EP6:赤銅から黒鉄へ
モンスターバスターというのは、独自のシビアな階級制度が築かれた社会だ。
彼らが今の階級から次の階級へと昇任するための仕組みは、こうだ。
まずはその街や村の役場などへ行き、モンスターバスターの管理協会の窓口があればそこを訊ね、または、事前に電話や手紙などで連絡をとる。
受付を担当している者に来てもらい、そこで記入物やライセンス、階級を示すバッジなどを提出する。
証明写真などは、余分にコピーを取っておけば問題ない。
この星の技術力が、それだけ進んでいる証拠だ。
本題に戻ると、手続きを行なってから、昇任が受け入れられるまではさほど時間はかからず、人によって前後する程度。
そのうち対応する新しいライセンスカードが発行されたら、以上で昇任するための手続きは終わりだ。
かくしてフィサリーは、ダイナスティのオフィス街に点在する市役所にて、自身のライセンスを赤銅色のカードから黒鉄色のカードへと再発行・交換してもらうことができた。
それに合わせてカッパー級から、アイアン級へと上がったのだ。
「ふあああ〜〜……。とっくに夕方だけど、まだやっててよかった」
市役所を出た帰り道。
独りごちた彼女は、見下すような目線と角度であくびをしてから、銃で撃つジェスチャーをとった後に腰に手を当てて、胸を張る。
身内同士の集まりや宣材写真の撮影などで、ついやってしまうそうなのだ。
植え込みのある分岐路で、レリヤをホイッスルで呼んで迎えにきてもらうか、空を飛んで走る【エアーバス】でも待つか、それを考えようとしていた時だ。
カフェテリアなどがある方角から、銀髪でカジュアルな格好の青年がこちらにやってくるのを、その目で確認したのだ。
「いたいた、探したぜ! 元気しとぉやフィサリー」
「ゲオ先! こんなとこで、何やってんの?」
それはあだ名で、本名をゲオルグという。
口調こそ軽々しいが、真面目な男ではある。
フィサリーにとっては、個人的に憧れている先輩たちの中のひとりでもあった。
「今日は定時だ。お前アイアン級に上がったんだってな? 実はな、バスター協会から言伝を預かってる、それで来させてもらった」
訝しがるフィサリー。
情報の伝達が早いのは、技術力や文明の高度さゆえか。
「フィジカルデータとか魔法とか技術とか、その辺はもうクリアできてるんだ。あと3件ほど依頼をこなせたら条件を全て満たせて、スチール級に上がれるはず」
「え? ほんとだ……。本来なら、もう少し手順がかかるのに」
「ちゃーんと確認しとくんだぞ。お前の場合は特例だかんな」
ゲオルグが手持ちのデバイスをいじって、そのデータファイルをフィサリーへと見せてやった。
データに記載された通りではあるものの、フィサリーには経歴と経験がまだまだ足りない。
2年もやっていて、今の階級くらいになれたならそれだけで上出来なのだ。
そしてそれは、彼女が今後克服して、クリアしなければならない課題だった。
次のステップへ進むためのモンスターの討伐依頼も、猫探しなどの日常に寄り添ったものも、要人の護衛も……どれもたくさん来ていた。
大物狙いをしてもよかったが、あえて、身近な人々を助ける道を選ぶ。
「ミャオバティコに、ノルガードに、ウインガー……。今の私なら十分倒せちゃうわ」
そのいずれも、ダイナスティ近辺の平原地帯や丘に潜む魔物だ。
魔性を宿し魔物と化した野良猫、小柄な翼竜の一種、長めの羽毛を持った鳥の怪物。
今や彼女にとって、そこまで大した敵ではないが、徒党を組まれたら危険という程度だ。
「ただ、お前さんも知ってると思うが、モンスターが日に日に強く凶暴になっちまってる。一応、注意はしておいてくれ」
「もちろんですとも」
◆
新市街と旧市街の間にある、自由連盟の寮へとフィサリーは帰宅。
もう周りも暗くなっており、寮母をやっているピンク髪の女性が心配そうに入口付近に立っていた。
鍵束を片手の人差し指でクルクルと回しているあたり、このままフィサリーが帰ってこないのならば、最悪、閉め出そうともしていたのかもしれない。
「先生っ」
齢24にして甘えたがりなのか、抱きつくフィサリー。
戸惑ったピンク髪の寮母は、被っていたフードを弾みで下ろしてしまい困惑。
少し乱れたが、ウェーブのかかった髪型と質感が、フィサリーにとってはより美しく見えた。
「大家さんでいいって……。今日はもうお夕飯とお風呂にして、寝ちゃう感じ?」
「それはまだ!」
「じゃ、お呼びがかかるまで遊んできなさいな」
「もう疲れたから、ふて寝します!」
「はははっ。昇任手続きとかでしょ? お疲れ様!」
寮の入り口で盛り上がる2人。
……その後、寮母の部屋に移動して、手料理を振舞ってもらうと、彼女の子どもをあやしたり、しばらく世間話や愚痴で盛り上がったりした。
それから、ようやくフィサリーは自分の部屋に戻り、シャワーも浴びてからぐっすりと眠った。




