第11話 初めて外出できました
養成所の寮。女子棟。
俺たちはリーシャの部屋の前に立った。
「起きろリーシャ!」
ドアをバンバン叩く。
「俺たち小金持ちになっちまったぜ!?」
「……なに言ってんのよ、朝からうるさいわね」
ドアの向こうから、不機嫌そうな声が返ってきた。
「今日は休みなんだから、昼過ぎまで寝かせなさいよ……」
「はやく起きろヒキニート!!」
俺とタクヤでドアをどかどか蹴る。
「うるっさいわね!! 何なのよ!!」
ドアが勢いよく開いて、寝起きのリーシャが現れた。危ないじゃないか! 当たったらどうしてくれる!
にしても酷い有様だな……髪はボサボサ、目は半開き。嫌なジト目で俺たちを睨んでいる。
「だから三百万だって! ゴブリンキングの特別報酬!」
「……三百万?」
リーシャの目が、一瞬で覚める。
「三百万って、三百万リーフ!?」
「そう! 俺たちパーティへの報酬だ!」
リーシャの表情が変わった。さっきまでの不機嫌顔はどこへやら、目がギラギラと輝き始めた。
「三百万……三百万……!」
ああ、これダメなやつや。目の奥に金が映ってる。口角が吊り上がって、まるでお宝を前にした盗賊みたいな顔をしていやがる。
「なによそれ最高じゃない! 早く行くわよ!」
「おう!」
さっきまで昼過ぎまで寝るとか抜かしていたなに、光の速さで着替えて出てきた。現金なやつよのう。
「……おはよ」
隣の部屋から、眠そうな声がした。オルファだ。騒ぎを聞きつけて出てきたらしい。目がトロンとしてる。
「おいオルファ、お前もなに寝ぼけてんだよ! 早く行こうぜ!」
「……ん」
まだ半分寝てるオルファを引きずって、俺たちは一階の受付に向かった。
◇ ◇ ◇
ギルドの受付。
「はい、こちらが特別報酬の三百万リーフになります」
受付のお姉さんが、輝く金貨の袋を差し出した。
金貨三十枚。ずっしりと重い。
「「「うおおおおおおお!!」」」
俺とタクヤとリーシャは、その場で小躍りを始めた。
「金だ! 金だ! 金だ!」
「俺たちの金だ!!」
「最高! 最高よ!!」
三人でキャッキャとはしゃぎ倒す姿はまさに狂喜乱舞。
金貨を床に並べてその上転がり回るリーシャ。
金貨をキャンデーの如くベロベロと味わう汚らしい男、タクヤ。
分配をちょろまかそうと必死に錯誤する俺。
オルファだけはそんな様子を静かに見守っ———いや、アレは寝ぼけてるだけか。目開いてないし。
「お前らは、毎日楽しそうだなw」
周りの冒険者たちが呆れ笑いしてるが、大金が入った今の俺らには気にもならないぜ。
「盛り上がってるところ悪いんですけど……」
受付のお姉さんが、にっこり笑って言った。なにその笑顔、怖い。
「借金二千万リーフと、それぞれの学費三十万ずつ、忘れてないわよね? 早く返しなさい?」
「「「えぇ~~~~~!?」」」
俺たちの歓喜は一瞬で凍りついた。
「ひ、ひどい! カツアゲだ! 衛兵を呼ばないと!」
「なんて悍ましいこと口にしやがる……人の心を持ってないのか?!」
「せっかく苦労して手に入れた報酬なのよ!?」
俺たち三人はプンスカと文句を言った。受付のお姉さんは笑顔のまま、こめかみに青筋を浮かべてプルプル震えている。
「いやよ! 絶対離さないわ! 私この子と添い遂げるの!」
リーシャが金貨の袋を抱きしめて離さない。目に涙まで浮かべて見るからに必死だ。
「私のお金! 私の三百万リーフ!」
「ははは。何言ってる、俺たちの金だ」
「うるさい! 離さないわよ!」
床に座り込んでさらに袋を抱きしめるリーシャ。駄々をこねる幼児そのものである。
「……お前ら、少しは静かにできんのか」
騒ぎを聞きつけたガロンがやってきた。
「だって、このお姉さんが! せっかくの俺たちの金を根こそぎいこうとするんだもん!」
「私はただ、計画的な返済をと……!」
睨み合う俺たち。
「わかったわかった。じゃあせめてお前ら、学費だけは先に払っちまえ」
ガロンが折衷案を出す。
「三十万×四人で百二十万だ。払ってもまだ半分以上残るんだから、それで十分だろ?」
「「「ちぇ~~~~~!!」」」
俺たちは渋々了承した。リーシャは最後まで抵抗していたが、ガロンに睨まれて観念したようだ。
学費完済で手元に残るのは百八十万。一人あたり四十五万リーフってところか。
まあ、麦畑の借金二千万リーフはまだ一ミリも減ってないけど……大きすぎる金額って逆になんか実感なくね? そのうち機会があれば返そ~っと。
◇ ◇ ◇
「さっさとここを出るぞ」
「何をそんなに急いでるのよ?」
「バカめリーシャ、ダリオやマルクスのアホどもに見つかっちまうだろ!」
俺の言葉に、タクヤが納得した顔をした。
「あいつら絶対タカりに群がってくるもんな」
「ザッツライッ!」
俺たちは足早にギルドを出て、街へ繰り出した。
「そういや、よく考えたらドブさらいと、武器屋以外、ファンタジーの世界に来たってのに全くというほど街に出てなかったな」
「俺たち苦学生だもんなぁ。養成所とバイトで、遊びに行く暇などまるでない……」
「あんたたちはいつも酒飲んでばっかだからでしょ?」
オルファの呆れ声が聞こえる。
「何をいうか無礼者! あれは仕事だ。先輩冒険者との"人脈作り"をしているまでよ」
「なぁにが人脈よ。ただの酒バカじゃない」
くっ、この女!
とはいえ、ギルドもなんやかんや楽しいし、生活も事足りてるからな。日本から転移してきた俺たちだったが、もうすっかりギルドが居場所になっていた。
街を歩く。
石畳の通り。木造の建物が並ぶ商店街。獣人や亜人が普通に歩いている。露店では見たことない野菜や果物が売られていて、鍛冶屋からは金属を叩く音が響いてくる。
ザ・ファンタジーな街並みだ。
「すげぇ……すげぇよユウヤ……」
タクヤが目をキラキラさせて震えてる。
「見ろよあの獣人……ウサ耳だぞウサ耳……本物だぞ……」
「話しかけてこいよ。言語理解があるんだろ?」
「ユウヤ……この俺が知らん女子に話しかけられると思うか?」
なんやねんそれ。スキル以前の問題じゃねえか。まぁいい、このコミュ障のアホは置いといて。
「服でも買うか」
俺は近くの服屋を指差した。
「いつまでも日本丸出しの怪しい格好でいるわけにもいかんしな」
◇ ◇ ◇
服屋の中。
俺はそれっぽい冒険者服を選んだ。革のベストに、動きやすそうなズボン。まぁ無難な感じだ。
問題はタクヤだった。
「オタクとしての誇りが……」とかなんとか言って美少女アニメのTシャツを頑なに脱がない。
「いい加減にしろよ。どう見ても不審者だろ」
「バカをいうな、これは俺のアイデンティティなんだ。脱ぐわけにはいかん」
「そういう問題じゃねぇんだよ! 恥ずかしいやつだな」
結局、妥協案として冒険者っぽいマントを上から羽織らせることにした。Tシャツは完全に隠せないが多少はマシに見える。多少は。
「これなら文句ないだろ」
「ふっ……頑固なやつだ」
「お前がだろ!」
タクヤは渋々納得した。
ふと、店の奥を見ると——リーシャとオルファがキャイキャイと服を選んではしゃいでいる。
「あれ似合うんじゃない?」
「……これは?」
「かわいい! オルファ、それにしなさいよ!」
なんか楽しそうだね。オルファはともかく、あのリーシャにこんな一面があるとは……にわかに信じ難い。
俺がじと~っと見てると、リーシャがこっちに気づいた。
「……なんか文句あんの?」
次の瞬間、拳が飛んできた。
「ぐえっ」
「じろじろ見てんじゃないわよ変態」
「理不尽だ……」
なんで殴られたのか全くわからん。これだから思春期の娘は。




