EP2:緊急ミッション完了
サリーと呼ばれた女は竜獣に乗ったまま、先輩と呼ばれた男は生身のまま、戦いはなおも続く。
ハサミ攻撃をかわされた巨大ヤドカリが、その仕返しとして薙ぎ払い攻撃からの斬撃エネルギーを飛ばす。
地面の砂をえぐり取り、岩場の岩を切断するだけの力はあり、2人をたじろがせた。
「先輩も竜獣に乗って!」
首を横に振ったのは、「その必要はない」という意思表示だ。
それだけ己の力に自信があったのだが、竜に騎乗すれば勝てるのに、出し惜しみをしているという受け取り方もできた。
先輩とやらは、槍で突いては叩き、時には円錐形の穂先から機銃掃射による火器攻撃も繰り出したが、効き目はそれなりだ。
彼も手練であり、サリーも自身が駆るレリヤと連携して熱線のブレス攻撃を繰り出したが、まだオオオカヤドを倒すには至らない──!
そのオオオカヤドがとった次なら反撃の一手は、殻に閉じこもり、力を溜め込んでからの……大回転!
「回るなーッ!」
しかも引き寄せた水の力を使っての大技だ。
これには先輩男も、青黒い飛竜に乗ったサリーも、大きく吹っ飛ばされてから地面に落下してしまう。
上半身を起こし、左手で痛そうな顔をして頭をかいてから、金髪の先輩男は唇を噛みしめる。
サリーは、相棒の飛竜・レリヤを労りつつも起き上がり、いきり立つ先輩を心配げに見つめた。
「おい゛ッ、この引きこもりヤロー! ヤドカリだからってなあああーッ! 隠れてないでツラぁ出せ! タマ無しシワチンがよー!!」
「HOOOOMIEEEEEEッ」
「おおッ!? 図星かァァー。ズヴァリ当てちまったか、なああ〜〜〜〜〜っ」
また殻に籠った敵に苛立ち、下品に悪態をつき挑発してみた彼だが、この思いつきは成功を成し遂げた。
しかしサリーとしては、人のことは偉そうに言えない立場だが……あまり、いい気分ではない。
とてつもなくガラの悪い男バスターに怒ったオオオカヤドは、両目から電撃を発して周囲を焼き、更にハサミによる刺突も行なったが、これらは悉く躱された。
援護に回るため、レリヤに乗って飛行していたサリーに、先輩男が振り向いてアイサインを送った……。
彼女には、彼がこれから何をしようとしているか、手に取るようにわかったのだ。
「出でよ! ぶち破れアンドレア!」
彼が赤橙色の結晶でできたホイッスルを吹いたその時、どこからともなく、全身を鎧に覆われたサイの姿をした巨大な獣が現れた!
【彼女】こそ、金髪の男バスターの相棒を務めるアンドレア。
頑強で巨大な体を、半金属化した装甲で更に固めており、守りは万全。
並大抵の攻撃は、掠りもしないのだ。
「人間だけが楽しめるビーチなんぞは更地だ! そのまま閉店ガラガラにしてくれるわっ! ゴォーホォーーーム!!」
「お前こそNo way homeだッ!!」
ハサミを水色に光らせ、旋回する斬撃エネルギーを連続して放つヤドカリの怪獣。
だが、オレンジ色に燃え上がるオーラを纏うアンドレアは物ともしない。
飛びながら追走するレリヤにも、一切通じない。
「なりたいカニ料理を言いなよ! 蒸し焼きになりたい? 懐石かしら? お造りがいい? それともカニカマとか? あんたの本体を料理してあげるからさ……」
電撃や、口から吐かれた燃える高熱ガスも、ひらりと避け続けたサリーが、大弓を構えてレリヤの背の上から挑発した。
楽しんでいたかのようだが、その顔は至って真剣……どころか、理不尽にこの海辺を荒らす敵への怒りさえ感じられる。
「小娘ぇッ。さっきは、あー言ってくれたが、お前らこそ『お造り』になりやがれ!」
口や背負う貝殻に空いた穴から、オオオカヤドは高熱ガスを吐き出し散布した。
だが、サリーたちはうろたえない!
「今よレリヤ!」
サリーからの号令のもと、飛竜レリヤは熱線を口から発射!
主人であるサリーも弓矢を射ち、大きな水球を飛ばす魔法も炸裂させた。
「お前の水魔法なんぞ、蚊ほども効かんわい! グヘヘへ〜ぶっ殺してやるッ」
高熱ガスは相殺されたが、青いオオオカヤドの本体と貝殻はずぶ濡れになっただけで、効果は薄い。
無策、ではない。
それならサリーの先輩が失敗を咎めているはずなのだ。
むしろ、わかっていてやったのだ。
続いて、その先輩の男がこれからやろうとしていること──それが答え合わせとなる。
「違うねッ。死ぬのは……オレの魔法を浴びるお前のほうだな!」
槍や盾を媒介にして、彼は大きな火球を2発も放った。
サリーが水で冷ましてから、先輩男が炎の魔法で熱する!
こういう作戦であり、相反する2種の攻撃魔法を受けた敵の本体と殻は脆くもひび割れた。
更に水が熱湯や蒸気にも変わり、内側にもかなりのダメージを負ったのだ。
うめき声をあげて、オオオカヤドはぐったりと倒れ込む。
「アンドレア! やれ〜〜〜〜〜〜いッ」
とどめとして、先輩バスターはアンドレアに突撃させて思い切りオオオカヤドにぶつかった。
防御に秀でた敵の耐久性が脆弱になった時、それは敵の敗北を意味する。
熱いオーラを纏う全体重を乗せた攻撃は、いともたやすく敵を吹き飛ばして丸裸にした。
「ほ、ホォォォムカミングぅぅぅぅぅ」
「永遠にFar from homeってね」
オオオカヤドは爆発四散、残ったのは砕けた貝殻やハサミに、足だけだ。
それらは回収され、武具の素材や、彼と彼女の生活の足しとなるだろう。
◆
「おっ、戻ってきたね。ジョナサンにサリー! おーつかれーィ」
「カオルコさん! 百人隊長たちがいないみたいだけど」
戦いは終わり、先輩ことジョナサンを連れて岩場を発ったサリーはカオルコと合流し、ハイタッチを交わした。
その合流地点は、戦いの残骸が残っており、同じモンスターバスターの仲間や、彼らのバックアップを行なう協会が後片付けをしている最中だ。
「事後処理に追われてるよ。あたいもそろそろお呼びがかかるかな」
「なあカオルコ、当分はこっちにいてくれるんだよな?」
1人で身を張りすぎてくたびれていたジョナサンだが、なんとか身を動かし彼女に訊ねる。
そのカオルコだが、髪型は綺麗に切り揃えられたおかっぱの短髪で、瞳は薄茶色。
袖や裾などを、体を動かしやすいように、独自のアレンジが施された花柄の着物……東の国の衣装を着ていた。
更にいうと、先ほどオオオカヤドの別個体からサリーを助けた4人組の中の1人、七枝刀の使い手でもあった。
「まーね。それより、一緒に観にいこ。敵さんの船からお宝発見したんだ」
そう言って笑うと、カオルコはサリーと手を繋ぎ、浜辺から街中へと一気に移動する。
そこは【サルタ・コスタ】という名前で、空と雲のような青と白の壁や床が目立つ建築様式を誇る、まさに海辺のリゾート街だ。
その中央広場に、現地民や魔物討伐の同業者らが集まっていた。
「建国3000年以上も前のだよ」
「まったく重てぇーなー、いったい何が入ってんだ? 食べすぎた時のハニーくらいのおデブか?」
広場の真ん中には箱が置かれている。
カオルコの言う通り、彼女たちが生まれるよりも以前のものだ。
誰かの眠る棺に見えなくもなかった。
蓋を開けようとするジョナサンはこの場にいない誰かにちなんだ冗談を口にしたが、ウケは悪くほぼ全員から白い顔をされる……。
「イデデデデデッ!」
眉を吊り上げ、「むっ」とした顔のサリーに右の耳をつねられてしまうのだった。
この時の彼の、苦悶の表情はとても見られたものではない。
「大人の男がこんな情けない声をあげるなんて」
呆れたカオルコが片手を頭に当てる。
このような状況でなければ、サリーとしてはじっくりと彼女の黄白色の着物を見せてもらいたかったくらいだが、今は箱の中身を確かめなくてはならない。
やがて、力自慢の船乗りの男が、石棺ともたとえるべきその箱の蓋を開けた。
その光景を目撃したもの全てが、中身に驚いた。
「クリスタルだ……。それもかなり質がいい」
「色合いからして、水か光の力だね」
サリーたちも息を呑むほどの、淡い青と金色の混じった輝き。
加工される前の、魔力を秘めた結晶体だ。
いずれも、対応する属性のものが宿っている。
この場合はカオルコが述べた通りだ。
だが、これだけでは重さの理由にはならない。
他には、貴重な金銀財宝が箱の中身として保管されていたのだ。
「サリーが使えよ」
「えっ、私? ダメですよー、まず上に報告して鑑定してもらわなきゃ。お宝もざっくざくだったし、護送中に盗まれないようにも……」
ジョナサンからの提案を、目を丸くして慌てた様子で断るサリー。
恐らくは滅多に見つからないであろうお宝を押収してしまったのだから、この国の上層部に納めなくては首が飛ぶと、そう判断したからだ。
せっかく頑張る彼女へプレゼントしてやろうと思ったのに、不服そうなジョナサンだったが、その時だ!
「あーうううゥゥゥんのォ〜〜ッ」
海獣のおでましだ。
姿こそ茶褐色の鰭脚類──アシカやアザラシにトド、セイウチ辺りを思わせるが、しかし。
脚の作りが鰭ではなく、ゾウやサイなどの陸上動物のものと酷似していたのである。
「荒くれシーライオンだと!? なんでこんなところに……。うっ」
もちろん見過ごすはずもなく、目の前に火の粉が降り掛かれば払い、危険は排除するのが彼ら戦士の役目。
だが、サリーが先輩と呼び続けていたジョナサンが膝から姿勢を崩してしまう。
サリーとカオルコも、つい先ほどまでの激闘のダメージと疲れが癒えていない。
万事休すか?
「うおおおお〜〜ン。やられちゃった、やられちゃったァァ」
否、彼女がいる。
長く赤い髪をポニーテールにした、軽装の鎧の女戦士だ。
十字架状の柄を持つ剣を構えて、敵の背を大きく飛び越え、すれ違いざまに斬る。
荒くれシーライオンの正面に立ち、仲間たちをも驚かせたのも束の間。
卓越した剣技を繰り出して、敵の顔面を切り刻んだ!
「いっぱいやられてやったぞぉ」
荒くれシーライオンは漏れ出たエネルギーの光と共に爆発四散し、塵と化した。
「危なかったねぇー。ケガはない?」
「ハンナっ」
荒くれシーライオンを討った女剣士は、剣を振り払い、風車のごとく回してから鞘に納刀する。
「みんな無事で何よりさ」
燃える炎のように赤い髪、切れ長の紅玉色の瞳、熟練ながらも傷ひとつなく、色白で艶のある肌、そして高身長。
余裕の笑みで仲間たちの生存を喜ぶ、これがハンナだ──。




