EP1:モンスターバスター! 魔を祓う者たち
ここはとある星のとある王国、その首都。
都市機能のほとんどを担い、高層ビルが立ち並ぶ新市街。
古くからの建造物が多く残存している旧市街。
その間にある、いわば社員寮。
それなりに広い木造の部屋、その片隅にあるベッドで青い髪の若い女が眠っている。
ほぼ黄色と白のツートンカラーのパジャマを着て、目が覚めきらずにうめく姿には、ある種の愛嬌が見られた。
「えっ、もう8時? っあー、寝すぎた。やっべ……」
あくびと伸びをして、気怠い言い回しもとったが、誰かがドアを叩く音を聴いた彼女は「スッ」と切り替える。
格好がつかないし、何より一刻を争うと……鋭い勘がそう告げたのだ。
服も可愛らしいパジャマから軽い装甲で守られた戦闘服へと着替え、朝食はひとまず惣菜パンで済ませ、歯磨きや洗顔も素早く終わらせる。
……正確には、慌てて、だ。
「せ、先生?」
「今は大家さん、でしょ?」
ドアを開けると、そこにはフードを被ったピンク髪の年上女性。
彼女はフードをとって、ウェーブのかかった髪を手で梳く。
その眼差しは厳しくも温かく、声色は低めで色香と場慣れした雰囲気を漂わせる。
「準備ができたみたいね、バスター様。あなたの出番よ、早く」
「はい!」
モンスターバスター。
それは、人類に仇なす危険な魔物と戦う、勇敢な者たち。
経験を重ねた者は多種多様な姿形の竜獣たちとも信頼関係を築き、彼らの背に乗るなどして共に戦うのだという。
「行くわよ、レリヤ!」
「ワギャス!」
外の駐車場ならぬ、駐竜場で待っていた蒼黒のドラゴン。
翼を持つドラゴンの背に乗った彼女は、大家もとい寮母に見送られて、空へと飛び立つ。
「目標、ここから南方の【タニアラグーン】! 早朝から向かってるみんなを待たせちゃ良くない。レリヤ、急ごう!」
◆
首都から南方のリゾート地、それがタニアラグーンという海岸だ。
広々とした白い砂浜で、海から気持ちのいい潮風が吹く。
天国とも呼べる最高の場所だが、しかし、そこで問題が発生していた。
魔物たちの大量発生だ。
タニアラグーンのある中央大陸南部は、元々魔物たちが活発な地域として知られている。
その南部の中でも、タニアラグーン周辺は比較的魔物もおとなしく、ゆえに海のリゾートとして成り立っていたのだが、そこで今回の異常事態が起きてしまった。
「キシェ────────ッ」
被害は既に出てしまっており、その途中で海賊船に乗って現れた魔物の一団が、わざと砂浜に乗り上げて座礁させ景観を破壊した。
リゾート地で浮かれている人間たちへの警鐘か、逆恨みか?
恐らくは後者だ。
当てつけのように海辺で暴れては荒らし回っているのだから、そこには大義も信念もない。
そこに青髪の彼女が、竜に乗って馳せ参じた!
着地して、リゾートの惨状を目の当たりにした彼女は握り拳を震わせる。
「こいつらッ! ここはみんなが疲れを癒しにやってくる、そういうところなのに!」
凶暴化したアザラシや子ガニに、ゲル状のいわゆるスライムといった魔物の群れが大挙して暴れている!
海賊船から降りてきた小鬼や大鬼……ゴブリンやトロールらも加勢して、まるで阿鼻叫喚の地獄だ。
彼らの暴虐に怒った青髪の彼女は、木と金属を組み合わせて作られた大弓を両手に持ち、引き絞って矢を放つ。
矢筒から補充して、次々に射る!
放つ!
撃破する!
最後は、魔力を込めた矢の乱れ撃ちと、レリヤが口から吐き出した熱線のコンボだ。
上空へ向けてから、それこそ雨あられのごとく降らせて、硬い甲羅を持つ敵だろうと殲滅してみせた。
残ったのは、霧散した魔物どもの亡骸と、戦いの余波で難破した海賊船だけだ。
しかしこれで終わりではない。
「まだまだ敵がいるね……! 私1人しかいないわけだ。みんな無事でいてッ」
やはりあの程度では片付いておらず、魔物たちの気配が残っている。
先に出撃した面々の安否も気になる彼女は、支給されていたデジタルデバイスを確認。
今いる地点から北へまっすぐ、巨大な敵の反応あり。
先人たちは、魔物の大群への対処に追われて散り散りになっているようだ。
「行くしかないの……?」
大型モンスターを単独で倒すのは危険だが、頼りっぱなしではいられない。
助けを呼んで、人任せなどもってのほか。
となれば、為すべきことは何だろう。
「行くしかないんだ!!」
くよくよと悩んでいる場合じゃなかった──!
覚悟を決めて雄叫びを上げた彼女は、声色とは裏腹にあくまでも冷静に振る舞う。
不思議な光を放つペンダントを少し握りしめ、天に祈ってから駆け出した。
「あんたね……!?」
反応があった地点に向かった青い髪の女バスターを待ち受けていたのは、巨大な白い殻を被った、これまた大きなピンク色のヤドカリ。
名前もそのまま、オオオカヤド。
サイズは馬車とウマを合わせて、2で割らない程度と、まるで怪獣のそれだ。
顔も本物のヤドカリではなく、ワニや肉食恐竜と酷似しており、純粋な節足動物ではないことがうかがえた。
「ヤドオオオアアアーッ!」
「しかも別個体がいるっ!!」
機械に頼らずして、自力で感知した女バスター。
ここではなく更に奥地、アーチ状の岩場が並ぶ入り江だ。
「下がってな。あんたに構ってる暇はないのよ」
両手のハサミによる連続攻撃!
唐突に飛び交う水の旋風!
口からの燃え盛る炎の吐息!
とどめに砂場を破壊し、呼び水をしてからの渦潮攻撃!
大型モンスターだけはあり、危険が過ぎた。
流石に不安と焦燥に駆られた、その時──。
「すまん、遅くなったな!」
「あなたが加勢してくれるなんて助かるわ!」
「なんて心強いの」
「我々に任されよ。君は先に進め!」
援軍だ!
ひとりは、百人隊長の称号を持つ屈強な男。
2人目は、合計6つの枝刃のある剣を手にした女。
3人目は、最新技術でつくられたガトリング砲を持った金髪の女だ。
最後の4人目は、眼鏡をかけた長身痩躯の壮年男性。
服装や佇まいはバラバラだが、共通しているのは何かしらの達人なのだということ。
「早く行ってあの人のこと、助けてやりなよ。そのために来たんでしょう」
「……恩に着ます! このお返しは必ず!」
咆哮するヤドカリの化け物と戦う4人。
そんな中で七枝の剣を操る女性が、先へ進むように促す。
青髪の女バスターは、恩に報いるためにも入り江へと駆け出した。
◆
風雲急を告げる。
女バスターはレリヤの背に乗り、共に魔物の群れと戦いながら切り抜けていく。
件の先輩戦士というのは、屈強だがその分単独で無茶をしたがる、悪く言えば面倒な男なのだ。
ゆえに、彼女としては放っておけなかった。
「ゴ……ォー……ホオオオォォォムッ!」
青々とした殻と同色の肉体を持つ巨大ヤドカリが唸る。
そう、先ほど女バスターがやり合った個体と同じく、オオオカヤドだ。
それと交戦中なのは、銀色の鎧で身を固めた筋骨隆々の精悍な顔つきの男。
髪型はツンツンと逆立った金髪で、瞳は赤色。
敵の姿を視界にとらえ、敢然と立ち向かう人間の目つきをしていた。
右手には円錐形の大きな槍を、左手には身を守るにはぴったりな四角い形状の盾を装備し、体勢は万全だ。
その彼が、背後に駆け寄った青い髪の女に気付き、目をやる。
驚いた様子でこう叫んだ。
「サリーかッ!? 何しに来た!」
「助太刀しますよ先輩!」
サリーと呼ばれた青髪の女が、余裕たっぷりに笑って武器を構える。
共に戦って敵を討ちましょう、という合図だが、金髪の男の方は気が乗らない。
「お前の手に負える相手じゃあない。帰れッ!」
「いいや! 帰りませんよ。一緒にあいつを倒すまでは!」
首を横に振ったサリーが、指差した先は無論、オオオカヤド。
2人が小さく見えていた魔物は、鼻息を荒く、汚らしく笑った。
「ヤードヤドヤドヤドヤド! 生意気な小娘が増えよったわ。どっちも俺様が散髪して、ボウズ頭にしてやろうか」
「ふん、冗談じゃないぜ。そうなる前に、おめーがオレの槍に砕かれるのさ」
金髪男は引き下がらない。
こうなったからには、サリーも守りきってやると決めたからに他ならない。
サリーも、先輩の彼に応えるつもりだ。
そのために加勢に来た。
「ゴォ〜ホオオオォォォムッッッ!!」
これだけは、確実に言えよう。
このオオオカヤドは、もはやこの2人の敵にあらず!




