EP5:セロの自由連盟
海のリゾートを満喫してから、フィサリーとハンナはダイナスティへ帰還、カオルコは現地に留まり宿泊。
アガーテはというと、バスター協会の護衛を自主的に行ない、見事守り抜いてみせた。
それから数時間後……。
「緊急任務への参加、ご苦労だった。バスター協会からの報酬は受け取ってくれたな?」
すっかりと日も暮れた頃、ダイナスティのどこかにある、小綺麗な執務室にて。
デスクに腰掛けたサングラスの男と、彼の隣に立つ秘書の女から確認をとられ、フィサリーは黙って頷く。
男の格好はサングラスの他に、傷だらけの顔と、近隣諸国の正規軍から感謝の印として贈呈されたコート。
彼の秘書を務める女の手元には書類と、光る結晶らしき何か。
寡黙で威厳を漂わせる男の背後の、広く大きな窓から差し込む夕陽はまばゆく、それに加えて、この建物を所有する団体が、今までに打ち立てた功績から贈呈された調度品の数々と、落ち着いた色合いの装飾。
──これらがプレッシャーとなり、フィサリーへとのしかかる。
「……いいんでしょうか、これ。預かってもらう予定だったのに」
1階級昇任の知らせと、水と光の力を宿せしクリスタルを確認。
気になる点があったため、上司と思しきサングラスの彼に見せながら。
そもそも、魔物たちがわざと砂浜に乗り上げ、座礁させた敵船からの押収品の一部だったものだ。
「あなたのクリスタル盤でも使えると思うのだけど。お役に立ててみて」
「バラエーナさん」
悩めるサリーへ、女秘書が微笑みかけ助け舟を出す。
この秘書は、ところどころ十字形の意匠が見られる独自のスーツを着ている。
バスター協会の所属ではないものの、同組織から制服をプレゼントしてもらい、そのまま着用している……らしい。
そして、クリスタル盤とは、モンスターバスターたちが持つ石盤型のアクセサリーだ。
ドラコクリスタルという、魔力を秘めた晶石を嵌め込むことで自身の強化と成長へと繋げる。
ごく限られた者だけが、そのクリスタルに秘められた更なる力を引き出せるのではないか、とも言われているのだ。
「報奨金とかなら受け取れるんですけどねー、これ、質のいいドラコクリスタルだし……」
「もらえるものはもらっておけ」
確かに水や光の力を操るのには自信がある彼女だが、流石にこれは、おいそれとは頂けない。
なおもためらって、困惑した様子も見せる青髪のフィサリー。
彼女の上官らしき男は、サングラスを右の人差し指でかけ直してから、先達者としての助言を出す。
「セロさん、私」
「何をかしこまってるのだ? 俺のことは呼び捨てでいいと言ったろう」
その男・セロが、放っておけない部下へと食い気味に呼びかけた。
この団体は上下関係にはそこまで厳しくないどころか緩めでさえあったものの、セロがリーダーであることだけは、明確に定められていた。
「そうはいきませんよ。だって……」
「あなたは戦争を終わらせた英雄の1人だから、呼び捨てになど……」、と、そう続けたかった彼女だが、その旨は言葉に出さずともセロたちへと伝わった。
今もなお、顔や目に大きな傷痕が残るセロは、複雑そうに少しだけその手で触る。
そんな彼を気にかける、バラエーナとフィサリー。
「……今は関係なかったな……。それより、余裕ができたら新しい任務を受けてもらいたいんだが、いけそうか?」
「はい! どんな任務や依頼でも」
「お前にはどんどん、上の階級へと昇任してもらわなくては困る。お前自身のためにも、な」
「重々承知してます」
顔を上げたり、頷いたりと、フィサリーは落ち着きがない。
が、現時点で出来ることは、やるだけやったのだ。
その気があってもなくても、先へ進むしかない。
セロの言う通りにして、その出来ることを増やさなくては、彼女自身の信念を貫き、大義を果たすことは叶わないのだから。
彼女は、首に下げていたペンダントを握って誓った。
「詳細はまた追って連絡するわ」
髪を梳かしたバラエーナは、新進気鋭の後輩と笑顔を交わす。
いつも厳しくも優しく見守ってくれるセロとバラエーナに一礼してから、彼女は執務室を出て、ひいては自身が属する団体の本部を発った。
「自由連盟、か……」
入口付近の立て看板や、表札に書いてあった内容を読み上げる。
とある老婆が率いていた戦師団が彼女の勇退に伴って解体された時、当時メンバーだったセロが仲間たちを引き取って、その戦師団をもとに設立。
そうして出来上がった【自由連盟】、それが彼女の属する団体だ。




