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2 いやいや、これ詰みじゃん。


 "とりあえず一人になりたいから"と理由を付け、半ば強制的にコフィを部屋から追い出し、独り言をブツブツと呟きながら、無我夢中にメモ用紙を張り付くように見つめる。


 何故そんな頭のおかしな事をしているかというと、理由は簡単だ。私はこの世界を知っている。このお城も、私の姿も、そしてそれが……ゲームの中の“悪役令嬢”だというも。


 『ル魔恋』私が前世でどハマりしていた恋愛ゲームだ。


 ヒロインが魔法学園に入学し、個性豊かなイケメンたちと出会って恋に落ちる、ありがちといえばありがちな設定。でも、魔法学園という舞台と、美麗なグラフィック、甘すぎるボイス演出、そして何より登場キャラたちの魅力が抜群だった。


「……でも、よりによって、私が転生したのはその中の悪役令嬢、“アネット・フォン・ベルフェリア”」


 机に突っ伏しながら、私はうめいた。


 アネットは、自国の公爵令嬢で、王子の婚約者という完璧なステータスを持っていたけれど、中身は自由奔放でプライドが高く、傲慢でトラブルメーカー。取り巻きの男子たちをわざとに魅了しては、王子の心を射止めたヒロインをいじめさせ、最終的に殺人未遂を起こして処刑される……という、絵に描いたような破滅ルートを持つ悪役令嬢だった。


「でも私は、そうはならない……!」


 今はまだヒロインは現れていない。学園入学もまだ。そして、恋愛イベントが始まる前なら、修正は効く。フラグを全力で折って、恋愛イベントを回避すれば、私だって生き延びられるはず。


 そう思って、記憶を頼りにペンを取る。


 攻略対象は全部で五人。私が知る限り、各ルートでアネットの処刑が待っていた。


 まず一人目――


 "レイ・アルベルド・リュミエール"


 ルミナリア王国の第一王子にして、アネットの婚約者。優雅で完璧な王子様。正統派ルート。


 レイルートを選んだ場合、アネットは婚約を破棄され、嫉妬からヒロインを殺害しようとしたとして、レイ専属の騎士により処刑。


 次――


 "クロード・グレイヴァード"


 隣国であるナベリウス王国の王子。物腰が柔らかく、紳士的で落ち着いた青年だが、その裏は無慈悲。

 ナベリウス王国は、ルミナリア王国の敵国。レイ王子のライバルってことだね。


 クロードルートを選んだ場合、外交上のスキャンダル、裏切りだとヒロインの悪評をアネットが広め回り、ヒロインが謀反者に殺されかけたことにより、無慈悲なクロードの一撃をくらい死亡。なぜか分からないけど、正直……一番接したくない相手。


 三人目――


 "ノクス・ディアマンテ"


 ベルフェリア邸の見習い騎士。忠誠心に厚く、魔法と剣の両方に秀でた実力者。


 アネットとも接点は多いが、レイ王子のことを尊敬しており、あくまで忠誠を誓うのはレイ王子にだけ。

 ノクスルートでは、ヒロインとノクスが仲を深めていく中、アネットはレイ王子を失った焦りと嫉妬から、ヒロインに対して「レイ王子とノクスと接触するな」と高圧的に警告する。そのせいでヒロインに拒絶されたノクスは魔力が暴発してしまい、アネットは事故死……。


(そういえば、ノクスは……前世の私の隣の家に住んでた子にそっくりで、すごく懐かしい気持ちになる。でも、今はそんなこと言ってる場合じゃない。)


 四人目――


 "リンネ"


 “幻の妖魔”と呼ばれる、学園の深部に封印されていた存在。人間離れした美貌と、異質な気配を持つ不思議な存在。

 ヒロインの魔力に惹かれて目を覚まし、好奇心から彼女と関わっていくうちに恋に落ちる。


 リンネルートでは、アネットがヒロインを殺すために、無理矢理リンネをマインドコントロールする。リンネはヒロインに傷を負わせてしまったショックで魔力が暴走してしまい、アネットは惨殺される。


 そして五人目――


 "ゼイン・ヴェルゼ"


 ナベリウスの王子クロードに仕える騎士。無感情で殺意に満ち溢れた眼をしている。

 最初は監視対象だったが、ヒロインのまっすぐな感情表現に心を開かされ、やがて執着に近い感情を抱くようになる。

 ゼインルートでは、敵国の騎士と結ばれたヒロインを謀反者だと言い広め、ヒロインを悪者に仕立てあげるアネット。ヒロインが離れていくことを恐れたゼインは、アネットの心臓を剣で貫く。



「アネットの死亡エンド……全部死ぬってどういうことよ」


 ゲームの記憶をたどりながら、私はそっと震える手で破滅フラグの一覧を作成する。



 どのルートも、下手に絡めばアネット破滅確定。

ヒロインがまだいないこの時期に、少しでも先回りして安全ルートに切り替えないと、私の命がいくつあっても足りない。


「とにかく。下手に目立たず、全員から距離を置く……それが最優先」


 私はそうメモに書き込み、そっと胸に手を当てた。


 でもその時、不意に思い出す。

 推しキャラとのあのイベントを……


 結ばれた時の、あのセリフを……


「……思い出しちゃダメだってば……」


 本当ならヒロインに転生して、推しと結ばれたかったよ。でも……命の方が大切だから、私じゃないヒロインが推しと結ばれても……それでいい。


 気を抜いたら泣きそうになって、私は無理やり寝台に潜り込んだ。


 この世界ではもう、絶対に同じ悲劇を繰り返さない。

 それが、生き延びるために私が決めた“最初のルール”だった。


 どうにかしてこのフラグ全部、粉々にぶっ壊してやる。

 例え、ヒロインが来ても、攻略対象が接触してきても――。


 絶対に。誰にも、フラグを立てさせない。

 ――これが私の、生存戦略だ。

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