルファ。なんだその不穏で絶妙にダサい名前は」
オルファがムスっとした顔でこちらを睨む。
え、なに? そんなに気にいってたの?
「でも一流魔法使いの私としては、『魔』を暗示させるような文字を入れるのは賛成よ?」
リーシャ、結局お前までそっち側なんじゃないか。
「なら『冥府』とかどうだ。オルファなら絶対好きだろ?」
タクヤがこれまた物々しいワードを提案する。
「いいいいいい、いいわねっ!!!!」
オルファが急に饒舌になった。目がキラキラしている。呪いを語る時のあの顔だ。
「『冥府』……まあ、悪くはないわね」
リーシャも満足げに賛同した。
……あかん。こいつらもれなく厨二病の素質がある。
俺が必死で我慢してまともな名前を考えているというのに、こいつらときたら。
いや、わかるよ? 俺だって本当はせっかくファンタジーの世界なんだ、『天罰の代行者』とか『黄昏の守護者』とか、厨二病全開のイカす名前にしたいさ!
だがな、俺はまともだ。
駆け出し冒険者ですらない養成所生の俺たちがそんな大層な名前をつけて、しょーもないモンスター相手に失敗でもしてみろ。ギルド内の笑いものになるのは目に見えてる。特にマルクスやダリオのアホにバカにされるのは末代までの恥だ。
だからここは、唯一の常識人である俺が道を正さねばならん。
「それだと少々仰々しすぎないか?」
俺は冷静な顔を見せる。
「だから下の句には、俺たちにピッタリな名前を入れてバランスを取ろう」
「まぁ一理あるか。俺たちにピッタリ……新米やルーキーは風情に欠けるし……」
タクヤが考え込む。
「『バカ』はあんたたち二人だけだものね~」
「んだと? 債務者コラ」
俺たちは睨み合った。
「……債務者」
オルファがボソッと呟く。
「「「…………」」」
店内が沈黙に包まれた。
———こうして俺たち4人のパーティ名は『冥府の債務者』になりました。
生き恥じゃねぇか!?
◇ ◇ ◇
夕方。ギルドに帰還。
せっかくの休みなのにもっと街を満喫しないのかって? ノンノン。結局俺たちが一番好きなのはこれなのだ——
「「「かんぱーーーい!!」」」
今日も今日とて、ギルド内の酒場では屈強な男たちが盛り上がっている。
この世界の冒険者たちは、前世の社畜とは大違い。いつ死ぬともわからん仕事だからこそ、今日を精一杯楽しもうぜ! ってマインドのやつが大半だ。
多分一度死んだし、前世になんの未練も思い入れもない俺にとって、冒険者たちの「今を全力で生きる」生き様は心の琴線にビーンときちまったね。最高にナイスな考え方だ!
というわけで、俺もすぐさま混ざって乾杯をはじめる。
「おい、聞いたぜお前ら!」
先輩冒険者が声をかけてきた。
「見習いのガキのくせにゴブリンキングを倒したんだって?!」
「やるじゃねえか! 俺たちも負けてらんねぇなー!?」
「「「おおおおおお!!」」」
周りの冒険者たちも盛り上がる。当然、俺たちは調子に乗った。
「がははは! 俺たちなら当然の結果だぜ!」
「楽勝だったな!!」
酔いも回ってさらに調子に乗り尽くした俺は、勢いで叫んだ。
「俺たちこそが——いずれ魔王をも討ち倒す伝説のパーテイ……!!」
タクヤと息を合わせて——
「「『冥府の債務者』だ!!」」
ドヤ顔で声高らかに宣言した。
「「「……」」」
酒場が静まり返る。
——そして
「「「ぶはっwwwwwww」」」
爆笑が起きた。
「なんだその名前www」
「債務者て! お前らそのまんまじゃねぇかwww」
「冥府ってつけときゃカッコいいと思ったのかwww」
「腹痛ぇwww」
めちゃくちゃ笑われてる。
「あぁン? 最高にクールな名前だろが!?」
俺は噛みついた。
「笑ったヤツ表出ろやコラァ!!」
タクヤも加勢する。
「おーおー、ガキが粋がってんじゃねーよw」
先輩冒険者がニヤニヤしながら言った。
「やんのかオラァ!」
「上等だコラァ!」
俺たちと先輩冒険者がギャイギャイ揉め始めた。
「はいはいそこまで!」
受付のお姉さんが割って入る。
「冒険者ギルド内での喧嘩はダメって言ってるでしょう? 文句があるならこれで決着つけなさい!」
ゴトっとおかれる酒樽。飲み比べってことか? どこまで酒浸しなんだこいつらは。だが——
「上等じゃねえか!!」
「おもしれぇ、受けて立つぜバカガキども!」
こうして、いつものごとく飲み勝負が始まった。
「「「一気! 一気! 一気!」」」
周りの冒険者たちが煽る中、俺たちはジョッキを掲げた。
◇ ◇ ◇
——惨敗。
俺とタクヤは床に突っ伏して、ピクピクと痙攣していた。
「ガハハ! まだまだだな! キッズは帰ってママのミルクでも飲んでな!」
先輩冒険者たちの高笑いが酒場に響き渡る。意識が遠のいていくなかで、俺たちの様子を静かに見守るオルファが見えた。
以前より表情が柔らかくなっている。人といることに慣れ始めたのかもしれない。
いいじゃん! リーシャのアホとは違って、キミは立派なヒロイン枠になれそうだね! 呪いを愛すあの癖がなければ……
◇ ◇ ◇
——同じ頃、街のどこかにて。
薄暗い部屋の中、一人の男が骸骨の首飾りを手に取っていた。
「随分と強力な呪いが込められていますねぇ……」
首飾りが微かに震えている。まるで何かを訴えるように。
男は首飾りを光にかざして、しばらく眺めていた。
「……ふむ」
首飾りを机に置く。
「もう少し調べさせてもらいましょう」




