EP3:潮風に吹かれて
「さっきは助かったわ! ありがとうハンナ、さて」
「敵船から押収したのはバスター協会に見せるとして……」
緊急任務は終わり、サリーはハンナに感謝を告げる。
それからボランティアの者たちとも力を合わせたことで、後片付けは終了。
少しの休憩を挟んだ後、今度は緊急の作戦会議が開かれた。
とはいっても、この国の上層部の人間はおらず、バスターと現地民だけだ。
会議室として、豪華ホテルの一室を借りていた。
レースのカーテンや金の刺繍入りの青い絨毯をはじめ、高級感漂う作りになっていたが、非常に張り詰めた雰囲気のせいでそれどころではない。
──それはさておき、この会議に集まったメンバーは、ジョナサン、サリー、ハンナ、カオルコ、百人隊長、眼鏡をかけた魔法使いの男、ガトリング砲をギターケースに収納した女、以上だ。
「やっぱり今回の大量発生、異常じゃないか? あのシーライオンはこの辺にはいないモンスターだし、オオオカヤドだってあそこまで凶暴化した個体ははじめて見た」
四方を囲む長机のうち、一番奥の席に座するジョナサンが、熟練者としての立場から推察を述べる。
「しかもあのヤドカリは『2匹』いたッ!」
入口側の席に座っていた、メガネをかけた魔法使いの男が危機感と共に、そう訴える。
「例の噂を踏まえて考えると、やはり……」
「できることならあまり、考えたくないですが──」
部屋に入って左側の席にいたカオルコは、嫌な予感がしていたのか表情がこわばる。
すぐ隣だったフィサリーも、不安そうだ。
「あれだろ。魔竜戦争で敗走したバアルが、完全復活のために力を蓄えてるっていう……。やはりその影響なのか」
部屋の入口から見て右側の席に座した、皆から百人隊長と呼ばれる屈強な男が、かつて世間を脅かした魔王の名を口に出した。
その魔王は、この国一番の英雄だった男が多くの犠牲を払った末に、撃退するのがやっとだったとまで言われている。
百人隊長ことエドゥマールが、やや焦りを覚えていたのはそのためだ。
「何にせよ、今後も警戒するに越したことはないわね」
「右に同じだ」
その百人隊長の隣で今まで、あえて黙っていた金髪のハーフツインの女・アガーテが発言し、彼女にハンナが険しい顔で便乗してしばらくした後、この会議は終了、解散した。
◆
ホテル内のレストラン、その屋外席にて……。
フィサリーは同業者のカオルコや、年上の友人でもあるハンナと、ランチタイムをとっていた。
まずは前菜を味わい、それから鶏の丸焼きをナイフとフォークで切り分け、食する。
思い切りかじりついても良かったが、あえてそれはやらない。
彼女らも、よく食べる割にはテーブルマナーは遵守するほうなのだ。
「うんまァ〜〜いッ」
「アガステア鶏の丸焼き・チーズ入り、お味はいかが」
「美味でございます! 美味でございますぅ!」
運んでくれたウエイターと、腕によりをかけて作ってくれたシェフ、そして農家のおばさんに大感謝の気持ちを告げる。
気持ちのいい若者たちからこんなにも喜んでもらえて、彼らも鼻が高い──。
「それ全部、タニアラグーンとサルタ・コスタを守っていただいたお礼です」
「施しを受けてばっかりは好きじゃない。またなんか買って帰りますよ、それから大聖堂にも……」
お辞儀にお辞儀を返して、フィサリーは宣言する。
しかし、奥のテーブル席でスパゲティをがっついていたジョナサンが眉をしかめる。
彼女たちが鶏の丸焼きと新鮮野菜サラダのセットを食べ終わるまで待ってから、彼は歯を食い縛り、白いテーブルを、「ドォーンッ!」と、叩いて立ち上がる。
一連の動きが乱暴で怒りっぽかったばかりに、傍らでパンプキンスープを飲んでいた眼鏡の魔法使いからは引かれてしまった。
「フィサリーッ。メシ食ったんなら、ダイナスティに帰っぞ」
「女たちが楽しそうなのにオレは仲間外れにされた! 気に入らねーッ!」、などという思い込みから、怒鳴り声と共に強引に彼女たちを立たせようとした。
が、振り返り軽蔑の目を向けてきた彼女にその手を掴まれ、拒否された上に制止される。
その場に居合わせたウエイターらからの視線も痛くて、冷たい──。
「本名で呼んでくれたと思ったらこれだ。やれやれ……」
サリーこと、フィサリーは、そんなジョナサンの姿にため息をつく。
仕方なく、金属製のバケツを借りて、その中に魔法で生成した水を溜め込んだ。
そしてそれを、周りに他の人がいないのを確認した上で、思い切りジョナサンへとぶち撒けた!
時折だらしのない姿を見せる彼を少しでも反省させるべく、彼女なりに制裁してやったのである。
ウエイターや農家のおばさんたちは驚いたが、2人の関係などをよく知るカオルコとハンナは笑って許してやる。
眼鏡の魔法使いは、「えぇ……」、と、やはり戸惑うばかりだった。
「ともかく、ご馳走様。ホントにありがとうございました」
◆
フィサリーたちが守ったタニアラグーンなど、多種多様な観光スポットを擁するのが、このリゾート都市サルタ・コスタだ。
青と白を基調とする住宅街と、ヤシの木たちが見守る美しいビーチもあれば、最新技術で建てられたビルが並ぶビジネス街もあり、すぐ近くの海だけでなく、この街自体が様々な顔を持っている。
フィサリーが食事中に述べていた大聖堂に代表されるような、【金色と黒に染まった太陽】をシンボルとしている教会組織に関する施設も多々あるのだが、それは今は割愛する。
フィサリーたちは、ホテルを後にし、街を出る前にまた広場に足を運んでいた。
「ジョナサン先輩のせっかち! ゆっくり食べ歩きとか、聖地巡礼とかして帰りたかったのに。ここって100万年前よりさらに前は黒き太陽教会、その発祥の地とされてたんですよ!?」
「へぇ〜、信仰が深くって、よーござんしたねッ!」
自分の都合でばかり振り回すジョナサンに、フィサリーはたいそう立腹し、それで激しく口論していた。
側から見ていた赤髪のハンナと、オリーブアッシュのおかっぱヘアーのカオルコ、金髪ハーフツインのアガーテは、面白がったり、呆れたり、こき下ろしたり……とそれぞれ異なる反応を示す。
「オレ、先帰るわ。観光したかったら、おひとり様でやってな! 魔物の海賊から取り返した押収品だって、バスター協会に持ってかなきゃならねーんだぜ」
「先輩のバカチン! そんなこと言うんだったら、もう金輪際デートなんかしてあげませんよ」
「まーまー……」
まだ罵ってくるジョナサンにフィサリーが別れを切り出そうとしたところで、さすがに見かねたハンナが割って入り仲裁する。
カオルコやアガーテも、これにはホッとさせられた。
「カオルコさんたちは?」
「今後の打ち合わせがある。もう少し、百人隊長たちに付き合うよ」
ここで半べそをかく……ような、そんなヤワな女ではないフィサリー。
ハンナの腕に組みついて縋った姿勢で、なぜか悩ましげな表情をして意見を聞き、カオルコからは笑顔で返事をしてもらえたので微笑みを贈った。
「じゃ、サリーはあたしと女同士で遊んでから帰ろっか〜」
「えへへ、やさしいハニー……」
「また飲みに行こうねぇ」
ジョナサンのようなケダモノには任せておけない、と、判断したか?
ハンナはそのままフィサリーやアガーテと肩を組み、ビジネス街まで足を伸ばすことに決めた。
フィサリーは顔が嬉しさでほころび、ギターケースに武器をしまったアガーテは誰かの彼氏の愚痴をこぼし、ハンナはその2人を支えてみせて──。
3人揃って、うきうきと楽しげだ。
「くッ」
女たちに堅い友情を見せつけられて、ジョナサンは同じ協会の人間とともにダイナスティ──この国の首都への帰路に着いた。
フィサリーたちはその少し後に打ち合わせを終えたカオルコと合流して、4人で海水浴やアクティビティを心ゆくまで満喫してから帰ったという。




